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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
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聖獣と星天狼

 漆黒の闇が支配する森。

その中をハウルは駆け抜けていた。

原生林といった感じで崖や岩場も多い。

だが夜と星を司るハウルにとっては、闇夜の森など庭の様なものだ。


〈(聖獣が棲んでいるのだったな……)〉


 主人から与えられた情報によると、この森には『天狼』が棲んでいるらしい。

自分も天狼だが、正確には『星天狼シリウス』である。

この森の天狼たちは星ではなく月の加護を得ており、『月天狼』とでも呼ぶべき別種族だ。

見た目も、黒い体毛の自分とは逆に純白らしい。



〈(……人の手が入っているな)〉


 明らかに刃物で切り倒された木。

獣道にしては広い道。

摘まれた薬草。

どうやら森にはそれなりの数の人間が住んでいるようだ。

種族までは解らないが。


〈(む? これは血の臭いか)〉


 鋭敏な嗅覚が血の臭いを感じ取る。

意識を集中すると戦闘音も聞こえてきた。

リーフほどではないが、ハウルの探知能力も実は高いのだ。

躊躇うことなくハウルは異変の元へと駆けだした。



〈(ほう、聖獣と獣人。それにヒューマンか)〉


 攻めているのはヒューマン、守っているのは獣人だ。

数もヒューマンの方が多い。

天狼たちは何故か前線に出ずに、後方で固まっている。

ヒューマン300、獣人150、天狼20といったところか。


 事情がさっぱり解らないので、飛び込むような真似はしない。

主の指示は情報収集だ。

こちらから手を出す事も無いだろう。

ハウルは見晴らしの良い岩場の上から状況を見る事にした。


----------------


〈やはり我らも出よう〉


「いけません天狼様! 奴らの狙いはあなた方なのです!」


 白き聖獣の長老の言葉を獣人達が拒絶する。

自分達を己の領域にかくまってくれた天狼を、獣人達も守りたいのだ。

獣人達は脱走奴隷だった。


 中央大陸はヒューマンの勢力が強く、奴隷も多い。

身体能力に優れた獣人の奴隷は、需要が高いのだ。

だが、数が多ければ逃げ出すものも多い。

呪印の不備や、拘束具の不調で逃げ出すことに成功した獣人達。

彼らを保護してくれたのが天狼だったのだ。


〈むう。しかし、このままではお前達が……〉


「あの魔具さえどうにかできれば……」


 天狼たちは逃げようと思えば簡単に逃げられる。

しかし、獣人達はそうはいかない。

家族同然の彼らを見捨てるのか?

情が天狼たちを踏みとどまらせていた。


 獣人達の言う事は正論だ。

彼らが苦労して手に入れた情報。

敵、聖教国軍の目的。

それは天狼たち自身なのだから。


 聖教国軍の秘蔵のマジックアイテム『隷属の鎖』。

これは、人や獣を下僕にしてしまうアイテムの中でも最上級の一品だ。

『奴隷の首輪』や『従属の首輪』程度ならともかく、これを使われれば天狼たちも下僕にされてしまうかもしれないのだ。


「せめて、誰が何個持っているか解れば……」


〈む?〉


 その時、天狼の知覚に引っかかるモノが有った。

相手の魔力は小さいが、何かおかしい。

まるで、隠しきれない力の残り香の様だ。


----------------------


 聖教国軍の部隊後方。

指揮官たちの中に、聖職者の恰好をした女性が混じっていた。

名はミレニア、職は司祭。

20歳位の若さだがこの作戦の要である。


 つい先日、またしても帝国が異世界人を召喚した。

代償として、何と捕虜を全員生贄にしたらしい。

これで帝国の異世界人は4人、10年後には5人になってしまう。


 聖教国でも素質のある人材を集め、育て、加護の与えられた装備を持たせた『勇者』をそろえている。

しかし、やはり質では負けており、戦況は厳しい状態だ。

特に10年前に召喚された『悪魔殺しの英雄』マイク。

あの時は国を上げて協力したというのに……。

数年後には彼は帝国の先兵となり、今も戦場で虐殺といっても過言ではない力を見せつけている。


 異世界人に対抗するための作戦は幾つも考えられた。

籠落、暗殺どれも上手く行かない。

そんな中で立案されたのが『テイマー計画』だ。

強力なモンスターを魔具で操り、英雄にぶつけるというこの計画。

宗教的にはグレーゾーンだが、そんな事を気にする余裕が無くなってきたのだ。


 時間をかけて集められた最高級の魔具『隷属の鎖』の数は4個。

多いとは言えないが、天狼4体を使役できれば戦力としては十分だ。

天狼は温和な性格だが、その力は英雄や勇者に匹敵するのだから。


「(気の毒な気もしますが……)」


 ミレニア司祭は権力闘争に縁の無い、現場派の聖職者だ。

本国の危機的状況も解ってはいるが、獣人達に対してはやはり心は痛む。

帝国から逃げ出し、ようやく平和に暮らしていたのに再び襲われたのだ。

しかも狙いは大恩ある天狼だ。

彼らはおそらく天狼を逃がし、玉砕するつもりだろう。


 天狼はどうだろうか。

獣人達を見捨てるだろうか。

お互いが縛り合い、どちらも動けず共倒れする。

それがこちらの計算だ。


「本当に、これしかないのでしょうか……」


 ふと、空を見上げる。

分厚い雲が薄くなり、月の光が差し込み始めている。

天狼が攻勢に出るとしたら、そろそろだろう。

神の紋章を取り出し、握りしめ、祈る。


 しかし彼女達は知らない。

その祈りはどこにも届かない事を。


使い魔たちはテレパシーを相手に送り込む事も出来ます。


しゃべる代わりですね。


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