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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
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ファミリア②

 戦闘開始前、穏健派の防衛ラインの中央。

他よりもやや大きい砦には本陣が敷かれていた。

武闘派の幹部たちは各砦や陣地に分散されており、翼手族ハーピーや兎族など機動力に優れた種族が伝令として出入りしている。


 大将は銀狼の長にしてアジェの父アルゲン、狐族の長イチョウと兎族の長メネが副官だ。

統率力のあるアルゲンに頭の良いイチョウ、危機察知能力に優れたメネ。

穏健派としてはこれ以上ない顔ぶれである。

しかし、だからこそ違和感を抱いていた。


「何か変だよ。相手の斥候がいない……」


「ふむ、同感じゃ。霊視と言うほどではないが胸騒ぎがするの」


「確かに静かすぎるな。集中しているのかもしれんが……」


 慌しく準備を行うこちらに対し、向こうは不気味な静寂に包まれている。

兵士たちの気合いの声も、伝令達の報告の声も、指揮官たちの指示も激励の声も何も聞こえない。

これではまるで感情の無い虫や魚の群れのようだ。

そして


「あっ!?」


「?」


「どうした?」


「そうじゃ、この感覚、気配は間違いない。あの竜達と同じなんじゃ!」


 イチョウの霊感がたどり着いた答え。

それは過激派全軍が、あのギフトとかいう呪いに包まれているということだった。

例の魔人フィオもギフトについては不明な点が多いと言っていた。

ならば竜だけでなく獣人たちにも影響を与える可能性は十分にある。


 そして浄化直前に竜達が見せたあの狂乱。

どう考えても碌な事にはならないと思えた。

そしてその予感は的中する。

敵兵は狂ったように襲い掛かり、決して引くことなく一人残らず討死したのだ。


「理解不能だぞ……」


「まさに狂戦士じゃったな」


「斥候まで混じってましたね」


 敵軍の異常な行動は自軍にもかなりの動揺を与えていた。

被害自体は少ないが精神的なショックが大きかったのだ。

今までとはあまりに違いすぎる。

これでは勝者などいないただの潰し合いになってしまう。

穏健派の軍の士気は混乱と共に低下してしまった。


 そして状況は次々と動く。

遂に現れたドラゴン軍団。

敵の様子を見る限り、降伏など聞き入れそうにない。

穏健派軍は覚悟を決めた。


 しかし、光の雨が降り注いだと思うと敵軍の狂気が一瞬にして洗い流されていた。

見上げた空に飛翔する巨竜。

戦場に舞い降りる戦神たち。

自分たちの砦の前にも金属の巨兵が降り立ち、2頭のドラゴンを圧倒している。

もはや彼らの頭は事態の変化についていけず、ただ茫然と見ていることしかできなかった。


-------------------


 見た目という一点において最も静かだった戦場。

それはシミラの降り立った戦場である。

過激派の軍もドラゴンも皆等しく昏倒し、立っている者は誰もいない。

彼らはシミラの銀の霧のような体に取り込まれ、精神攻撃で意識を刈り取られたのだ。

血の一滴も流れない鮮やかな制圧。

しかし、彼らが幸運だったかと言えばそうでもない。


 精神干渉によって強引に意識を失わせると、精神面に結構な後遺症が残ることがある。

そこでシミラは彼らが自分から意識をシャットダウンするように仕向けたのだ。

具体的には、ありとあらゆる恐怖映像を脳裏に叩き込み気絶させるという手段を取った。

さらには起きないように継続して悪夢を見せ続けている。

十分厄介な後遺症が残りそうな方法だがシミラは気にしない。

少なくとも死にはしないのだから。



 一方で、この世の悪夢を見せられている者達もいた。

プルートの襲撃を受けた部隊である。

氷属性のホワイト・ドラゴンが燃え盛る大鎌で切り刻まれていく。

過激派の獣人達は援護しようとするが、彼らの前に立ち塞がった者たちがいた。


 千切れた四肢、割られた頭、貫かれた身体、それは死者。

前哨戦で防衛ラインに突撃し全滅した過激派軍先鋒達。

昨日まで共に笑い、生き、戦ってきた同胞たち。

それが哀れな傀儡としてかつての仲間に襲い掛かる。


 プルートは魂に関わる術の独断での使用は主人に禁じられている。

だが死体は彼らにとってはただの物であり、特に規制はされていない。

戦場に散らばる数千もの死体、これらを動かす事など容易いことだった。

ネクロマンシーによって魔力から擬似的な魂、魔物の核や魔法生物のコアに近いものを作り出す。

それらに簡単なコマンドを入力して死体に組み込む。

こうして生み出されたのがアンデッド魔法生物『リビングデッド』である。


 ゾンビは自身の怨念によって動き、記憶や人格が僅かに残っていることが多い。

だが、リビングデッドは術者が動かす人形であり、そういったものは持っていない。

どちらにしても死者への冒涜と言えるが、プルートは気にしない。

何故なら、彼らの魂はすでに喰われて消えているからだ。


 死神たるプルートにははっきりと解っていた。

死者の魂がニクスに集められ、魔力に還元されて吸収されていることに。

ニクス自身に自覚はないだろう。

しかし、現実には彼は魂を食らう化け物になりつつあるのだ。


 犠牲者はニクスに魂を食われる。

それは主人の望むところではない。

よってリビングデッドで殺さないように足止めする。

ちなみに白竜はすでに四肢と翼を切り落とされ気絶している。


「くそ! どけ、どいてくれ!」


「……嫌だ、俺には斬れねえよ!」


〈……もう少しか〉


 過激派の軍は徐々に戦意を失っていく。

リビングデッドは自分からは攻撃しない。

ただ肉の壁として兵たちを拘束していくだけだ。

プルートの眼には死者たちが、その身を盾にしてかつての同胞を守っているようにも見えた。



 そして、この世の地獄を味わっている者達もいた。

辺り一面に横たわるのは過激派軍の兵士たち。

獣人も亜竜も等しく地に伏している。

当然だろう、彼らの中に2本以上手足の揃っている者はいないのだがら。


ドスッ


 ダルマ状態にされたドラゴン。

その体にさらに毒針が突きこまれ、麻痺毒が注入されていく。

ドラゴンが完全に麻痺したことを確認したシザーはサソリのような尾を抜いた。


 情けも容赦も彼の前では無意味。

立ち塞がる者は等しくただ切り捨てるのみ。

冷徹にして無情の殺戮者。

それが黄金の戦闘蟲シザーである。


 殺すなと命じられれば殺しはしない。

刃に雷光を宿し、傷口を焼いて止血した。

だが、それだけ。

降伏も逃走も許さない。

一兵残さず切り伏せた。


 かつては鎌2本、槍2本だった攻撃肢。

それらはシザーの意思によって、いかなる形状にも変化する万能武器へと進化していた。

今回のように4本全てを大鎌にすることもできる。

盾や鈍器に変形させることもできる。

その形状によっては黄金の全身鎧を纏う騎士にも見えるだろう。

しかし、シザーは騎士ではない。


 誇ることも無い。

恥じることも無い。

ただ、主の命じるままに敵を切る。

ネクロスがフィオの騎士ならばシザーはフィオの刃。

血と殺戮を司る魔刃だ。


 地に伏す過激派の兵の絶望に満ちた視線など気にも留めない。

陣地に立て籠もる穏健派の兵たちの恐怖に満ちた視線もむしろ心地良い。

そしてシザー自身の眼は自分という刃の振るい手の、フィオの戦う戦場に向けられていた。



戦った使い魔によって雲泥の差が……。


ちなみにシザーは相手のリアクションを待たずに襲い掛かりました。


最悪ですね……。

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