ファミリア①
フェイ、ネクロス、バイト、ギア、ハウル、リンクス、ベルク、プルート、ヴァルカン、シザー、シミラ、11体の使い魔たちが戦場に降り立つ。
ターゲットは邪気フィールドの核となっていた者達。
深くギフトの浸食を受けたドラゴン達と竜人達である。
亜竜や他の獣人は彼らを中継して影響を受けている。
ニクスが親機ならば彼らは子機。
潰しておけば端末に影響を及ぼせない可能性は高い。
ちなみにギアとヴァルカンの担当はドラゴン2体である。
巨体と圧倒的なパワーを誇る彼らは、正面からの真っ向勝負に向いている。
そしてブラガにはネクロスがぶつかる事になっている。
適材適所と言う訳だ。
ズゴォ!
フェイの降り立った戦場に突如巨大な竜巻が発生する。
よく見ると竜巻の中には赤いドラゴンが巻き込まれていた。
いや、赤いのは鱗ではない、血である。
竜巻の内部は風の刃が荒れ狂うミキサーの様な状態なのだ。
フィオは『殺すな』と命じた。
しかし、やり過ぎるという点では期待を裏切らないのが使い魔たちだ。
当然のごとく、その命令は『殺すな=生きていればOK』と変換される。
そして彼らは何時かの様にダルマ処置を施すことを全員が決めていた。
ドチャ
生肉を叩きつけたような音と共に瀕死のドラゴンが落ちてくる。
四肢と翼と尻尾を失い、ブレスを生み出す内燃器官を斬り裂かれている。
下位竜は竜言語魔法を使えないのでこれで詰みである。
ガカァ!
別の戦場では極太の雷光が降り注ぎ、ドラゴンを直撃する。
ベルクの生み出した雷は、ドラゴンの魔力の防壁も竜鱗の防御も容易く貫く。
全身の神経と魔力回路をズタズタにされたドラゴンは、指一本動かせなくなっていた。
全身から煙を上げ、ビクビクと痙攣している。
フェイとベルクは着陸すらしていない。
降下する途中でターゲットを発見したので、とりあえず潰してみたのだ。
暇になるかと思いきや、根性のある一部が襲いかかってきた。
じゃれる子犬をあしらうように久々の戦場を楽しむ。
何だかんだで、ここ最近退屈していたのだ。
〈グオオオ!〉
〈ガアアア!〉
ゴオォォォ!
2頭のドラゴンが同時にブレスを放つ。
灼熱の業火が地上に降り立った巨兵を飲み込んだ。
しかし、巨兵は大地が溶けだす様な炎の中を平然と歩き続ける。
炎は効かぬと判断し、2頭は自慢の爪を振りかざす。
ガキィン!
ギィン!
しかし、鋼すら切り裂く竜爪はあっさりと弾かれ傷一つつける事が出来ない。
ならばと顎を開き、牙を突きたてようとする2頭。
しかし、黙って攻撃を受けていた巨兵、ギアが動き出す。
もういい、とばかりにドラゴンの頭を殴りつけた。
ガゴン! ゴスン!
ただの一撃で意識が飛びかける2頭。
ギアの腕は雷光を纏っており、スタンロッドで頭を殴られたようなものだったのだ。
それでも一瞬にして脳震盪から立ち直ったのは、さすが竜族と言えるだろう。
すでに手遅れではあったが。
ガシッ
〈グウ?〉
〈グア?〉
2頭の首に後ろから回された剛腕。
それは一気に首を締め上げ、吊り上げる。
ギアは2頭をバックからのスリーパーで捕えると、そのまま体をコマの様に回転させた。
当然、遠心力によってドラゴンたちの首はさらに絞まる。
ブォン! ブォン! ブォン!
〈グゲエエ……〉
〈グキュウウ……〉
ダブルスリーパースイングとでも呼べばいいのだろうか?
単なる力技だが理不尽なほどに恐るべき技であった。
ドラゴン達は窒息どころか首の骨粉砕の危機を迎えていた。
過激派の軍も呆気にとられて呆然としている。
ブン!
「あ?」
「うわっ! こっちに来る!」
「逃げろ!」
ドゴォォォォン……
ギアが手を放すとドラゴン2頭は絡み合って吹っ飛んだ。
呆然としている兵たちの方に。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う兵たち。
もはや彼らは『軍』としてのまとまりを失った『群れ』であった
文字通り血も涙も無いギアは駄目押しの一撃を叩き込む。
キュゥゥゥゥゥゥン
ギアの胸部の宝玉に白い光が収束する。
そして宝玉の奥で石化の魔眼が起動する。
その矛先は未だ立ち上がれずにいるドラゴン。
すでに兵たちは逃げ散っている。
ガカッ!
駆け抜ける閃光。
その後に残されていたのは、全身のあちこちを石化させられたドラゴン達であった。
もはや戦意を保つ者はその場に残ってはいなかった。
「これが我等の結末か……」
正気を取り戻した金狼の長。
状況の変化に戸惑う間も無く、目の前には災厄が舞い降りた。
青黒い、夜空のような濃紺の毛を持つ巨大な狼。
星天狼ハウルが敵陣と自軍の中間で彼を睥睨していた。
直観力に優れる種族故に理解する。
理解できてしまう。
アレはドラゴンなど物ともしない高次存在であると。
しかし、狂乱の覚めぬドラゴンはそれが解らない。
飛行能力には劣るが強靭な肉体を持つアースドラゴンが、地響きを立てて突撃する。
「な、何と……」
金狼の長は、いや、敵味方関係なく全ての獣人が目を疑う。
狼の体が大きくなっていくのだ。
見間違いでは無い。
すでにアースドラゴンに匹敵するサイズになっている。
いや、それどころではない。
アースドラゴンを上回りさらに巨大になっていく。
さすがのアースドラゴンも異常に気付き、足が鈍くなっていく。
やがて爆走は歩きに変わり、最後には立ち止まり天を見上げて呆然としてしまう。
天裂き地飲むとまではいかないが、その巨躯はカリスと同等にまで膨れ上がっていた。
もはや怪獣である。
これがハウルの奥の手『神殺魔狼』モードであった。
こちらの世界に転生したときサイズ変化能力は得ていた。
しかし、この最大化モードだけは軽々しく使えない。
好奇心旺盛なハウルは密かに使う機会を窺っていたのだ。
そして今日、この時、その機会は来た。
ジロリと自分にとっては子犬位のサイズになってしまったドラゴンを睨む。
しかし、何の反応もない。
どうやら放心しているようだ。
非常につまらない。
せっかくの晴れ舞台なのに、と不満が募る。
とはいえ、殺しは控えるように言われている。
ベシッ!
ドチャッ!
とりあえず前足で軽く引っ叩いてみる。
勢いは十分手加減しているし爪も当てていない。
だというのにドラゴンは冗談のように吹っ飛び、そのまま起き上がってこなかった。
ピクピクと動いているので死んではいないだろう。
そう思い今度は過激派の軍に目を向ける。
〈……?〉
ハウルは目を丸くしてしまった。
金色の狼獣人を中心とした軍は全員が跪いていた。
さらには手を組んで何かをブツブツ呟いている。
要するに拝まれていた。
思いもよらない事態に戸惑うハウル。
だが、降参したのなら攻撃するわけにもいかない。
気を取り直したハウルは同僚の見物をすることにした。
高くなった視点によって遠くまでよく見える。
そして、ほかの戦場も状況は似たり寄ったりだったりするのだった。
PCがヤバ気な状況に……。
電源入れると異音がして、DVDプレイヤーが動かない。
ついでに頻繁にフリーズ。
寿命かな……。




