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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
64/216

邪神の影

 突然の過激派の進軍。

まずは新たな占領地の足固めをすると思われていた矢先の事だった。

穏健派とて不毛な陣取り合戦が何時までも続くとは考えていなかったが、予想より遥かに速い決戦だった。

それでも迎撃が間に合ったのは、イチョウの霊視のおかげである。

間もなく両軍は総力を挙げて対峙する。


 そして過激派の軍の先鋒が動き、戦いは始まった。


 最終防衛線、と言っても十分な防御力があるとは言えない。

もともと獣人には陣や砦、城を作って戦うという発想が無いのだ。

ニクスが占領した地域で建造したのをきっかけに利用されるようになったが、石ではなく木製である。

よって、これでは竜の火のブレスを防げないのだ。

過激派にとっては破るのが容易く、穏健派にとっては破るのが困難。

それでもラプトルやアースリザードを食い止められるのだから無意味ではない。

5つの砦と6つの陣、それが最終防衛線の構成である。


「2人とも無事か?」


「おっけ~、生きてるわ」


「なんとかね……」


 ようやく敵が引いたところでアジェが声をかけ、ロザとグラが疲労困憊となりながら答える。

ドラゴンとブラガに敗れたとはいえ、3人は穏健派の中でも実力者だ。

砦の一つを任されているのは断じて七光りではない。

とはいえ困惑を隠せない。


「あいつらどうなってんのよ? イカレちゃったの?」


「またそんなガサツな……」


「口調なんてどうでもいいのよ! あんた達だっておかしいと思うでしょ!?」


「それは……」


「まあ、な」


 3人は砦の外に目を向ける。

おびただしい数の死体、1000人分はあるだろうか。

こちら部隊の総数とほぼ同じ数である。

こちらの被害は数十人、これだけ見れば大戦果である。

だが、彼らは騎竜隊ではない歩兵である。

こちらの戦力を確認するための部隊であることは明白であった。

しかし


「何で逃げないのよ!? 最後の一人まで討ち死になんて正気じゃないわよ!」


 敵兵は決して引かなかった。

矢を受けようと、油を浴びようと生きている限り戦い続けた。

籠城戦だからまだいいが、野戦だったら途轍もない被害が出ていただろう。

3人もまさかいきなり死兵が攻めてくるとは思っていなかったのだ。


 戦争が無ければ兵士たちは皆一般人である。

人間の国の職業軍人ではないのだ。

勝って自分が生き残ってこそ意味がある。

己の命が国の礎に~、といった思想とは無縁のはず。

そもそも現状有利なのは向こうである。

3人は訳が解らなかった。


 この光景はここだけではなく11の戦場全てに共通であった。

混乱する穏健派。

しかし、敵の狙いの1つは直ぐに知れる。

ドラゴンを先頭に11の部隊が動き出したのだ。

そして3人の守る砦とロサの父である虎族の族長が守る陣の2カ所には、2体のドラゴンが向かっていた。

そこが一番早く先発隊を倒しきったからである。

先発部隊の役目が戦力の確認であった事は明白であった。

なぜ全滅するまで戦ったのかは不明であるが。


 そして本陣も動き出す。

最終防衛ラインの中心、アジェの父である銀狼の長の守る砦に向けて。

本陣に控えていた5体の成竜も動き出す。


「まずいわよ!」


「アジェ、親父さんが!」


「父の心配をしてる余裕はないだろ……」


 3人の砦にも騎竜隊と2体のドラゴンが向かってきている。

敵本隊は中央を突破し、後ろからこちらを挟撃するつもりだろう。

解ってはいても対処する余裕は無い。

穏健派に絶望が広がった時、上空から光の雨が降り注いだ。



 戦闘は停止していた。

狂戦士の様だった過激派の軍も目が覚めたように困惑している。

見上げた空、そこには成竜を遥かに上回る巨竜が地上を見下ろしていた。


---------------------


 カリスに乗って高速で戦場に駆けつけるフィオ。

しかし、彼方の戦場はおぞましい気配に満ちていた。

大気汚染で煙る街のようだ。


〈兄上、これは……〉


「ああ、性質は似ても似つかないが神気だな」


 ちなみにカリスは俺を兄と呼ぶ。

本当の兄は水晶竜だが、罪人(竜)の自分にはそんな資格は無いとのこと。

よって俺と使い魔たちが彼にとっての兄弟家族である。

カリスは年齢的には最も年下、末の弟と言う事になる。

まあ、知識や記憶は受け継いでいるので精神年齢は非常に高いが。


 話が逸れたな。

カリスも気づいた通り、過激派の軍を包むのは神気だ。

シゼムの時も竜達の時も良く解らなかったが、これだけの規模になるとさすがに解る。

しかし、『中庸』であるファラク神とヴェンヌ神とは明らかに違う『邪』に偏った神気だ。

邪神の神気、それがギフトの正体か。

そりゃ、使えば碌な事にならないだろうな。


「過激派の連中、完全に暴走してるな」


 まさにバーサーカー状態だ。

自身の死を何とも思っていない戦いぶり。

肉体的には致命傷でも気力だけで戦っている奴もいる。

そして死んだ彼らの魂はギフトを通じて本陣に集まっている。


 もはや、ニクスが正気かどうかなど関係無いな。

ソウルイーターとなった奴を放置はできない。

大人しくギフトを浄化させてくれるならよし、駄目なら殺す。

本音を言えば生かして情報を聞き出したいが、これじゃあシゼムと同じく廃人になる可能性が大きい。

もっと早くニクスを狙えば良かったのかもしれないが、今さらだ。


「とりあえず、このヤバげなフィールドを何とかするか」


 浄化を行うために神槍を起動させようとするが反応が鈍い。

まだクールタイムが終わっていないようだ。

何とか一発分の神気を集め、解き放つ。


「行け! 【ゲイボルグ】!」


 ゲイボルグとはケルト神話の英雄クーフーリンが使用したという魔槍である。

この技は威力自体はグングニルやブリューナクに劣る。

しかし、グングニルは巨大化、ブリューナクは誘導の特殊能力を持つように、ゲイボルグも特殊な能力を持つ。


パァン!


キィン!


 弾ける様な音と共に槍が数十に分解した。

ナイフの刃程度のサイズになった槍は、さらに硬質な音と共に分解する。

一本一本がさらに数百に分解し、針の様になった槍は広範囲に雨の様に降り注ぐ。

威力よりも攻撃範囲、これがゲイボルグの特徴である。


 実はゲーム時代からこの投槍技は持っていた。

しかし、この技は状態異常能力を持つ武器で使う事により真価を発揮する。

状態異常効果のある槍を俺は持っていなかった。

さらに竜槍杖という最上級の武器を持っていた俺にとっては、あまり意味の無い技だったのだ。


 光の雨が治まり、俺の手に神槍杖が戻ってくる。

邪気のフィールドは風に吹かれた霧のように散らされている。

だが、自らが邪気を発する存在が複数確認できる。

ニクスに竜に後は幹部数人か。


 槍は再びクールタイムが必要だ。

いや、無理に使った分さっきよりも長く休ませなければならないだろう。

でも、ただ待っているだけという訳にはいかないだろうな。


〈グガアアアア!〉


〈グオオオオ!〉


〈ゴガアアアア!〉


「む?」 


 地上から5体の成竜が飛び上がってくる。

まともな思考をしていれば、5対1でもカリスに挑もうなんて考えないはず。

案の定、彼らの目は正気を失っている。

熱に浮かされたような危ない目だ。


「カリス、死なない程度に叩きのめしておいてくれ。後でまとめて浄化する」


〈グオオオオン!〉


 指示を受けたカリスが咆哮を上げて5体に向かって行く。

こっちはこれで良し。

次は地上の下位竜か。

戦場は11カ所、なら11体を送り込めばいいな。


「コール オールファミリア 総力を挙げろ。……ああ、でもできるだけ殺すなよ」


 上空から11の影が戦場に舞い降りる。

それを見届けたフィオは自分を見上げる竜人、ニクスと視線を合わせた。

思ったより冷静な視線だ。

抑え込んでいるのだろうか? 大した精神力だ。


「これなら少しは情報が聴きだせるかな?」




新年一発目です。


ようやく戦闘開始です。


【ゲイボルグ】は魔剣サマエルで使えれば鬼畜だったんですが槍限定です。


そして初の全員召喚、戦場に惨劇が!?


まあ、手加減するよう指示はしてますが。

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