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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
63/216

開戦の時

 時は少し遡る。

フィオが2頭の竜と共に飛び去った姿は非常に目立った。

過激派からも確認できるほどに。


 ようやく昏睡状態から目覚めた幹部のブラガ。

彼からもたらされた情報、謎の魔人。

どうやら中央大陸からやってきて、穏健派に雇われているようだが詳しい事は不明。

ただ、非常識な強さだけははっきりとしていた。


 ブラガは復讐を望んだが、ニクスは余計なリスクを負いたくなかった。

そもそも、話半分でも勝てるかどうか判らない相手だ。

広域殲滅魔法が使えるなら数に意味は無い。

ドラゴン2体と騎竜隊を単独で倒せる以上、おそらくニクス自身でなければ相手にならない。

軍人の前世を持つニクスにとって、最高指揮官が勝てるかどうかも解らない一騎打ちに臨むなど下策もいい所だ。

彼は機を待つ事を選択し、そしてチャンスは来た。

魔人が穏健派から離れたのだ。


 全軍を上げての一斉攻撃。

それが今回の作戦。

数でも質でも勝る以上、小細工は必要ない。

ニクスはこの一戦で全てを終わらせるつもりだった。

これ以上の戦争の長期化は南大陸に立ち直れないダメージを残す。

全滅し、絶滅する種族も出るだろう。

それは避けなければならない。


「カダラ、カラベラ、カンダ、コピス、サパラ。今回はお前たちにも出てもらいたい」


〈〈〈〈〈承知!〉〉〉〉〉


 ニクスは切り札である、前世の世界の剣の名を与えた5体の成竜の戦線投入を決断する。

彼らが戦えばあっと言う間に大勢は決するだろう。

彼らはその圧倒的な力ゆえに手加減が利かない。

無駄な犠牲者が増えることを望まないニクスは、これまで自身の護衛として用いていた。

だが、今回は動かす。

この一戦で終わらせるために。


 ニクスは気付いていなかった。

自身の目に、いつの間にか爛れたような狂熱が灯っている事に。

それは竜達にも伝染し、今や幹部を通じて兵たちにまで広がっていた。


-------------------


「(殺す、殺してやる……。皆殺しだ……)」


 復帰した騎竜隊の隊長ブラガ。

しかし、彼の様子は以前とは一変していた。

以前の彼を『勇』とするならば今の彼は『暴』。

ギラギラとした殺気とドロドロとした憎悪を撒き散らしている。


「なあ……」


「ああ。ブラガ隊長、なんか変わったよな」


「相当な重傷だったらしいけど大丈夫なのかね……」


 部下達の声も届かない。

目の前には無残に殺された仲間達の姿が焼き付いている。

その姿は閃光に呑まれて消え、変わって憎き魔人の姿が脳裏に浮かぶ。

本来なら自分も死んでいた。

しかし、生き残った。

ならば


「(俺がこの手で仇を取る……)」


 戦争においては殺し殺されることなど当たり前である。

事実、ブラガも部下も相当数の獣人を殺害している。

そして、ニクスは必要以上の殺戮を望んでなどいない。

そもそも、部下達を殺したのは魔人であり獣人たちではない。

だが、今の彼にとっては穏健派は全て同罪だった。

本来の彼ならばここまで視野狭窄に陥る事は無かっただろう。


「(力が湧いてくる。今の俺ならやれる……)」


 昏睡状態だったブラガ。

だが、混濁した意識の中で気付いた。

胸の奥から力が湧いてくる事に。

望めば望むほど力は沸いてきた。

いかに頑健な竜人といえど、あり得ないほどの回復を見せた。


「(皆殺しだ……)」


 しかし、彼は気付いていない。

湧き出た力が彼の根源的なものを食い散らかしている事に。

理性、信念、倫理、あらゆる枷を引き千切り、彼を獣に作り変えている事に。

その眼にはニクスと同じ狂熱の炎が灯っていた。


---------------------


「いよいよか……」


 感慨深げに呟くのは過激派の有力者、金狼族の長である。

思慮深い者が多い銀狼族に対し、金狼族はやや直情的な者が多い。

だが、本能を理性で抑える銀狼族より直感力に優れていると言われている。

事実、作戦も小細工も無い正面戦闘だけで銀狼族の罠を何度も食い破っているのだ。

そのライバルとの決着ももう直着く。


「アジェだけでも助けてやりたいが……」


 戦争中期、虎族と獅子族が組んだように、金狼族と銀狼族も同盟を結んだ。

状況は泥沼だったが、両種族はかつてないほどの融和ムードであった。。

そして持ち上がったのは銀狼の族長の息子アジェと自分の娘との婚姻だったのだ。

知性と勇敢さを併せ持つアジェは正直自分の2人の息子より有望だった。

今は互角だが、次の世代では向こうが優勢になるだろうと直感も告げていた。


 このような打算もあったが、自身も誠実なアジェを気に入っていた。

始祖の狼王より分かれたとされる両種族、再び一つになるのも悪くない。

そんなムードが当時はあったのだ。


「それも叶わぬか……」


 長男はアジェの父、銀狼の族長に討たれ、二男は虎族の族長に討たれた。

そして、アジェの弟と獅子族の族長と長男は自分の使役するドラゴンに討たれた。

これが戦争というものなのだ、と理性では解っている

だが、感情はそうはいかない。


 ニクスの腹心のブラガ。

彼の復帰は喜ばしい事だったが、彼の変わりようはあまりにも無残だった。

あれほどの戦士であっても、戦争の狂気には勝てぬのかとゾッとしたほどだ。

考えてみれば彼はまだ若く、そして有能であったが故に決定的な敗北の経験が無い。

心の平静を欠くのは無理も無いのかもしれない。


 はたして自分は平静なのだろうか?

いや、もしかすると怒り狂うブラガの方が正常なのかもしれない。

息子を失っても冷静な自分の方が狂っているのかもしれない。

そして


「ニクス殿はどうなのだろうな……」


 誰よりも重圧を抱えているであろう盟主。

彼とて殺し合いを望んでいる訳ではない。

だが、結果として南大陸はもう限界にまで人口が減っている。

理想のためにやむなしと割り切れるほど彼は非情でも大人でも無い。


 最近彼の様子もおかしいという噂も耳にしている。

幹部ではあるが、現場主義であまり運営に関わっていない自分は責任逃れをしているのだろうか?

ニクスは責任に押しつぶされそうなのではないだろうか。

戦況は順調であるはずなのに、どこか歯車が狂い始めているような気がしてならないのだ。


「いや、問題は上層部だけではないか」


 兵の素行の悪化は以前から指摘されている。

彼も頭を悩ませている問題なのだが、どうにも妙なところがあった。

当初は急激に部隊を拡大した影響で、訓練不足、規律の緩みなどが原因と考えられていた。

しかし、問題が一時的なもので終わらなかったのだ。


 昨日まで真面目だった兵が、突然暴行傷害事件を起こす。

処罰され、反省したはずなのに何事も無かったように悪さをする。

共通しているのは、己の感情、欲望のままに行動することに疑問を抱いていないという事。

そして病気の発作の様に突然悪事を働くという事だった。


 普段は普通にしており、捕らえられた後もなぜ自分がこんな事をしたのか解らないというのだ。

戦争によるノイローゼの一種と医者は判断しているが、本当にそうなのだろうか?

医者ではない自分には判断できないのだが、どうもそれだけではない様な気がするのだ。

金狼の長はなんとなくニクスの本陣に目を向ける。


「!? ……気のせいか?」


 一瞬本陣が、いや、軍全体が禍々しいナニカに包まれているような気がしたのだ。

自分も相当精神的にまいっているらしい。

そう考え、早めに休む事にする金狼の長。

しかし、神ならぬ彼は気付く事は無かった。

次に目覚めた時、彼の心からすべての迷いが消え去っている事に。


-------------------


 ニクスのギフトは、今や過激派の竜の因子を持つ者全てに根を張っていた。

その先はニクスの意思とは関係なく独自に侵食を開始する。

それらはネットワークを繋ぎ、ある種の結界を形成していた。


 それは理性を奪い去る。

それは欲望を刺激する。

それは倫理観を麻痺させる。

それは感情を煽りたてる。

そして乱れた心を静かに侵していく。


 やがて、過激派の全軍が動き出す。

5体の成竜と13体の下位竜を引き連れて。

南大陸の運命を決める戦いが始まろうとしていた。



ワンクッションで過激派の内情を。


大分汚染が進んでいるわけですね。


『汚染が進む⇒搾取対象が増える⇒ニクスパワーアップ』ってわけです。


偶にはいい勝負してもらわないと咬ませばっかりになっちゃいますね。

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