事情聴取
案内されたのは会議室として使われている大きめの部屋だった。
幹部たちが次々と円卓に着席していく。
一応、皆で立ち会うワケね。
肝心の竜人君は備品の管理が終わってから来るそうだ。
どうやら頭脳労働の方が得意な人らしい。
竜人=武闘派というのは思い込みなのかね?
しばらく待つとスラリとした細身の青年がやってきた。
メガネが似合いそうな事務屋さんって感じだ。
「お待たせしました。私が暫定の竜人の族長のアロザです」
ふむ、ニクスにアロザか。
なんだか恐竜チックな名前の兄弟だ。
伝統なのかな。
って、そんな事はどうでも良い。
「どうも、魔人族のフィオだ。実はある調査の依頼を受けていてね。あんたの話を聞きたいんだ」
「調査……ですか? 兄の話なのでは?」
「ああ、調査の一環としてニクスの話を聞きたいんだ。うーん、そうだな……」
百聞は一見に如かずと言うしな。
見てもらった方が早いだろう。
席を立ち窓に向かう。
「えー、お集まりの皆さん。ちょっと外を見てもらっていいかな?」
「?」
「何かあるのですか?」
ゾロゾロと皆が席を立ち窓辺に集まる。
窓の外はちょっとした広場になっている。
誰も居ないしちょうどいい。
「よし、出ろ」
ズズン!
「おお!?」
「何じゃ? どこからこんな岩が?」
「おい、あれはドラゴンの頭だぞ!」
以前捕らえたドラゴンを岩ごと出すと、獣人達が騒ぎ出す。
さらにシミラとギアを呼び出すと驚愕の声はさらに大きくなった。
「ギア。これからそいつらを起こすから暴れたら黙らせろ」
もちろん物理的に、な。
洗脳された状態ではまず間違いなく暴れるだろうが、それを獣人達に見せたい訳だからな。
そのあと洗脳を解き、ビフォーとアフターを比べてもらう、という作戦だ。
ただし、そのプランだと鉄拳制裁は確実という訳だ。
悪く思うな。
「シミラ、俺とドラゴンとこっちの獣人の皆さんを念話で繋いでくれ。ドラゴンの話している事が理解できれば、それで良い」
シミラの幻術とは要するに精神に干渉する能力だ。
言葉が通じなくてもテレパシーなら通じるというわけだ。
通訳要らずな便利スキルである。
ギアがドラゴン達の背後に回る。
シミラの精神リンクが完了する。
よし、始めるか。
あまり得意ではない回復魔法で徐々にドラゴン達を癒す。
すると
〈む? ここは? 貴様ら! 誇り高き竜族にして覇王ニクスの下僕たる我に≪ゴキャ!≫ グぺ……〉
〈ぬう!? 無礼な! すぐに我らを解放しニクス様に服従するの≪バキョ!≫ ハガ……〉
「「「……」」」
ドラゴン達は目覚めた直後に寝言を垂れ流し、即座にギアに黙らされた。
背後から後頭部に一撃を貰ったドラゴン達は、再び夢の世界に旅立って行った。
ドラゴン達のあまりにもアレな言動に俺もドン引きしてしまう。
獣人達が黙っているのも同じ理由だろう。
ギアのパンチの所為かもしれんが。
「あー、見てもらった通りだ。このドラゴン達は何らかの方法で洗脳されている。おそらく過激派に所属する亜竜を含む竜族は、全て同じように操られているはずだ」
「竜を操る?」
「そんな真似が……」
「いや、そもそも中立のドラゴンが獣人の戦争に首を突っ込む事がおかしいのだ」
「そうだな。だがどうやって?」
獣人達もさすがにコレを正気とは思えないようだ。
方法はおそらくギフトだろうが、詳しくは俺も解らん。
そこをアロザ君に聞きたい訳ですよ。
「じゃあ、洗脳を解除しよう。洗脳方法は解らないが、こいつらの中にそれらしい術式が存在するのは解る。そいつを壊す」
シュルリと神槍杖の布が解け、封印が解除される。
直後に吹き出す膨大な神力。
俺が注ぎ込む魔力は神力に変換され、光の刃が形成される。
後ろで誰かがぶっ倒れたような音がしたが、気にせず窓から跳躍。
ドラゴン達の魂に食い込むギフトの呪縛を斬り裂いた。
---------------
どうやら倒れたのはイチョウさん、狐の族長だったようだ。
彼女は巫女のような能力を持っているらしい。
それがまるで昼に暗視ゴーグルをかけたように、神力に過剰反応してしまったようだ。
知らなかったので許してほしい。
「ほれ、起きろ」
〈むう?〉
〈我々は……〉
正気に戻ったドラゴン達。
さっきとは打って変わって冷静だ。
状況を理解してはいないようだが。
「どこまで覚えている?」
〈お前は? それに、ここは……〉
〈我々は確か、上位竜に呼ばれて、竜人の青年に会って……〉
〈? そうだ、その後どうなったのだ? 思い出せんぞ……〉
〈何か妙な力の浸食を受けた気がするのだが……〉
ふむ、聞くまでも無く話してくれたな。
予想通りだった訳だ。
岩を崩してドラゴン達を解放してやる。
もう暴れる様子は無いしな。
ついでに簡単に状況を説明してやる。
かなりショックを受けてしまったようだ。
当然だが。
「さて、これで解ったな。聞いての通りニクスは何かの手段でドラゴンを洗脳し、支配している。ドラゴンが説得に応じ、自分から手を貸しているという線は消えたわけだ」
獣人達もかなり混乱しているようだ。
念話で会話を拾うと、彼らの懸念は一つ。
『ドラゴンを支配したように獣人も支配されているのでは?』という事だ。
これは願望でもあるのだろう。
全てはニクスの所為と思いたい心理が働いているのだ。
釘を刺しておくか。
「ただ、この洗脳にも欠点はある。奴が竜人だからか他に要因があるのかは知らんが、洗脳の対象は竜族だけだ。以前に騎竜隊とやりあったんだが、騎竜は支配を受けていたが兵士にはその様子は無かった」
安堵の空気の中に、はっきりと落胆の空気が混じっている。
味方を洗脳される危険は無い訳だが、敵も洗脳されている訳ではない。
彼らは自分の意思でニクスに従っている訳で、ニクスが死んだとしてもこちらに従うとは限らないのだ。
まあ、その辺は正直俺にはどうにもできん。
当事者同士で解決してほしい。
「よし、それじゃニクスについて知っている事を教えてくれ」
再び窓から室内に飛び込み、アロザに情報提供を求める。
ちなみに精神リンクはそのままなので、話の内容は外のドラゴン達にも伝わる。
怒り心頭の彼らにも知る権利はあるだろう。
後で竜族の住処に行く予定だから、上手く行けば協力してもらえるだろうし。
「解りました。では、お話しましょう。僕が生まれた時、兄のニクスは『変人』とされていました。行動も考え方も、あまりにも普通の竜人と違っていたからです」
アロザは語り出す。
里のイレギュラーであった兄の話を。
そして彼とその行動がもたらした影響を。
無念、ストック使い切りました(早っ)。
でも評判は良かったようで何よりです。
また、しばらくしたらネクロスストーリーも投稿します。
あんまり間は空けないように頑張ります。




