蛙の末路
久々にオンライン更新したからかな?
ランキングに再浮上してました。
楽しんでもらえたのなら幸いです。
ガシャ ガシャ ガシャ
霧のように霞む森の中から異形の影が現れる。
六腕竜尾のアンデッド、漆黒のオーラをまとう黒きスケルトン。
その腕に握る武器はどれも規格外の魔法武器。
『風化の戦鎚』に殴られた者は石化し、砂となり崩れ去る。
強酸の鎌『アシッドシックル』に斬られた者は、焼けるような苦痛と共に溶けて消える。
腐食の斧槍『ロトンハルバード』に付けられた傷は爛れて腐り落ちる。
魂喰いの刃盾『リバースグリード』は攻撃した相手の精神力を奪い、斬った相手の生命力を喰らう。
軍滅の大剣『レギオンバスター』は一振りで無数の不可視の刃を放つ。
そして自身の骨で構成されたクロスボウ『タナトスガンナー』は魔力を矢に変えて撃ち出す。
数々の装備を構えた竜骨の戦王ネクロスが、ファグルたちの退路を断つ。
キチ キチ キチ ザン! ズズン!
右側の木々が一瞬で切り倒され、そこから黄金色の巨体が現れる。
それは甲殻をまとったカマキリのような威容。
2本の鎌は高周波ブレードのような切れ味を誇り、その下には三又の槍とチェーンソーの様なノコギリを備えた攻撃肢が獲物を求めている。
下半身にはサソリのような尾が生え、頭部にはカブトムシの様な角が生えている。
生粋の殺戮者シザーが、感情の見えない複眼で獲物を見つめる。
トン
音も無く、静かに左側に降り立ったのは巨狼。
夜空のような深い蒼黒の毛皮に、星のように輝く銀の目。
その爪牙は人間など紙クズのように引き裂く凶器となる。
そもそも、広域攻撃能力を持つ彼にかかれば100人程度一瞬だ。
だが、それはしない。
ハウルは狩りは楽しむ性質なのだ。
シュー シュー
最後にリーフの背後から3頭の大蛇が這い出してくる。
リーフが結界を張り、そこにバイトが霧を発生させているのだ。
結界には認識阻害効果もあるが、五感の鋭い獣人が気付く可能性もある。
目撃者を出さないための処置だった。
やはりというか、蛇の視線の先にいるのは蛙である。
ガパリとバイトの口が開く。
ゴバアアアアア
「くあ……」
「か、体が……」
吐き出されたディザスターブレスが半数以上を麻痺させる。
あえて麻痺だけに留めているのは恐怖を味わってもらうためだ。
気絶したらつまらないし、毒で死んだらあっけない。
彼らには後悔してもらわなければならないのだ。
基本的に使い魔たちはフィオの指示に盲目的に従う。
しかし、フィオ自身がそれほど細かく指示を出さない状況では、自分で判断して行動する。
今回の場合フィオは『わざわざ殺すまでもない』と判断した。
ここで『殺すまでもない=殺すなとは言っていない⇒殺っちゃってもOK』と解釈する者が現れる。
まず、リーフとネクロスは『無礼者は許せん。例え後で主人に怒られてもコロス!』派である。
次にシザーだが、女王を狙われた兵隊蟻や兵隊蜂のようなもので、本能的に敵を抹殺することを誓っている。
最後にハウルとバイトは『皆が行くなら折角だし付き合うか』という、言わばノリである。
バイトなら睨むだけで体どころか心臓を麻痺させられる。
ハウルならアルマゲストの一撃で皆殺しにできる。
ネクロスもレギオンバスターを振るえばあっさり殲滅できるだろう。
シザーなら特大の閃刃を放つだけで一太刀だろう。
だが、そんな事はしない。
そして各々が処刑を開始する。
「ヒイイイイイイ! グェ……」
「化け物だぁ! あぐ!?」
「に、逃げ、ガ?」
ネクロスはわざと致命傷を与えない。
武器のえげつない特殊効果をじっくりと堪能させている。
ある者は溶けた傷にのたうちまわり、ある者は崩れ去っていく自分の体を茫然と見ている。
逃げようにも真っ先に足を切られ、それも叶わない。
そもそも結界の外には出られない。
シザーは手足を切り落とし、酸のブレスで止めを刺している。
全身を焼かれる苦痛に、ダルマ状態の犠牲者が絶叫する。
しかし、シザーの複眼には何の感情も浮かばない。
ただ、淡々と処刑を続けていく。
ハウルは子供が虫をバラす様にいたぶっている。
手を足を一本一本食いちぎり、最後に頭をゆっくり噛み砕く。
その眼には嗜虐的な輝きが宿っていた。
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ファグルは現状を認識できなかった。
いや、認識するのを拒んでいた。
自分は指一本動かせない。
目を逸らす事も出来ない。
自分を縛る3頭の大蛇がゆっくりと近づいてくる。
聞こえてくる悲鳴から、絶望的な状況である事だけは解る。
例え体が動いたとしても、決して目にしたくない光景が広がっている事だろう。
ファグルは『やる側』としての耐性は持っていたが、『やられる側』としての耐性は持っていなかった。
もうファグルの精神は限界だった。
しかし、蛇眼は気絶すらさせてくれない。
「(何でだ? 何でこうなった?)」
工作員として自分の行動は間違っていなかったはずだ。
このまま帰還すれば、その功績を持って幹部になれるはずだったのに。
輝かしい未来が待っているはずだったのに。
〈そこの蛙と手に包帯巻いた奴。君らだよね? フィオ様に手を出した奴と命じた奴〉
フィオ。
そう、奴だ。
奴がすべての元凶だ。
奴の所為でこんな目に。
〈君らには思いっきり苦しんでもらわないとね。バイト、やっちゃって〉
ガパァとバイトが大きく口を開く。
そして隣で自分と同じく動けなくなっている部下を
丸飲みにした
「~~~~~~~~!! ~~~~……」
部下はしばらく足をばたつかせていたが、やがて完全に飲み込まれてしまった。
嫌だ、やめてくれ……。
いくらなんでもこんな……。
心の中で絶叫するファグルの目の前で、絶望の顎が開かれる。
そして
「~~~~~~!?!?」
初めに感じたのは痛み。
牙が体を削ったのだ。
次に感じたのは息苦しさ。
腹の中に空気などあるわけがない。
最後に感じたのは熱さ。
消化液によって焼かれ、溶かされていく身体。
真っ暗な視界。
動かない身体。
しかし、鮮明な意識。
地獄のような時間はファグルが息絶える瞬間まで続いた。
窒息が速かったのか、消化が速かったのか。
それは誰にも解らなかった。
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惨劇の時間が過ぎた。
リーフたちは念のため死体を始末し証拠を隠滅していた。
騒ぎになると主人に迷惑がかかるかもしれないからだ。
「うう……」
〈おや?〉
なんと奇跡的に一人の女性兵士が生き残っていた。
ダルマ状態で酸に焼かれているが、治療すれば助かるだろう。
女性の元に歩み寄ったリーフは顔を覗き込んだ。
「た、助けて……」
〈へえ、話す元気があるんだ〉
「何でも言う事聞くから……、お願い……」
感心するリーフに懇願する女性兵士。
リーフは彼女に指を突き付ける。
「奴隷にでも何でもなるから……」
〈ふーん〉
リーフの指に白い光が集まる。
女性兵士の目に『回復魔法をかけてくれるのか?』という期待の色が浮かぶ。
「助け……」
〈1つ教えてあげよう〉
懇願する女性兵士の声をリーフは遮り言った。
満面の笑顔で。
冷たい目で。
冷たい声で。
〈僕は女性があんまり好きじゃないんだよ〉
「!」
光は矢となって放たれ、女性兵士の頭を貫いた。
女性兵士の身体はビクンと一度跳ねた後、動かなくなった。
そして次にシザーの酸に溶かされ完全に消滅した。
こうして、工作員たちは一人残らず殲滅された。
〈よし、戻ろうか〉
処理を終えた使い魔たちは、ズブズブと影の中に消えていく。
そして唯一残った死臭も、やがて風に吹かれて消えていった。
今回はグロ回でした。
リーフの設定、地味にまだ生きてました。
心の傷は消えにくいのです……。
敵キャラの退場が非常に早い。
基本的に見敵必殺なので、出会った瞬間ほぼ退場決定なのです。




