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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
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緑の追跡者

「ならすぐに捕えましょう!」


「むう、だがどちらに逃げたのかも解らんぞ?」


「協力者が何人いるかも不明ですしね……」


 居場所も数も名前も解るが、わざわざ教えなくても良いかな。

あんな小物がやれる事など高が知れている。

工作員はその存在を知られないからこそ脅威なのだ。

はっきり敵だと解った以上もう派手な事は出来ないだろう。


 結局捜索は行われる事になったが、むしろファグルと一緒に消えた連中を割り出す方がメインになったようだ。

あちこちで点呼が行われ、内通者の割り出しが行われている。

俺に対し敵意を向ける連中がいないので、どうやら工作員は全員引き揚げた様だ。

俺もさっさと用を済ませるとしよう。


「ん? リーフ?」


 ふと気が付くとリーフがいなくなっていた。

別に自由行動を禁止しているわけではないのだが、はっきり言って珍しい。

まあ、たまには羽を伸ばしたいんだろうな。

話し合いが終わったら念話で知らせれば良いか。


-----------------------------


 一方、拠点を逃走したファグル達。

時期的にも決戦が近いという判断から工作員たちは全面撤退する事になった。

もはや、形勢は決まったから巻き込まれる前に、というわけだ。


 集まった人数は100人近く、ちょっとした部隊並みの人数だ。

本来ならバラバラに移動した方が目立たないのだが、ファグルはそれをしなかった。

それは相手も予測しており、各個撃破されて終わりだと判断したからだ。

そして過激派との合流に向かうという予想とは逆に、彼らは非戦闘員の避難所へ向かっていた。

理由はもちろん略奪の為である。


「なあ、本当に大丈夫なのか?」


「ああ~ん? 信じられねえってのか?」


「い、いや、そういうわけじゃ……」


 基本的に獣人はからめ手を不得手としている。

よって、人格に問題があっても工作活動に適性のあるファグルが自然と指揮を取る事になるのだ。

今回もファグルの行動は穏健派の裏をかいていた。


 穏健派の幹部達は、ファグル達が即座に過激派の軍に向かったと思っている。

だがファグルは逆に穏健派の領土のより奥、避難所に向かう事を提案した。

追手から逃れる事ができるし、食糧や物資を手に入れる事ができる。

そして避難所にはまだ、ファグル達が工作員だという情報は届いていないはずだからだ。


 情報が伝わったら避難所に火を放ち逃げれば良い。

燃え盛る炎と逃げまどう非戦闘員達がいればファグル達の捜索など二の次だろう。

後は混乱に乗じて多少遠回りになっても目立たない様に逃げれば良い。

それがファグルの作戦だった。


 非人道的でありどこまでもゲスな作戦だが、有効である事は確かだった。

戦争という場では非道が正当化される。

非戦闘員を利用したり、後方を放火で攪乱するなど珍しい行為ではない。

問題はファグルが好んでこういった作戦を取り、実行する事に一切の罪悪感を抱かない点であった。

もっとも、軍にはこういった汚れ仕事に向いた人材が必要なのかもしれない。


「こういう場合は相手の意表を突くのが鉄則なんだよ。何で理解できないかねぇ……」


「……」


「いや、しかし……」


〈良く言えば善良、悪く言えば単純だからじゃない?〉


「ああ、なるほどな。……あ?」


「!」


「だ、誰だ!?」


 期待していなかった問に答える声。

それは幼い子供の様な声だった。

当然メンバーにそんな子供はいない。


 慌てて周囲を見渡すファグル達。

そこで気付く。

森の様子がおかしい。

生き物の気配が全くしない。

おまけに霧がかかったように遠くが見えなくなっている。


〈やあ、こんにちは〉


「は?」


「何だこのガキは?」


 木の陰から姿を現したのは10歳位の少年だった。

エメラルドグリーンの髪に紅い瞳。

前髪の中央には紅いメッシュが入っている。


 無邪気な顔で微笑んでいるが、そこには幼さゆえの残酷さも見え隠れしている。

何より少年の態度は友好的とは言えず、ファグル達を侮蔑しているのがはっきりと解った。

しかし、状況の不確かさが、少年の不気味さが彼らに怒りではなく戸惑いを抱かせた。


「テメエ、何時からそこにいた?」


「そもそもお前はなんだ? 見なれない格好だが……」


 少年は例えるならリスの獣人とでも言える姿をしている。

頭に対して大きな耳が左右にせり出している。

だが、この世界にリス獣人など存在しない。

少なくとも彼らは見た事も聞いた事も無い。


〈変だったかな? 君達獣人を参考にデザインしたんだけど〉


「参考にした?」


「デザインだと?」


 言葉をそのまま解釈するなら、彼は獣人などではない。

獣人風の姿を仮に取っているだけの何かだ。

ならば何者なのか?

そして何をしに来たのか?


「訳が判らねえな」


「答える気は無いみたいだな。ならば我々に何の用だ?」


「この妙な状況はテメエの仕業だろう?」


〈そうだよ。何の用か……ね。マスターはお前らみたいな小物に興味は無いんだけど〉


「なに? どこかで会ったのか?」


〈ついさっき会ったよ? まあ、解らないだろうけど〉


 にこやかに告げる緑色の少年。

しかし、その目は全く笑っていない。


〈正直ね、君らが何をしようが僕らはどうでも良いんだ。でも、悪魔は冷徹で非情だけどフィオ様は温和で優しい。君らがこのまま悪さをすれば、その犠牲にきっと心を痛める。それが魅力でもあるけど〉


 フィオ。

例の魔人族の男の名前だ。

だが、こんな奴を連れていたか?


〈マスターは強い。負けることなどありえない。でも、だから弱者や有象無象の敵意や悪意に鈍感な所がある。愚かさや非常識さを甘く見る事がある。それらがマスター自身を傷つける事は出来なくても、何かしらの邪魔になるかもしれない。だから僕らがいるんだよ〉


 いや、こいつはさっき獣人に化けている様な事を言っていた。

ならこいつは、あの男の連れていた怪物の一体なのか?


〈さらに、君らは神にも等しきマスターに無礼を働いた。それだけで死ぬには十分な罪だ〉


「イカレてるのか? お前は」


 その言葉に少年は気の毒そうな顔で答える。


〈知らないというのは恐ろしいね。一目見れば君達も平伏し拝み、祈りを捧げたくなると思うよ。マスターの真の姿にね〉


 そして少年から、いや、少年の姿をした何者かから殺気が溢れだす。

敵地に潜入して孤独な戦いを続けてきた彼らが、一瞬意識を失いそうになるほどの。

そして気付く。

敵は正面の少年だけではない。

数体だが自分達を囲むように敵が潜んでいる。


〈ああ、そうだ。最後に質問に答えておこうか。僕の名はリーフ。偉大なる悪魔の下僕の1人さ〉


 残酷な表情に似合わぬ清浄な紅い光を身に纏い、リーフは宣言した。





ちょっと短いけどキリの良い所でカット。


見た目と裏腹にヤバい教祖様の様な思考のリーフでした。


次回数体がかりでボコる予定です。

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