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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
52/216

運命の分岐点

「その槍、ちょっと貸しなさいよ」


「断る」


 俺しか使えないし。


「じゃ、さっきの人型を……」


「お嬢……その辺にしておいた方が……」


「ロサ、お前は礼儀という物を……」


 やかましいな……。

だが、少々意外でもある。

もっと恐れられると思ったのだが、そうでもない。


「この人がその気なら抵抗したって無駄なんでしょ? なら警戒するだけ無駄無駄」


「それと礼儀は別問題でしょう……クドクド」


「助けられたんだからもっとだな……ガミガミ」


 やれやれ、賑やかな事だ。

ちなみに俺達は穏健派の最終防衛ラインに向かっている。

そこで族長たちに会えば色々聞けるという事なのだが。

さて、どんな対応をしてくれるのやら。


---------------------


「どうにも要領を得ないが……」


「細かい事は私にも解らないのです。ですが……」


「その『何か』とは絶対に敵対するなって?」


「イチョウの霊視は良く当たる」


「この状況での霊視か。凶兆か吉兆か……」


 イチョウによって各族長が招集され、霊視についての報告がなされた。

これまでも何度か霊視は当たっており、族長たちも真剣に聞いている。

しかし、同時に防衛ラインが破られた報告も届いており会議は混沌としていた。


 猫系獣人代表の虎族の族長は娘の生存を知りホッとしている。

ライバルでもあった獅子族の族長が戦死してから、猫系獣人を統率してきたのは彼だ。

せいぜい数百人の部族の長だったころに比べると負担は大きい。

しかし、その疲れを表に出す訳にはいかないのが現状だ。


 当初はこちらが上だった兵力も今では逆転している。

防衛に回ったことである程度拮抗していたが、それも限界に近い。

砦も拠点もニクスかドラゴンが来ればあっさり陥落するのだ。


 万全だったはずの防衛ラインを破られ、こちらは大混乱に陥っている。

戦力を集中するため最終防衛ラインに兵力を集め、他は放棄した。

広い範囲をカバーするのは戦力の分散にしかならないからだ。

元々非戦闘員を避難させながら徐々に退く予定だったのだが、敵の攻勢が激しすぎたのだ。


 こちらが一気に後退したので、敵軍もしばらくは新たな広い領土を安定させようとするだろう。

さらに志願者が死兵となってゲリラ戦を行い時間を稼いでいる。

だが、それほど長くは持たないだろう。

それまでに何とか有効な戦略を練る必要がある。


 最近の過激派は数が増えるとともに統制が緩んでいる。

略奪や虐殺を行う者が現れ、降伏という選択肢は選べなくなっている。

もちろんニクス本人や古参の幹部はそれを禁じ、取り締まっているが末端までは目が届かない。

バレなければ、と非道を行う兵はいくらでもいる。


 特にモラルの低下が激しいのは騎竜隊だ。

かつての精鋭も個々の質は低下してきているのが現状だ。

亜竜という大きな力をいきなり手に入れた新人騎竜兵達は、その力に酔い暴走しがちになっているのだ。

さらに騎竜隊にはドラゴンが貸与されている。

この切り札の存在が彼らの暴走に拍車をかけていると言える。


 結局、会議は纏まりきらず終わった。

それでもロサやアジェが一緒らしいので、それらしい者が現れたら適切に対応しようという方針は決まった。

高位の狐族の霊視への信頼の高さがうかがえた。


---------------------------------


「なるほどな。3人揃って将来の族長か」


 ロサは虎族の族長の一人娘、グラは獅子族の族長の次男、アジェは銀狼族の族長の長男らしい。

ちなみにグラの父と兄は戦死しており、次期族長はグラだそうだ。

狼を含む犬系獣人全体を統率しているのが銀狼族だ。

同格の金狼族は過激派についているとか。

本当に入り乱れていてややこしい。


 ややこしいと言えばニクスの親戚も大半が穏健派だとか。

ただし、祖父も父も兄も皆ニクスに挑んで死んだそうだ。

身内の恥は~とか言って一騎討ちを挑んでやられたとか。

もう当代の族長の直系の一族は、ニクスの姉妹2人と弟1人しか残っていないらしい。

親戚も大半が女性なんだとか。


 面倒くさいのは、一騎討ちで負けた者の一族は降伏してしまうようだ。

一騎討ちの勝者に従うという竜人の風習らしいが迷惑極まりない。

いや、ニクスの親戚はこれを利用して過激派の竜人を引き込もうとしたのかもしれない。

負けては逆効果だけど。


「うーん、順調なのは良いけど不自然ね」


「ああ、追手が全く来ない」


「斥候の話だと、何故か追撃が中断されているみたいですね」


 ふむ、もしかして俺の所為か?

精鋭部隊を全滅させ、ドラゴン2体を退けた。

情報が集まるまで迂闊に動けないだろうな。


 実際はそれプラス砦の守備隊が全滅している。

さらにかろうじて生き延びたブラガによってフィオの存在が知らされ、混乱に拍車をかけている。

ニクス自身が到着するまで過激派は身動きが取れない状況にあった。


「……しかし、大所帯になったな」


「続々と合流したしねえ。護衛が頼りになるし」


「まあ、全員が全員信用してるってワケじゃないみたいだがな」


 新たに合流した連中のなかにはフィオを不審者と見る者もいた。

ロサ達や元奴隷たちが説得したが、信じきれていない者もいるだろう。

とはいえ、フィオにとってはさして興味のある問題ではなかった。

敵対するなら見捨てるだけ、フィオ自身は別に困らない。

まあ、それはそれとして……


「おい、ちょっと良いか?」


「ん?」


「何ですか?」


「あいつとあいつ、それにあいつには注意しろ」


 フィオは積極的にフィオへの不信感を煽り、時には挑発してきた者達を教えた。

穏健派が一枚岩に纏まっていれば良いのだが、この状況ではそうもいかないだろう。

馬鹿な事を考える奴がいてもおかしくない。


「具体的に言えば内通、それに分断工作、いくらでも手はあるからな」


「なるほど……」


「正面の敵より後ろの裏切り者ってわけか」


 話が早くて大変結構。

なんだかんだでこいつら優秀だよな。

その後、特にトラブルも無く、怪しい奴らの動向に注意しつつ、穏健派の拠点に到着した。



「げ……」


「む……」


「よりにもよって……」


 うんざりした様子の3人の視線の先には拠点の入口が。

いや、門番か? あちらもこっちを見て友好的とは言えない表情をしている。

なんというか、チンピラにしか見えない。

大して強くもないのに、声と態度はでかくて器と理性は小さいタイプだ。


「よお、御三方。砦を失ったのに指揮官は無事逃げおおせたのか? さすがVIPは違うねぇ」


「どういう意味?」


「いや、別に~。どれだけの部下を盾にしたのかと思ってねえ」


「あんた……「落ち着けロサ!」」


「ファグル、お前はいつから門番になった? お前は前線に配属されていたはずだろ?」


「あ? グラ、手前には関係ないだろ!」


「ふん、大方『役に立たないからいらん』とでも言われたんだろ? 口と威勢だけだからなお前は」


「アジェ! テメエ……」


 あれは蛙人ワー・フロッグか? 初めて見たな。

しかし、どうやら問題児の様だ。

自分から挑発したくせに、言い返されてキレている。

取り巻き連中も騒いでいるだけでまともな事は言っていない。

そもそも取り巻きがいること自体驚きだ。

まあ、声はでかそうだからな。



「あ? 何だこいつは?」


 様子を見ている間に獣人達は拠点に入っていった。

完全スルーじゃん、門番仕事しろ~とか思ってたら目が合った。

そして案の定、絡んで来た。

全く面倒くさいな……。


「なんで魔人族がこんなとこにいるんだ? 傭兵か? 冒険者か?」


「傭兵みたいなもんかな」


「ほお~、おかしいねえ。そんな話、まーったく聞いていないんだが?」


「現地雇用だったからな」


「怪しいなぁ、いや、全く怪しいねぇ。門番を任された身としてはすんなり通す訳にはいかないなぁ」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる蛙野郎。

3人に視線を向けるとフルフルと首を振られた。

これがこいつのデフォルトの様だ。


「とりあえず詰め所に来てもらおうかな? そこで話し合おうじゃないか」


 金でもせびる気か?

取り巻き連中が俺を囲む。

さて、どうするかな。

約束通り全員無事に送り届けた以上、契約は完了だ。

これ以上積極的にかかわる理由もない。


 ドラゴンに関しても捕えた2匹から話を聞いて、連中の巣に行けば十分情報は手に入るだろう。

面倒事に首を突っ込む必要もないか。

潮時だな。


「俺は彼らをこの拠点まで送り届けるという契約を結んでいた。入るなと言うならここで失礼するだけだ」


 3人の顔色が変わる。

しかし、蛙野郎は逆に手応えありと見たらしい。

俺に後ろ暗い所があり、調べられるのを恐れているとでも考えたんだろうか。


「おおっと、逃がすと思うか? おい、こいつを縛りあげろ」


「ちょっと、あんた!」


「いい加減にしろ!」


「ああ? 俺は任務を忠実にこなしてるだけだぜ?」


 慌てて3人が止めに入るが馬鹿は気にもしない。

取り巻きはロープを俺に巻きつけようと近付いてくる。

ここまでだな。


----------------


 突然の霊視。

それも自分から『見た』のではなく、『見せられた』ような映像。

イチョウは同席していた数人の族長たちに慌てて内容を話す。

救いの道と破滅の道。

2つの内、救いの道が崩れ去るビジョン。


「ひゃあ!」


 突然悲鳴を上げたのは兎人族の族長メネだった。

兎人は脚力と聴力、そして危機察知能力に長けている。

メネはその中でも危機察知能力が一族トップだった。

その危機察知能力が最大限の警鐘を鳴らしていた。


 続いて部屋に飛び込んできた伝令。

ロサ達が多くの同胞を連れて同行者と共に帰還したという知らせ。

しかし、その同行者に門番達が絡んでいるという。


 イチョウとメネは確信する。

その同行者こそが全てのカギだと。

困惑する他の族長を押しのけ、2人は部屋を飛び出した。


自分達が間に合う事を願って。



はたして間に合うのか? それとも必殺のDOGEZAの出番か?


おバカ君の種族迷いました。

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