産声
「依頼は受けるけど、具体的に何をすればいいんだ?」
〈汝の眼は魔力を視認できる魔眼なのだろう? そこに歪みを視認できる加護を与える。それで歪みの発生源が解るはずだ〉
ほう、そんな原理だったのか。
無詠唱で魔法発動できるマジックアイテム位の認識だった。
〈対処法に関しては、やり方は任せよう。モンスターや物なら破壊するだけでいい。異世界の生物の場合は、殺害してもいいし、送還してもいい。転生の輪に魂が入り込めば我が処理できる〉
処理といっても壊したりするわけではないそうだ。
記憶と歪みを徹底的に洗い落とし、この世界になじませるんだとか。
例の迷惑転生者もそうやって無害化したらしい。
まあ、異世界の生物の全てが迷惑なわけではないようだが。
こちらの世界に定着した種もいるし、静かに一生を終えた異世界人もいるそうだ。
俺だって厳密にいえば異世界出身だ。
「俺以外に悪魔って残っているのか?」
〈大分前に送り込んだが倒された。本来なら強者が100人いればどうにかなる強さだったのだ。しかし、倒したのは2万人もの奴隷を生贄にして召喚した異世界人だった。そやつは勇者だ、英雄だと祭り上げられ、今では他国侵略の先兵だ。嘆かわしい……〉
うわあ、2万人生贄にして100人力か。
割に合わないな。
しかも、いい様に利用されてるな。
異世界召喚は世界の境界線に穴を空ける術だ。
理に反する術なので消費も代賞もバカでかい。
しかし、行使する連中にとっては自分さえ傷つかなければOKらしい。
うん、清々しい位のゲスだ。
〈では加護を与えよう。ついでにその槍にも我が神力を込めておこう〉
竜槍杖が輝き、黒い蛇が巻きつくような装飾が追加された。
俺自身も、持て余していた力が手に収まる様な感覚がした。
〈加護には知識と翻訳も加えておいた。辞典の様な機能と思っていい〉
ほう、それはありがたい。
ガイドブックを貰った様なものだ。
異邦人の俺にとっては必需品だろう。
〈それでは、頼んだぞ〉
その声を最後に、視界は再び暗転した。
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気が付くと俺は最初の荒野に立っていた。
空を見ると太陽が動いていない(ちなみに2つある)。
どうやら神域での時間はこちらでは一瞬だったようだ。
STを確認しようとすると
〈フィオは『魔神』にランクアップしました〉
〈【悪魔化】の使用条件が解除されました〉
〈【悪魔化】の部分使用が可能になりました〉
〈【悪魔化】は『大悪魔形態』『魔王形態』『魔神形態』を選択できます〉
〈使い魔の最大召喚数が12体になりました〉
……アナウンス機能、残ってたんだ。
しかし、魔神だと? 遂に人間やめてしまったな。
今さらだが。
しかも追加能力凄いし。
「部分発動ね。こんな感じか?」
意識を集中すると左手が揺らぎ、巨大な悪魔の手に変わった。
アンバランスな光景だな。
続けて翼を出したり、尻尾を出したりしてみる。
ふむ、違和感は無いな。
続いて魔王モードの幻腕を作り出してみる。
自分の身長よりでかい腕が2本、フヨフヨ浮いている。
これも自由自在に動かせる。
便利だな。
では最後に、魔神モードを試してみるか。
体の内側に感じる莫大な力。
神すらも見捨て、『禁断の地』とまで言われたこの荒野。
そこに満ちていた力を解き放つ。
「オオオオオオオオオオオオオオォ!!」
口から自然とわき上がる咆哮。
そして青年は、いや青年だったものはその力を解放した。
それはこの世界に新たに生まれ落ちた神種の、誕生の産声だった。
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中央大陸はヒューマンの領域だ。
しかし、他種族も少なくない数が生息している。
鋭敏な感覚を持つ種族は大気の鳴動、地脈の揺らぎを感じ取った。
一方のヒューマンは、魔力を感知するレーダーの様なマジックアイテムを常備している。
しかし、稼働中のそれらは一斉に砕け散った。
唯一判明したのは、その魔力の発生源が『禁断の地』である事だけだった。
これで完結したら詐欺ですよね。
次回ようやく出発です。