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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
49/216

ヘビー級バトル

「オオオオォ!」


「突っ込めぇ!」


ドドドドドドドド!!


 ラプトル達は嫌々ながらも命令に従い走り出す。

うーん、哀れだ。

助けるか。


ドゴォ! グシャ! 


「アガッ!」


「グェ!」


「オグ!」


俺の手前で騎竜兵達が壁にぶつかった様に停止する。

最前列の連中は後列に押されて押し潰され、ラプトルから落ちた者は後続に踏み潰されてしまう。

もちろんリーフの張った不可視の障壁である。


 列車が突っ込んできても止められる位の強度があるので、連中に突破は不可能だ。

しかも素晴らしいのはマジックミラー方式という所。

こっちからの攻撃は可能なのだ。


「失せろ」


ボッ


 突き出された槍は一閃。

しかし、団子になっていた数十人の敵兵は一瞬にしてハチの巣になっていた。

そう、敵兵だけ。


 範囲外だった敵兵やギャラリーが唖然とする中、無傷のラプトル達が起き上る。

キョロキョロとあたりを見渡すと首を傾げ、そして足早に散って行った。

騎竜兵達の制止など耳を貸さずに。


 使用したのはRWOでは『ミーティア・スラスト』と呼ばれていた技だ。

それは扇状に不可視の刺突を無数に発生させ、複数の敵を貫く強力な技。 

そしてラプトルが無事だったのは槍の能力だ。

この神槍杖は狙った敵以外を傷つけない事も可能なのだ。

よって人質を取られた場合、犯人を人質ごと貫いて人質は無事、なんて事も出来る。


 ついでにラプトル達は浄化しておいたので、彼らは巣に向かって帰っていった訳だ。

騎竜兵が突撃を開始してからラプトル達が去っていくまで、かかった時間は僅か15秒。

さて、騎竜兵の反応はというと……


「は? え?」


「な、何が……」


 理解が追い付いていないらしい。

邪魔だったので死体を焼き掃ってやると、ようやく表情が恐怖に引きつりだした。

鈍いねえ。


 後方に被害が出ないように結界はそのまま維持。

ガクブル状態の騎竜兵達に歩み寄る。

しかし、彼らの目はまだ絶望していない。

さっきのリーダーが戻ってくることを期待しているのか?


「く、くそ! あいつらを呼べ!」


「え? でも……」


「早くしろ! 殺されるぞ!」


 何やらひとしきり揉めた後、1人が笛の様な物を取りだした。

音は聞こえないな。

犬笛かな? 増援を呼んでるのか、それとも通信か解らんが。

振り向いてみるが、後ろの犬獣人達に変化はない。


バサァ  ズズン


「お?」


 索敵に反応があった。

バカでかい何かが2つ、こっちに近づいてくる。

っていうか、片方はもう見えている。


「よし、来たぞ!」


「これであいつも終わりだ!」


 歓喜に染まる騎竜兵。

なるほど、これが切り札か。

砦を落としたとか言ってたもんな。

ここで出てきたか。


空を舞う緑色のウインド・ドラゴン


大地を歩む茶色のアース・ドラゴン


 どちらもサイズ的にはレッサー・ドラゴンだが、並の実力者では100人がかりでも勝ち目はない。

それが2体。

しかも周りにワイバーンに乗った増援の騎竜兵が付き従っている。

これは確かにとんでもない戦力だな。


「リーフ。結界はそのまま維持だ」


〈キュ!〉


 さて、最近暇を持て余しているのは……。

よし、この二人に任せるか。

影が広がり、そこから2つの巨体が這い出してくる。


 1つは巨兵。

燦然と輝く装甲を持つ人型の兵器。

複合魔法合金ハイブリット・マナ・メタルのゴーレム。


 1つは巨獣。

溶岩を身に纏う、歩く火山のごとき鎧竜。

煉獄の炎と大地の化身。


「ギアは空の緑、ヴァルカンは地面の茶色だ。行け!」


 主の号令と共に2体の使い魔は動く。

ギアはブースター『ヴァーユ』を全開にして、ロケットのように飛び上がる。

ヴァルカンは標的に向かって一気に加速し、トラックのように正面から突撃する。

そしてフィオは再び唖然とする騎竜兵達を殲滅すべく、魔法を用意し始めた。


-----------------


「フンッ!」


ブンッ


「グッ!」


ガキィ


 ブラガの突きだした槍を手甲で捌くグラ。

しかし、その衝撃までは殺しきれず大きく体勢が崩れる。

すかさず追撃を加えようとするブラガだが


ヒュン


〈グギ!〉


「む!」


 死角から音も無く切りかかるアジェ。

だが、その奇襲はブラガの騎竜が気付きかわされてしまう。

跳躍して距離を取る騎竜。

グラを助ける事は出来たが攻撃は不発。

距離が空けば有利なのは槍を振るうブラガだ。


「やっぱ、強いな……」


「時間稼ぎがやっとなのは判っていたが……」


 誤算だったのはブラガの騎竜だった。

あれは高い知能を持つ『ロード・ラプトル』だ。

奴は下手な兵士より上手く戦い、2人は押される一方だった。


 ブラガの槍は石作りの建物を積み木のように壊してしまう。

防御など無駄、回避するか捌くしかない。

しかし、それはとてつもない集中力が必要で2人はもう息も絶え絶えだった。


「粘るな」


「当たり前だ……」


「まだまだ負けてねえ……」


ピイイイイ


 ジリジリと距離を測る3人。

しかし、ブラガの耳にだけ笛の音が聞こえてきた。


「な! あいつら何を……」


「?」


「何かあったのかな……」


 突然怒りをあらわにするブラガに困惑する2人。

しかし、ブラガの怒りの対象は彼らではなく部下達だった。

今聞こえたのは、竜族にだけ聞こえる音色を出す竜笛だ。

これは本隊との連絡を取るための道具であり、彼らの切り札を呼ぶための道具でもあった。

竜人であるブラガには聞こえるが、アジェとグラには聞こえない。


「な!?」


「あれは……」


 2人の表情が驚愕に染まったのを見てブラガも視線をそちらに向ける。

そこには緑色のドラゴンと無数のワイバーンが飛翔していた。


 アジェとグラの心を満たすのは絶望。

砦をたやすく落とした騎竜隊の本隊がドラゴンと共にやって来たのだ。

もはや逃げる事は不可能だ。


 一方ブラガの心を満たすのは怒りだ。

部下達は独断で勝手に本隊とドラゴンを呼び付けた。

騎竜隊の本隊は20騎ものワイバーン騎竜兵を擁している。

貴重な空中戦力を軽々しく動かすべきではない。

何より、主君の友たるドラゴンを勝手に呼び付けるなど不敬にも程がある。

下位とはいえ竜は竜、圧倒的な上位者なのだ。


ボッ! ゴシャアァ!


〈グア? ガグッ……グギャアアアア!〉


ドゴオォォン



「は?」


「え?」


「な……」


 突然の光景に3人の思考が停止する。

地上から巨大な人型が飛び上がり、ドラゴンを殴り飛ばしたのだ。

さらに人型はドラゴンの首と右の翼を押さえつけ、ドラゴンを下にした体勢で落下していった。

響き渡る地響き。

聞こえてくるドラゴンの悲鳴。


 3人の理解を置き去りにさらに状況は動く。

さっきまでドラゴンがいた辺りに巨大な光球が発生したのだ。

太陽のように白く輝く光球。

周囲の騎竜兵達が慌てて離れようとするが、それは遅かった。


 光球から細いレーザーの様な光線が発射され、騎竜兵だけを打ち抜いた。

ワイバーンはそのまま逃げていく。

すると次は全方位に無数の光線が発射された。

それらは兵だけを打ち抜き、瞬く間に殲滅していく。

下にも発射されているという事は、地上でも同様の惨劇が起きているのだろう。

やがて、空中には光球以外何も無くなった。


「……いかん!」


「あ?」


「あれ?」


 一足早く正気に戻ったブラガは、悪い予感がして駆けだした。

部下も本隊も全滅である事はまず間違いない。

さっきの様子からドラゴン2体もおそらく敗れただろう。

懸念材料はワイバーン達だ。


 彼らが砦に戻ったら異常を察した他の部隊が来てしまう。

それはマズイ。

どれだけ数を集めても一蹴されるだけだ。

ここは退くべきだ。

これ以上被害は出せない。


 そんなブラガの心境をあざ笑うかのように、上空では巨大な光球がゆっくりと動き出していた。


--------------------


「うむ、まずまずだな」


 自動砲台をイメージした光魔法は中々の出来だった。

探知とリンクしており、敵味方を識別してくれる。

発動させると範囲内の敵だけを自動で攻撃してくれる素敵仕様。

拠点防衛とかに最適じゃね? とか自画自賛してしまう。


「とはいえ、でか過ぎたな。もう解除するか?」


 光線を撃つほど光球は小さくなるのだが、今回はさすがにデカ過ぎた。

何しろ直径が50m近くあるのだ。

弾切れにするには軍団規模の敵が必要だろう。

張り切りすぎたらしい。


「さて、どうしようか……。ん?」


ズシン ズシン


 そうこうしている内にギアが戻ってきた。

ズタボロのドラゴンを引きずって。

両の翼はもぎ取られ四肢はへし折られている。

顎は砕かれ、白目を剥いたその姿は無残としか言いようがない。


 俺的には最初のアッパーカットでケリは付いていた気がするんだが、ギアはさらに追撃した。

落下し地面とギアのサンドイッチになったドラゴンの胴体からは、色々砕ける鈍い音がしていた。

止めに淡々と翼を毟り四肢を踏みつぶしたギアは正しく戦闘マシーンだった。


 俺はこのドラゴン達を捕獲して、竜族の領域に行く時の土産にしようかと思っていた。

だから殺さないように命じておいたんだが、ホントに死んでいないだけだ。

こうなるともう片方も心配になってくる。


〈クオオォォン……、アオオオン……〉


「やっぱりかよ……」


 慈悲を請う様な弱々しい鳴き声が聞こえてきた。

おそらく向こうでも惨劇が起きているんだろう。

正直見たくないがそういう訳にもいかない。


「仕方ない、行くか……」


 重い足取りで歩きだす俺の後ろを、ドラゴンを引きずるギアが付いてくる。

そして目にした光景は拷問だった。


「あーっと……。とりあえずその辺で」


 アース・ドラゴンは頭以外を溶岩の池に沈められ、全身を焼かれていた。

逃げようにも倍はある体格のヴァルカンが上に圧し掛かっているので脱出不可能。

絶望と諦観を浮かべた目でこちらを見ていた。


 ドラゴンなんだし溶岩くらい平気なんじゃ? と思うだろう。

だが、この溶岩紫色なんです。

そう、これはヴァルカンの生成したヴァルカンの一部とも言える溶岩なのだ。

サラマンダーでも焼き殺すコレを防ぐ事はドラゴンでも不可能なのです。


ゲシッ  ズズン


 ヴァルカンが地獄の釜からドラゴンを蹴りだした。

ヒデェ、全く容赦無しだ。

調べてみると命に別状はなさそうだ。

何時目を覚ますかは想像もつかんが。


〈オオオオン!〉


〈ガアアアアアア!〉


 勝鬨を上げる2体。

いや、まあ、確かに任務は達成したよ?

でも、これってやり過ぎじゃね?

いや、殺すなとしか言わなかった俺が悪いのだろうか。



 騎竜は助けたが騎竜兵は皆殺しにしたフィオが、2体にどうこう言えるのか? 答えは人それぞれであろう。

だが、大半の者にとってはどっちもどっちなのではないだろうか。



久々の槍技。


一対多数だと魔法の方が速いですからね。


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