南大陸の覇王
「それって幼竜、ベビー・ドラゴンだよな?」
「そこまでは……。ただ、私が見たのは10m以上ありましたが」
赤子=幼竜 ベビー・ドラゴン=魔獣 体長5m以下
子供=若竜 下位ドラゴン=幻獣 体長10m以下
大人=成竜 上位ドラゴン=幻獣 体長15m以下 竜言語魔法使用
長老=老竜 エルダー・ドラゴン=聖獣 体長15m以上 個体差あり 超強い
おい、ドラゴン。
成竜が何やってんだよ……。
たとえ相手が1匹でも、軍団規模の兵でも勝ち目は無いだろう。
よっぽどその竜人が強いのか、他に何かあるのか。
こりゃ、一度ドラゴンの住処に行って見た方がよさそうだな。
それと竜人についての情報もか。
「解った。道中出くわしたら俺が何とかする。その竜人について知ってる事を聞かせてくれ」
「解りました。それと、穏健派に彼の姉弟がいますので足りない分はそこで聞いて下さい」
過激派のリーダーの竜人。
彼の名はニクス。
竜人の族長の一族で、現当主の次男の四男らしい。
昔の事は知らないそうだが、文武に秀でた神童であったそうだ。
魚の養殖や果実の栽培などを彼が里に普及させていたので、竜人の里は食糧に余裕があったとか。
ただし、それも戦争が起きるまで。
少数だが屈強な竜人を相手にするなど割に合わない事だが、他の種族達はそんな打算も働かないほど追いつめられていたのだ。
「ストップ。1つ良いか?」
「はい? 何でしょう?」
「そいつは生まれつき養殖、栽培の技術を知っていたのか?」
「さあ、そこまでは……。でも、ある時から急に内政的な手腕を発揮し始めたとか」
「ふん……なるほど。続けてくれ」
毎日の様に掠奪者が押し掛け、少しずつだが確実に犠牲者は増えていった。
ニクス自身も戦場で戦斧を振るい戦った。
誰もがその場をしのぐ事に精一杯で、戦争自体を止める方法など考えもしなかった。
竜人の神童以外は。
彼は戦争中にもかかわらず必死に食糧を生産し続けた。
そして打ち破った敵を捕虜として、その生産の仕事をやらせたのだ。
そうやって南大陸に存在しなかった食料の生産という概念を広げていった。
数年でその効果は出始める。
竜人の里とその周辺の集落は、何とか現状を維持できるだけの食料を確保できたのだ。
ここまでなら彼は優れた指導者で終わっただろう。
しかし、長引く戦乱は彼を戦場に誘う。
ここの部族、集落で行われていた戦争は、より大規模な集団同士の戦いに移行していったのだ。
狼を含めた犬族と牛族、猪族が手を組んだ。
虎や獅子を含む猫族と兎族、狐族が同盟した。
翼手族と有翼族が水棲族と手を組み、大陸最大の湖を占拠した。
そして竜人の里と周辺の集落も一つの勢力と見なされた。
戦いは大規模になり、数の少ない竜人族は次第に押され始める。
そんな時、ニクスはとんでもない援軍を呼び寄せる事に成功する。
単身ドラゴンの住処に赴きその助力を得たのだ。
「待て待て、竜人ってのは皆ドラゴンと会話できるのか?」
「言葉自体は通じると仲間の竜人が言っていました。しかし、相手が話し合いに応じるかといわれると……」
「そうか……」
とある上位竜との交渉に成功した彼は、亜竜を戦線に投入し始める。
その戦闘力は数の不利を押し返すだけの物があった。
加えてニクス自身の戦闘力も異常なほど高くなった。
そして、付いた通り名は『不死身のニクス』。
「不死身って事は死なないのか?」
「はい。竜人という種族は頑丈で生命力も強いのですが、彼は飛び抜けているんです」
「例えば?」
「切断された腕が繋がったり、数百人の狐族による術で作られた火の海を単身突破したり……」
「……サンショウウオかよ」
そんな彼を戦士達は王のごとく崇拝した。
種族や部族を超えた連帯感が彼らには生まれたのだ。
祖父の族長も彼を後継者に、と考えていたそうだ。
しかし、それはなされなかった。
すでに彼は竜人族という1つの種族に収まる存在では無くなっていたのだ。
不毛な戦争により人口は激減し、生き残った者達も疲れ果てた。
泥沼の戦乱に終止符を打とうと考えるのは自然な事だった。
主だった勢力の指導者が集まり、和平が結ばれる事になった。
ニクスの祖父もそこにいた。
疑っているわけではないが、全ての勢力がそれなりの手勢を連れてきていた。
あるいは何か予感があったのかもしれない。
ニクスが大軍を引き連れ交渉の場に現れたのだから。
「大軍って、そんなにそいつに従うやつがいたのか?」
「はい。目的は色々だったみたいですが。ニクスに心酔する者、単に戦争を続けたい者、ニクスの主張に賛同する者などですね」
「主張?」
「はい。彼は今戦争をやめてもいずれ同じ事が起きる。復興にも時間がかかる。獣人の未来のためには自分を中心として一つにまとまる必要がある。それが彼らの主張です。ある意味間違ってはいないのですが」
「まあ、合議制より君主制の方が迅速に政策は決定されるからな。馬鹿が集団で騒ぐより優秀な1人が仕切った方が上手く行くだろうしな」
「とはいえ、強引で唐突過ぎました。当然両者は対立し、程無く交戦状態になりました」
確かにニクスの軍は大軍だった。
しかし、それは1つの勢力としてはである。
戦力差は実に4:1もあり、精鋭揃いの過激派軍といえど敗北は必至だった。
戦力が人だけならば。
数に任せて全軍突撃を開始した穏健派軍。
彼らにとって過激派は、ようやく平和が戻ろうとしている大陸を乱す悪そのものだった。
これが最後の戦い。
穏健派軍の士気は高かった。
一方で過激派軍にしてみれば穏健派は愚者の集団だ。
戦争の原因を正しく理解せず、流れで停戦してもいずれ同じ事が起きる。
ニクスの革新的な案も、どれだけ採用されるか怪しいものだ。
獣人は基本的に保守的であり、それに耐えられない若者は冒険者として南大陸を離れている。
10年後、100年後を見据えて、多くの若者は過激派に身を投じていた。
これもニクスの策の結果であった。
停戦の流れが強まった事を感じると、彼は各地に間者を放ち協力者を集めたのだ。
そして、その際に自分の正当性をアピールする事も忘れなかった。
すなわち
過激派の軍が左右に分かれる
突っ込んでくる穏健派の軍の前に現れたのは
10体以上のドラゴンだったのだ
『幻獣に認められし覇王ニクス』の初戦は圧倒的な勝利で終わった。
穏健派の軍は最初のドラゴンブレスで崩壊し、過激派軍の追撃で半数が失われた。
ニクスの祖父は、穏健派を逃がすためニクスに一騎打ちを挑み敗れた。
そして、祖父の首を刎ねたニクスは武力による南大陸の統一を宣言する。
「それって、全部が上位竜か?」
「いえ、大きいのは3体です。後は少し小さかったはずです」
「それでも上位竜3体に下位竜10体近くか。いくらなんでも……」
「私が戦いに敗れ奴隷商に捕まった時点では勢力図は半々でしたが……」
「この港の位置、地理的な事を考えると6~7割は向こうの勢力下だな」
このまま行けば、この戦乱の結果は見えている。
そして、その結果自体にフィオは大して興味はない。
問題が在るとすれば
「シゼムと似すぎているな……。手を出すべきか、様子を見るべきか。迷いどころだな」
織田信長みたいな感じですかね。
ニクス自身は必ずしも悪人じゃないんです。
ただ、使っている力が悪魔の禁止コードに引っかかってしまいました。