港の異変
風を切り快調に進んでいく船。
波も弱く船酔いになる者もいない。
獣人は大地に足を付けて生きる種族。
船は意外と苦手らしいが、今の所は問題なさそうだ。
そういや、鳥や水生系の獣人はいないんだよな。
数が少ないのか、単に捕まっていないのか。
まあ、産地に付いたら解るだろう。
……産地とか何気にひどい事考えてるな俺。
「わあっ!」
「すげえ!」
む? ちびっ子共が海を見てはしゃいでいるな。
サメでもいたか?
人だかりの方に近づいて行くと、またしても拝んでいる奴らがいた。
好きだな、それ。
「何かいたのか?」
「あ、フィオ様。ご覧下さい」
「まさか本物が目に出来るなんて……」
感激する連中に促され海に目をやると、そこには純白の背びれが船と並走していた。
あれはサメ、いやシャチか?
黒い部分は白、白い部分は薄い青だが見た目はシャチだ。
但し地球のシャチの倍はある巨体だ。
「海の聖獣『グラシアル・ダイバー』です」
「船乗りにとっては信仰の対象ですよ」
「ほう」
聖獣は世界樹の守護者だ。
ということは海にも世界樹があるんだろうか。
でかい海藻みたいな?
どうにもイメージしにくいな。
だが、陸に在るのなら陸より広い海に浄化装置が無いのは不自然だ。
やっぱりあるんだろう。
ふと、白シャチの青い目が俺を見ている事に気が付いた。
敵意は全く感じない。
しばらく見つめ合っていると、彼は徐々に船から離れていった。
別に用があるわけじゃなかったらしい。
それとも単なる顔見せか。
まあ、獣人達は感激したみたいだし気にしないで良いだろう。
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「見えてきたな」
聖獣と別れてしばらく。
南大陸が見えてきた。
獣人達の話だとそれなりに大きな港があるそうだ。
ただ、それを作ったのはヒューマン。
しかも奴隷商人だとか。
商品の積み下ろしがしやすいように、わざわざ作ったらしい。
商品とはもちろん奴隷だ。
「ん?」
「おや?」
「にゃ?」
何か違和感を感じる。
犬族や猫族も何かを感じ取ったようだ。
「焦げ臭いですね」
「船がいないな……」
俺の違和感もはっきりする。
探知に生命反応が無いのだ。
少なくとも人間サイズの生き物の反応はない。
港に近づくとそこは既に廃墟になっていた。
船の残骸が沈んでいて、それらを避けながら接岸できる場所を探す。
「様子を見てくる。ベルク、見張りを続行。何かあったら伝えろ。バイト、カリスは独自の判断で迎撃しろ」
錨を降ろし、板をかけて港に降りる。
すると何人かの獣人達が一緒に降りてきた。
確か討伐依頼などをこなしていた腕利き達だ。
「俺達も行きます」
「調査は人手があった方がいいでしょ?」
「危なくなったらすぐ逃げますよ」
「まあ、別にかまわんが……」
2、3人のグループに分かれて港を調べてみる。
出港した港に比べるとそれほど大きくは無いが、ちょっとした村くらいの規模はある。
500人位は暮らせるだろう。
見るも無残に破壊されていなければ。
「死体が無いですね」
「でも血痕はあるな」
一緒について来た牛族の男が瓦礫をどかしてみるが死体は無い。
犬族の男が臭いをたどると血痕だけ見つかった。
いや、血痕だけじゃないな。
「これは肉片か?」
「人間の臭いですね……」
どうやら犠牲者は何かに食われたようだ。
魔獣にでも襲われたのだろうか。
そこに瓦礫をどかしていた牛族の男が戻ってくる。
手には板を抱えている。
「これを見て下さいよ」
「これは、爪痕か?」
「デカイな」
オオカミどころかクマよりでかい。
相当なサイズの爪だ。
その爪痕はあちこちにあった。
かなりの数が襲ってきたのだろう。
ざっと見て回ったが生存者は無し。
港中に爪や牙の痕があり、焼かれた痕もあった。
とりあえず今は何もいないので安全の確保は出来たといえる。
ただ、ここに留まりたいかというと微妙だろう。
「さて、どうするかな」
「あの……」
「ん?」
今後の予定を考えていると、突然声をかけられた。
そちらを見ると猪獣人の男が不安げな顔で手を上げていた。
「ここを襲った連中に心当たりが在るんですが……」
「魔獣じゃないのか?」
「足跡を見たんですが、多分『騎竜隊』の連中です」
「ほう……」
周りを見渡すと他の連中も首肯した。
皆同じ意見らしい。
「騎竜隊ってのは過激派の軍の主力部隊で全員が亜竜に乗っているんです」
「地上部隊はラプトルやアースリザード。空中部隊はワイバーンやワイアームに乗っていました」
どれも竜の眷属である魔獣達だ。
ちなみにワイアームとは翼のある蛇の様な姿をしている。
蛇竜の亜種みたいなものだ。
見た目はプルートの翼蛇によく似ている。
見た目だけは。
「ふむ、でも下級とはいえ竜の一種は魔獣だろう? そんなに沢山を従えられるのか?」
「ええ。実際に数千もの騎竜隊が動員された事もありました。その時はこっちは万単位だったのに負けちまった位です。とんでもないですよ……」
元は穏健派の兵士だったという男が肯定する。
実際に見たのならそうなんだろう。
しかし、やはり疑問だ。
魔力をその身に宿す獣『魔獣』。
彼らは通常の魔物とは一線を画する能力を持つ。
一般的な魔物『妖獣』は歪みにより変質したとはいえ元はただの獣だ。
それに対し魔獣は生まれながらの魔獣であり、自然界の強者なのだ。
そして魔獣の中で高い知能を持つ者を『幻獣』と呼ぶ。
知恵は力であり幻獣は基本的に魔獣より強い。
ドラゴンはもちろん幻獣だ。
まあ、生まれたてのベビー・ドラゴンは知能が低いので魔獣扱いだが。
話が逸れたが、魔獣は力はともかく知能は低い。
よって、話し合って協力させるという手段が通じない。
力でねじ伏せるとしても、知能が低い連中は『降伏』『服従』といった選択を取れない者が多い。
つまり、下僕にできない訳ではないが、数を集めるのが非常に困難なのだ。
魔術により従えるとしても、優れた魔物使いでも1人で3体くらいが限度だったはず。
そして魔物使いの秘術は基本的に門外不出だ。
魔法技術の遅れている南大陸に、大勢の優秀な魔物使いがいる?
ありえんだろ。
「そこら辺はどうなんだ?」
「えーと、俺も聞いた話なんで本当かどうかは解らないんですけど……」
「構わんよ。教えてくれ」
「過激派のリーダーの竜人は竜と会話し亜竜を支配できるんだそうです」
「は?」
何度も言うように魔獣とは魔力を持つ獣である。
よって魔法的な干渉に対する抵抗力は人間などより遥かに高い。
それなのに1人で数千の魔獣を支配した?
ぶん殴って従えたと言われた方がまだ信憑性が高い。
ドラゴンと交渉して眷属を借りたとか?
いや、ドラゴン達は天狼と同じ聖獣だ。
高山地帯に存在する世界樹を守る彼らが、獣人達の戦争に干渉するとは思えない。
いや、しかし……
「あの……」
「ん? ああ、すまん。続けてくれ」
「はい。それで、その、信じられないとは思いますが」
あれこれ悩む俺にさらに爆弾が投下される。
俺の持つ知識、神から与えられた知識からしても異常な事。
それは……
「過激派の軍には本物のドラゴンまでいるんです」
はい? どういうこと?
次の相手は竜人のドラゴンテイマー。
それだけ聞くと主人公張れそうなキャラですね。




