冒険者ギルド
「準備はどうだ?」
「積み込み中ですね~」
フェイが組織から強奪した船は奴隷を輸送するための大型船だった。
港から少し離れた所に停泊しているがそのサイズは圧巻だ。
シミラが幻術で覆っていなければ騒ぎになっているだろうな。
現在所属不明だし。
「使い終わったらどうしようかな」
「あげちゃえば良いんじゃないですか~? どうせ使わないですし~」
「まあ、そうだな。使うかどうかは解らんが」
とは言ったものの、甲板で作業をしている獣人達は意外と普通に働いている。
奴隷として働かされた時に、船での仕事があった者が多いのだろう。
経験者は初心者に仕事を教えている。
うん、予定より遅れているけど結果オーライかもしれんな。
「おい、容量はどうだ?」
「あ、はい。後3分の1ってとこですね」
船倉から出てきた奴を捕まえて聞いてみる。
明日くらいには一杯になるかな。
何がと言われれば食糧がだ。
船員の分だけ食糧を用意した俺だったが、獣人達は積めるだけ積みたいと言ってきた。
考えてみれば彼らの故郷は食糧難なのだ。
彼らの要望は仕方ないものではあった。
だが、そこでフェイが「主様にタカる気~?」と彼らを脅しつけたのだ。
もちろん本気ではない。
フェイは獣人達をおちょくって楽しんでいるのだ。
ピクシー種の本能に俺もリンクスも溜息が出た。
そこで提案されたのが費用を自分で稼ぐという案だった。
この街には冒険者ギルドが存在し、登録の審査は結構緩い。
そこで獣人達は「ギルドでお金を稼ぐ者」「食糧を購入し船に運ぶ者」「船の整備を行う者」とに役割分担したのだ。
別にモンスターの討伐をしなくても町には雑用の依頼が溢れかえっている。
というか、俺が町にいるせいで妖獣が減って討伐依頼が少ない状況だったりする。
雑用は報酬は少ないが、多人数で山ほどこなせばそれなりの収入になる。
船で寝泊まりするので宿代もかからないし、海があるから食事も自前で用意できる。
生モノはさすがにマズイので保存食だが、順調に集まっていった。
ちなみに獣人達の評判だが意外に悪くない。
彼らは身体能力が高いし、真面目に文句も無く働いているからだ。
まあ、目的があるし元奴隷だから当然かもしれんが。
ギルドからも貯まり気味の雑用を消化してくれるので、概ね好意的に見られている。
実の所、この街の冒険者たちは買い出し客の様なもので、依頼にあまり興味が無い。
彼らの仕事場は西大陸がメインなのだ。
西大陸は妖精種の多く住む最大の面積を誇る大陸だ。
ダンジョンや遺跡が多く、冒険者たちは競うようにして西大陸を目指す。
この港の船も大体は西大陸行きだ。
商品を積み込んで西大陸で売るのだ。
ちなみに冒険者たちは種族をあまり気にしない。
ヒューマンと獣人も普通に組んでいるし、エルフやドワーフなどの妖精種も見かける。
異種族交流という面では冒険者たちは最も進んでいると言えた。
後日談になるが、この時ヒューマンの町で働いた獣人達は中央大陸と南大陸の交流に大いに貢献する事になる。
もちろん最初は偏見や軋轢もあったが、社会の成熟と共にそれは収まっていく。
ハーフエルフやハーフビーストが新たな種族として、異種族間の絆の証として認識されるのも後の事である。
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パラパラと本を捲って流し読みする。
サボっているわけではない。
これは獣人達から借りたギルドの説明書だ。
まあ、俺が買って連中にあげた物だけど。
内容は、ゲームなんかでよくある感じだ。
特に物珍しい所は無いな。
あえて目を引くとしたらランクかな。
登録直後はランクFだ。
実績を上げるとFF⇒E⇒EE⇒Dといった感じにランクアップしていく。
また、ギルドにはSTを同じように評価する魔法具もあるらしい。
STの平均がDならギルドランクも単独でDを取れる素養があるといった所だ。
もちろん装備やSTに表示されない技術、人数や連携などもあるので平均STがDのパーティのギルドランクがCなんて事はよくある事だ。
ちなみにSTの例を挙げると
F 一般人
FF 訓練を受けた兵士 下位の妖獣
E 一人前の冒険者 隊長クラスの兵士
EE 中位の妖獣 教国の聖職者
D 騎士 教国の審問官 ミレニア
DD 騎士隊長クラス 高位の妖獣
C 双子 教国の勇者隊 ゲオルグ ベイガー キュロム
CC ウェイン 魔獣 幻獣
B ファン シゼム 聖獣
BB マイク 中位の竜
A 先代悪魔 高位の竜
AA フラム 大精霊
S 神種 神獣
SS 神クラス
と、言った感じだろうか。
まあ、あくまでSTのみでの評価だから実際には変動があるだろう。
なお、Aランク以上は化け物クラスで、対抗するには国を挙げての対応が必要となる。
こうしてみると、フラムは帝国にとっては悪魔並の災厄だったんだろうな。
結局、彼を倒す事は出来なかった訳だし。
そしてマイク。
悪魔を倒した後、反逆されるリスクに目を瞑ってでも教国との戦いにマイクを使いたかったわけだ。
彼の戦闘能力は人外まで後一歩だったからな。
強引に縛らずに上手く関係を築けていれば……。
まあ、今さらだな。
俺はS、悪魔化してSSかな。
実際に測定してみないと解らないが、やったら騒ぎになる事は間違いない。
ふと、甲板に目をやるとリンクスが白獅子の姿で獲物を捕えてきていた。
魚にタコの触手が生えた様なグロい生き物だ。
食えんのそれ? とか考えてしまうが獣人達は喜んで解体していく。
食事はいらないし、調理場に入れない呪いを受けている俺は引っ込んでいよう。
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「準備完了です」
「よし、錨を上げろ。後、鎖を投げ込め」
本日は晴天。
しかし、出港日和とは言えない。
なぜなら風の無い凪の日だからだ。
エンジンなんか付いていない帆船は風が無いと進まない。
まあ、問題無いんだけど。
ドボン ドボン
ギギギギ……
海中に投じられた2本の太い鎖。
それが引っ張られ、続いてゆっくり船が動き出す。
実は水中でカリスとバイトが引っ張っているのだ。
上空ではベルクが飛翔し見張っている。
ああ、なんて有能な下僕たち。
水中の2体を見て大興奮の獣人達。
拝まなくていいし、平伏しなくていいって……。
普通は1週間かかるそうだが、この速さなら3日ほどで行けるだろう。
ようやく、だな。
冒険者ギルドは第3章で本格的にかかわります。
今回は簡単な説明だけでした。




