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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
44/216

父と息子

「この後の事はある程度知っていると思いますが……」


「ああ。悪の首領に大変身だろ?」


 3人は沈痛な顔で頷いた。

ここから先はフェイの調査によってかなり情報が揃っている。

まず、シゼムは今まで隠し続けてきた自分の能力を逆に誇示し始める。

逆らう者はスキルを奪い隷属させる。

そう宣言したのだ。


 今までの穏健なやり方を否定し、力ずくで強引に事を進めだす。

仲間内でも突然の変化に戸惑いが満ち、シゼムに意見する者も多かった。

しかし、シゼムは彼らのスキルを奪い、逆らえないように支配した。

暴虐の矛先は味方にも向けられたのだ。


 組織はあっと言う間に犯罪組織に変貌し、裏から表から敵対組織に牙を剥いた。

敵対組織の構成員は次々と暗殺されていき、下っ端はシゼムに従う事を選び裏切っていく。

皮肉な事に、変貌したシゼムは悪人達にとっては圧倒的なカリスマとなったのだ。

これまでの拮抗は何だったのだと思うほどあっさりと、敵対組織は蹂躙された。


 幹部達は軒並み殺され、逃げだした構成員にも刺客が放たれた。

彼らは暗殺の恐怖に怯えて心を病み、大半の者は屍をさらしていった。

占拠したアジトからは対立議員との関係を示す証拠が見つかり、それらはあらゆる場所で公開された。

隠蔽工作を行う暇も無く対立議員の一派は失脚し、その後謎の死を遂げた。


 本来の目的はこれで果たされたはずだった。

だが


「シゼム様はそこで止まらなかったんです」


「共和国の裏社会全てを自分が支配すると言い出して……」


「ふーん、目的と手段が入れ替わっちまったワケか」



 さらなる力を求めたシゼムは帝国の秘術を求める。

そう、異世界召喚術だ。

裏の伝手を駆使して議員まで動かし情報を集めた。

その結果フィオに睨まれ、フェイに潰されたというわけだ。


「……そういや、こいつの父親はどうしてるんだ?」


「えーと、脅迫が届いた直後にシゼム様が一方的に縁を切って、その後会っていないみたいです」


「その後もシゼム様を探しているみたいでしたが……」


「知ってるか? フェイ」


〈ん~、そういえば、毎週身なりの良いオジサンがこいつの母親の墓に来ていたような~?〉


「その方です。僕らが見た時も墓で泣いておられました……」


 3人が何か言いたそうな雰囲気を出している。

ああ、そういうことか。

話の流れから、なんとなくだが察した。

こいつらの求める報酬は


「シゼムを父親の元に帰してやりたい、か?」


「え!」


「そ、それは……」


「はい……」


 俺は公安じゃないからな。

別に捕まえようとも殺そうとも思わない。

すでに再起不能なわけだし。

情報の対価としては妥当かな。


「まあ、いいだろう。それで、お前達はどうするんだ?」


「どう、って……」


「この後の事だよ。南大陸に戻りたいか?」


 答えは判っていたが一応聞いてみる。

果たして答えは


「残ります」


「シゼム様のお世話をして生きます」


「ずっと前から決めていました。私達だけでもお傍にいると」


 彼らは強い意志を宿した目ではっきりと答えた。


「解った。フェイ、こいつのもぎ取ったパーツを出して治療しておいてくれ」


〈は~い〉


「リンクス、墓を見張ってくれ。父親が来たら連絡を」


〈了解です〉


 端っこに控えていた使い魔達に指示を出す。

南大陸への出発は少し遅れるが、その分は念入りに準備しようかね。

人数も予定より多くなったし。


「あ、あの……」


「ん?」


 まだ何かあるのか?

心配しなくても感動の再会はセッティングしてやるけど。

ただ、どう声をかければいいのかがネックだな。

貴方の息子ぶっ壊れました、じゃさすがにまずいだろうし。


「シゼム様は理性が僅かに残っていたんじゃないかと思うんです」


「何?」


「実は……」


 彼らの最後の情報はなかなか興味深かった。

真相はもう解らないが、父親を多少なりとも救ってやる事は出来るかもしれない。

スピーチの練習でもしておこうかな。


------------------


 静かな墓地を1人の壮年の男性が歩いていた。

手に白い花束を持ち、一つの墓の前で足を止めた。

それは男の妻の墓だった。

そして、その隣には義理の娘になるはずだった女性の墓が並んでいた。


 2人が殺された後、息子とは連絡が取れなくなっていた。

しかし、自分への妨害工作はなりを潜めた。

それどころか、今まで散々ちょっかいをかけてきた相手は突然失脚した。

妻達の死には間違いなく関わっているであろう怨敵。

友人と共に暗殺も辞さない覚悟だったが、奴はあっさりと死んだ。

何者かに暗殺されたのだ。


「シゼム……」


 だが彼には解った。

息子の仕業だと。

そして、息子がこの街の暗部を支配する犯罪者ギルドの首領である事も。

正確には「であった」か。

すでにその組織は潰され、構成員の大半は確保された。

しかし、その中に息子はいなかった。


「シゼム、私は……」


 どうすればよかったのだろう?

息子の助力を断るべきだったのか?

こちらも手段を選ばず相手を潰すべきだったのか?

今となっては意味の無い考えだ。


「こんにちは」


「?」


 何時の間にか隣に青年が立っていた。

フードを被っており顔は良く見えない。

青年は墓に花を添えると手を合わせて祈りをささげた。

教会とは違う不思議な祈りのささげ方だった。


「……君は?」


「お互い名乗るのはやめておきましょう。きっとその方が良い」


「では、私に何の用かね? 命でも取りに来たのかい?」


 軽口を叩くが内心は冷や汗ものだ。

お忍びで来たので護衛はいない。

いたとしても役に立つかどうか。

何しろ目の前にいるのに一切気配がしないのだ。

暗殺者だとしたら最上級の使い手だろう。


「はは、御冗談を。実はあなたに会わせたい人物がいましてね」


「私に?」


 頷くと青年は無言で歩きだした。

慌てて後を追う。

やがて一台の荷車と3人の人影が見えてきた。

そして気付く。

3人が顔見知りである事に。


「君達は……」


「お久しぶりです、ご当主様」


「御無沙汰しております」


 息子の初めての従者たち。

堅苦しい口調はかつてのままだ。

では、荷車に乗っているのは……


「ああ……」


 予想通り、横たわっていたのは変わり果てた愛息子。

虚ろな目、力無い手足、かつての輝きは既に失われていた。

まるで枯れた木の様に。


「なぜ、なぜこんな事に!?」


「落ち着いて下さい。全て話しますから」


 青年は語った。

息子が復讐の為に呪われた力を行使した事を。

目的は果たしたが心が壊れてしまった事を。

青年が呪いを解いたが壊れた心は戻らなかった事を。


「そうか。この街の裏の支配者とは息子の事だったのか……」


「ご存知でしたか。まあ、評判悪かったのは確かですしね」


 裏社会の抗争を制した男は恐ろしい暴君だった。

それが我が息子だった。

想像していなかった訳ではない。

信じたくなかっただけだ。


「気休めかもしれませんけどね……」


「?」


 落ち込む私に青年が渡したのは書類の束だった。

名簿や取引の記録の様だが。


「これは?」


「ご子息の命でそこの3人が作っていた組織の全情報ですよ」


「なん、だと?」


 商会でもないのだからこんなものを作る必要などない。

逆に犯罪組織にとっては作ること自体が大きなリスクになる。

そんな事を息子が判らないとは思えない。

壊れた末の気まぐれだろうか?


「これは仮説なのですが、彼は自分諸共この街の闇を完全排除するつもりだったのかもしれません」


「どういうことだ?」


 彼は語る。

息子は裏社会の支配者となり、全ての情報を自分の元に集めた。

そして、それらを全て記録して自分が倒された時に公にされるようにしておいた。


 それは家族を奪った裏社会への復讐。

自分を犠牲にした壮絶な自爆戦法。

事実、組織壊滅後リストは広く出回り関係者は根こそぎ捕まった。

その中には、裏との関係など想像もできなかった大手の商人や議員が含まれていた。


「自分も含めた全てを裁く事。それが彼の真の目的だったのかもしれません」


「ああ、シゼム……」


 正義感の強い息子は自分が許せなかったのだろう。

壊れても変わっても、息子は息子だったのだ。


「この3人は最後まで彼に仕えたいそうです。きっと力になってくれるでしょう」


「「「よろしくお願いします」」」


 息子を抱きしめる彼の目からは熱い雫が溢れだしていた。

4人はその日の内に別荘へと送られ、療養生活を送る事になる。


 公安の必死の捜査にもかかわらず、町の裏側を支配した男は遂に発見されなかった。

しかし、彼が何らかの攻撃で消された所を見たという証言が相次ぎ死亡したという事で収まった。

ただし、彼を倒した相手の存在は結局不明のままだった。


------------------------------


「こんなところかね」


〈嘘も方便ですね~〉


「ほっとけよ」


 フェイがちゃかしたようにアレはあくまで推論だ。

狂っていたシゼムにそんな事が考えられたかは怪しい。

しかし、彼の父にとっては救いになる事実であった。

ならばそれで良いだろう。


「ギフトか。面倒なモノが出てきたな……」


 ふと、海に目をやる。

水平線の向こう、南大陸。

そこでは何が起きているのだろうか。


多少なりとも救いはあったのかな?


彼が復活するかは未定です。

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