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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
43/216

シゼムの転落

 フェイに連れられてやってきた3人の元奴隷。

意外な事に3人とも獣人だ。

猫族の少年、犬族の少年、狐族の少女か。

3人とも殺人鬼を見るような目でこっちを見ている。

否定できない所が悲しいな。


「君らがこいつの古参の部下だな? 俺はフィオ。君らに聞きたい事がある」


〈さーあ、キリキリ吐け~〉


「「「ヒッ!」」」


「フェイ……」


〈はーい、すいませーん〉


 フェイが壁際に下がると3人はホッと息をつく。

俺の事は良く知らなくても、フェイの恐怖は身に染みているんだな。

しかし、こいつらのシゼムを見る目には怒りも憎しみも無い。

浮かんでいるのは悲しみと憐憫か?

相当な暴君だったと聞いているんだが違和感があるな。


「さて、じゃあ名前を教えてくれ」


「アモロ。猫族です」


「犬族のトマです」


「狐族のオチバです」


 そう言えば狐族は初めて見るな。

俺の連れてきた集団にもいなかったし。

確か霊力とかいう独特の魔力を使うはず。

我が故郷の霊能者や陰陽師みたいな感じなんだろうか。

まあ、彼女は使えないみたいだな。

それ用の修行が必要なのかもしれない。


「あの、シゼム様は……」


「死んではいない。ただ無事とも言えない。回復の見込みも薄いし、日常生活が送れるようになる可能性は低い」


「そんな……」


「外傷についてじゃないぞ? この位ならどうとでもなる。ただな、こいつが妙な能力を持っていたのは知っているだろう? 実はあれは一種の呪いで、使うほど自身の精神を蝕むモノだったんだ。解呪はしたが、使いすぎたこいつは今までの反動で廃人になっちまった」


 話せる範囲で真実を伝えておく事にする。

内容は少なくとも嘘ではない。


「うう……」


「シゼム様……」


 主人を気遣う3人。

心の底から慕っているという感じだ。

やっぱり事前情報と違うな。


「なあ、何でこいつをそんなに慕う? 調べた限りじゃ、こいつは相当な悪党だったはずだぞ」


「そうですね、否定はできません。でも、僕らを助けてくれたのはシゼム様なんです」


「初めから暴君じゃなかった。優しい人だったんです」


「私達が見聞きした事、知っている事は全てお話します」


 特に報酬を提示したわけではないのだが、3人は自主的に話し出した。

シゼムが根っからの悪人ではないと知って欲しかったのだろう。

それは1人に男の成功と転落の物語だった。


-----------------------


 彼は共和国のとある議員とその愛人の息子として生まれた。

共和国に貴族はいないが、養える財力があるなら一夫多妻は認められている。

彼の父も息子に惜しみなく愛情を注ぎ、親子関係は良好だった。

ただ、父には正妻の息子もいたので、跡目争いを避けるため母と共に別居して生活していた。

そこは父の影響力の強い共和国最大の港町だった。


 幼いころから聡明だったシゼムだが、ある時期を境に急に大人びた。

そして、ある日家を訪れた父に申し出たのだ。

自分が父を助ける、力になりたいと。


 その頃、シゼムの父は苦境に立たされていた。

最大の利権を持つこの港町が、彼と対立する議員によってジワジワと侵食されていたのだ。

普通に考えればよそ者に負ける要素など無いが、相手は父の急所を突いて来た。

すなわち父の清廉潔白さを。


 大きな町となると、それだけ裏の闇も濃い。

この街は多くの犯罪組織が暗躍しており、その影響力は侮れなかった。

しかし、父はそういった勢力とは一切かかわろうとはしなかった。

対立議員はそこに狙いを付けた。


 町の犯罪組織と手を組んだ対立議員は、父の基盤を切り崩しにかかった。

非合法な妨害活動に父は対抗しきれず、勢力争いは徐々に父が劣勢となって行った。

それを知ったシゼムは、父をサポートするために立ち上がろうと考えたのだ。

当然父は反対したが、シゼムの強い意志と抜き差しならない状況から渋々認める事になった。


 裏社会と戦うために、シゼムは自身もアンダーグラウンドの世界に身を投じた。

南大陸から非合法の奴隷として攫われてきた3人と出会ったのはその直後だった。

彼は思いもよらない発想や知識を持って資金を捻出し、奴隷を中心に配下を増やしていった。

彼が第一のギフトに目覚めたのはその頃であった。




「鑑定能力で有能な人材を見つけ出して仲間にする。やってる事はそれだけだけど、組織はどんどん大きくなりました……」


「後は個人に合わせた訓練法とか、合理的な運営法とか」


「私達も鑑定してもらって自分のスキルを教えてもらいました」


「ふむ……」


 突然大人びた。

異質な知識と発想。

合理的な思考。

こいつ転生者って奴じゃないのか?


 以前にも存在したのなら可能性はある。

じゃあ、ギフトってのは?

神気に似た感じがしたが、ファラク達の仕業とは思えない。

なら、他の神か?

いや、魂に対する権限を持っているのはあの2柱だけのはずだ。


 記憶を保持しているのもおかしい。

始まりの1人の件で相当懲りた白黒コンビは、念入りに浄化を行っている。

記憶を保持した転生者がギフトという特殊能力を持って産まれてきた。

こんな偶然が起こるのか?

うーん、判らんな。



 急速に勢力を増したシゼムの組織は、あっと言う間に中堅クラスにまで成長した。

その位になるとシゼムにも敵が誰であるのか見えてきた。

培った人脈や情報網によって割り出した、対立議員の同盟組織。

それはこの街に最大勢力を持つ組織の一つだった。


 予想はしていたが、やはり相手は強大だった。

資金力も人員も完璧に負けている。

加えてシゼムの組織は人員の質こそ高いが、いざ事が起きた時に切り札となれる人員がいなかった。無双の武人、優秀な魔法使い、そういった武力の中心となれる人材に欠けていたのだ。


 だが、切り札は唐突に舞い降りた。

シゼムの第2のギフトが発現したのだ。

そこからの行動は迅速だった。


 彼は敵対組織の有力者達から片っ端からスキルを奪う。

別に手荒にする必要はない。

条件さえ満たせば手で触れるだけで良いのだから。

握手に紛れて、あるいは相手に殴らせて。


 膨大なスキルを集めたシゼムは一気に超人的な力を手に入れた。

逆に敵対組織は有力な人員が次々と弱体化していった。

シゼムは破竹の勢いで敵対組織を打ち破り、吸収していった。

そして遂に最大勢力の一つにのし上がり、敵に刃が届く高みに登った。


 しかし、シゼムの部下達には不安があった。

ここまでの躍進は全てシゼムあってのモノだ。

そのシゼムの様子が最近おかしいのだ。


 別人の様に残酷になったりした。

突然気が触れた様に激昂した事もあった。

いずれも酔いが醒めたように正気に戻り慌てて謝罪していたが、彼自身も自分の異常に困惑しているようだった。

次第に彼は一人で考え込むようになり、明るさを失っていった。


「浸食が進んだんだな」


「え?」


「はい?」


「いや、何でもない。続けてくれ」



 順調に勢力を伸ばしていたシゼム。

長引く抗争によって犯罪組織は数を減らし、影響力を失っていった。

そして、残る影響力の半分をシゼム達が握っていた。


 このまま行けばこの街の表を父が、裏をシゼムが制する事になる。

そうなればこの街は遥かに平和になるだろう。

シゼム達は裏の組織ではあったが、犯罪組織ではなかったのだから。


 しかし、彼にも欠点があった。

それを甘さというのは酷なのかもしれない。

彼はまだ20歳にも満たない少年なのだから。

しかし、裏社会を制するなら必要な事ではあった。

人の愚かさというモノを知るという事を。


 彼は環境が、境遇がどれだけ人を愚かにするのか理解していなかった。

人の善意に対し、相手が必ずしも善意を持って応えてくれるとは限らない事を見落としていた。

そして、その代償は支払われる事になった。


 その日、彼は久しぶりに自宅に向かっていた。

裏社会に身を投じた時から、なるべく家にはより付かないようにしていた。

自分の情報はほぼ完璧に隠蔽し、膨大な偽情報を流していたが念のためだった。


 しかし、その日は彼の幼馴染が家を訪れていたのだ。

彼女は父の友人の娘で、最近は会う機会が無く寂しく思っていた。

だが、父は彼女との縁談を纏めてくれて、2人は晴れて婚約者となったのだ。


 状況が落ち着いたら結婚しよう。

家では母と、婚約のあいさつに来てくれた彼女が自分の為に夕食を用意してくれている。

彼は心を躍らせて帰宅した。


しかし、彼が目にしたのは


台所で血を吐いて倒れる


すでに冷たくなった2人の姿だった


「内通者か?」


「いいえ、解放奴隷です」


「シゼム様は敵対組織を潰した時、奴隷たちは解放してあげていたんです」


「大半はシゼム様に仕える事を望みましたが、一部の者達は自由を望んだのです」


「……恩を仇で返される、か。甘すぎたんじゃないのか?」


 鑑定に頼りすぎたのかもしれないな。

データに表示されない人の内面、それを見抜く事を疎かにしてしまったのだろう。

世の中は善人だけじゃない。


「そうかもしれません……。そいつは犯罪奴隷だったんです」


「でも非合法奴隷だと嘘をついて……。シゼム様は疑いもしなくて……」


 不遇な非合法奴隷ばかり見ていたせいだろうな。

奴隷=被害者という先入観を持つようになってしまったのか。



 2人の死因は毒殺。

毒はシチューに仕込まれており、味見をしたのが原因だった。

使用された材料、調理器具、あるいは直接シチューへの投与、混入ルートははっきりせず、公安もお手上げの状態だった。

ただ、この手口の見事さは間違いなくプロの仕事だった。


 シゼムにとっては犯人など判り切っていた。

動機が在るのも実行可能な人材がいるのも奴らだけ。

さらには後日、彼の元に脅迫状が届いたのだ。

『この街から撤退しなければ次は父親を殺す』と。


 しかし、解らないのは情報の流出元だった。

シゼムは必死に調査を続け遂に犯人を特定した。

そいつはかつて自分が解放してやった奴隷だった。

その事実は、不安定になっていたシゼムの精神への止めの一撃となった。


----------------------------


 その男は元々悪さをして公安に捕まり、犯罪奴隷に落とされていた。

しかし、買われた先の組織が壊滅した時,シゼムを騙して上手く自由の身となった。

だが、元が小物の悪党だ。

すぐに食うにも困るようになる。


 そんな時彼が考えたのは、恩人であるシゼムの情報を敵対組織に売るという事だった。

シゼムは裏の組織の大物でありながら情報がブロックされている。

自分が知る情報を売れば大金や地位を与えてもらえると予想したのだ。


 なぜ彼がシゼムではなく敵対組織を選んだのかは不明である。

単にシゼムの組織が肌に合わないと思ったのかもしれないし、甘さの残るシゼムが頼りにならないと思ったのかもしれない。

どちらにしても真実はもう解らない。

彼は情報を教えた後、用済みとばかりに殺されてしまったのだ。

ある意味ふさわしい最期だが、シゼムは復讐の対象を1人失った。


 情報を得た敵対組織はすぐに同盟者の議員と連絡を取った。

彼らは即座にシゼムの事を調べ上げ、報復行動に出た。

そして脅迫文を送った。


 いくら優秀でも高々若造が1人、これで大人しくなるだろうと考えた。

彼らも密告者と同様にシゼムを舐めていたのかもしれない。

その行動が彼らの寿命を大きく縮めるとは想像もしていなかったのだから。


 再び組織が行動を開始した時、そこにはかつてのシゼムは存在していなかった。

傲慢で、残忍で、情け容赦無い暴君がそこにいた。

その日、少年は真の悪の首領として2度目の転生を果たしたのだ。

その眼にはもう甘さの欠片も残っていなかった。


 そして最後のギフトが発現し、少年は暴虐の化身と化した。



チート転生者の転落です。


暗い話は苦手なんですが……。

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