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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
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騙りし者

 地下牢を脱出したCは、すぐに審問会の仲間に連絡を取った。

同僚の失踪、指揮官の幽閉という異常事態に非常招集をかけていた審問会は即座に彼女と被害者たちを回収した。

Cの説明を受けた審問官たちは怒り、嘆き、見限った。


「ああ、無事で何よりだ」


「彼らの麻薬の副作用も完全に消えている。……どんな薬を使ったんだろう?」


「なんて事だ……。上層部はそこまで腐ってたのか……」


 信じていたものに裏切られるのは辛い。

C自身も一足先に体験しただけに皆の気持ちは良く解る。

だが、ここで足踏みしているわけにはいかない。


「準備はどうですか?」


「ああ、コネをフルに使って人員を集めているよ。君達の体験も説明した。こっちの味方になってくれた者はかなりの人数になる」


「そうですか。本当は国中から集めたいところですが」


「さすがに時間が無いし気取られる。とはいえ、予想よりも多い。やはり上層部に不信感を持っていた者は多かったんだな」


 Cはフィオ達が法王を攻めている間に司教たちを救出しようとしていた。

下手に動かない方がいいのかもしれないが、あえて動く事にした。

あの悪魔は言った『悪魔は試練を与える』と。

ならば今、ここで示して見せよう。

教国の民の意志を。


「初めまして。お力になれるよう尽力いたします」


「貴方達は……」


「我が師の救出作戦、参加しないはずが無いですよ」


 合流してきたのはミレニアを含む大勢の聖職者達だった。

考えてみれば当然だ。

ゲオルグを捕えるという事は軍の、アニタを捕えるという事は町の教会の聖職者たちを敵に回すという事だ。

人の心は権力だけで動かせるものではない。

ましてや上層部は、その権力の要である神の意思に背いているのだ。


「準備は整いましたね」


「行きましょう!」


 彼らには続々と合流する者達が現れ、その規模は軍に匹敵するレベルにまで膨れ上がる。

もはや警備隊や衛兵では抑えきれない規模だった。

さらには審問会は裏方の技術もいかんなく発揮した。

麻薬事件の事を町中に流し、住民を味方につけたのだ。


 こうなると軍を動かさなければ鎮圧など不可能。

しかし、軍はそう簡単には動けない。

反乱軍はあっという間に大聖堂を包囲し、精鋭部隊が内部に潜入した。


------------------


 A、B、ウェイン達と別れたフィオは大会議室を目指していた。

法王の私兵の勇者隊は半数が司教達を見張り、半数が会議に参加し護衛を行っている。

だが、ハウルの前ではムシケラ同然に薙ぎ倒されるだろう。


 そんな訳であちらは特に心配せず、無駄に派手で豪華な聖堂を進んでいく。

ここまで近寄ると、堕落した人間の放つ歪みをはっきり感じる事ができた。

この大聖堂には歪みを払う浄化の術式が仕込まれているようで、それがフィオの知覚を鈍らせていたのだ。

しかし、連中が一カ所に集まった事でごまかしきれなくなっている。


「お? 第一村人発見」


「む? 何だお前は?」


 デカイ金ぴかの扉を4人の騎士が守っていた。

光属性の武器を携え、実力もそれなりに有りそうだ。

そうか、こいつらが勇者隊か。


「誰に断ってここに来た?」


「怪しい奴め。名を名乗れ」


 ふむ、何というか、普通一般の勇者のイメージとは違うな。

なんかこう、自分の正義に酔ってる感がある。

そのように思考誘導されてるんだろうか?


「……答えないか」


「ならば」


 お? どう対処しようか考えてたら4人とも武器を構えている。

殺気を放ち、やる気満々だ。

やれやれ、血の気が多いな。


「死ね!」


「断罪!」


「成敗!」


「処刑!」


 4方から降り下ろされる刃。

そして


---------------------


 大会議室では次々と議題が消化されていた。

情報が集まり、ようやく具体的な判断を下せるようになった案件が多い。


 例えば帝国。

現在帝国は混乱の極みに在る。

皇帝の死と軍の壊滅により、住民の蜂起が起き、貴族の反乱が起きているのだ。


 しかし、不可解なのは帝国が崩壊せず、ギリギリ踏みとどまっている事だった。

調査の結果その理由が判明する。

皇帝の親戚であり、有力な貴族であるヴァンデル公爵の派閥がほぼ無傷で残っていたのだ。

公爵自身は軍人だが、彼は政治にも明るく配下には有能な文官も多い。


 彼らは穴だらけになった中央を即座に自分の派閥の人間で埋めた。

そして、不正を行っていた役人を追い出していった。

そうやって足元を固めながら、徐々に周囲の混乱を平定しているようだ。


 そのやり方は巧妙で堅実だ。

一気に広範囲を武力で平定したりすれば、反乱はモグラ叩きのイタチごっことなるだろう。

それを彼は解っている。

脳筋の軍人とは器が違う。


 すでにヴァンデル公爵以上の影響力を持つ貴族はおらず、逆らう者は潰された。

独裁者と言われても仕方が無いが、彼は徹底して正しくあろうとしていた。

そして、この状況下ではそれ位のリーダーシップが必要な事もまた事実だった。


 蜂起した住民に対しても武力で鎮圧する様な事をしない。

話し合い要望を聞き、穏便に事を治めていく。

民は不満さえなければ好き好んで反乱など起こさない。


 民の最大の不満は重税による貧困。

壊滅した貴族達の私財は国庫に納められており、それを元に大量の食料を用意する。

それを配給するだけで反乱は治まっていく。 


 反乱を起こした貴族は後回しにしているようだが、その貴族の領地からは住民がどんどん流出しているらしい。

民にしてみれば、善政を布く領主の元に集まるのが道理なのだ。

無理に攻めなくとも時間が経つほど反乱貴族は追いつめられるだろう。


 敵ながら見事な手腕。

この分では予想よりも早く帝国の混乱は収まるだろう。

そして新生した帝国は腐敗貴族が一掃されている。

実力者が新たな貴族となり、国力は増大する。


「やはり、早めに叩いておくべきだな」


 会場の意見は一致する。

次は幽閉している司教達。

実は彼らは餌だった。


 彼らを助けようとする者達は潜在的な反逆者である。

よって勇者隊に彼らを守らせ、救出に来た者たちを始末するように命じてある。

その大半は洗脳された勇者隊であり、彼らには情も無ければ躊躇も無い。

臨機応変に対応できないので、司令官として子飼いの勇者を何人か送ってある。

後は仕留めた反逆者から芋づる式に関係者を処分していけば良い。


 次に天狼の捕縛。

結論から言えば失敗だった。

勇者隊への洗脳魔具が効果十分だったので期待していたのだが、幻獣が相手だとそうも行かなかった様だ。

異世界人の技術も万能ではないらしい。


 魔具が壊れたのは惜しかったが、相手が相手なのだから仕方ないだろう。

ミレニア司祭、引いてはゲオルグ司教の責任問題にしたかったのだが、そこも上手く行かなかった。

まあ、今となっては些事だ。


 次に麻薬密売。

共和国の裏組織と手を組み行った新しい金儲け。

しかし、実行犯が無能であったため派手にやり過ぎ、忌々しい審問会に嗅ぎつけられてしまった。

そのため、多少強引に事を隠蔽しなければならなかった。


 とはいえ、生意気なベイガーの罷免は決定していたし、審問会も近いうちにとり潰す予定だ。

そう考えれば大した問題ではない。

我々に逆らう法など必要ないのだ。


 そして次はウェインの持つ魔剣。

あれは我々が持つべき秘宝だ。

聖職者でも勇者でもない平民が持っていて良いものではない。

だから


コンコン


「何だ?」


 突然響いたノックに会議が中断される。


「キュロム隊長がいらっしゃいました。首尾よく剣を手に入れたそうです」


「おお、そうか!」


 聞きなれない声の様な気がしたが、朗報の興奮の前に違和感は吹っ飛ぶ。


「よし、開けろ」


「はっ!」


 大扉が開けられる。

しかし、そこに立っていたのはキュロムではなかった。

4人の勇者隊が倒れ伏し、廊下は血の海となっている。


「あ? な?」


「こ、これは……」


 槍を持った男は悠々と室内に踏み込む。

我に返った門番が剣を抜く。

しかし


「へ?」


 声は床に落ちた首から発せられた。

無詠唱で放たれた風の刃が首を刈った、と理解できた者はいたのだろうか?


 それは黒衣を纏い、巨大な槍を持った男。

両の肩に青い小鳥と緑のリスの様な獣を乗せている。

獣の額が赤く輝くと、会議室全体が結界で閉鎖された。

もう脱出する事も叶わない。


「さあ、終わりの始まりといこうか」


 やや芝居がかった口調で男は宣言した。

神の名を騙る法王。


戯れで門番をマネるフィオ。

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