表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
27/216

勇者隊の真実

 フィオが聖教国の首都にたどり着いたのは、帝国を発って3日後の事だった。

距離を考えれば異常な速度である。

だが、この時すでに帝国軍壊滅の報は教国に届いていた。

密偵達は、高価な使い捨ての通信用マジックアイテムを持っていたのだ。

この情報は今使わなければ何時使う、というくらい重要なので彼らも躊躇せず使った。



 待ち合わせの場所では黒い子犬と青い小鳥が口論していた。

もちろんハウルとベルクだ。


〈そんなにガミガミ言うなよ、うっせえな……〉


〈黙れ。一時は大騒ぎになったのだぞ。軽々しく姿をさらすなど何を考えているんだ〉


〈結果的に獣人達から情報が得られたじゃないか〉


〈もっとやり様があっただろうと言っているのだ〉


「ほれほれ、そこまでにしておけよ」


 隠密に徹して情報を集めていたベルクからすれば、ハウルの行動は軽率に見えたのだろう。

ベルクの活動に影響は無かったので、険悪な雰囲気は無いようだ。

暇潰しの雑談の延長だろう。


「両名ともご苦労さん。ベルク、大聖堂への侵入路は確認してあるんだったな?」


〈ハッ〉


「じゃあ、早速案内してくれ。ハウルは待機で」


〈了解〉


〈では、こちらです〉


 ハウルは俺の影に戻り、ベルクは先導して飛び立った。

正面から突っ込んでも良いんだが、ベルクの見つけた通路の方が早く奥に進めるらしい。

非常時の脱出路なのだろう。



 たどり着いたのは水路の脇の隠し扉だった。

よくこんなの見つけたな。


〈実は、先日使用されているところを目撃したのです〉


「ふーん、不用心だな」


 もしくは使わざるをえない事情が在ったのか?

何か裏がありそうで嫌だな。


〈大聖堂に先回りした所、入って行った者達が隠し扉から出てきました〉


 まあ、使ってるんなら行き止まりって事は無いだろう。

見つかっても正面から突っ込むよりは穏便に済ませられるはずだ。

シミラの隠蔽を見破れる奴がいるとも思えんが、念のためってことで。


「じゃ、いくか」


--------------------


 大聖堂の一角。

そこに4人の司教たちが軟禁されていた。

ゲオルグ、ヨハン、アニタ、ベイガーの4人である。

謹慎という事になっているが、事が済んだ後は失脚させられるであろうことは明白だった。


 武器も防具も無く、警備はご丁寧に勇者隊の者たちだ。

今や法王の私兵の彼らに説得は通じず、丸腰での強行突破はゲオルグやベイガーでも困難だ。

そんなある日、来客があった。


「お久しぶり、というほどでもないですか」


「はは……。今日から私達もお仲間ですな」


「ヘレン司教、リック司教……」


 沈んだ表情のまだ若い女性、ヘレン司教。

彼女の実力はミレニアより少し上といった所だが、枢機卿の後押しで司教になった人物だ。

聖職者の魔法の鍛錬を担当している。


 疲れ切った表情の老齢の男性、リック司教。

元々は外交や交渉を担当していたが、法王の推挙で司教となった。

その後も担当の仕事は変わっていない。


 2人とも聖戦には賛成だったはずだ。

困惑する4人に2人は事情を説明し始める。


「私は確かに枢機卿派閥の人間ですが、その前に1人の聖教信者なのです」


「導きの天使が、始祖聖フラムに直接禁じるよう命じた邪法中の邪法。それを直接手に入れようとするなんて……」


 その言葉で4人は察する。

2人は異世界召喚を手にするという、法王達の真の目的を知ったのだ。


「幾度となく我が国を侵略する帝国に反撃を加えることには賛成なのです。やられるがまま、防ぐだけでは国は守れないですから」


 その点については4人も賛成だった。

専守防衛に徹しても先は無い。

叩けるチャンスに叩いておけば、次の侵攻を遅らせる事ができる。

ましてや今、帝国には英雄がいないのだ。


「しかし、その目的が邪法の奪取となると、とても受け入れられんのです」


「他の司教たちはその事を?」


「知っています。というより、皆の前で宣言されたのですから」


「勇者隊は言いなりですな。仕方ない事ですが……」


「……?」


 知恵者のヨハンはリックの言い回しに引っかかりを覚えた。

『直接手に入れようとする』と彼は言った。

言い変えるなら間接的に手に入れようとした、あるいは手に入れていたということか?

さらに『仕方ない事』ということは何か理由があるということだ。


「さすがですな。やはり貴方はなるべくして司教になったお方だ。聖職者の懺悔というのも滑稽ですが、それこそ皆さんに聞いていただきたい事なのです」


 リックは話し出す。

それは彼が司祭であったころの話だった。

外交官であり交渉役であった彼の元に、ある日法王がやって来たのだ。


「彼はその時からすでに、勇者隊を自らの私兵にする事を考えていました。しかし、全員を自分の狂信者に変える事など不可能でした。崇拝すべきは聖なる神であり、法王は代理人にすぎないのですから」


 法王はとある人物と交渉し、マジックアイテムを作成してもらうよう彼に命じた。

相手は帝国の人物であったが、報酬さえ与えれば客を選ばない人物だった。

交渉は成功し、リックは司教に昇進する事になる。


「そのマジックアイテムは2種類。1つはご存知の『隷属の鎖』です。正直アレが破壊されたと聞いた時はホッとしてしまいましたよ」


 ピクリとゲオルグが反応するが言葉は発さなかった。

今さら蒸し返しても意味は無い。

ミレニアが死んでいれば、そうはいかなかっただろうが。


「もう1つは『服従の宝玉』といいます。発信と受信の2種類で構成され、受信魔石を身に付けた者は発信魔石を持つ者の言いなりになってしまうのです。そして購入した受信魔石の数は100を超えます」


 ベイガーは思い起こす。

自分が勇者隊に所属していた時の新人は、現在のベテランとなっている。

だが、彼らのあまりの変わり様に不審を抱いた事は何度もあった。

人は変わるもの、と言っても限度がある。


「ベイガー殿も不審に思っておられたようですな。ご察しの通り、勇者隊の大半は魔石によって洗脳されています。具体的には彼らの象徴たる祝福武器に受信魔石が仕込まれているのです。ちなみに発信魔石は法王のサークレットに仕込まれています」


 皆、絶句している。

洗脳など聖職者で無くとも倫理的に許される行為ではない。

それを組織のトップが行っているなど。


 足元が崩れていくような錯覚すら覚えた。

だが、さらに悪い続きがあった。

ヨハンは半ば答えを予想し、それでも尋ねる。


「まさか、それを作った人物とは……」


「……ええ。帝国で召喚された異世界人の技術者です。あの『銃』とかいう新型の魔法武器を作った人物ですよ」


 もはや怒りを通り越して呆れてしまう。

皆、何を話せばいいのかすら分からなくなっていた。

ポツリ、とアニタが口を開く。


「彼らは……法王、枢機卿ともあろう者達が、神を信じていないのでしょうか?」


「おそらく、どちらでもいいのでしょう……」


 答えたのはヘレンだった。

上層部との接触の機会が多かった彼女は感じた事を話す。


「神が禁じた邪法を使用する帝国が神に裁かれた事はありません。逆に神を信仰する聖教国が特別に祝福されたという事もありません。彼らにとっては神はその威を借りるための便利な存在。直接影響を及ぼさないのなら、いてもいなくても同じ。そういう事なのでしょう」


 それは信者が一度は感じ、振り払う迷いだった。

神は実在するのか? 実在するとしても祈りは届いているのか?

信じることに意味はあるのか? 本当に神は人を助けてくれるのか?


 おそらく上層部は迷いを否定せず、受け入れたのだろう。

神の名を利用し、教義に背いたとしても罰せられる事など無いと。

そして、残念ながらそれは正しかった。


 神は世界の維持が仕事であり、人間1人、国1つなど一々気にかけない。

人間社会の事は人間自身が解決するべきで、悪人を裁くのも弱者を救うのも同じ人間であるべきと考えているのだ。


 だが、世界そのものに影響が出るならば話は別だった。

直接手を出せないならば眷属を使う事も出来る。

そして神は白き神一柱ではない。


 自らの組織に絶望し、自らの無力を嚙みしめる6人。

信仰すらも揺らぐほどに追い詰められた彼ら。

彼らは気付かない。

自分達の足の下、地下道を進む者の存在を。


 神に等しい力を、神に代わり振るう事を許された存在がある事を。

道に迷った聖職者と黒き神の代行者。

彼らの出会いは間もなく訪れる。


 そして彼らは始祖たる初代法王、聖フラムと同じ体験をする事になる。

唯一違うのは代行者は試練を与える悪魔。

始祖を導いた天使と比べ少々Sっ気が強いという所だろう。


まさかの発明家再登場(存在の話題だけ)。


ろくな事してませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ