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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
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説得

「うわ……。凄いな」


 皇帝の首を刎ねてやろうと勇んで来たワケだが、見つけたのは黒い小山だった。

汚泥が集まり過ぎて訳が解らない状況になっている。

どうやら一塊になっていた皇帝と重臣があの中にいるようだが、どんだけ恨まれてるんだよって感じだ。


「皇帝は……死にかけか」


 取り込まれている連中の生命反応はどんどん弱くなっている。

なんだか俺が手を下す必要がなさそうだ。

人間の思い込みの力ってのは馬鹿に出来ない。

目隠しした者に熱湯だと言って氷水をかけると、火傷するという実験結果もあるらしい。

連中は死を体験させられ続けることで、本当に死にそうになっているのだ。


「ショックで即死した連中の方が幸運だったのかもな」


 汚泥にとっては死体はターゲットじゃない。

汚泥に襲われず倒れている者は全員死んでいるのだ。

気絶くらいでは汚泥は解放してくれないのだから。


「陛下! ご無事ですか! 陛下!」


「クソ! この亡者共め!」


 お? 汚泥を必死に排除しようとする一団がいる。

汚泥に襲われている者もいるが『警告』レベルだ。

逃げずに皇帝を助けようとしているのか……。

何というか、大したもんだ。


 いわゆる善良な忠臣って連中なんだろう。

うむ、素晴らしい。

中心人物は緑の髪の壮年の騎士だ。


「って、あれ双子の親父さんか?」


 うーん、個人的には説得したいところだが、堅物らしいし……。

まあ、話すだけ話してみよう。


「ヴァンデル公爵だな?」


「む?」


 声をかけると全員が敵意に満ちた視線を向けてきた。

しかし、公爵は全員を下がらせた。

どうやら彼我の実力差を感じ取ったらしい。

それだけでも公爵がかなりの使い手である事が解る。


「そなたが一連の事件の犯人か?」


「その通り」


「なぜこんな事を?」


「目的ね。1つは異世界召喚の抹消。もう1つは狂った国を治療する事だな。こっちはついでだが。」


「ついでだと? ついでで国を滅ぼすのか?」


「間違って組み立てられた積木は、一度崩さないと正しく組み立てられないだろ?」


「積み木? 貴様、国を何だと思っている!」


 おおう、怒っちゃった。

俺って説得に向いてないのかな?

まあ、命を軽く見ている自覚はあるけど。


「国が、民が大事ならなぜ帝国の現状を放置した?」


「む……」


「足元を見ろ。これは民の怨念だ。ほんの一カ月ほど帝国を歩き回っただけで、こんなに集まった。まともじゃないぞ」


「……」


「本当はあんたも解ってるんだろう? 民は現状の帝国が続く事を望んじゃいない。帝国は末期の病人だ。荒療治で病巣を切り取らなければ、死ぬ」


 周囲の貴族や騎士たちも迷いを浮かべている。

まともな精神を持っているなら当然だろう。

忠誠と盲従は違う。

本当に国の為、主君の為を思うなら諫言を持って過ちを諌めるべきなのだ。


 もっとも皇帝が聞き入れたとも思えないし、何世代もの歪みが積み重なった結果が現状だ。

彼らだけに非があるとは言わないが、彼ら自身はそうは思っていないのだろう。

指摘されて直面した、目をそらし続けてきた己の不甲斐なさ。

その辺をつっ突けば説得できそうな気もする。

さて、どうなるかな。


 正論をぶちかまし、罪悪感を抉り、正義感を煽り、誠心誠意で説得を続ける。

俺はセールスマンかよ……、あるいは詐欺師? でもまあ、効果はあった様だ。

異世界召喚術が失われた以上、今まで通りの帝国ではいられない。

悪徳貴族は粛清され、皇族も大半が死んだので政治の立て直しの障害になる者もいない。


 今までの帝国の在り方に疑問を持っていた者にとっては、冷静に考えれば好機なのだ。

皆さんの目に明日への希望と帝国再建への熱意が宿り始める。

よし、頑張ったぞ俺。

しかし


「解った。皆は退け。そして帝国を立て直すのだ」


 公爵が厳かに告げる。

皆はって、公爵本人はどうするんだ?

疑問に答えるように公爵が剣を抜く。


「貴族筆頭としての義務は果たさねばならん」


 何だ? やっぱり賊は見逃せないと?

いや、違うな。

この人は自分が勝てるとは思っていない。

って事は


「あんた死ぬ気だな」


「私くらいは陛下に殉じるべきだろう。虐げられてきた民への贖罪という意味でもな」


 ああ、まただよ。

あの医者といい、生真面目すぎるってのも問題だよな。

あんたが死ぬと纏まるモノも纏まらないってのに……。


「では、参る」


 公爵が静かに告げると剣と盾が炎に包まれた。

ほう、剣だけじゃなく盾もか。

これは確かに厄介だ。

並の武器じゃ逆に熱で壊されてしまうし、シールドバッシュなんて食らったら大ダメージだ。


ダッ


 公爵は盾をこちらに向け、剣を上段に構えて突っ込んでくる。

シールドバッシュと斬り下ろしの連撃か。

とりあえず一撃加えて説得しよう。

効きそうなネタもあるし。


シュッ


ビシィ ザク


「な!?」


 突き出された竜槍杖はあっさり盾を貫き、公爵の左腕を抉った。

驚愕するもそのまま剣を振り下ろす公爵。

しかし


ガッ ベキィ


 俺は炎に包まれた剣を素手で掴み、そのまま握り潰した。

最後に腹部に蹴りを入れて吹っ飛ばす。

鎧を砕く感触が伝わってきた。

肋骨も折れたかもしれないな。


「うぐぅ……。これ程とは……」


「ヴァンデル公!」


「もう、おやめ下さい!」


 痛々しい姿に周囲が堪らず声をかける。

慕われてるな。


「もう良いだろう? あんたにはやってもらいたい事がある。シミラ、やれ」


「何だと? む?」


 困惑する公爵にシミラが幻術をかける。

内容は俺と双子の過ごした日々、彼らの決意の言葉だ。

それを見せられた公爵は何を思うのだろう。


「こ、れは……」


 公爵にとっては初めて知る事実。

目の前の男が2人の師であること。

そして卒業試験でこの男を相手に善戦し、剣を贈られた姿。


「あいつらは口だけじゃない。実際に強くなった。あんたは、こいつらに全てを丸投げして死ぬのか?」


「それは……」


「あいつらには政治的な基盤が無い。引退するのは構わんが、しばらくはあんたが後ろから支えてやるべきだと思うぞ」


「……」


 黙り込んでしまった公爵。

ふと見やると、汚泥の小山は消え去っていた。

皇帝たちが死んだのだ。

あっけない最後だったな。


「……事後処理を行った後、息子に家督を譲ろう。その後は裏方に徹する。老兵は表舞台から去ろう」


「それで良いんじゃないか? あんたらは生きて責任を果たすべきだ」


 公爵の負傷を癒すべく薬を渡そうとしたが断られた。

引退の理由として、そして戒めとして残したいそうだ。

まあ生きていてくれればいい。


 彼らは馬を駆り要塞へと戻って行った。

後は彼らに任せるべきだろう。

これ以上首を突っ込みすぎるのは良くない気がする。




 この一連の事件は後に『バハルの惨劇』と呼ばれ、帝国のターニングポイントとなった。

犯人は帝国の圧政により溢れた怨念が生み出した強力なアンデッドとされた。

この事件は一時的に帝国の国力を低下させたが、ヴァンデル公爵家主導の元復興が行われることで帝国は踏みとどまる事になる。

何故かこの混乱にも拘らず、教国が攻めてこなかったことも大きな幸運とされた。


 犯罪組織の跋扈、生き残った悪徳貴族の反乱など事件が多発するが、公爵家の新たな当主とその妹がその全てを鎮圧して名を上げる事になる。

その後兄は皇帝となり名をアレックス・ヴァンデル・メルビルと改め、妹はヴァンデル公爵家当主となり後に大公に任じられる事になる。





「!?」


 突然の違和感にフィオは眉を顰めた。

汚泥の制御が乗っ取られていく。

術の構成自体は簡単だから不可能ではないが、問題は今この場にそれを行える術者が存在する事である。


「これは……ファンか?」


 自信を持って断定できなかった。

なぜなら彼の魔力が余りにも先ほどまでと比べて変質していたからだ。

これではまるで


「アンデッド? あいつリッチにでも転生したのか?」


お父さんは救いました。

医者の件はフィオにとっても苦い経験だったのです。


さて、ファンにリッチになれるだけの力量があったのか?

彼に何が起きたのか?


まあ、ろくでもない事なのは確かですが。

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