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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
22/216

開戦

 薄暗い曇り空。

要塞を出撃した帝国軍は、反乱軍が待ち受けているという平原に進軍していた。

上層部は要塞で起きた暗殺事件について情報を持っているが、末端の兵はそんな事は知らない。

そもそも数を揃えるために臨時で徴兵された一般人も多いのだ。


「なあ、こんな数が必要な敵ってどんな奴なんだ?」


「さあ。帝都や要塞で凄い被害を出したらしいけど」


「最近の連続襲撃事件の犯人なのかな」


「何だよそれ?」


「いや、最近あちこちの町が強力な魔法で吹っ飛ばされてるらしいんだよ」


 彼らは、まさか後半の犯人が皇帝の呼びだした英雄だとは夢にも思わない。

こういった無辜の民を盾として、場合によっては彼らごと魔法を打ち込むという事は帝国では普通に行われる戦法だった。

もちろん今回もその前提で作戦が立てられている。


 ちなみに先代の英雄マークの人気が高かったのは、常に自分が先陣を切りそういった作戦を取らなかった事が大きい。

彼は教国との戦いを強いられていた時も、決して兵を無駄に死なせる事は無かった。

一方で当代の英雄ファンについては、開示されている情報が少ない。

炎の魔法が得意な魔法使いくらいしか知らされていない兵達は、頼りにしていいのか判断がつかなかった。


 軍の先頭が平原に1000人ほどの集団を見つけたのは間もなくの事だった。

全員が黒いローブを着こんだ異様な集団だった。

おまけにこちらが近づいて行っても何の反応も無い。

人形のように生気の無い集団だった。


 帝国軍は全軍で集団を包囲した。

1人も逃すつもりは無いのだ。

完全に包囲されても全く反応が無いが、1人だけ槍を持った男が動きを見せていた。

誰かを探しているようだ。

そうこうしている内に帝国軍は陣形を整え終えた。


------------------------------


「ははあ、ずいぶん揃えたもんだな……」


 見渡す限りの帝国軍にフィオは感心してしまう。

挑発したのはこっちだが、ここまで見事に乗ってくるとは思わなかったのだ。

国境の警備や治安維持は大丈夫なんだろうか、と心配してしまうほどだ。


「その程度の人数で帝国に逆らうか!」


 魔法で拡大された皇帝の声が聞こえてきた。

ブチ切れてるのが良く解るドスの効いた声だ。

民はどうでもよくても子供はやはり可愛かったようだな。


「だが、大人しく降伏するのなら、その力を帝国のために使ってやらん事も無い!」


 誰が信じるかボケ。

お前の器の小ささは調査済みだ。


「今から使者を向かわせよう!」


 時間稼ぎご苦労さん。

包囲する軍のさらに後方で、大規模な魔法が構築されていくのが解る。

さっさと行動を起こそうかと思ったが、こちらに向かってくる使者を見て思い止まった。


「へえ、お前が噂のアサシンか」


 アジア系の顔立ち、黒い顔と目。

そして『ここにいるのはおかしい』と感じさせる強烈な違和感。

すなわち歪み。


「そう言うあんたは英雄様か?」


 人を見下した態度だが、その目はどこか卑屈だ。

典型的な突然手に入れた力に酔う小者だな。


「そうさ。俺に燃やせない物は無い。お前も焼き払ってやる……と、言いたい所だが提案がある」


「提案?」


「そうだ。お前、俺の部下になる気は無いか?」


 はあ? 何、その上から目線。

ああ、そうか。

こいつお互いの力量差を認識できていないんだな。

別に隠蔽してるわけじゃないんだが。


「皇帝が許すとは思えないが? この交渉だって時間稼ぎなんだろ」


「あんな爺、どうにでも黙らせられる。大体、俺はこの国の英雄程度で終わるつもりはない」


 ファンの目が異様な輝きを宿している。

熱に浮かされる様な、酔ったような恍惚とした目だ。


「俺はいずれ世界を統べる偉大な王になるのだ。かつての俺は、優秀な民族の中でも特に優れた人間だった。しかし、そのままでは社会に埋もれていただろう。だが、俺は新たな世界とさらなる力を手に入れた。これは運命だ。運命が俺にこの世界を統べることを……」


「断る」


 俺はバカの妄言を遮って答えた。

奴の顔が見る見る真っ赤に染まっていく。


「後、寝言は寝て言え」


「ききき、貴様ァ!!」


 目を血走らせ、泡を飛ばしてファンがまくしたて始める。

なるほど瞬間湯沸かし器の様な沸点の低さだ。


「ここ、この俺の誘いを断るだけでなく侮辱するだと!? この無礼者め! 劣等民族が優良民族に逆らうだと!? ふざけるなふざけるなふざけるなァ!!」


 うわ、目がイッちゃってるよ。

つーか、どういう育ちをすればこんなに歪むんだか。

本当に、相手にするのがおっくうになる面倒くささだな。

疲れるわ。


ゴォ!


「お?」


 うんざりしていると突然、全方位が結構な範囲で炎の壁に包まれた。

だが熱量は感じない。

帝国軍も一緒に囲まれてるし。

結界か?


「くくく、時間稼ぎはここまでだ」


 偉そうに言うファン。

嘘つけ、絶対本気だっただろ。


「この結界は俺のオリジナルだ。内部の人間の魔力を俺に集中する効果がある」


「ふむ、兵の力を束ねた英雄が反逆者を倒すってシナリオか」


 魔眼を通してみると、兵達からどんどんファンに魔力が流れ込んでいる。

ファン自身が一度に使える魔力量には限界があるだろうが、真骨頂はどれだけ魔力を消費しても平気という点だろう。

どんな強力な魔法も使い放題というわけか。

しかし、気になる点が。


「おい、兵士を魔力タンクにするのは良いがリミッターは付けてあるのか?」


 魔力は単純なゲームでいうMPではない。

精神力と生命力の根源的な力だ。

際限なく吸い取られれば、いずれ死んでしまう。

通常この手の魔法には一定以下に弱った者は対象外にするものだが、こいつはさっきオリジナルと言っていた。


「はあ? そんなモノあるわけないだろ」


「吸われ過ぎると死ぬぞ?」


「それがどうしたっていうんだ。俺の踏み台になれるんだから感謝して欲しい位だよ」


「……屑め」


「だ、だ、だ、黙れ! ぶっ殺してや……」


 再びブチ切れたファンが銃を模した杖をこちらに向ける。

だが、こっちの準備は最初から完了しているのだ。


「いいぞ、プルート。解放しろ」


 俺の後ろに待機していたプルートが頷く。

そして1000人の黒ローブの集団に向かって手を振るった。

直後、黒ローブの集団は水を被った泥人形の様に溶けてしまった。


 1000人の集団は漆黒の汚泥となり、その沼はどんどん広がっていく。

その正体は死者の怨念。

帝国を渡り歩いた俺は、膨大な歪み、負の感情と残留思念を回収した。

それらの怒り、憎しみ、嘆き、絶望は、いずれ瘴気として世界を汚染するか、魔物として具現化していただろう。


 プルートはこちらの世界に来た事で、リッチと同じ死霊術を身に付けていた。

そこで、この怨念を利用して『許されざる者』と『救いのある者』を選別する事にしたのだ。

1000人程の姿に圧縮していたが、その総量は万どころではないだろう。

何しろ目で見え、触れられるほどの密度だったのだから。


 そして死者の沼は凄まじい勢いで広がっていく。

戦場の帝国軍全てを飲み込むべく広がっていく。

罪に染まりし者を引きずりこむために。

やっぱり、無益な殺生は良くないですよね。


帝国は蔑ろにしてきた民によって裁かれる事になりました。


有罪だった者は当然……。

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