神域創造計画
ギリ8月中に投稿。
世間は夏休みシーズンなのに本業(医療系)デスマーチ。
◆フィオ◆
「なるほど……世界樹か」
確かに植物をベースとした環境維持装置である世界樹は、地球におけるバイオ・コンピュータに非常に近い性質を持っている。
さすがに俺を構成する全情報を記録することはできないだろうが、人格データくらいなら保存できるかもしれない。
〈ついでに隠居する拠点、聖域を創ることをお勧めするぞい。お主の場合は神域と言った方がよいかもしれんがの〉
〈聖域……世界樹を中心とした隔離空間……〉
〈向こうでのホームみたいなものね。懐かしい~〉
老島亀の提案にプルートとフェイが賛同する。
確かにいつまでも世界をふらついていると、いずれ何かのトラブルが起きるかもしれない。
役目が無い時の待機場所があってもいいのかもしれないな。
〈いっそのこと、お空に浮かべたらどうかな~〉
〈浮遊島か……。向こうでのホームを参考にするなら、それもありかもしれんな……〉
フェイがさらなるアイディアをぶっこむが、そこにプルートまで乗ってしまった。
聖域を空に飛ばすなんて可能なのか?
これまで見た聖域は全て地上に存在した。
聖域の核となる世界樹が大地に根差している以上、それは当然のことだ。
南大陸の竜達が守る聖域も空の環境を維持してはいるが、高い山の上に存在しているだけで空中に浮かんでいたわけではない。
だが、聖域の結界は球状に展開されているので、下方ががら空きとかそういう事はないはずだ。
「ふむ、アリエル。空中に聖域を創ることは可能か?」
「可能、不可能で言えば可能です。ただ、それを維持するコストが問題になります」
「半永久的に、できるだけ負担が少なく……か」
まず、空中に聖域を創るには空中に世界樹が生存可能な環境を作る必要がある。
世界樹は植物である以上、生存には土が必要。
正確には水などが循環するかなりの大きさの大地が必要となる。
世界樹のサイズを考えると必要な面積(いや体積か?)は、最低でも島クラス。
さらには、それを浮かばせなければならない。
飛行船や気球も存在しない世界で、いきなり浮遊島か。
某映画のように浮遊石やら飛行石があればいいんだが、そんなものが存在すれば古代アールヴ文明時代にとっくに利用されていただろうし。
「うん? 古代アールヴ文明か……」
古代アールヴ文明を支えたマッド・サイエンティスト。
そいつは転生者だった。
つまり、その発想は地球の物に近いはず。
地球の知識や技術で使えそうなものはないだろうか……。
「マスター」
「ん? どうした、アリエル」
「完全な力技ですが、ほとんどの問題を解決できる方法があります」
「あるのか!」
「はい。私を構成する構造粒子体。それを使って島を造ればよいのです」
* * *
◆フィオ◆
「土の代わりに構造粒子体で大地を形成する、か……」
アリエルの提案は、盲点というか先入観に邪魔されて思いつかなかったものだった。
確かに植物の育成には土壌が必要だ。
だが、それは正確には土壌に含まれる水分と栄養素が必要なのであり、それらを補給できるのなら必ずしも土は必要ではない。
考えてみれば、地球でも土を使わない野菜の栽培などはすでに実用化されていた。
スポンジや吸水ポリマーに栄養剤を吸わせてそこに野菜の種を植え、生育に最適な波長の光をライトで照射することで工場製品のように野菜を大量生産するのだ。
さすがに樹木は対象外だったが、万能な構造粒子体なら可能だろう。
問題は、島一つを形成するほど莫大な量の構造粒子体を用意できるかということだ。
さらにそれらを維持、制御する必要もある。
アリエルの負担が大きすぎはしないだろうか。
「生産はともかく、制御に関しては問題ないかと」
「そうなのか?」
「はい。世界樹自身に任せてしまえばいいのです」
「……それもそうだな。環境維持装置なんだから、それくらい簡単だろうな」
多少の演算能力不足は情報粒子体を複製して、そのコントロールを世界樹に任せれば良いとのこと。
さすがはオーバーテクノロジーの結晶たる人造天使。
大抵の問題は解決できる超絶スペックだ。
これで制御の問題は片付いたな。
「と、なると次は構造粒子体の調達か」
「私自身が制御する必要がないのなら生産自体は簡単です。ただ、それなりの資源と莫大な魔力が必要です」
「魔力は俺が供給できるな。後は資源か……」
「一度必要量を確保してしまえば、リサイクルを繰り返して使えますので最初だけです」
酸素、炭素、窒素などは空気から、水素は水蒸気から補充できる。
だが、金属元素などは土中から抽出する必要があるらしい。
ただ、寿命が来て崩壊した構造粒子体からほぼ100%回収できるので、再利用すれば新たに補充する必要はないらしい。
地球にもこれだけの技術があれば、資源問題や環境問題もかなりマシになるんだろうな。
「元素レベルにまで分解して使うなら海底からでも問題ないか。塩害とか関係なさそうだし」
「むしろ微量元素、ミネラルが豊富に含まれているので都合がいいくらいです」
「問題は量か。島一つともなると、どれだけ用意すればいいのか見当もつかないな」
〈あ~、ちょっといいかの?〉
資源調達に悩む俺とアリエル。
フェイとプルートもあっちはあっちで何か話し合っている。
そんな俺たちに老島亀が話しかけてきた。
また何か知恵を貸してくれるのだろうか。
〈完全には理解できとらんが、お主らは空中に浮かぶ島を造ろうとしておるということでよいか?〉
「ああ」
〈で、その島はそこのお嬢さんが造る。ただ膨大な材料が必要、と〉
「ええ」
〈なら、土台を用意すれば少しはマシだと思うんじゃが〉
「「土台?」」
〈うむ。ほれ〉
老島亀は首を曲げて、自分の甲羅とそこに根差す世界樹の方を向く。
地球の神話でも世界は象やら亀やらが支えてるって話はあったな。
考えてみれば構造粒子体で島を造るってことは、俺の神域はアリエルが背負ってるってことに……。
いや、そうじゃなくて。
「世界樹そのものを島の土台とし、私の構造粒子体でそれを補強する。そういうことですね?」
〈うむ。実際この世界樹は東大陸全土に根を伸ばして大地を支えておったんじゃ。この世界樹の半分くらいの大きさでも、根で島の土台を形成することはできると思うがの〉
「……どうだ? アリエル」
「可能です。むしろ、世界樹を土台とすることを前提に計画すれば、様々な選択肢が実行可能になります」
「様々な選択?」
「はい、例えば……」
アリエルがちらりと横を向く。
すると満面の笑みを浮かべたフェイが突撃してくるところだった。
その手の平に浮かぶのは立体映像。
光魔法の応用か? 無駄に高度な事しているな。
〈マスター、マスター! 私、ホームにビオトープっての造りたい!〉
「へ?」
ビオトープってあれか?
小川とか特定の環境を再現したジオラマみたいなやつか?
実際にその環境で生きる生物を放したりしたのを水族館やらで見たことあるけど。
教育の一環として学校なんかでも造ってたか?
〈ほらほら、これ! 私とプルートの力作!〉
「お、おう。随分と細かいな……」
フェイが島を模した立体映像を見せてくる。
どれどれ……。
「ほう……なるほど……」
〈いずれ、この世界に必要になると思われます……〉
学者肌のプルートが、フェイの思い付きのようなアイディアを一緒に考えていた理由が分かった。
プルートは俺の神域に、今後この世界から滅び去っていくであろう種族の保護領域を造りたかったのだ。
リストアップされた保護対象には竜や天狼、エントまで含まれている。
〈いずれ人間たちは世界を制し、今の世界の守護者たちにとって代わるでしょう……。協力か排斥かは分かりませんが、念のためです……〉
「そう、だな……」
地球もハノーバス世界もたどる道は変わらないのかもしれない。
時の流れと共に数多の種族が滅んでいくのは世界の摂理なのだろう。
だが、せめて役目を終えた守護者たちに安住の地を用意するとしよう。
「アリエル、計画修正だ」
「はい。大がかりな拡張ですね」
「ああ。俺の神域にノアの箱舟を兼任させることにする」
コロナは感染者の絶対数を減らさないと、どうにもなりませんね。
病床が開いていても、もうそれを回す人員がいない。
コロナって患者1人に対して必要なマンパワーが多いんですよ……。