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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
終章 東方諸島開拓編
214/216

心の寿命

遅れました。

◆フィオ◆


 老島亀の長い話は終わった。

それは歴史学者や考古学者なら、何を引き換えにしても知りたがるであろう情報ばかりだった。

4つの大陸に4種の種族。

まるで意図的に分けられたようだとは思っていたが、事実だったのか。

それに……。


「神……会社運営に苦しむ経営者みたいだな」


〈病んじゃわないように心を閉ざす、ですか~。損な立場ですね~〉


「フェイ、言い過ぎです。ですが、例えとしては間違っていないですね。そして……」


 アリエルがいったん言葉を切り、俺の方を見る。


「このまま行くと、マスターも同じ道を歩む可能性が高いということですね」


「ぐっ……」


 否定できない。

かつて地球で聞いたある学者の説なのだが、実は精神にも寿命があり、それは本来の肉体寿命に比例するという話があった。

つまり、元々長寿の種族は精神寿命が長く、短命な種族は精神寿命も短いというのだ。

その説を唱えた学者は、人類の飽くなき長寿への欲望へ警告を発したかったんだとか。


 例え肉体の不老長寿が実現しても、そもそも人間の精神は何百年も生きるようにできていない。

感情や思考など、メンタル面で必ず不具合が出る。

人間は本来与えられた寿命で満足し、生き抜くべきだ。

確かそう主張していたはずだ。


 当時の地球では、遺伝子操作技術によるエイジングケアが研究されていた。

その果てには、人生数百年時代が来るのではないかと期待されていたのだ。

だが、あまりにも自然の摂理を無視する行為だという批判も大きかった。

そんな中で発表されたのがこの説だ。


 結局、人体への遺伝子操作は癌化や生殖能力の低下など多くの副作用が懸念され、国際的に禁止となった。

まあ、一部独裁者などが秘かに研究させていたらしいが。


 話がそれたが、問題は俺の精神構造のベースが人間ということだ。

考えてみるとエルフなどの妖精種や、吸血鬼などの長寿の魔族は非常に気が長い。

よく言えばおおらかで、悪く言えばルーズなのだ。

転生者たちが急速に勢力を拡大できたのも、このおかげといえる。


 本人的には普通にやっているつもりでも、急進派と言われるような勢力より遥かに行動が『早い』のだ。

周囲が対応できずにオロオロしているうちに結果を出し、反対すらさせない。

半ば奇襲的に実績を積み上げ、影響力を増していく。

やってることは似たようなもので、違いといえばその方向性だろう。


 世界に大きな影響を与えた2人、シリルスとグラーダ。

同じ転生者でも彼らは対照的だ。 


 シリルスは自分だけでなく全体のために行動し(注:本人にその意図があったかは不明だが結果的に)、ギフトにも頼らなかった。

その結果、彼は英雄となり敵対した者は逆賊として滅んだ(注:未だに政務から逃げ出しては捕まり、缶詰にされているようだが)。


 グラーダは自分のために手段を択ばず行動し、世界にとっての異分子となってしまった。

さらにギフトに頼りすぎ、最後にはギフトに喰われてしまった。


 そんな肉体と精神がズレていた2人だが、生き残ったシリルスは実は当時に比べると『遅く』なっている。

肉体寿命に引っ張られるように徐々に『生きる』速度が遅くなり、現在では妖精種の範囲に収まる程度となっているのだ。

つまり、ずれは徐々に調整されていくということだ。

肉体寄りに。


 では、俺はどうだろうか?

実は俺の場合少々事情が異なる。

まず、確かに俺の精神のベースは人間だ。

しかし、正確には人間の脳波などのデジタルデータをベースとしている。

要は人格データをコピーしたAIなどに近いといえるのだ。

よって、精神寿命が人間と同じかと言われると、正直よく分からない。


 さらに俺は悪魔、高等霊的生物だ。

高等霊的生物にとって肉体など、どうとでもなる仮初の物。

そちらから影響を受けるということは、まずありえない。

逆に精神面の変質は即座に肉体に影響が出る。

天使の堕天なんかが代表的だな。


「結局のところ、俺はこの後どうなるんだろうな?」


 重要な問題ではあるのに、思考が乱れる。

いや、『俺』にとっては重要でも『フィオ』にとっては重要じゃないのか?

要は断罪者としての任務さえ果たせれば良いわけだし。

むしろ余計な感情なんて無い方が……。


あるじよ……〉


「ん? どうした?」


 かけられた声に堂々巡りの思考が断ち切られる。

声の主はプルートだった。


〈黒き神は眷属を創造するのではなく、貴方を眷属とした。それは、かの神が今の貴方に世界を委ねるべきだと判断したということかと……〉


「! なる、ほど……」


 プルートの言葉に衝撃が走った。

そうだ、黒き神はわざわざ俺を眷属としたのだ。

機械的に自分に従う眷属を創り出すのではなく。

つまり


「人としての感情、揺らぎ、それらを持った代行者が欲しかったのか?」


〈おそらくは……〉


「機械的に任務を行う者に、情状酌量やアフターフォローなどの配慮は期待できませんからね」


〈マスター結構、苦労性だしね~〉


 ……フェイ、一言多いぞ。

俺だってそんな気はしてるけどさ。


「と、なると俺は今のままである方が望ましい訳だが、それはそれで厳しいな」


「力を振るえば人格に影響が出る。しかし、力を振るわなければ役割を果たせない。ジレンマですね……」


〈……主は邪神との決戦以前には己の内に人格のバックアップを宿していたと聞きましたが?〉


「ああ。よく覚えていたな」


 そう、俺は、『フィオ』は心の内に『佐藤宏輝』の人格データというバックアップを宿してこの世界に生まれ落ちた。

その存在は俺の人格の変質を抑え、修復してくれていた。

しかし、同時に神としての覚醒にブレーキをかける存在でもあった。


 邪神との闘いの最中、『彼』は一度は邪神に敗れた俺を復活させ、俺が神として覚醒するために消えていった。

邪神を倒すためには仕方ない事ではあった。

だが、半身ともいえる存在を失ったショックは大きかった。


「う~ん、『彼』は俺がこの世界に生まれ落ちた時、元々共に誕生した存在だ。後から同じような存在を創り出すことなんてできるのか?」


「人工的に多重人格を生み出す技術ならありますが?」


「怖ぇよ。お前の開発者は本当に倫理も何も持ってなかったんだな……」


「はい。典型的なマッド・サイエンティストです」


 まあ、その技術も妖精種、もっと言えば『人』対象とした技術のはずだ。

高等霊的生物にそんな技術が通用するとは思えない。

下手をすれば人格と一緒に存在自体が分裂してしまうだろう。

危険すぎて試す気にはならないな。


「はあ、なら後は人格データを保存しておくとかか?」


〈へ~、なんかマスターの言ってたゲームみたいですね~〉


「……フェイ、詳しく」


〈え? 前にマスターが言ってたじゃないですか~。セーブポイントとかセーブデータとか。そういうのがあればいいんですよね~?〉


「「……」」


〈フェイ、お前は普段はアレだが時々天才に見えるな……〉


〈それ、褒めてるの?〉


 プルートの言い草に不機嫌そうになるフェイだが、俺とアリエルは言葉も出ない。

どうして、こんな単純なことに気づかなかったんだ?

生物ではなく機械、コンピュータとして考えてみれば良かったのか。

俺の元がデジタルデータなら、同じような方法で人格データを保存できる可能性は高い。


 具体的には外部に情報記録媒体、メモリーやハードを用意して現在の人格データを保存しておけばいいのだ。

あるいは、現在の人格をデフォルトに設定しておき、変質した人格を外部メモリーに移行させてリカバリーできるようにする。

他にも……。


「いけそうだな……」


「検証は必要ですが、可能性は十分にあります。問題はマスターの人格データを許容できるだけの容量を持つ情報媒体ですが……」


 言葉を止めたアリエルが、じっと自分の手を見る。

これは、あれだな。

自分の情報粒子体を差し出すとか言い出す気だな。

部下を食い潰すくらいなら、俺は大人しく変化を受け入れるぞ。


〈のう、ちょっと良いか?〉


「「!!」」


 と、そこですっかり蚊帳の外だった老島亀が話しかけてきた。

もしかして、今の話を理解できたんだろうか?

シリルスならともかく、何の予備知識も持たないで理解できる内容じゃないはずだが……。

さすが亀の甲と年の功を両方持っているだけのことはあるな。


〈そのコンピュータ?だかと同じような機能を持っていて、とんでもなく性能が高いものなら目の前にあるんじゃが……〉


 そう言って首を曲げた老島亀。

その視線の先にあるのは……。


「え?」


「まさか……」


〈そうじゃよ。世界の環境維持装置『世界樹』じゃ。確かお主、世界樹の種子を持っておるんじゃろ?〉


 アイテムボックスの中の種子が、己の出番を察したように震えた気がした。


中々難産です。


流れは決まってるんだけど、上手く文章にできなくて……。


ともあれ、あと数話でエピローグです。

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[一言] 立つ鳥跡を濁さず、終わりよければすべてよし、百里の道も九十九里をもって半ばとす…昔から言われていますが、何事も締めくくる事が何より大変であり大事であるとされています 大変だとは思いますが、広…
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