始まりの地 創世期
ちょっと短いですが申し訳ない。
次話と合わせて前半後半仕様です。
◆フィオ◆
〈ふぉふぉふぉ、客人なんぞどれくらいぶりじゃろうな〉
「まあ、どの大陸も余所に目を向ける余裕なんて無かっただろうからな……」
長い顎髭を揺らして爬虫類顔を綻ばせ、暢気に笑う老島亀。
聖獣はほぼ無限の寿命を持っているとはいえ、創世期から生き続けられるはずがない。
つまり彼は神種、動物の姿をした神の一員である神獣ということだろう。
〈お前さんがただの人間だったらグラシアル・ダイバーたちが通さんし、そもそも結界の存在にも気付けんじゃろうて。世界から神が去った後、少数じゃが神の座に手が届く者達は確かに産まれた。じゃが、皆この地には興味を示さなかったのじゃよ〉
「まさしく忘れ去られた地ってわけか」
〈そうじゃの。それで、お前さん方はこんなところに何をしに来たんじゃ? ここには儂と世界樹以外は何も無いぞ? 全ては海の底じゃ〉
「そう、それだよ!」
俺は自分がここに来た経緯、調査団の目的を簡単に伝えた。
ついでにこれまでの調査結果から予想した仮説も。
それを聞いた老島亀はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと語りだした。
◇老島亀◇
ふむ、どこから話したものか……。
そうじゃな、まずは基本的な知識として世界は2種類あるんじゃよ。
神の存在する世界、そしてしない世界じゃ。
神の存在しない世界は当然、自然発生した世界じゃな。
神の存在する世界は、自然発生した世界と神が創造した世界に分かれる。
この世界は前者じゃ。
よって創造神と呼ばれる絶対神は存在せず、世界法則の現身たる神々が共同で管理しておる。
お主の上司である黒き神は『命』を司る神、最高位の神の1柱じゃな。
ちなみに儂は『天』『地』『海』の3界を司る神の1柱である海洋神の眷属じゃ。
まあ、末端も末端の神獣なんで、眷属神のお主よりも格下じゃがな。
おっと、話が逸れたわい。
誰かと話すなんぞ久々じゃからの、ふぉふぉふぉ。
コホン……そして神の存在する世界も2つに分けられる。
神が直接干渉する世界としない世界にの。
この世界は前者じゃ。
現在は大分安定してきたため、神々は干渉をやめて神界に引っ込んで裏方に徹しておる。
しかし、初期はもっと積極的に干渉していたのじゃよ。
その最たるものが生命の創造じゃ。
神々は、自分の好みの生物を創造してはこの世界に解き放っていったんじゃ。
まずは植物や知能を持たない通常の動物に始まり、次に強い力を持った魔獣や世界の維持を手伝う精霊などが創造されていった。
さらに高い知能を持つ聖獣や、神々の眷属たる神獣が創造されたのじゃ。
かく言う儂もその1体なのじゃがな。
当然環境に適応できなかったり、欠陥を抱えていて絶滅してしまう種族も多かった。
おっと、神々を責めないでやってくれ。
自然発生した世界の神々は教えを乞う先達がいないのじゃ。
経験豊富な創造神や万能に近い唯一神とは違って、勝手がわからんのは仕方がないんじゃよ。
誰も彼もが手探り状態、試行錯誤の繰り返しだったからのぅ。
せめて生命の創造に特化した神がいればよかったんじゃが……。
心を痛め生物の創造をやめる神も多かったんじゃ。
じゃが、それは己の義務の放棄でもあった。
他の世界の事は知らんが、この世界の神々は寛容で優しいんじゃろうな。
お主の主人の黒き神もそうじゃ。
あれだけ邪神に引っ掻き回されたんじゃ。
本来なら世界を邪神共々丸ごと破壊して、その後再生する方が楽だったはずなんじゃよ。
しかし、お主という眷属を送り込み世界の維持を選択した。
上手く行ったから良かったが、失敗すれば邪神も逃がしていたかもしれんからの。
失礼な言い方じゃが、破壊神としては甘いと言えるじゃろうな。
まあ、結局のところ『神』という存在にとっては『感情』というのは邪魔なのかもしれんのう……。
人間も家畜や作物の品種改良に感情なんぞ持ち込まんじゃろ?
命を奪うのは悲しい事じゃが、収穫にしても屠殺にしても割り切らないとやってはいけんからの。
それができなければ廃業じゃ。
神々も同じように割り切ろうとしたんじゃろうな。
己をただ粛々となすべきことを成す、世界を維持するシステムへと作り変えていったんじゃよ。
まるで魔道具のようにのぅ……。
……その様子じゃと自覚はあるようじゃな。
お主も神に近付くにつれて、感情を始めとした人間性を徐々に失っていったはずじゃ。
以前、完全に神化した時は、もはや邪神を滅ぼすという使命以外は頭に無かったじゃろ?
神気の大半を放出した事で何とか踏み止まった様じゃが、何度も繰り返せば分らんぞ?
今の自分でいたいのなら気を付ける事じゃな。
……また話が逸れておったの。
さて、最終的に神々は肉体に重点を置いた始祖種族と精神に重点を置いた始祖種族を生みだした。
ヒューマンの始祖と妖精種の始祖じゃな。
神人や亜神と呼ばれる連中は、先祖返りでこの始祖の力を宿した者たちじゃ。
繫殖力こそ低かったが個体としての力は儂以上じゃったからのぅ。
そして、神々はこれらの種族に動物や植物、精霊などの因子を加える事で獣人や魔族の始祖を生み出していったのじゃ。
もちろん自然淘汰はあったが、概ね生命の創造は成功した。
だいぶ簡潔になったが、これが神々がこの世界に直接干渉しておった創世期じゃ。
さて、ここで気になるのはその舞台じゃな。
そうじゃよ。
かつて、この地に存在した大陸。
お主ら風に言うなら東大陸こそがハノーバス創世期の舞台であり、始まりの地だったんじゃ。
ん? そんな神聖な地が何故海に沈んだのかじゃと?
慌てなさんな。
順を追って話すわい。
まあ、愉快な話ではないがの……。
同じ土地に多種多様な種族が住んでいれば当然……。