神ならざる破壊者たち
久々のフィオ視点です。
◆フィオ◆
まず最初に突っ込んできたのは、2足歩行のワニのような怪物だった。
本能剥き出しで知性とか理性とか、そういったものは感じられない。
大きく開いた顎は、俺の上半身を一飲みにできそうだ。
〈『終焉の捕食者』ね。何でこんなモノ造ったんだか……〉
邪神の手駒ではあるが、神とは直接関係ない存在のようだ。
普通に鑑定できるな。
ふむ、コイツの口は異次元に繋がっていて、どんなものでも食べることができるのか。
さらに胃袋の容量にも限界が無く、いくらでも食べることができる。
しかし、エネルギー効率が非常に悪く、慢性的にエネルギー不足状態なのだ。
だからこいつは、常に飢えて発狂している。
口と胃袋を維持するために、常に何かを食っていなければいけない、か。
暴食の大罪を具現化したような奴だ。
〈グギョアアアアアアァ!!〉
口から涎を垂らしながら怪物が飛び上がった。
どうやら俺を頭から丸呑みにするつもりのようだ。
もちろん食われてやる気など無い。
〈考え無しのケダモノごときに……っと!〉
――バシュ! バシュ! バシュ!
飛び上がった怪物に意識を向けた俺に、無数のエネルギー弾が撃ち込まれた。
横に跳躍して噛みつきと銃撃を回避する。
撃ってきたのはトカゲサイボーグの方か。
ヤマアラシロボの方はそれほど機敏じゃないようだな。
〈名前は……型番長いな。通称は『ゲドガルド』ね〉
外見は機械を組み込んだ生物だが、実際は少し違うようだ。
生物っぽい部分は有機機械で構成され、骨格や外殻など強度が必要な部分は無機機械で構成されている。
心臓は無く、代わりにプラズマジェネレーターという高出力の動力炉が胸部に存在しているようだ。
武装は両腕のドリルアームと、そこに内蔵されたプラズマビームガン。
さらに口部のプラズマビームキャノン、胸部のスプレッドプラズマキャノン。
他にも様々な兵器が内蔵されているようだ。
――ズドォ!!
おっと、飛び上がっていたワニ野郎が頭から地面にダイブしてしまった。
前足が無いせいで頭が抜けず、必死にもがいている。
さっさと潰すか。
〈オラァ!〉
〈ギョワ!?〉
――ボヨーン!!
〈んん!?〉
犬〇家状態のワニ野郎の無防備な背中。
そこを背骨をへし折るつもりで蹴りつける。
しかし、返ってきた感触は予想外のものだった。
〈ゴムボールみたいな感触だな。つくづくよく解らん生物だ……〉
爬虫類っぽい見た目とは裏腹に、ワニ野郎の身体は物凄い弾力だった。
あのスタートダッシュもジャンプも、このしなやかな身体のおかげのようだな。
とはいえ、ボールのように吹っ飛んでいったので、まずはゲドガルドだ。
――ギュイイイイィ!!
ゲドガルドの両腕のドリルが輝き、回転し始めた。
超合金製のドリルをプラズマフィールドでコーティングしているのか。
背中のスラスターが火を噴き、滑るように接近してくる。
――バリバリバリ!!
ゲドガルドのドリルと俺の槍が接触し、スパークする。
明らかにこちらが優勢。
たった一度の激突で向こうのドリルはボロボロだ。
不利を悟ったゲドガルドが口を開き、ビームキャノンを展開する。
だが、撃つのを待つほどお人好しじゃない。
左手にシールドを展開して奴の口につっこみ、砲身を塞いでやった。
――ドォン!!
爆風を利用して後方に跳躍。
シールドは破壊されたが、ビームキャノンは暴発し、もう発射不能だ。
というか、頭部が半壊している。
〈やれやれ、そっちもか〉
少し距離が空いたので気付いたが、ゲドガルドの胸部にも砲身が展開されている。
同時に展開されたみたいだが、口部のキャノンよりチャージが遅いようだ。
神気で投擲ナイフを作り出し、投擲。
おそらく主力であろう兵装を両方無力化した。
――パシュ!!
〈おっと、最後の1体か〉
上空から降り注ぐ青いレーザーを躱す。
忘れていた最後の一体。
ヤマアラシロボが背中のトゲから放った攻撃だ。
鑑定によると名称は『アポカリプス・リベンジャー』。
全身が特殊なミラーコーティングで守られていて、衝撃、高温、低温、電気などあらゆる攻撃を無効化する能力を持つ。
そして受け流されたエネルギーは背中のトゲに収束され、撃ち返されるのだ。
では、攻撃しなければ無害かというとそうでもない。
巨体が歩き回ればそれだけで脅威だし、自然界に普通に存在するエネルギーも収束すれば脅威となる。
例えば、さっきのレーザーは光を収束して発射したもの。
放射線や静電気も、こいつにかかればⅩ線レーザーや高圧電流に早変わりだ。
普通に考えれば、あらゆる攻撃が効かないこいつを倒す手段など無いだろう。
少なくとも物質世界の科学技術では。
だが、ここは魔法が存在するファンタジー世界。
さらに今の俺は神クラスの存在だ。
やりようはある。
〈鎧が頑丈なら、まずはそれを剥がす〉
左手を前に突き出し、水属性中級魔法【アシッド・ミスト】を展開。
さらに土属性中級魔法【ロトン・サンド】を並列起動する。
強酸の霧と腐食の砂塵、特殊コーティングとやらはこれを防げるかな?
〈食らえ!〉
ゲームではアシッド・ミストは防御低下、ロトン・サンドは攻撃力低下の効果があった。
装備の耐久度も下げるので、スライム並みに嫌われる攻撃だったが、さて効果のほどは……。
〈無傷か。魔法まで受け流すとは、少し甘く見ていたか……って、邪魔!〉
しつこく噛みついてきたワニ野郎。
それを躱して顎の下に潜り込み、下から槍を突き刺して串刺しにしてやる。
顎を貫通した槍は蛇のように巻き付き、奴の大口を縛り上げてしまう。
どんなものも喰らう口も、開かなければ意味は無いだろう。
ついでにゲドガルドの方に蹴り飛ばしてやると、2体はぶつかってひっくり返ってしまった。
ふむ、あれでも同士討ちをしないのか。
マシーンのゲドガルドはともかく、本能丸出しのワニ野郎は敵味方関係無さそうなんだが。
俺だけを敵と認識するように操られているのは確定だ。
まあ、どうせ全員倒すんだから関係無いけどな。
まずはヤマアラシロボからだ。
酸も腐食も効かないことは以外でも何でもない。
金を始め劣化に強い物質などいくらでもある。
あんな兵器を造れる文明なら、劣化対策などなされていて当然だろう。
と、なれば――
〈これならどうだ?〉
再び展開した【アシッド・ミスト】と【ロトン・サンド】。
その2つを重ねて収束し、球体を形成する。
さらに、そこに魔剣サマエルを突き込む。
サマエルから耐性貫通の呪毒が流れ出し、魔法を禍々しく浸食していく。
つくづく反則的な性能だよな、コレ。
〈これでどうだ?〉
ヤマアラシロボも反撃にレーザーを撒き散らす。
さっきの俺の魔法を受け流し、収束した魔力光線。
何だかんだで凄い技術だよな。
〈!?!?〉
ヤマアラシロボの巨体が禍々しい気体に包まれる。
さて、上手くコーティングを剥がせたかな?
どれどれ……。
〈うわぁお……〉
魔法の効果が切れてヤマアラシロボの姿があらわになる。
その姿は見るも無残なものだった。
表面のコーティングどころか装甲全体がボロボロに腐食してしまっている。
内部も魔法の影響を受けたのか、あちこちから火花が散っている。
〈GIGIGIGI……〉
――バシュ! バシュ! バシュ!
最後の抵抗とばかりに背中のトゲが発射される。
1本1本が槍のように長く鋭いが、ヒビだらけだ。
槍はワニ野郎に使っているが素手で十分だ。
手刀で叩き落すとトゲは粉々に砕け散る。
<おいおい、これだけ脆くなってよく機体を維持できてるな。>
何度も思うが凄い技術だ。
〈ていっ!〉
もはや動く事もできないヤマアラシロボ。
その頭部に蹴りを叩き込む。
すると衝撃で、すでに限界だった装甲に亀裂が走り砕け散る。
崩壊は連鎖し頭部から上半身へ、上半身から全身に亀裂が走り、ついにヤマアラシロボは崩れ去った。
オーパーツみたいに部品が残っても困ったが、その心配はなさそうだ。
崩れた残骸は、風化し塵となって消えていく。
自分でやっておいてなんだが、恐ろしい光景だ。
〈さて、ちゃっちゃと片付けるか〉
残るは半壊したサイボーグと口の開かない大食いモンスター。
大した脅威でもあるまい。
邪神の悪あがきもここまでだな。
次くらいで決着にしたいですね。
邪神の末路やいかに?




