表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
195/216

集う祈り

RWOは続巻なし。

残念ですがビジネスですし仕方が無いですね。


気を取り直してこちらを完結させましょう。

「さあ、祈るのだ。汝らの祈りは呼び水となり、マスターを覚醒へと導く」


 獣魔国でもプルートが、リーフやアリエルと同じような事を獣魔たちに話していた。

幸いというべきか、フィオと邪神の戦いは全世界に中継されている。

全世界の人々が、映像だけだが何が起きているのかを知ることができるのだ。

良い事も、悪い事も。


 邪神が勝てば自分たちは終わりだ。

フィオには何としてでも勝ってもらわねばならない。

ほとんどの者が、その為にできることがあるというならば何でもするだろう。


「我らの望み、か……」


 獣魔族の王リュケウスは考える。

まず思いつくのは『自分たちを救って欲しい』という願いだ。

だが、それだけでは足りないと感じる自分がいる。

そもそも、この度の戦いで自分たちが最も心を焦がした感情は何だったのか。


「そうか……」


 あの胸を焼くような激しい感情。

それは憤怒と憎悪。

心の底から望んだのは復讐。

同胞を弄んだ悪に対する正当な断罪。

それこそが望み。


 それはリュケウスだけでなく、獣魔たち全員の共通認識だった。

彼らは願い、望み、祈る。


「「「我々は望む! 我らを救う救世主の存在を!!」」」


「「「我らは願う! 悪しき者に正当な裁きを下す断罪者の降臨を!!」」」


〈……それでいい〉


 跪き、祈りを捧げる獣魔たち。

その姿を満足そうに見つめ、プルートは他の使い魔たちに尋ねた。


〈こちらは問題ない……〉


〈こっちも問題ないよ〉


〈こちらも想定内、いえ、想定以上です〉


〈では、始めよう……〉


 プルートの呼びかけに答えたのはリーフとアリエル。

そして、13体の神使たちの姿が光の粒子となって崩れ始める。

光は翼蛇が地に伏す場所の上空へと流れ、巨大な輪を形成した。


     *   *   *


「!? これは……」


 虚空を漂っていたフィオは突然の変化に目を見張る。

自分を中心に巨大な光の輪が形成されたのだ。

眩い光は自分を中心に回転し、徐々に強くなっていく。


「この光は……お前たちなのか?」


 光から感じる気配。

それは自分の半身たる使い魔たちのものだ。

だが、それだけではない。


〈どうか、我らに救いを〉


〈どうか、御身に勝利を〉


〈どうか、悪しき神に裁きを〉


〈どうか、邪悪なる者に断罪を〉


 聞こえてくるのは数多の願い。

個人の欲望の混じらぬ純粋な祈り。

その声が大きくなるほどに、光は強くなっていく。


「そうか。これが、信仰を受けるってことか……」


 いや、逆だった。

遥か彼方から、あるいはすぐ傍から。

無数の光が光輪に流れ込み、光輪の輝きを強く、大きくしている。

その結果、聞こえてくる声も強く大きくなっていくのだ。


「これは、なんて力だよ……」


 瘴気を変換していた今までとは比べ物にならない力。

時に神が、手段を選ばず信仰を手に入れようとするのも頷ける。

だが同時に、この声に応えなければならないという義務感も湧き上がってくる。


「なるほど、人が神を生み出すってのはこういうことなのか。でも……」


 怒涛のように流れ込む力。

しかし、ソレを形にすることができない。

力はある。

果たすべき役割もある。

だが、自分だけが定まらない。


「俺は……ん?」


 袋小路に入りかけた思考。

しかし、その時、目の前に複数の影が現れた。


「お前は……」


 それは自分の忠実な下僕である使い魔たち。

そして彼らに囲まれる青年。


 『フィオ』だった。


      *   *   *


〈ふふ、ははは、そうだよ。そうこなくちゃ面白くない〉


 邪神は歓喜の声を上げた。

正直言って落胆していたのだ。

翼蛇の弱さに。


 この世界への直接顕現は、邪神にとっても大きなリスクがあった。

だというのに、立ち塞がった魔神は神になり切れぬ半端者。

力自体は自分と同格だが、その使い方も分からぬ未熟者。


 案の定、勝負はあっさりとついてしまった。

不完全燃焼もいいところ。

落胆もしようというものだ。


 だが、終わりではなかった。

この遊戯ゲームはまだ続く。

自分はまだ遊べるのだ。


 空には巨大な光の円環。

そこに世界中から力が集まっていく。

魔神が復活しようとしているのだ。


〈うんうん、一度倒したラスボスはパワーアップして復活する。ファンタジーゲームの定番だな〉


 楽しげに魔神の復活を待つ邪神は気付かない。

享楽に飲まれた自分が、これまで弄び、嘲笑ってきた転生者と同じ道を進んでいる事に。

目の前にあるのはゲームではなく現実。

神とはいえ、死ねばそこまでなのだ。


 人が神を形作る。

それは邪神とて例外ではない。

転生者たちを食い物にし続けた結果、彼もまた存在を、思考を侵食されていた。

あるいは、それが犠牲者たちの復讐だったのかもしれない。


〈さ~て、今度はあっさり負けてくれるなよ?〉


 邪神は笑う。

気付くことなく笑い続ける。


     *   *   *


 突然目の前に現れた自分の姿に、フィオは驚愕して言葉も出ない。

敵意の類は感じない。

普段通りの不敵な笑みを浮かべているが、とても穏やかな雰囲気だ。


「えっと、これはあれか? 自分自身に勝つって試練か?」 


 混乱して訳の分からないことを口にするフィオ。

だが、自分の鏡像は穏やかな表情のままこちらに歩み寄ってくる。

周囲の使い魔たちも、それを止めようとしない。


「あ~っと……」


 遂に鏡像はフィオの目の前にやって来た。

黒い髪、紫に輝く魔眼、浅黒い肌、どう見ても『フィオ』だ。

だが、そこで気付いた。

手に持っている槍杖が違う。


 本来自分が持っているはずなのは『神槍杖オルピニス』だ。

しかし、目の前の鏡像が持っているのは『竜槍杖セルピヌス』なのだ。

それが意味するのは――


「お前はこの世界に来た直後、いや、来る直前の俺の姿なのか? ゲーム時代のデータか?」


 自分は元はただのデータだ。

ならばその複製が存在してもおかしくない。

アイデンティティが揺らぐような事実だが、ありえない事ではない。

そんなふうに考えるフィオ。


 だが、鏡像は答えることなくその手を差し出した。

その手を取ろうとしてフィオは気付いた。

自分の姿が黒い不定形の塊となっている事に。


 この姿こそが自分の迷いと揺らぎの象徴であると、フィオは直感的に理解する。

しかし、鏡像はそのまま手を伸ばし、フィオの不定形の身体に押し当てた。

すると――


「これ、は……」


 無数の光景が濁流のようにフィオへと流れ込んだ。

暗き森に始まり、ガーゴイルとの戦い、職人たちとの出会い、リッチ狂いの友人、強大な邪竜。

そして使い魔たちとの出会い。


 それは、かつては自分の中にあったはずの記憶。

しかし、この世界での戦いの中で忘れ去っていった記憶。

自分を定義する始まりの記憶。


 そう、自分はどんな敵にも決して怯まず戦い続けた。

知恵を絞り、技術を磨き、自分より明らかに強い敵も打ち破った。

それに比べて、最近の自分はなんと無様だったのだろう。


 魔力の大きさに物を言わせて、ただ力任せに暴れまわる。

これではモンスターと変わらないではないか。

力を手にして強さを失った、まさにその通りだ。


 確かに格下相手には無双ができるだろう。

だが、同格以上の敵にはなすすべがない。

実際、邪神の戦い方はRWOのボスに比べれば大した事は無かった。

なのに自分は負けた。

情けなさと羞恥で頭が沸騰しそうだ。


「そうだ、俺はフィオ。電脳の天才児たるサイバージーニアスにしてRWO最強のプレイヤーだ。あんなキモいだけのボスキャラに負けるはずがない!」


 心が定まる、自分が確立される。

自分という存在が定義され、フィオは目を開いた。

不定形だった自分の姿は『フィオ』の姿を取り戻していた。

そして――


「佐藤、宏輝?」


 自分と右手を繋いでいたのは『フィオ』ではなく、現実のプレイヤー佐藤宏輝だった。



自分と向き合うスピリチュアル展開。

ある意味定番です。


なぜ、データには存在しないはずの佐藤宏輝が現れたのか?

次回捕捉します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ