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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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神が人を、人が神を

宗教家の人は不快に感じるかもしれません。


カミサマって難しいですね。

 絶望。

それが世界中の知性ある存在の抱いた感情だった。

突然、心に直接送り込まれた映像。

そこには世界を蝕む邪悪が映し出されていた。


 そして対抗するように現れた存在。

それは2柱の至高神の姿を模した翼蛇の姿をしていた。

どちらが自分たちの味方かなど考えるまでも無かった。


しかし、現実は残酷だった。

人知の及ばぬ力のぶつかり合いの末、地に伏したのは翼蛇の方だったのだ。

勝ち誇るのはおぞましい軟体生物。

希望は潰えた。


     *   *   *


「そ、そんな……」


「あの人が、負けた?」


 神々の戦いをイメージではなくその目で見ていた2人。

安全圏まで退避したジェイスとルーナだ。

2人は直接その目で見ても信じることができなかった。


 あのフィオが負けた。

常に飄々として余裕を崩さず、圧倒的な力で全ての敵を薙ぎ払った存在が。

至高神の使いにして唯一邪神に対抗できる存在が。


「でも、なぜ?」


 だが、戦闘のプロであったジェイスは違和感も感じ取っていた。

両者の力はほぼ互角だったはずだ。

ならば、勝敗を分けるのはその技量。

フィオは戦闘に関しては神がかった技量を有していた。

なのになぜ負けたのか。


〈時が来たみたいだね〉


「「!?」」


 背後から聞こえた声に2人は驚愕して振り返る。

そこにいたのは緑色の小動物。

リーフであった。


「時?」


〈そう。僕たちが本来の役割を果たす時〉


 語り掛けるリーフの赤い瞳には、これまでには感じなかった深い何かが宿っていた。

王という役割を受け入れ、国を治めるという重圧を受け入れたジェイス。

しかし、そのジェイスも得体の知れないプレッシャー。

見た目は変わらないのに、昨日、いや先ほどまでとはまるで別物だった。


〈天使は白き神の眷属、悪魔は黒き神の眷属。それは知っているかな?〉


「あ、ああ……」


「聞いた事はあります」


〈で、悪魔であるマスターは眷属なんだけど、ただの眷属と眷属『神』の違いって分かる?〉


「「……」」


〈それは……〉


〈それは! 信仰の対象かどうかなのです!!〉


〈……いたの?〉


〈いたわよ〉


 突然割り込んできたハイテンションな声。

妖精女王のフェイであった。

狙っていたのかというようなタイミングに、真っ白い視線を向けるリーフ。

ジェイスとルーナは状況についていけていない。

だが、重要なキーワードは聞いていた。


「信仰の対象?」


〈ジェイス君なら覚えがあるんじゃないの~? 偉業を成した英雄や魔性が信仰対象になるケース〉


〈そういった英雄たちは後に神として扱われることが多いよね?〉


「……確かに」


 日本でもそのケースは多い。

有名どころでは菅原道真であろうか。

彼は学問の神であり、雷神ともされている。


〈そんなわけで、信仰を得たマスターはただの眷属から眷属神に昇神しかかってるんだよ〉


      *   *   *


 鬼王国の国境。

そこではアリエルが鬼王ゴウエンとタラス議長にリーフ、フェイと同じ話をしていた。 


〈白き神や黒き神を代表とする自然発生した原初の神々は、世界法則の化身。だから、彼らは強いけど色々制約が多く不自由な存在〉


 故に彼らは世界に安易に介入することができない。

介入することで逆に被害を増やし、混乱を引き起こすことが多いのだ。

下手をすれば世界そのものを崩壊させてしまう可能性すらある。


 邪神が顕現したのに黒き神が介入してこないのも、これが原因だった。

仮に破壊と再生を司る黒き神が、この世界に直接顕現したとすれば何が起こるのか?

答えは世界のリセットである。

この世界のすべての生命は消え去り、新たな生命が芽吹く下地となってしまうだろう。


〈一方で英雄や神種が昇神した後天的な神は、原初の神に比べれば弱いけど割と自由に力を振るえる〉


 だからこそ黒き神は代行者としてフィオを送り込んだ。

そして、彼が暴走するか完全に敗北するまでは介入しないことにしたのだ。

もちろん他に手段は無ければ介入するつもりである。

邪神に喰い潰されるくらいなら自らの手でリセットし、邪神も滅ぼす。

他の神々も容認するだろう。


〈マスターは今、神種と神との境界線に立っています。ですが、それでは邪神に勝てない。後いくつかの条件を満たせばマスターは神の領域に足を踏み入れる。その手助けをするのが私たち使い魔、いえ、神使の本当の役割なのです〉


 天使の姿をしたアリエルは神託を伝えるように語る。

その厳かな姿を、ゴウエンとタラスは茫然と見つめていた。


      *   *   *


「……ここは?」


 気が付くとフィオは虚空を漂っていた。

邪神の姿は見当たらず、ここがどこなのかも解らない。

自分が邪神に倒された事は覚えているのだが、その後の事が記憶になかった。


〈無様な姿を見せてくれたな〉


「!!」


〈何だ、あの中途半端な顕現は。アレなら魔王形態の方がまだ勝ち目あっただろうに〉


「ファラク……」


 威厳に満ちた黒き神の声がフィオの心に直接話しかけてきた。

だが、その内容は辛辣だ。

当たっているだけにフィオも返す言葉がない。


「力はほとんど互角だったはず。なのに、なんであんなに手も足も出なかったんだ? やっぱり相手が神だからか?」


〈間違ってはいないが、外れてもいない。お前はすでに神気を操り始めている。だが、生粋の神である邪神より制御が甘いのも確かだ〉


「そういえば、あの野郎もありがちな勘違いがどうとか言っていたような……」


〈それだ〉


「え?」


 フィオとしては何となく耳に残っていた程度だった。

そもそも、敵の言葉を素直に信じるほどフィオは楽天家ではない。

しかし、邪神が思わず漏らした言葉は的を射ていたのだ。


〈我らは初めから『こう』あるように定められて誕生した。だが、お前たちは違う。お前たち後天的に誕生する神は、捧げられた祈りや願いによってその本質が定められる〉


「有名な学者が学問の神に、優秀な武将が戦いの神になるみたいなものか……」


 神が人を創造したのか、人が神を想像したのか。

それは、魔法優位の世界においては前者であり、物質優位の世界では後者と言える。

魔法優位の世界では、そこに住む者達は神の存在を様々な形で認識できる。

人も猿から進化するではなく、神が直接生み出すのだ。

神の存在を疑う者はいない。


 逆に物質優位の世界では、神の存在を証明できないことが多い。

逆に人が獣から進化したことが証明された時、人の心から神は消え去る。

心の平穏のために神を信じる事はあるだろう。

だが、客観的に神の存在を証明できない以上、いないとは言えないがいるとも言い切れない。

霊と同じ、あやふやなオカルトにカテゴライズされてしまう。


〈そして、フィオよ。お前は邪神との戦いでなぜあの姿を取ったのだ?〉


「え? いや、俺にとっての神のイメージって、あんた達だったからとしか……」


〈そこが、すでに間違っているのだ。必要なのは他の誰でもないお前自身が、いかなる神なのかというイメージだ。他者の姿を借りたところで、それは出来損ないの紛い物にすぎん〉


「あ……」


〈見るがいい、聞くがいい。お前に捧げられる祈りを、願いを。そして定めるがいい、お前自身を〉


「……わかった」


 だが、この世界、ハノーバスは魔法世界。

神が存在する、神が人を創造した世界。

祈りは神に届き、神はそれに応える。


「人々が望み、祈るから神が生まれる……か」


 そして、同時に人が神を創造する世界。

人が神を望むことで、新たな神が生まれる世界。

今、数多の祈りに応えるため、新たな神が誕生しようとしていた。


フィオの定める自分の姿とは?

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