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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
193/216

悪魔vs邪神

 邪神の全身に神気が満ちる。

おぞましい触手だらけの身体が、赤黒い神気に包まれさらに禍々くなっていく。

対抗するようにフィオも神気を高め、魔神化しようとする。


〈(力はほぼ互角。逆に言えば全力を出せる魔神化無しでは勝ち目は無い、か……)〉


 正直言ってフィオ自身、魔神形態を制御しきる自信があるわけではない。

だが、魔神形態でなければ勝負にならないと確信している。

選択の余地がないのだ。


 それは例えるなら、勢いのある若手と経験豊富なベテランの戦い。

若さは可能性の源泉ではあるが、同時に未熟さの証でもある。

力量が互角なら不利なのは前者だ。


〈どうしたんだい? 神気の扱いに不慣れなのかな?〉


〈余計なお世話だ……〉


 悪辣な謀略家は人の心の機微に敏感だ。

観察力に優れているからこそ他者を手玉に取り操れる。

邪神にとってフィオの葛藤を見抜くことなど造作も無い事だった。


〈(魔神、つまりは神。俺にとっての神のイメージは……)〉


 前回、一瞬だけ魔神化した際は暴走寸前だった。

フィオ自身はその原因が不完全なイメージにあったと分析している。

高位精神生命体とは形を持ったエネルギー体だ。


 性質としては精霊に近く、存在するためには自身を定義付ける要素が必要となる。

例えば精霊は属性によって自身を定義付けられている。

天使や悪魔は初めから役目を持って創り出され、そのための能力を備えている。

しかし、フィオにはそれがない。


 魔王化は使い魔たちの姿を組み合わせてイメージをデザインしている。

だが、魔神化はその方法が使えない。

フィオ自身が神のイメージを定めなければならないのだ。


〈……よし〉


 やはり神と言われて真っ先に思い浮かんだのは黒き神だ。

あの威容は正しく神だった。

次に思い浮かんだのは白き神。

直接見たわけではないが、翼を広げた猛禽の像は神々しい威厳に満ちていた。

その2つを組み合わせる。


〈【魔神化】〉


        *   *   *


 大悪魔の身体が黒い輝きを放ち、その輪郭が歪む。

その身体は細長く伸び、さらに大きな翼が形成される。

そして現れたのは冗談のように巨大な翼蛇であった。


 全身は隙間なく装甲板のような漆黒の鱗で覆われている。

中央よりもやや頭部寄りの場所には、実体のない白い光で構成された翼が優雅に羽ばたいている。

2柱の最高神の姿を模した姿。

それがフィオの選んだ魔神化形態であった。


〈よし、暴走はしていない。上手く行ったか〉


〈おやおや、そうきたか〉


 一先ず安定した身体に安堵するフィオ。

だが、そこに水を差すように邪神が話しかけてくる。

その声はどこか拍子抜けしているようだった。

魔神化が終わるまで待っているあたり、完全にフィオを侮っている。


〈余裕だな。負けるはずがないってか? だが、行き過ぎた自信は油断に繋がるぞ?〉


〈まあ、ものを知らない若輩、特に昇神した者達にはありがちな勘違いだけど……。まあいいさ、行くぞ!〉


 刺胞生物が獲物を捕らえるように、邪神の触手が一斉に伸ばされた。

その先端には針の代わりに神気の刃が形成されている。

自身を包み込むように襲い掛かる触手を、翼蛇は急上昇することで回避する。


 しかし、邪神は触手に生えた神気の刃を矢のように発射し追撃する。

翼蛇は上空で方向転換すると翼に神気を収束し、無数の羽を光弾として打ち出した。

空中で神気の矢と光弾が激突し、それぞれを相殺していく。


 爆発は起きない。

2柱の神の神気は接触すると対消滅を起こし、共に消え去ったのだ。

だが、翼蛇は高速でその場を離れた。

直後、威力は減衰し、数は減ったが未だに健在な神気の矢が通り過ぎていった。


〈ちっ! 押し負けたか!〉


〈数だけで力の集束が甘いんだよ。やはり神気の扱いに不慣れのようだね〉


〈ああ、そうかい!〉


 伸ばされた触手を置き去りにするように翼蛇は飛翔し、邪神の本体に接近する。

だが、それを見過ごす邪神ではない。

本体から新たな触手が無数に生え、翼蛇を迎え撃つ。


 襲い掛かる触手が翼蛇の尾の一薙ぎで蹴散らされる。

神気の対消滅が起き、ボロボロと触手は崩れていくが、新たな触手が次々と襲い掛かってくる。

さらには最初に躱した触手が背後から追いついてきた。


 自身が挟撃されかけている事に気付く翼蛇。

囲まれないように離脱しようとした時、触手に無数に存在する口が開かれた。


――ゴバァ!!


〈ぐあっ!!〉


 その口から赤黒い煙が吐き出され、一瞬で翼蛇を包み込む。

即座に脱出するが、身体の調子がおかしい事に気付く。


〈ぐ、これは……? 毒か?〉


〈似たようなものだよ。力任せに突っ込んでくるだけじゃあ、私には勝てない〉


〈く……〉


 動きの鈍った翼蛇に再び触手が襲い掛かる。

必死に回避する翼蛇だったが、次第に触手に囲まれていく。

それはまるで、鳥籠の中に閉じ込められていくような光景だった。


〈ほらほら、逃げないと〉


 今度は触手に開いた無数の目が輝き、レーザーのように集束された神気を撃ち出してきた。

全方位からの攻撃を回避することはできず、翼蛇は全身に被弾してしまう。

だが、攻撃を受けながらも全神気を口に収束し、邪神目がけて発射した。


〈食らえ!〉


〈おおっと!?〉


 神気のブレスは鳥籠を貫き、邪神本体に襲い掛かる。

しかし、直前で地中から無数の触手が現れ、整列し防壁を形成した。

1枚2枚と防壁は貫かれるが、ブレスの威力は徐々に減衰していく。

そして、邪神に到達する直前にブレスは消え去ってしまった。


 だが、翼蛇はその隙に鳥籠からの脱出を図っていた。

ブレスによって空いた穴に突撃する翼蛇。

鳥籠が解けて触手が翼蛇に絡みついてくるが、神気を全開にした光翼を羽ばたかせて打ち払う。


〈よし! 脱出……!〉


 だが、鳥籠から脱出する寸前、見えた。

邪神の本体に2つに裂けたように見えるほど巨大な口が開き、そこに赤黒い光が収束している光景が。

慌てて回避しようとするが、触手に阻まれそれもかなわない。


〈お返しだよ〉


〈クソッ!〉


 邪神から極太の光線が放たれ、翼蛇を襲う。

翼蛇は光翼を盾のように前方に展開し、防御する。


――バチバチバチバチ


〈ぐうううう……〉


 光翼が光線によって削り取られていく。

さらに周囲の触手の目からも光線が放たれ、翼蛇の全身を貫く。

翼蛇はとぐろを巻くように体を小さく縮め、必死に耐える。


――バチィ!!


 遂に翼蛇の光翼が弾け飛ぶ。

しかし、邪神の光線も相殺され、力を失った。


〈(何とか防いだか……)〉


 危機を凌いだ翼蛇は反動で吹っ飛ばされながらも安堵する。

だが、危機は過ぎ去ってなどいなかった。

吹っ飛ばされた先には、蜘蛛の巣のように編まれた触手の網が待ち構えていたのだ。


――シュルシュル


〈なっ!? しまった!!〉


 ようやく捕らえた獲物を逃がさん、とばかりに触手が絡みついてくる。

さらに無数の口が一斉に牙をむき翼蛇の全身に噛み付き、毒を流し込んでくる。


〈ぐ、この……〉


 囚われた翼蛇は簀巻き状態にされてしまう。

だが、諦めず脱出するために自爆のように全身から神気を放出しようとする。

しかし、邪神が黙ってそれを見ているはずがない。


〈ここまでだね〉


〈!?〉


 翼蛇に巻き付く無数の触手。

その全てが不気味に脈動しながら輝き始める。

そして


――ドオオオオォン!!


 赤黒い閃光に翼蛇が飲み込まれる。

邪神は触手を構成する自身の神気を意図的に暴走させ、爆発させたのだ。

もちろん、すでに本体から切り離していたので本体に影響はない。


 消えゆく閃光の中から翼蛇が落ちてくる。

その全身は傷だらけで、ボロボロだ。

地面に落下した衝撃で、光翼も消え去った。

力尽きたのか、全く動く気配がない。



 それは翼蛇、フィオにとって初めての敗北だった。



第1ラウンドの怪獣決戦は邪神に軍配が。


邪神が気付いたフィオの、あるいは昇神した若手に多いミスとは?


何故、力はほとんど互角なのに差がついたのか?


次回判明します。

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