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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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リバース

決戦前の前口上といったところです。


なんだかんだでフィオと邪神は初対面なんで。


そんな感じがしないのが不思議ですけど。

 空を覆う黒雲が急速に広がっていく。

さらに、その色は赤みを帯びていき、邪神と同じ赤黒い色に変わってしまった。


〈これは……〉


「空が……」


「結界が乗っ取られたのか……」


〈はは、便利そうだから利用させてもらうよ〉


 巨大な城型の魔道具を使用し、世界でも屈指の魔力量を誇る吸血貴族が何十人がかりで必死に維持している超大規模結界。

それをあっさりと乗っ取り、北大陸、いや全世界にまで広げてしまう。

それは邪神が間違いなく『神』に相応しい力を持っている事を証明していた。


〈で? 全世界を暗闇で覆って終わりか?〉


〈ははは、まさか。それだけのはずがないだろう?〉


 邪神の軽薄な声には、神を思わせるような威厳はまったく感じられない。

そして、人を小馬鹿にしたような口調は聞いているだけで不快感を感じさせる。

真面目な人が、チャラい人間や不真面目な人間に感じる不快感を強くしたようなものだろうか。


「く、バカにしやがって……」


「なんて不愉快な……」


 ジェイスとルーナも不快感に襲われているのだろう。

だが、同時に圧倒的な力の差も感じているのか声に力がない。

邪神はそれを満足そうに見つめている。


 そう、邪神とて神の端くれだ。

威厳を出そうと思えば簡単に出せる。

だが、あえてしない。


 圧倒的な強者が気まぐれに行動する。

それは弱者に強い不安とストレスを感じさせる。

ネズミを甚振る猫のように、邪神は楽しんでいるのだ。


〈(マスター!)〉


〈(アリエルか? 何があった?)〉


〈(空を見ると、マスター達の姿がイメージとして情報粒子体に投影されます)〉


〈(何?)〉


〈(周囲の魔族たちも同様です)〉


 フィオは空の赤黒い雲を睨みつけた。

どうやら、あの雲はこの場の状況を広範囲に送信しているようだった。

自分と邪神の姿は、おそらく世界中で認識されているのだろう。


〈ずいぶんとふざけた事をしてくれたみたいだな?〉


〈せっかくの最終決戦なんだ、ギャラリーは多いほうがいいだろう?〉


〈こそこそ暗躍していた割には目立ちたがりだな〉


 そう、フィオは違和感を抱いていた。

いままで百年単位で仕込みを行い、決して表に出なかった邪神。

南大陸での最終決戦では確かにちょっかいをかけてきたが、それにしたって一瞬だった。

ここまで堂々と姿を現すなど、正直フィオは予想していなかった。


〈まあ、最後くらい派手に生きたいじゃないか〉


〈最後だと?〉


〈はは、実はこの世界での仕込みはグラーダ君でネタ切れなんだよ。だからもう次の世界に逃げようと思っているんだ。おっかない蛇さんもしつこいしね〉


〈大人しく去れば良いじゃないか。なぜ、リスクを冒してまで出てきた?〉


 やはりフィオには理解できない。

あの黒き神に追い回されているのだ。

ネタが切れたならさっさと逃げるのが最良だろう。


 世界の内側に顕現したりすれば、他のハノーバスの神々だって黙ってはいないはずだ。

今、ここでフィオを倒したとしても無事に世界を脱出できるか相当に怪しい。

自身の消滅を天秤にかけるだけのメリットがあるとは到底思えない。


〈決まってるだろう? やられっぱなしじゃ悔しいじゃないか〉


〈はぁ?〉


〈この世界の神は未熟だけど、真正の神だけあって力だけは本物だ。連中の目を盗んであれこれ仕込むのは結構大変だったんだ。でも苦労した分だけ満足感も大きかった。それをなんなんだよ、君は。突然異世界からポロっと紛れ込んできたと思ったら、次々に玩具を壊し始めて。ふざけてるのか?〉


〈……〉


 ふざけてるのはどっちだ、と思うフィオだが口にはしない。

こういう奴だから邪神なんて呼ばれているのだから。

それより気になったのは邪神の考え方だ。

これではまるで――


〈まるで人間みたいな考え方だな〉


〈……なんだって?〉


〈俺が知っている神はもっと無機的というか、プログラムみたいな性格だった。でもお前は、なんて言うか神らしくない。むしろ人間そっくりだ。ゲスな人間にな〉


〈……〉


 今度は邪神が黙る番だった。

プライドが傷ついたのかもしれない。

何しろ利用し遊ぶだけの玩具に似ていると言われたのだから。

神としての在り方は外れても、神としてのプライドは失っていない。

歪んだプライドであったとしても。


 もしこの会話が聞こえていれば、この光景を見ている全世界の住人たちの恐怖心も軽くなったかもしれない。

人は未知を恐れる。

邪神の人間臭さは、邪神を未知から既知へと引きずり落とすものだった。


 だが、そうはならなかった。

邪神によって改変された結界の機能は、あくまでイメージ映像に限定されたもの。 

音声までは伝えられない。

この会話を知るのは当事者たちと2人の吸血鬼たちのみ。


〈やっぱり不愉快だよ、君は〉


〈人を不愉快にさせる奴ほど、自分の沸点も低いものだ。やはり人間らしいな、お前〉


〈……〉


〈……〉


「あ……」


「うう……」


 急激に高まっていく圧力に、ジェイスとルーナは苦悶の声を上げる。

眷属神と元下級神、低位とはいえ2柱の神の放つプレッシャーは凄まじい。

流石の2人も意識を保つだけでやっとだった。


     *   *   *


〈お前たちは城に引き返せ〉


「え?」


〈巻き込まれれば確実に死ぬぞ。急げ〉


「は、はい!」


 フィオの忠告に慌てて逃げだすジェイスとルーナ。

一方、フィオは少なからず衝撃を受けていた。

浅からぬ交流のあった2人を忘れ、邪神と戦おうとしていた自分に気付いたからだ。


 自身の力の掌握が進むにつれ、人間性が失われている事には気付いていた。

だが、ここまでとは自覚していなかったのだ。

先程の邪神とのやり取りを思い出す。


 邪神は長く人間とかかわったため、徐々に内面が人間に近付いている。

奴自身は否定しようとも、おそらくそれは事実だ。

だからこそ、人間の心理を理解し利用し踊らせることができるのだろう。


 もしかすると奴が邪神となった原因は、過剰に人間と接しすぎたからなのかもしれない。

だからこそ、真正の神たちは世界に、人間に干渉しすぎないようにしているのかもしれない。


 では自分はどうか?

真逆だ。

神として振る舞い、力を振るうことで内面が神に近付いている。

それは人間性を失っている事と同義。


〈俺とお前は、お互い鏡なのかもな〉


〈なんだって?〉


 神として生まれ、人間に近付いた邪神。

人に近しい存在でありながら神に近付いた自分。


 自らの意思で役割を放棄し、あるがままに生きる邪神。

己の存在意義を持たず、他者の意思に従い生きる自分。


 そして、世界に災いをもたらす邪神。

世界に秩序をもたらす自分。


 まるでコインやカードの裏と表だ。


『リバース・ワールド・オンラインですか?』


『そう、もう一つの現実、もう一つの世界。リアルの裏のファンタジーさ』


『へえ、そんな意味があったんですか』


 フィオの脳裏に記憶にない、しかし懐かしい声が浮かんでくる。

それは、存在しないはずの遠い昔の会話。


『もう1つの意味はリ・バース。再誕って意味だね』


『再誕ですか?』


『VRゲームって、流行りの異世界転生みたいだと思わないかい? なんだか別の世界に生まれ直したみたいで』


『言われてみると確かに……』


『さて、雑談はこの辺にして真面目な話をしようか』


『脱線させたのは教授じゃないですか……』


 それは、この世界には存在しない過去。

二度と交わることのない現実。


〈リバース・ワールド、か……〉


〈なに?〉


〈いや、こっちの話だ〉


〈話ね。お互いに会話なんて不要。ただ滅ぼしあうのみ。そうだろう?〉


〈全く同感だ〉


 そして、両者は同時に戦闘態勢に入る。

邪神は神気を高め、フィオも神槍杖を起動し魔力を神気に変換する。

だが、フィオは最後にチラリと考えた。


〈こいつ、神よりも人間に、一般人よりもゲーマーに近いのかもしれないな……〉


 ヘビーなゲーマーの中には悪役ヒール演技ロールを好む者達がいる。

もし、かつての自分の世界に人間として生まれていれば。

意味は無いと思いつつも、フィオはそんな事を思わずにはいられなかった。


次話、遂に悪魔vs邪神。


力そのものはほぼ互角。


勢いのある若手と老獪なベテラン。


その勝負の行方は?

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