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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
189/216

照陽

RWO書籍化情報が解禁されました。

詳しくは活動報告で。

ラフ画の公開もやってます。

「もういい! もういらねぇ!! 俺のモノにならないなら!!」


 記憶の混濁から立ち直ったのか、グラーダが据わった眼で吠える。

ジェイスとルーナは攻撃の機会を逃してしまった事を悔やむがもう遅い。

一周まわって冷静になってしまったグラーダは、膨大な魔力を制御し始める。


「ぶっ壊してやる!!」


「ぐっ!!」


「速い!?」


 コマ送りのように2人の背後に現れるグラーダ。

2人の間を高速で駆け抜けたのだ。

純粋な速さだけではない。

減速からの加速、緩急によるフェイントだ。


 おまけに2人の身体にはいくつもの切り裂かれた傷が残っていた。

すれ違いざまに切られていたのだ。

傷自体は瞬時に再生する。


 しかし、グラーダの攻撃には確かな技術がこめられていた。

先程までの獣のような戦い方とはまるで違う。

パワー自体は落ちているが、こちらの方が遥かに強敵だった。


「くくく……、いける。いけるぞ。俺は王族にだって勝てる」


「今のは……」


「彼の本来の技量ですね……」


「こっちの方が遥かに手ごわいな」


「そうだ、王族なんていなくても良いじゃないか! いっそ王族なんていなくなれば残るは貴族だけ。そうなれば俺が次の王になる事も!!」


 これだけの事をやらかした者を民が王と認めるはずがない。

だが、グラーダは気にしない。

彼にとっては民あっての王ではなく、王あっての民なのだ。

だから認められるかどうかなど気にした事は無い。

現世いま前世むかしも。


 多少冷静になっても、視野狭窄までは改善しなかったグラーダは気付かない。

防戦一方のジェイスとルーナが全く焦っていないことに。

そして、空の異変に。


          *   *   *


 一方、王城の地下。

夜の国を覆う結界を維持するための魔法陣の部屋。

そこでは多くの貴族達が必死に魔方陣の操作を行っていた。


「フォーヴォス卿、戦況は硬直状態ですが長引くと……」


「ああ、陛下たちが不利になるな」


 ジェイス達が王城を離れたことで結界は魔力供給を失った。

本来なら貴族たちが総がかりで結界を維持するところだが、今回はそれをしていない。

そのため結界は徐々に効力を失い始めている。


「王城の避難、完了しました」


「結界の調整、もう、少しです」


 ジェイスとルーナから王城の制御キーである王笏を借り受けたフォーヴォス卿。

だが、制御を代行する負担は相当なものだ。

時折、頭痛をこらえるように頭を押さえている。


「調整完了です!」


「よし、陛下たちに連絡を!」


 グラーダを討ち取るための罠。

切り札の準備が遂に整う。


          *   *   *


「オラァ!!」


「くっ! 【影分身】!!」


「無駄だぁ!」


 モンスターの能力を使ったトリッキーな戦い方を捨て、純粋な技で2人を追い詰めるグラーダ。

吸血鬼の能力も、お互いが使用できるため決定打にならない。

2人はジェイスの元々持っていた影人シェイド族のスキルを使用して対抗している。

しかし、圧倒的な魔力と身体能力の差は完全には埋められない。

徐々に旗色が悪くなっていく。


「ははっ!! いいぞ、馴染んできた!! どんどん調子が良くなっていくぜ!」


「これは予想より厳しいな……」


「ええ……、もう少し削りたいところですけど……」


「……? てめえら、何を企んでいる!!」


 ジリ貧な状況にもかかわらず冷静な2人に不信感を抱くグラーダ。

しかし、2人がチラリと視線を向けた方向を見て察する。

そこでは悪魔とヘカトンケイルが戦い続けていた。


 戦況は明らかに悪魔が優勢。

ほどなく悪魔の勝利という形で勝負はつく。

そうなれば悪魔が援軍として駆け付けてくるだろう。


「(なるほど、援軍頼みか。王族ともあろうものが情けないなぁ)」


 グラーダは多少強引にでも勝負をつけることにする。

状況を見ればそれは妥当な判断だった。

……それが2人に誘導された判断でなければ。


「止めだぁ!!」


「「!?」」


 その身に宿す全ての魔物、自分自身、そして世界樹の力を全開にして突撃するグラーダ。

小細工など不要。

膨大なエネルギーが彼自身を砲弾へと変える。

もし、この力が地上に放たれれば、隕石が落ちたような凄まじい災厄となっただろう。

こんなものを受ければ木っ端微塵、完全消滅だ。

そうなれば再生も何もありはしない。

だが――


「今だ!」


「フォーヴォス卿!」


「!!?」


 突如、光が差し込んだ。

空を覆う結界により届かぬはずの太陽光。

それが天より降り注いだのだ。


「あ? あがああああああぁ!?」


 その光の柱に飛び込んだ瞬間、グラーダの全身に凄まじい衝撃が走り抜けた。

まるで巨大な建物に亀裂が走ったように。

ネジや釘といったパーツとパーツをつなぐ部品がいきなり壊れたように。

完璧に調整されたはずのボディが軋みを上げていた。


「あ、ああ……。こ、これは……」


 グラーダ自身、何が何だか分からない。

同じ光を浴びているのにジェイスとルーナは平然としている。

苦しんでいるのは自分だけだ。


「グラーダ、お前は言ったな? 王族などいらないと。そう考えて反乱を起こした貴族が、歴史上いなかったとでも思ったか?」


「吸血鬼という種族はとても強い。だからこそ私たちは謙虚であらねばならないのです。でも、時には野心に取りつかれる者も現れた。貴方のように」


 ここでようやく、グラーダは何が起きているのか理解した。

この世界に転生してから一度も浴びたことのなかった光、太陽光。

それが今、無敵になったはずの自分の身体を焼いているのだ。


 否、焼いているなどという生易しいものではない。

まるで全身が崩壊しかけているような苦痛だった。

先程の王族の血による苦痛など比較にならない。


「王城の結界を操作できるという事は、部分的に結界を解除する事も、部分的にその機能を逆転させることもできるんだよ」


「王族以外の吸血鬼が暴走した時に使用される最終兵器。王城はただの城ではないのです」


 もちろん制約も多い。

グラーダが反乱を起こした時、先王は結界を操作する前に殺されてしまった。

例え操作できたとしても、敵味方が入り乱れる状況では使用を躊躇っただろう。


 だが、今は違う。

ここは王城の真上であり、最も結界の影響を受けやすい場所だ。

さらに王城の避難はすでに完了しており、貴族たちも光の届かぬ地下に潜んでいる。

隠れようにも空の上に遮蔽物はなく、逃げようにも2人が逃がさない。


「あ、が……、何でだ? おれは、吸血鬼を、超えたはず……。何で、太陽ごときで……」


「グラーダ、お前の能力【融合】は、あくまで『吸血鬼グラーダ』の能力だ。どれだけ他の種族の身体を取り込んでも、お前が吸血鬼じゃなくなったわけではないんだ」


「むしろ太陽光によるダメージで、【融合】の能力が不安定になっているはずです。貴方は今、拒絶反応でしたか? その苦痛も一緒に受けているのでしょう」


 ルーナは生物の免疫反応の知識など持たない。

しかし、他の生物はもちろん、同種族同士でも基本的に身体の部品を付け替えることなどできない。

それが自然の摂理なのだと知っていた。

それに違反するからこそ、合成獣キメラは自然界には存在しないのだと。


「あ、ああ……。身体が、崩れ、て……」


 遂に【融合】の能力を維持できなくなったのか、グラーダの身体はドロリと溶け始める。

そして――


――ドクン


 グラーダに取り込まれていた世界樹の種が、太陽光を浴びて強く脈動した。


RWOカバーイラストです。

第2エリア最終装備のフィオとアンデッドナイトのネクロス、スプライトのフェイです。

バックには邪竜のシルエットが。


挿絵(By みてみん)

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