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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
188/216

簒奪者の妄執③

書籍化作業もあと少し。


許可が出たらイラスト公開をする予定です。

 ジェイスとルーナの突き込んだ刃は、グラーダの左右の胸に存在する心臓を正確に貫いた。

さらに傷口から大量の王族ロードの血液が注ぎ込まれ、グラーダの全身を蝕む。

だが、グラーダは渾身の力で体を動かし、2人を振り払った。


「潰れろ!」


「壊れなさい」


――ブシュウ!!


「ガアアアアアアァ!?」


 振り払われた2人を追撃しようとするグラーダ。

しかし、2人の叫びと共に身体のあちこちが崩壊した。

グラーダの体内に取り込まれた王族の血。

それがグラーダの肉体を自懐させているのだ。


「哀れだなグラーダ」


「自分の身に何が起きたのかも理解できていないのでしょうね……」


 全身に血液を送り届ける循環機能の中枢である心臓。

さまざまな生物の合成獣キメラと化したグラーダであっても、その機能は変わらない。

ゆえに心臓に一撃を加えることができれば、そこを通じて全身に王族の血を浸透させることができる。

問題はどうやって心臓に攻撃を加えるかだが、それもグラーダ自身が隙を見せてくれていた。


「お前は霧化した身体を集めきる前に戦闘に突入した。それがお前の敗因だ」


「貴方が集める霧化した肉体。私たちはそこに自分の血を潜ませていたのですよ」


 種明かしは単純だ。

ジェイスとルーナは戦闘中に飛び散った自身の血を【操血】の能力で気体化させていた。

そして、その血をクラーダの霧化した肉体に紛れ込ませ、体内に侵入させていたのだ。

一見不毛な消耗戦に見せかけて、ただ一度のチャンスを生み出すために。


 さまざまな生物のパーツをツギハギしたグラーダの肉体は、異物に対して鈍感になっていた。

それでも、グラーダが理性を保っていれば違和感を感じる事は出来ただろう。

そもそも、霧化した肉体を全て集めてから戦闘を開始すれば問題は無かったのだ。


 事実、口や鼻から侵入しようとした血は全て排除されている。

グラーダが自分から取り込むという形だったので、これほど容易く侵入されたのだ。

すでに異形の肉体はボロボロと崩れ、徐々に普通の人型に近付いている。


「さあ、裁きの時だグラーダ」


「父や兄、そして多くの民を虐げた罪を……え?」


 止めを刺そうと魔力を練り上げたジェイスとルーナ。

しかし、その目が驚愕に見開かれる。

切り裂かれたはずのグラーダの心臓が力強く脈動し、崩壊した肉体が修復され始めたのだ。

そして、身体のあちこちからブシュッ、ブシュッと血が噴き出し始める。


「俺たちの血が体外に排出されているのか?」


「そんな……完全に浸透していたはずなのに……」


 もちろん、相当な無茶をしているのだろう。

王族の血が排出され、肉体が再生するたびにグラーダの魔力がごっそり失われている。

まだまだ2人の魔力の総量よりも多いが、それでも手が届く程度まで減少している。


 しかし、元々グラーダは膨大な魔力を持て余していた。

魔力の減少が戦闘力の低下に直結しているかは不明だった。

やがて切り裂かれた胸の傷も徐々に消えていく。

最後に見えた心臓は、あれだけ損傷したのに変わることなく脈動していた。


「……そうか、アレは巨人族の心臓だ」


「巨人の心臓……。ヘカトンケイルに組み込まれているのだから、グラーダ自身に組み込まれていてもおかしくなかったわね……」


「むしろ当然か。ヘカトンケイルを使役している大本なんだからな」


 巨人族の不死身に近い生命力。

それをもたらす巨人族の心臓の力。

それは2人の想像以上のものだった。


          *   *   *


「……何故だ?」


「は?」


「え?」


 静かに、しかし煮えたぎるような感情をこめて発せられた声。

ジェイスとルーナは、それが誰の声であるかすぐには理解できなかった。

それはそうだろう。

荒れ狂っていた野獣が突然話しかけてきたのだから。


「グラーダ、正気を取り戻したのか?」


「でも、少し様子が……」


「なんでだ! なんでいつもそうなんだ!! 俺は何でも手に入るのに、手に入れられるのに、肝心なものが手に入らない。なんで虫けらみたいな愚民どもが当たり前みたいに持ってるんだ? はは、そうだよ、不敬なんだよ。そうだ、だったら取り上げてしまえば……」


 虚ろな目でブツブツと独り言をつぶやくグラーダ。

その姿は先ほどまでの狂乱と比べれば落ち着いている。

だが、2人が知る傲慢だが貴族然としていた姿とは程遠い。

まるで我儘な子供の様だった。


「……前世での出来事? 記憶が混濁しているのか」


「前世の記憶? これが……」


 グラーダの独白は彼の前世での記憶だった。

彼は支配者層に生まれ、誕生した瞬間から金も権力も持っていた。

だが、ただ一つ大多数の人間がほぼ無条件に手にしているものを、彼は持っていなかった。


 それは健康な肉体。

彼は先天性の疾患を抱えて生を受けたのだ。

家族の誰一人として抱えていない、原因不明の不治の病。

彼の肉体は次々と機能不全に陥った。


 一般人なら10代で間違いなく命を落とす病。

しかし、彼の親は持てる力の限りを尽くして治療した。

もちろん完治はできないが、限界まで延命を試みた。


 だが、そんな親の愛情もグラーダの憤りを癒すことはできなかった。

金はある、権力もある。

だが、それを使う身体が無い。

それは御馳走を前にしても食べられない病人の苦しみ。

グラーダの心は歪んでいった。


「生きている事はそれだけで素晴らしい、というのは奴にとっては皮肉にしか聞こえないか……」


「あるいは延命などせずに死んでいた方が良かったのでしょうか?」


 ジェイスもルーナも攻撃の手を止め、グラーダの独白に聞き入ってしまう。

時間をかければダメージが回復してしまうのだが、それでも興味の方が勝ってしまった。

おそらくはグラーダの暴挙の根底にあるであろう前世の記憶、それを知りたかったのだ。

特に家族を、国を奪われたルーナは。


「憎らしかった! 金も教養も無い下賤共が笑って外で遊んでいるのが! 命を失う恐怖も知らずノウノウと生きているのが! 身体が徐々に壊れていく苦痛を知らないのが! だから思い知らせてやったんだ! はは、いい気味だ! 何が家族がいれば幸せだ! 俺が哀れ? ふざけるな!!」


 だが、そこにルーナが納得できるような理由は存在しなかった。

あったのは他者も引き摺り下ろしたいという歪んだ願望だけ。

耳を疑うような狂った独白は続けられる。

それはかつて異なる世界で実際に行われた惨劇だ。


「自国の民を誘拐して移植用の臓器を調達した、だと……」


「人々を手にかけ、死体を切り刻み売り払う? 何という事を……」


 グラーダの逆恨みの対象となった民は、次々と誘拐されていった。

血液型が適合していた者達は予備のパーツとして生かされ、必要な時に使われた。

適合しなかった者達は、適合臓器を手に入れるための交換用品として即座に解体された。

まさしく狂気の沙汰だった。


 だが、息子を溺愛する親はむしろそれを率先して後押しした。

そうでもしなければ、息子を延命させるために必要な臓器が用意できなかったからだ。

国もこの違法な臓器ビジネスを見て見ぬふりをした。

国が気付いた時には、この臓器売買が重要な産業となっていたのだ。


 移植用臓器は常に世界中で不足している。

被害者から見れば、いや一般的な倫理観に照らし合わせればまぎれもない悪。

だが、その臓器によって救われた者達からすれば正義だった。

裏で支援する者も現れたほどだ。


 もっとも、大半の移植を受けた者達は裏事情など知らない。

知ればまともな精神の持ち主は耐えられないだろう。

事実、グラーダの死後、偶然裏事情を知った患者の告発によって、この臓器売買は明るみになった。

グラーダの親を含む関係者は捕まり、国家ぐるみの犯罪は世界を震撼させた。


「異世界に来て健康な肉体を手に入れたっていうのに、なんで同じことを繰り返すんだ……」


「彼の肉体合成能力は、この前世の経験が強く影響しているのですね」


 人間の欲に限りはないということだろうか。

異世界転生を果たし渇望していた物を手に入れたグラーダは、しかし満足できなかった。

これが手に入ったのだから次は……と、さらなる欲望を募らせてしまった。


 そして、2度目の人生でも味わってしまう。

自分が最も欲しいものが手に入らないという憤りを。

そして、それを手に入れたのは……。


「お前さえいなければ……ジェイス……」


少し正気を取り戻したグラーダ。


次話、第2ラウンド開始です。


因縁の勝負はどのような結末が?

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