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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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人と神

 獣魔国強硬派の暴走というトラブルはあったが、会議は比較的順調に進んだ。

他国との交渉も、フィオと使い魔たちの念話によって大まかな情報伝達ができるのは大きかった。


「では、一度4ヵ国首脳会談を行うという事で話を進めよう」


「御意」


「次は北部の状況ですが……」


 会議には貴族だけでなく平民の文官も参加している。

文官1人1人がどれだけ優秀だろうと、物理的に手が足りないのでは話にならない。

そこで読み書き計算ができれば十分と、試験的に平民を登用してみたのだ。


 すると、当然というべきか優秀な者達が次々と見つかりだした。

考えてみれば書類仕事や頭脳労働に、魔力の強さや貴族の特殊能力は関係ない。

今では責任者こそ貴族だが、実務の多くは平民の文官が従事するようになっていた。

こうして、ようやく貴族の文官たちは過労死の危機を脱したのだった。


「では、食料が届き次第非戦闘員の避難を開始しよう」


「次は獣魔国から侵入した5000の獣魔たちですが……」


「軍属ではないものが大半と聞いたが?」


「はい。志願兵というやつですね」


 なぜ、獣魔王の統率が及ばなかったのか?

それは彼らが正式な軍人ではなかったからだ。

元々獣魔国は氏族や部族、種族による小集団の連合によって成り立つ。

ゆえに王も、鬼王や夜王ほど絶対的な権力を持っているわけではない。


 それでも国軍ならば王には忠実だ。

彼らは職業軍人。

王の命令に従う事が仕事だからだ。


 だが、今回暴走した者達は志願兵。

武器を取り戦う事を選んだ民間人なのだ。

本来なら国軍に編入して、軍人としての自覚を持たせる訓練を行う。

だが、今回は戦いが近いという予想から、まず戦闘訓練を施していた。


 それゆえに、志願兵たちは自制が効かなかった。

同胞たちが悲惨な目に遭ったと聞き抑えが効かなくなった。

義憤に駆られて行動に移ってしまった。


 そこに強硬派の有力者が協力したことで、問題はさらに大きくなる。

有力者には純粋に正義感に駆られた者もいれば、打算で動いた者もいる。

しかし、獣魔王は彼らを頭ごなしに押さえつける事が出来なかった。


 彼らが悪なら捕らえればよかった。

しかし、彼らは悪を誅さんとする正義だったからだ。

国としては許可は出せないが、実力行使で阻むこともまたできなかったのだ。


「現実問題として、今、我々には彼らを捕捉し止める事はできません」


「そちらに力を割く余裕などないのです」


「と、なると見殺しですか……」


「仕方がありませんな……」


 彼らはグラーダ自身の力をその身で知り、ヘカトンケイルの力を聞いた。

獣魔義勇兵たちが勝つ見込みなど無い事を、誰よりも知っている。

だからと言って、義勇兵たちを救う余力など無い。


 そもそも、グラーダやヘカトンケイルの情報は獣魔国にも共有されている。

それでも尚、戦う事を選んだ彼らに説得など通じないだろう。

彼らには善戦してもらい、民が避難する時間稼ぎをしてもらう。

奇しくも出された結論はフィオと同じものだった。


--------------------


「では、本日の会議はここまでとする」


「陛下、この後のご予定は?」


「実は、使徒殿が議長閣下、鬼王陛下、獣魔王陛下との会談を行えるよう取り計らってくれている」


「なんと!」


 それは、シミラの幻術とフェイの空間制御を応用した荒業であった。

例えば、鬼王国には議長と鬼王が滞在しているので、そこにジェイス、ルーナ、獣魔王の立体映像を送り込む。

夜の国なら議長、鬼王、獣魔王の立体映像を作り出す。

獣魔国にも議長、鬼王、ジェイス、ルーナの立体映像を送り込む。

そして、それぞれの発言は同席している使い魔が念話を通じてシミラに送り、あたかも立体映像が話しているように見せる。


 現代で言うテレビ会議のようなものだ。

あるいはSFのVR会議の方が近いだろうか。

問題点としては、フィオ達が発言内容を好きに編集できることだろう。

もちろん、そんな事をする理由は無いのだが。


「会議自体は私とルーナが出席する。数名書記官を用意しておいてくれ」


「解りました」


 多少マシになったとはいえ、まだ城内は目が回るような忙しさだ。

武官は防衛の準備、民間人の避難、治安の維持に忙殺されている。

文官は書類の山を夢に見てうなされるほどだ。

そんな状況でさらに他国との首脳会議。

デスマーチはまだ終わらない。




「ふん、まだ力はこっちが上か」


〈キュイ?〉


〈何の事ですか~?〉


 王都の北側。

城門を出てすぐの場所で、フィオは呟いた。

先ほどまで彼は神槍杖を地面に刺し、ジッと瞑目していたのだ。


「綱引きの事だよ。先日はいきなりの事で焦ったけどな」


〈ああ~、ヘカトンケイルのことですか~〉


 先日フィオは、魔力の供給不足という予想外のトラブルに襲われた。

ヘカトンケイルが世界樹の力を有しており、自分の浄化と似た力を持っている。

それを知ったフィオは、逆にこちらから綱引きを挑んでみたのだ。

大気と大地に満ちる瘴気や歪みの奪い合いだ。


 本来なら、世界樹や自分以外に浄化能力を持つ存在がいる事は喜ぶべきことだろう。

しかし、その力を使って無差別に暴れまわるとなると話は別だ。

ヘカトンケイルが暴れる事で、邪神に力が供給されている可能性も高い。

可及的速やかに排除する必要がある。


「十数体いるみたいだが、全部足しても俺より下だ。意識していればリソースを奪われる事は無いな」


〈キュ~〉


〈じゃあじゃあ、逆に向こうのリソースを奪っちゃえば良くないですか~〉


「それもやってみたんだが、どうやら向こうはツインドライブ式みたいだな」


〈ツイン? 2つですか~〉


「あ~、要するにエネルギー供給手段が2つあるんだ。だから片方潰しても致命打にならない」


 ヘカトンケイルの魔力供給手段は2つ。

1つは世界樹の能力を利用した周囲からの負の魔力吸引だ。

フィオの浄化とぶつかるのはこちらの能力となる。


 もう1つは生物の基本能力である捕食。

ただし、こちらはグラーダの能力である『融合』の影響を受けている。

すなわち捕食した獲物はほぼ100%エネルギーに変換できるのだ。

当然、排せつなどしない。 


 ヘカトンケイルの生態からすれば、後者がメインで前者はサブ。

前者は食べ物が無い場合の補助的なエネルギー供給手段でしかない。

現状では妨害されたところで大して効果は無いだろう。


〈あ~、エサも向かってますしね~〉


「お前、言い方ってもんが……。まあ、いいけど」


 身も蓋も無い言い方をするフェイ。

だが、彼女からすれば義勇兵たちの行動は何の意味も無い暴走でしかない。

義憤や憎悪、悲しみや怒り、それらが理解できないわけではない。

しかし、だからこそ自殺同然の行動に意味を見出せない。


〈滅びの美学~? 美しい玉砕~? ナニソレ、美味しいの~?〉


「まあ、正確な情報があったら違ったんだろうけどな……」


 クルクルと回りながら歌う様に毒を吐くフェイ。

プルートを通じて情報は伝えてあるのだが、結局は不確かな情報として信じなかったのだろう。

あるいは信じて尚、行動に移したか。


 いずれにしてももう過ぎたこと。

今頃はもう、自らの行動による結果をその身に受けている頃だろう。

理性では解っていても感情を抑えられない。

それもまた人の在り方なのだろう。


「この世界に来た頃の俺なら、彼らに共感できたのかね……」


〈キュウ……〉


 フィオは自分の内面が、徐々に人という括りから乖離している事は自覚している。

それが良い事なのか悪い事なのかは、自分では判断できない。

しかし、心配そうに見上げるリーフの目に映る主人は、どこか不安定に見えた。


 いつか必ずやって来る決断の時。

フィオはこの時、その訪れを予感していたのかもしれない。

 


人と神の中間の存在として生きてきたフィオ。


しかし、邪神との決戦は彼に選択を迫ります。

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