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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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クリムゾン ハイキング

 ドゥモーア率いる少数精鋭部隊は、普段なら決して使われることが無い難所に果敢に挑んでいた。

馬は全て関所を襲撃する部隊に譲り、防具も最低限しか身に着けていない。

飛行魔法を使用できる者もいるが、魔法の発動を探知される恐れもあるので使用できない。

全員が己の力のみで国を隔てる壁を攻略していた。


「もう少し進んだところに休憩できそうな所があるな」


「さすがですね、将軍」


「場所を選ばぬ索敵能力。さすがは吸血貴族ノーブルの名門トケビーの麒麟児です」


 このような状況でもドゥモーアの分体は的確な情報収集を行える。

トケビー家の応用の利く固有スキルと、それを完璧に使いこなすドゥモーア。

兵たちの称賛の声は尽きない。

しかし、ドゥモーアの表情は優れない。


「どうしました?」


「この先に進むには監視所の警戒網に近づく必要がある。見つかれば全滅もありうるな……」


「こんなところまで……」


「工作員の跳梁を許した事がよほど問題視されているのだろうな。なんにせよ戦闘は避けたい」


「こちらはほぼ丸腰ですからね……」


 だが、これは想定された状況であった。

だからこそ部隊は3つに分けられたのだ。

最も危険な陽動部隊、指揮を執るのはドゥモーアの副官だ。

彼以外に任せられる者はいなかった。


「関所への攻撃が開始されれば警戒網にも穴が開く。それまでに出来るだけ進まなければな。ともあれ休憩は必要。さあ、もう少しだ」


「ハッ」


「了解です」


 精鋭部隊は噴き出す汗を拭いながら進む。

だが、彼らは真夏の炎天下のような異常な暑さを『異変』として捉える事が出来なかった。





 一方、副官率いる第2部隊は、関所まであと少しというところまで来ていた。

攻撃を加えて落とせれば良し。

落とせなければ湖脇の陣地まで撤退し、第3部隊と共に釣り出した敵を迎え撃つ。


 関所を落とすこと自体は目的ではない。

関所に国境警備部隊を集め、警戒網に穴をあける事が目的。

ゆえに無理をする必要は無い。

ドゥモーアが国境を越えれば撤退し、夜の国で再び潜伏する予定なのだ。


「見えてきました。関所です」


「あれか。関所というより砦だな」


「有事には砦として運用されるようです」


 見えてきたのは石造りの壁と丸太を組み合わせた門。

江戸時代の日本の関所のように簡易なものではない。

敵の軍を食い止める事を想定した防衛施設であった。


「よし、止まれ。隊列を組み直すぞ」


「了解です」


 第2部隊は広めの道の上で戦闘準備を整える。

木々は思ったより疎らなので、おそらく関所は既に気付いているだろう。

だが、そこで騎士の1人がふと気づく。


「なんだか植物が少ないですね」


「そうか?」


「ええ、以前任務で訪れた時は、我々を十分に隠せるくらい木々が生い茂っていたんですが……」


「そうなのか……」


 副官が周囲を見渡す。

すると確かに枯れた植物が多い。

枯れた植物は何ヵ月も雨が降らなかったように、カラカラに干からびている。


「そういえば、この山はずいぶん暑いな。そのせいか?」


「そういえば、季節の割に暑すぎますね」


「まあ、我々の役目は陽動だ。多少目立つ位で丁度良い」


 副官はそれ以上異変を気にする事無く攻撃を開始した。


-------------------------


 一方、第2部隊の襲撃は関所からも確認できた。

それほど広くない山道に、1000人もの部隊が現れれば当然目立つ。

ましてや今は実質的に夜の国との戦争中だ。


「敵影確認。数、およそ1000」


「門を閉じろ!」


「迎撃準備!」


「各監視所に連絡を!」


 関所の兵たちは矢継ぎ早に指示を出し、行動する。

工作員と奴隷商を見逃していたという事実は、彼らにとって拭い難い失態だった。

汚名を返上するために警備隊の士気は高い。


「弓隊構え!」


「魔法部隊、詠唱開始!」


 そしてグラーダ軍第2部隊と国境警備隊の戦闘が開始された。





「関所への攻撃が始まったな」


「監視所の人員が増援に向かえば我々も進めますね」


「うむ」


 ドゥモーア率いる第1部隊は、監視網に引っかからないギリギリの地点に潜伏していた。

監視所は常に索敵魔法が展開されており、通信手段がいくつも用意されている。

制圧するのは不可能ではないが、通信が途絶えたり、間違った通信を送られれば、即座に砦が異変を察知するだろう。

ならば警戒網に穴が開くのを待った方が安全だ。


「……しかし、暑いですね」


「確かに……。おかげで予想より兵たちが消耗している」


「鳥や獣は少ないですし、木もだいぶ枯れていますね」


「上空はそうでもない。これは地面の温度が高いのか?」


 異変には気付いた。

しかし、それが何を意味するのか。

そこまでは分からなかった。

そして、その時は近付いてくる。




「敵騎兵、丸太で門を攻撃!」


「土魔法と氷魔法で門を補強しろ!」


「妙ですね……」


「ああ。梯子が無い」


 守備隊は果敢に攻め込む敵に違和感を覚えていた。

どれだけの精鋭部隊だろうと、この関所を1000人程度で落とすのは困難だ。

そもそも拠点を落とす常套手段は、城壁を乗り越えて内側から門を開ける事。

野戦とは逆で、歩兵こそがメインで騎兵は援護というのは常識だ。


 ところが敵は騎兵が多く、歩兵は梯子すら持っていない。

切り出した丸太を騎兵が引きずって門にぶつけているが、その程度で破られるはずがない。

こうなると、本当に関所を落とす気があるのか疑わしくなってくる。


「隊長! 麓の湖の傍に大規模な陣が発見されました」


「成程、そういうことか」


「どういうことですか?」


「連中の目的は釣りだ。攻めあぐねて撤退するように見せかけ、我々をこの関所から引っ張り出そうとしているのだ」


「だからと言って放置はできませんよ。あの湖はこの辺一帯の水源です」


 守備隊長の読みは当たっている。

第2部隊が関所の兵をおびき出し、第3部隊と共に迎え撃とうとしているのは事実なのだから。

しかし、さすがにさらにもう1つ部隊が潜伏しているとは読めていない。


「敵部隊撤退していきます!」


「どうしましょう、追撃しますか?」


「いや、追撃は行わない。野戦を挑むには兵が足りない」


「では、周辺の監視所や砦から兵を……」


「忘れたのかね? そんな事をする必要は無いだろう?」


「え? あっ!? そうでしたね……」


「そうだ。総員! 建物の中に避難せよ! 水を十分に用意し、火傷に気をつけろ」


 これから起こる惨劇に対処するため、指示を出す隊長。

出来れば一階部分は使わない方が良い。

耐熱の魔道具を起動し、砦全体を冷やす必要もあるだろう。

あとは……。


「捕虜は出ないだろうな……。アレが相手だ……」


------------------------


「追ってきませんね」


「さすがにそう簡単にはいかないか」


 関所の兵による追撃が無い事を確認して、第2部隊は速度を緩めた。

休憩を取ったら再攻撃。

何度も繰り返せば向こうも我慢できなくなるだろう。

そう考える副官だったが……。


〈ヒヒィン!〉


〈ブルルルル!〉


「うわっ!」


「どうした!」


 突然馬が暴れだした。

騎兵たちが馬から振り落とされ地面に落ちる。


「あ、熱っ!」


「なんだ、この地面の温度は!」


 そして気付いた。

地面がまるで焼けたように熱くなっている事に。

馬の蹄鉄も歩兵たちの靴も火に炙られた様に熱くなり、のたうち回って苦しんでいる。


「ふ、副官殿! あれを!」


「な、溶岩だと!」


 信じられない光景だった。

この山脈は火山ではない。

にもかかわらず、あちこちからオレンジ色に光るマグマが噴き出してきたのだ。

何が起きているのかは分からない。

ただ1つ言えるのは、ここが死地という事だ。


「総員撤退! 麓の陣地まで撤退だ!」


 副官の決断は早かった。

吹きあがる溶岩から必死に逃げ、麓を目指して駆け抜ける。

途中、何人もの兵が溶岩に呑まれ焼け死んだ。

しかし、何とか振り切って湖の陣にたどり着く。

だが


「なんだ、これは?」


「霧?」


 ようやくたどり着いた陣は霧に包まれ、不気味な静寂が支配していた。

警戒しつつも、陣の中に入るが誰もいない。

1000人の第3部隊は忽然と姿を消していた。


「これは、どういう事でしょう……」


「分からん。だが、油断はするな」


「……」


「聞こえているのか?」


「……あ、ああ」


「どうし……」


 振り向いた副官の目に映り込んだのは、巨大な顎に下半身を食われた兵の姿。

そして、今まさに自分を飲み込もうとするもう1つの蛇の頭。

彼は蛇竜の餌場に自ら入り込んでしまったのだ。


「あ」


 バクン


 第2部隊の半数近くは溶岩に飲まれた。

生き残った者達も霧の中で消え去った。

そして最後に、ドゥモーア達第1部隊の前に火山の巨獣が姿を現す。


ヴァルカン登場まで進まなかった……。


かと思えばバイト再登場。



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