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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
172/216

初めての魔力切れ

 そして現在。


 大悪魔アークデーモンに変身したフィオによってグラーダ軍はあっと言う間に蹴散らされていく。

剣も槍も、矢も魔法も全てが漆黒のオーラに阻まれ届きすらしない。

逆にその腕が振るわれ尾が薙ぎ払われるたび、馬ごと騎兵が吹き飛ばされ、爆散する。

もはや戦いなどと呼べるような光景ではなかった。


「しょ、将軍……」


「ぐっ……」


 ドゥモーアは必死に考える。

アレが何であるか、どこから現れたのかなどこの際どうでもいい。

アレは敵であり、今ここにいる。

それだけで十分だ。


 まず重要なのは勝てるかどうかだが、考えるまでもない。

勝てるわけがない。

攻撃が一切通じず、紙切れのように精鋭を蹴散らす怪物だ。

作戦を立てようにも情報もまるで無い。


 勝てないなら選ぶべきは撤退だ。

非情な選択だが、先陣が生き残っているうちに彼らを囮に撤退するしかない。

では、どこに?

相手は単体だ。

編成や補給など関係無く、軍よりもはるかに早く追撃してくるだろう。


 どこかの町を占領して立て籠もる?

却下だ。

内部で住民の蜂起が起きるに決まっている。

そもそも砦でさえ破壊してしまいそうな怪物が相手。

町に逃げ込んだところで意味など無いだろう。

ならば


「国境まで撤退だ」


「え?」


「魔人連合国との国境まで撤退する! 伝令を集めろ、急げ!」


 ドゥモーアの出した結論は国外への逃亡。

もちろん、ただ逃げるだけではない。

しっかりとした考えに基づく作戦だ。


「作戦は失敗だ。これ以上ここで戦っても全滅するだけだろう。ゆえに作戦を変更する」


「こ、国境で何を?」


「魔人連合国との国境は山岳地帯だ。身を隠しながらそこを踏破し、魔人連合国に潜入する」


「! なるほど、夜王を僭称するジェイスは魔人連合国の出身でしたな」


「そうだ。魔人連合国で我らが破壊活動を行えば必ず隙ができる」


「さすがは将軍! この戦場を放棄しても、グラーダ閣下の援護はできるというわけですな!」


 副官は手放しでドゥモーアを称賛する。

実際、イレギュラーな危機に冷静さを保ち、瞬時に撤退を選択すること。

作戦が失敗しても、即座に次の作戦を考案しリカバリーする事。

どちらも並みの指揮官にできる事ではない。


 もちろん魔人連合国に潜入し破壊工作を行うなど、難易度は極めて高い。

だが、精鋭部隊である彼らなら不可能ではない。

むしろ半減した戦力で戦闘を続けるより、よほど成功の見込みがあると言える。

当然犠牲は出るだろうが、仕える主君こそ違えど彼らも騎士だ。

その死が礎となるならば、恐れることなど何もない。




 パシュッ   パァン  パァン


〈(む? 信号弾か?)〉


 グラーダ軍の本陣から打ち上げられた魔法式の信号弾。

それを見てフィオは一度足を止めた。

周囲はすでに死屍累々、屍山血河の状態だ。

デーモンブレスで薙ぎ払われた者達など、跡形も無く消し飛ばされている。

生き残ったグラーダ軍の騎兵たちも戦意を失いかけている。


 フィオは解らなかったが、周囲の生き残りたちはその内容を理解した。

すなわち、『撤退』『先陣部隊は死守』である。

だが、大悪魔形態の知覚力は、普段の魔人形態時を遥かに上回る。

信号弾の意味は解らなくても、フィオはグラーダ軍の本陣が撤退の準備に入っている事を即座に認識した。


〈(決断が早いな。判断も的確だ)〉


「お、おおおおおお!」


「うわあああああああ!」


 ドゥモーアの指揮官としての能力の高さを再認識するフィオ。

だが、優秀であるからこそ生かしてはおけない。

しかし、本陣を狙おうとしたフィオを先陣の騎士たちが阻んだ。

彼らも勝てるとは思っていないのだろう。

だが、恐怖と絶望を押し殺し、仲間を逃がすために捨て石になろうとする。


〈ガアアアア!!〉


「ぐあっ!」


「げふ……」


 1人が1秒しか持たなくても、生き残っている数百人全員がかりなら数分は稼げる。

彼らは紛れもなく精鋭であり騎士であった。

グラーダの配下には確かに私腹を肥やし、好き放題する者がいた。

グラーダ自身も民をモノのように扱った。


 しかし、真剣に国を思っていた者達も確かに存在したのだ。

先代夜王は間違いなく名君であった。

だが、全てにおいて完璧などという事はあり得ない。

夜の国には解決しなければならない問題も確かに存在した。


 そして、グラーダ軍の大半はグラーダの提唱する政策に問題解決の希望を感じた者達だ。

彼らは自らの意思でグラーダに従った。

そもそも簒奪からまだ1年と経っていない。

グラーダ主導の元、国が良くなるのはこれからだと彼らは思っている。


 彼らからすれば、ルーナ王女こそ他国を夜の国に引き入れた売国奴だ。

ジェイスなど所詮は他国の平民。

彼こそが王位の簒奪者に他ならない。

ゆえに正義のため、大義のため、命を落とすことを恐れない。


〈(ハァ……。あまりいい気分はしないが、やむなしか)〉


 程なくグラーダ軍の先陣たちは全滅した。

1人の生き残りもいない、文字通りの全滅である。

だが、その命と引き換えに本陣はすでに撤退を完了していた。


〈(ん? これは……)〉


 追撃しようとして、フィオは全身を襲う脱力感に戸惑う。

世界に溢れる魔力の淀み、瘴気。

それを自身の魔力に変換できるフィオには、魔力切れというものが存在しない。

以前、狂竜化ニクスや要塞巨人との戦いでも大きく魔力を消耗した。

それを考えれば、この程度で魔力切れなど起こすはずがない。


〈(解除した方がよさそうだな……)〉


 魔人形態に戻ると脱力感は軽くなる。

魔力も徐々に回復してきている。

だが、違和感があった。


「回復量が落ちている? 大悪魔形態の消耗を賄いきれないほどに?」


 フィオはただそこに存在するだけで、磁石のように瘴気を集め吸収する。

ゆえに彼がいるだけでその土地は浄化されるのだ。

確かに瘴気が存在しなければ吸収のしようもないが、ここは聖域でも何でもない。

むしろ瘴気が溢れているはずだ。

と、なると……。


「意識すると吸収量が上がる、か。これはまるで……」


 フィオの中で嫌な予感が膨れ上がる。

まるでリソースを奪い合っているような感覚。

それはすなわち、自分以外に瘴気を吸収する何者かがいる事を意味する。

瘴気を吸収する存在代表は世界樹だが、これは世界樹ではない。


 世界の浄化装置である世界樹。

そこに瘴気が流れ込むのは、水が低いところへ流れるようなもの。

世界樹は能動的に瘴気を集めるようにはできておらず、自分と渡り合うような吸引力は無い。

そうなると疑わしい者は限られてくる。


「グラーダ、あるいは世界樹を使った合成獣キメラってところか。厄介だな……」


 王都に向かって歩き出しながらフィオは思う。

次の戦いは初めての勝てるかどうか分からない戦いになるかもしれない、と。


「今、気づけて良かったな。単なる慣らしのつもりだったんだが……」


 グラーダの新型合成獣『ヘカトンケイル』は超大型だ。

体格で言えばカリスに匹敵する敵を相手にするなら、こちらも巨大化した方が効率がいい。

そう思っての行動だったが思わぬ収穫だった。

今からなら何か対策を立てられるかもしれない。


「あ、逃げた連中を野放しにしておくのはさすがに不味いか?」


 そこで、ようやく撤退したグラーダ軍に意識が向くフィオ。

いまさら何をできるとも思えないが、再び潜伏されると面倒だ。

地球でも敗残兵が盗賊と化したり、テロ組織に変貌する事はよくある事だ。


 数は減っても、ゲリラ戦に徹されると軍として纏まっていた時より手がかかる。

指揮官が生きているので、最低限の規律は守ると思いたいが……。


「逃げたのは南か……。国境に向かってくれれば話は早いんだが……」


 グラーダ軍は知らなかった。

今の国境には決して近付いてはいけない事を。

そこが死地である事を。


 今まで魔人連合国と夜の国は友好関係にあったので、国境の警備体制は最低限だった。

グラーダの簒奪以降は警備が厳重になったが、それでも突破できないほどではなかった。

事実、グラーダの息のかかった工作員が魔人連合国に侵入していたし、違法に奴隷が連れ出されていた。


 しかし、今は違った。

悪魔の下僕、水と炎の怪物たち。

彼らの狩場テリトリーと化しているのだ。






 それを知らないグラーダ軍は、翌日国境へとたどり着いた。

たどり着いてしまった。

新たな処刑場へ。


放置されていた2体。


しかし、ようやく彼らに出番が。

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