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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
171/216

ヘカトンケイル

「閣下! グラーダ閣下!」


「おオ、どうシた? そんナに急いデ」


 解体所とでも言うべき有り様となったグラーダの仮設実験所。

そこに飛び込んできた兵士にかけられたのは、やけに上機嫌なグラーダの声だった。


「きょ、巨人が再び襲ってきます!」


「ほウ! まダ素材を提供シてくれルのか」


「か、閣下?」


 先ほどの襲撃とは状況が違う。

明らかに上位と思われる個体の混じった集団が、戦意を漲らせて襲ってきているのだ。

とても対処できる相手ではない。

早く逃げなければ全滅してしまう。

そんな兵士の焦りをグラーダは笑い飛ばす。


「うム、そうダな。種ト心臓の力、試してオクか。しかシ、心臓ヲ2つ以上吸収しテモあまり意味ガ無かっタのは残念ダな……。マあ、他に回セば良いカ」


「まさか、閣下自身が戦うおつもりですか!? 危険です!」


「くク、まア、見てオけ。生まレ変ワった私の力をナ……」





「あれが、閣下の力……」


「凄すぎる……」


 兵士たちは巨人たちを蹂躙するグラーダの力に呆然としていた。

闇を生み出し、血を操り、獣に変じ、霧と化し。

まさに吸血鬼の能力の見本市である。

傷らしい傷もほとんど負わず、僅かな傷も即座に再生してしまう。

まさに王者のごとき姿だった。


「(凄まじい。以前とは比べ物にならない……)」


 だが、部下の熱狂とは裏腹にマサンの心は穏やかではなかった。

言葉にはできない直感が訴えかけているのだ。

漠然とした不安は強くなる一方だった。


「(何だ? この不安と違和感は?)」


 マサンは目を閉じ、頭を振って心を沈めた。

主君であるグラーダ。

彼が得体のしれない怪物に見えてしまったのだ。


「ははハは、大豊作ダ! これデ切り札にナル合成獣ヲ作れルぞ!」


 グラーダの哄笑に目を開ける。

半数以上の巨人が骸をさらし、残りは聖域に逃げ去っていた。

そして血の海の中心でグラーダは楽しそうに笑っていた。

その禍々しい姿を見てマサンは再び目を閉じた。

だが、体の震えを抑える事は出来なかった。


 彼は最後のチャンスを逃した。




「(ふむ、こんなものか)」


 グラーダを乗っ取った邪神は、完成した合成獣を満足そうに見上げた。

それは見た目は巨大な木製の人形だった。

だが、手と頭が存在しない。

足も短く不格好だ。


 その体表面には血管が脈打ち、植物と動物の中間のような印象を与える。

そしてサイズが尋常ではなかった。

高さは30mに達し、その大きさは大型の巨人に匹敵する。

それが10体も並んでいた。


「(世界樹と巨人をベースに作り上げた素体。1体が2つの巨人の心臓を備え、どちらかが無事ならもう1つを再生できる。血管を流れる体液には世界樹の樹液が含まれ、即死しない限り復活する……)」


 邪神は満足そうに作品を評した。

その間にもすでに人形と化したグラーダの身体は、黙々と作業を続けている。

グラーダは巨人、魔獣、そして死んだ兵士や合成獣の身体をパーツごとに解体しているのだ。

必要なのは主に手や頭だ。

残りは後で適当な合成獣にしてしまえばいい。


 そして、それらの作業が終わるとパーツを肉塊の様な素体に押し付けた。

すると、パーツの断面と素体の表面が融合し、パーツがビクリと動いた。

グラーダは次々に素体のパーツを取り付けていく。

驚くべきことに腐っていたり破損していたパーツも、融合した直後に全て損傷が回復するのだ。

やがて、素体はウニのようにあらゆる体のパーツが生えた異形の姿へと変わっていく。


「(うむ。こいつの融合能力を素体で再現するのは一苦労だったが、上手く行ったな。もっとも巨人の心臓と世界樹の素材を混ぜ込まなければ、合成獣ごときが神気の器になどなれなかっただろうが……)」


 邪神はグラーダのギフトを通じて素体にも神気を送り込んでいた。

南大陸ではニクスが自軍に神気を撒き散らしてしまったが、邪神はそれを応用したのだ。

度重なるハノーバス世界への深い干渉は邪神自身も成長させてしまった。

それは遠回しな干渉に飽き始めていた邪神にとって、麻薬の様な快感であった。


「(いつまでも素体では格好がつかんな。そうだな……『ヘカトンケイル』とでも名付けるか)」


 巨大な胴体に生えた無数のパーツ。

それを見て邪神は素体の名称を決める。

遥かな異世界の神話における多頭多腕の巨人の名である。


「(さて、では試運転と行くか)」


 誕生した災厄『ヘカトンケイル』。

その力の矛先が向けられた先は、当然のように聖域であった。


----------------------------


 バチバチバチバチ!!


「結界が軋んでいる……。長、これではそう長くは持ちませんぞ……」


「聖域の結界は世界樹の力。同じ世界樹の力を宿した存在なら破れる、か……」


 種子が奪われた後、対応をめぐり聖域は真っ二つに割れてしまった。

族長を含む長老達は慎重論を唱えた。

この度の相手は普通ではない。

うかつに飛び出せば同じ轍を踏むだけだ。


 では、種子を奪われたままでよいのか?

良いわけがない。

多少の危険は承知の上。

たとえ相打つ事になってでも種子は取り返す。


 慎重派と奪還派の意見は折り合いがつかず、遂に奪還派は聖域を飛び出してしまった。

そのリーダーはオラドの父、ウラオルであった。

彼の悲壮な顔は皆の目に焼き付いている。

彼は息子の不始末を命に代えても償おうとしていた。

そんな彼に多くの若者が付き従っていった。


 だが、その結果は最悪だった。

ウラオルを含む戦士たちは尽く殺されてしまった。

若者が僅かに逃げ延びたが、奪還部隊はほぼ壊滅してしまったのだ。

そして数日後、今度は聖域が襲撃されることになった。


「アレが同胞と世界樹のなれの果てか……」


「せめて我らの手で眠らせてやりたかったが……」


「この聖域もこれで終焉を迎えてしまうのだろうか……」


 巨人たちには既に覇気が無く、諦めの色が見える。

当然だろう。

襲い掛かってきたヘカトンケイルは、迎撃に現れた巨人たちを一蹴してしまった。

それどころか巨人たちを喰らい、自身の身体に生える手や頭を増やしていったのだ。


 ヘカトンケイルが、巨人と世界樹を使って創られた怪物である事はすぐに分かった。

何しろ生えている頭に見知った顔があったのだから。

そして、さすがの巨人族も攻撃しても攻撃しても死なない不死身の怪物には勝てなかった。


 巨人たちは敗走し聖域に逃げ込んだのだが、ヘカトンケイルは結界に攻撃を加え始めた。

そして今も結界は凄まじい音と光を発してなんとか耐えている。

だが、材料となった世界樹の魔力がヘカトンケイルに結界への耐性を与え、禍々しい邪気が結界を維持する世界樹の魔力を少しずつ削り取っていく。

聖域の陥落と巨人族の滅亡は目前に迫っていた。




「強イ! 最高じゃナいか!」


「……」


「おっト、もう話セないンだっタな。マサン」


 グラーダが話しかけていたヘカトンケイルの頭の1つ。

それは副官であり盟友であるはずのマサンの物だった。

だが、その目は虚ろでただ生きているだけといった様相だ。


 ヘカトンケイルという切り札が完成した後、惨劇がグラーダの私兵たちを襲った。

彼らはもう用済みとばかりに解体され、その一部にされてしまったのだ。

ある者はヘカトンケイルに喰われ、その一部となった。

そしてマサンは11体目の、新たに造られたヘカトンケイルに組み込まれてしまったのだ。

これが彼の選択が招いた結末であった。


 ヘカトンケイルは生物を食べると必要な部分は自身に吸収する。

では、必要ではない部分はどうなるのか?

その答えがグラーダの周囲で蠢いていた。

グラーダの【融合】のギフトを簡易再現したヘカトンケイルは、喰った獲物を体内で融合させて合成獣を生み出すことができるのだ。

性能的には高いとは言えないが、その数は凄まじいものとなっている。

ただ、もう彼の配下に口を利けるようなまともな者は存在しない。


「(さて、これなら直に聖域は墜とせるだろう。世界樹をどうしてやろうか……。ヘカトンケイルに喰わせるか? それとも世界樹を素体とした合成獣を……)」


「グラーダ閣下!」


「うン?」


 もはや合成獣の巣とかした陣地。

そこに一騎の伝令が駆けこんできた。

伝令は合成獣の群れに一瞬目を見張るが、直ぐに敬礼した。


「君はドゥモーアの部下ダな。王都デ何かアッたのカ?」


「はっ! まずはこれを!」


 伝令から渡された書状に目を通すグラーダ。

そこには魔人連合国の協力を得たルーナ王女が帰還し、王都を再占領した事。

投獄されていた貴族たちが解放され、逆にグラーダ派に所属する者達が追い立てられている事。

ジェイスと王女が契約し、ジェイスが新たな夜王になった事などが書かれていた。


「将軍はすでに国中から兵力を終結させています。閣下が北から、将軍が南から挟撃すれば勝利は間違いないと思われます」


「成程、分カった。兵を纏メて王都へ向かオう」


「はっ! 将軍に伝えます。では、失礼します!」


 伝令は魔法薬を馬に呑ませて回復させると、ドゥモーアの元へと走り去っていった。

残されたグラーダはこの後どうするか考えた。

聖域を攻め落とすには少し時間がかかるだろう。

だが、ここまでやったのだから止めを刺しておきたい気もする。


「(ふうむ。すぐに王都に向かうか、まずは聖域を落とすか、迷いどころだな……)」


 ドクン……


「(ん?)」


 その時、邪神は自らの内側で脈動する者に気が付いた。

それは、もう永遠に目覚めないはずだった。

だが、先ほどの手紙の内容が彼を目覚めさせた。

そして、憎悪と憤怒を糧として、再び意識の表層に浮かび上がってきたのだ。


「……ス」


「(ほう、これは驚いた)」


「……イス」


「(面白いじゃないか。大した執念だ。ああ、良いだろう好きにやって見せろ)」


「ジェ、イ、スゥゥゥ!! 殺す! ぶっ殺す! 俺のモノを奪いやがって! お前だけはこの手で切り刻んでやる!! 合成獣ども! 目標は王都だ! 急ぎやがれ!」





「む?」


「怪物たちが……」


「引いていく?」


「助かったのか……」


 こうして、聖域の滅亡は回避された。

しかし、この地で生まれた怪物は狂気の吸血鬼に率いられて王都を目指す。

その途中、生きとし生けるあらゆるものを喰らいながら。





グラーダ、執念で復活。


やはり新夜王ジェイス&王妃ルーナVS簒奪者グラーダも必要かな、と。


悪魔vs邪神の前座っぽいですけど。

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