卒業試験
「来たか」
いつもは昼過ぎに開始する双子の訓練。
しかし今日はまだ早朝だ。
なぜなら今日が訓練の最終日、卒業試験の日だからだ。
「おはようございます」
「言われた通り真剣を持って来たぜ」
二人は鋼の大剣と双剣を持ってきている。
俺も両端に刃のある鋼の槍を持っている。
武器の質は同じだ。
「? なんだか明るいじゃないか」
「お、やっぱ解る?」
双子はいつもなら、もう少し不機嫌そうな雰囲気だ。
国の現状やら家の状況やら、イライラする事が多いのだろう。
それが今日は妙にすっきりした顔をしている。
「実は昨日、父、当主が久しぶりに帰宅したんです」
「で、一族を集めて試合をさせたんだよ」
双子が話すには当主は軍の幹部で、最近は皇帝に付いて回っているため家にいなかったらしい。
いくら国有数の強者とはいえ、軍の幹部を個人の護衛にして連れまわすなど皇帝の怯えっぷりが良く解る。
まあ原因は俺だけど。
そんな当主が家に帰ってきて重大な話をした。
それは後継者問題。
曰く、この事件が続けば自分も死ぬかもしれない。
よって今日一族の後継者候補全員で試合をして、順位を付けておこう。
原則次の当主は最も強かったものとする。
宗家、分家は関係無い。
というものだったらしい。
当主の実子である双子も当然参加した。
そこで兄は自分を見下してきた兄弟、蔑んできた親戚を破り見事第一候補になったそうだ。
ちなみに第二候補は妹だ。
最終試合で2人は戦い、兄が勝利したということだ。
妹を天才ともてはやしていた連中は、妹が手心を加えたと騒いだそうだ。
しかし、当主は試合の正当性を認めた。
見る者が見れば八百長かどうかなど一目瞭然なのだ。
「なるほど。とりあえずの目標は達成できたわけだな」
「先生のおかげです」
「くくく、連中の呆気にとられた顔ったらなかったぜ」
……しかし、そうか。
皇帝を始末する以上、こいつらの父親とも戦う可能性が高いんだよな。
2人から親戚連中についての不満は聞かされたし、実際何人か始末している。
しかし、当主については悪い噂は聞かないし実際シロだ。
殺すのは惜しい気もするが、仕方ないかな。
状況次第か。
「さて、それじゃあ今までの訓練の成果を見せてもらおう」
「ああ」
「はい」
双子は真剣な目になり武器を抜く。
俺は木の上にいるリーフとシミラに指示を出し結界を張らせた。
リーフは俺だけでなく使い魔にも探知情報を送れるようになった。
その情報を元にシミラが侵入不能の幻術を発生させる。
周りから内部は見えないし、近づこうとしても逸れてしまう。
そんな迷いの森みたいな結界だ。
「身体能力はお前達に合わせている。技量の差は数で埋められる。決して勝てない勝負じゃない」
「解りました」
「何時でも良いぜ」
「よし、行くぞ!」
「「!」」
いきなり投擲された2本の短剣。
兄は大剣を盾にし、妹は左の剣で払う。
妹はそのまま右の剣で突きを放ってきた。
しかも無詠唱で付加魔法を発動させている。
「ヤッ!」
「ほっ」
ガギギイン
繰り出された2連撃を槍を旋回させて防ぎ、逆にふっとばす。
しかし、妹は目的を達していた。
2重強化を発動させた兄がすでに大剣を振りかぶっている。
「らあっ!」
豪快な横薙ぎ。
身を屈めてかわすと、兄はそのまま1回転して再び横薙ぎを放とうとする。
当然背を向けた所を狙おうとするが、そこに妹が切り込んでくる。
しかもこれは
「2重強化?」
術者への負担が大きい2重強化は兄にしか教えていない。
妹は密かに自分で練習していたのだろう。
さすがの才能だ。
俺は即攻撃をやめ、跳躍して距離を取った。
足の下を兄の大剣が通り過ぎた。
遠心力の分一撃目よりさらに威力が増している。
怖い怖い。
俺を挟むようなフォーメーションを取る2人。
決める気だな。
「はあああああ!」
妹が付加と2重強化を同時に発動させた。
俺の見立てでは1分と持たないだろう。
まさにフルパワー、トップギアだ。
「……!」
兄は剣を下段に構え、魔力を集中させている。
こちらも渾身の一撃で勝負を付けるつもりだ。
「こっちからも行くぞ!」
兄の方へと突撃する。
俺が間合いに飛び込んだ瞬間、大剣が振り上げられた。
即座に足を止め、バックステップ。
目の前を刃が通過する。
足を止めた俺に妹が迫る。
右は風、左は氷、構えは交差。
2つの属性は干渉し、剣はブリザードを纏っている。
これが妹の奥の手か。
「そらっ!」
「!」
炎と雷を付加した槍で迎え撃つ。
妹は驚愕しているが槍の負担が大きいな。
普通の槍じゃもって数撃か。
ガアン! バチバチバチ
互いの付加魔法が干渉し、スパークが起きた。
妹は吹っ飛び、俺も僅かに後退する。
あ、やば。
兄は既に振り上げた大剣を振り下ろす態勢に入っていた。
大剣に込められた魔力は剣の輪郭をぼやけさせるほどだ。
槍を斜めに構え、受け流そうとするが
「だあああああ!」
ガコオオオオン
破城鎚でも叩きつけたような轟音。
おおう、足が地面にめり込んだ。
あまりの衝撃に受け流しきれない。
逸らそうとした刃は槍の柄に食い込んだ。
ピキピキ パキィ
遂に槍は限界を迎え真っ二つになった。
試験終了だ。
少し本気を出すか。
「お見事」
折れた槍を握り直し、渾身の一撃を放ち硬直した兄の首に突き付ける。
同時に
「合格だ」
背後に迫っていた妹の首に、もう片方の切っ先を突きつける。
まるで反応できなかった双子はポカンとした顔で硬直していた。
レベルアップした双子の親戚へのリベンジもその内。
ようやく皇帝追撃開始です。




