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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
168/216

グラーダ軍

説明が多いと話が進まない。


かと言って省くと話が分かりにくい。


難しいですね……。

「グラーダの配下が集結、ですか……」


「おいおい、口調口調。もう王様なんだから敬語はよせ」


「え、あ、そうだな」


「俺の方は勘弁してくれ。最近は意識しても直らないんだ」


 調査と偵察の報告に来てくれたディノさんに注意されてしまう。

王女のルーナの伴侶ということで、礼儀正しく話そうと敬語を使っていたんだが。

でもまあ、こっちの方が楽だ。

前世では平民、今世でも平民みたいなものだったから、どうも敬語は慣れないんだよな。

それはディノさんも同じようだが。


 彼は不思議な人物だ。

長く接していると、なぜか恐れ多いというか敬意を抱くようになってしまう。

純粋な力以外の何かが彼にはあるようだ。

しかし、『最近』とか『意識しても』とか良く解らない。


「王都の連中は俺たちで結構始末したんだが、人数が多い分結構逃げた奴も多かったんだ」


「ああ、そのようだな。だが、正気に戻った正規軍が動いたことで王都から逃げ出したと聞いているが……」


 王城に夜王が戻ったことで、民に対して加護のような力が働きだした。

これはグラーダの簡易魅了より強力だったようで、民は皆正気に戻っている。

これまで当たり前のように感じていたグラーダの支配が、異常だと気付いたのだ。


 これで奴がまともに政治をしていればまた違ったんだろう。

だが、奴は自分のシンパだけ優遇し、それ以外の者達を虐げていた。

当然正気に戻った民は、その反動でグラーダのシンパに復讐し始める。

その結果グラーダのシンパは、皆王都を逃げ出してしまったのだ。


 同じような事があちこちの町や村で起きている。

当然、反抗を力で抑えられるだけの者達もいた。

だが、そこにはこちらから鎮圧部隊を送り、それでもダメならディノさんにお願いしたのだ。


「数は?」


「4、5千ってとこだな。国中から集めたみたいだ」


 この世界の人口はそれほど多くない。

特に吸血鬼は寿命が長い分、個体数が少ない。

夜の国全体でせいぜい100万ほど。

そう考えると4,5千は結構な数だ。


「場所は」


「王都の南、50キロってとこだな。あちこちにある廃村に潜んでいたらしい」


 治安回復を優先したせいで残党捜索に手が回っていなかったか。

後手に回ってしまったな。

今から準備をして間に合うだろうか……。


「陛下、すぐに準備しましょう」


「うむ。ワシも参戦しますぞ」


 直前まで話していた2人が協力を申し出る。

部屋を見渡すとルーナも貴族達も決意に満ちた目をしている。

そうだ。

迷っている暇があれば動かなければ。


「よし、それでは……」


「あ~、ちょっといいか?」


 号令を出そうとしたところで止めに入る声が。

ディノさんだ。


「どうしたのだ?」


「多分だが、あいつらはすぐには動かない」


「その根拠は?」


「連中のリーダーが結構優秀だからだ」


 そう言われ、現在生き残っていると思われるグラーダ派の貴族の名を思い返す。

その中で優秀と言える人物は……。

ドゥモーア・トケビーか。


 軍部の名門トケビー家の三男。

まだ若いがその実力は二人の兄以上とも言われていた。

しかし、平和な先王の治世では優秀な軍人であってもあまり意味は無かった。

家督は年功序列で長男が譲り受け、軍での地位も次男が上。

表には出さなかったが不満を抱いていたらしく、彼はグラーダについた。


 クーデターの際にも彼は優れた指揮を見せ、グラーダの簒奪に貢献した。

その後は軍のトップに据えられ、名実ともにグラーダの片腕であった男。

そうか、彼が生きていたか。


「ドゥモーアがいるんだな?」


「ご名答。彼なら分の悪い賭けはしない。堅実な戦略をとるはずだ。だから向こうからすぐには動かない。挑発はしてくるだろうけどな」


「堅実な戦略……」


 4、5千も兵があれば、どこか大きな町を占領できるだろう。

だが、彼はそれをしなかった。

民に背を向けられたままでは町に籠城などできないからだ。


 かと言って民を追い出したら日常生活を維持できない。

兵は消費するだけで何も生産しないからだ。

ゆえに彼は姿を隠すことを選んだ。


 これ自体は英断だ。

事実、こちらは彼らがすぐ近くに潜伏していたのに気付かなかった。

では何故、このタイミングで姿を現す?


 王都の兵力は1万ほど。

すぐに全軍動かすのは難しいが、それでも負ける可能性は低い。

もちろん被害は甚大になるだろう。 

だが、最終的に勝つのはこちらだ。

と、なると……。


「! そうか! 陽動と挟み撃ち!」


「多分な。だから南側に布陣しているんだ。北から攻めてくるだろうグラーダのために」


 そうだ。

グラーダは今、北で合成獣を量産している。

それが南下してくるとしたら。


「放置すれば挟み撃ち。対応すれば北への備えが疎かになる……」


「ついでに言うなら、半端な戦力だと返り討ちだな。放置していると民の不安も増すだろうし」


「……相手の編成は?」


「機動力重視。案外こっちが攻めたらすぐ逃げて、時間稼ぎに徹する気なのかもな」


「くっ」


 ありえるな。

せめてグラーダの動向が分かれば……。

諜報部隊の長だった俺が、諜報を疎かにするとは。

失態だ。

では、どうすれば……。


「そこで提案なんだが」


「え?」


「あいつらは俺が始末してやってもいい」


「は? 数千の敵を?」


「ああ」


 あまりに突飛な提案に、謁見の間もざわつき始める。

散々頼っている以上今更だが、そんな事が実行可能なのだろうか。

彼が化け物じみた強さである事は知っているが。


「グラーダとの本番に負けてもらっちゃ困るし、ちょうどいい機会だ」


「ちょうどいい機会?」


「俺の目的はグラーダの討伐だ。だが、奴の本当の危険性をどれだけの奴が認識している?」


「それは……」


 転生だの邪神だのという情報は伏せた方が良い。

しかし、そうなるとグラーダの秘密も明かせない。

奴をただの吸血鬼の変異体程度に考えていると危険だ。


「奴を倒すために俺が派遣された。それだけグラーダはこの世界にとって危険な存在なのさ。で、皆には俺の正体を見せてもいい。知りたい奴はついてきてくれ」


「え? ちょっと……」


 正体? そういえばその辺は詳しく聞いていなかったな。

神の使徒とかって話だったけど……。

一体何をする気なんだ?


「トケビー卿、悪いがドゥモーアには死んでもらう。彼の死をもってグラーダへの宣戦布告としたい」


「……それがあ奴の選んだ道。受け入れよう」


 トケビー卿はすでにクーデターの際に次男を失っている。

だが、ドゥモーアを許す訳にはいかない。

それを理解しているトケビー卿は迷う事無く了承した。


----------------------


「グラーダ様からの返信が届きました」


「よし、見せろ」


 一方、王都の傍に布陣したグラーダ派の軍。

そこでドゥモーア・トケビーは着々と戦いの準備を進めていた。


「ほう……。閣下はかなりの戦力増強に成功したようだな」


「それは朗報ですね」


 彼は王都が奪還された直後には、既にグラーダに急使を向かわせていた。

そして返信が届いたことで動き始めたのだ。

グラーダはすでに王都目指して南下を始めている。


「うむ。なんでも『ヘカトンケイル』という新型の合成獣の開発に成功したそうだ」


「なんだか凄そうですね」


 ソレが何であるかを知らないドゥモーアと副官。

彼らは純粋に戦力の増強を喜ぶ。

たとえソレに北部の村々が蹂躙されているとしても、彼らがそれを知るのは不可能なのだ。

手紙にはそんな事は書かれていないのだから。


「では、閣下が王都北部に到着するまでは待機ですか?」


「いや、それは悪手だ。それでは王都の防御を固められてしまう」


「では、攻撃を加えるのですね」


「実際に攻撃する必要は無い。攻撃すると見せかけるだけでも王都を混乱させることはできる」


「そして、その分王都の防衛準備は遅れるという事ですね」


 グラーダの配下にも優秀な者は存在する。

そうでなければ、いかにグラーダが夜王を倒したとしても国を乗っ取ることなどできなかっただろう。

そして、優秀な者達ほど上手く王都奪還の混乱を生き延びていた。

彼らを含め、このグラーダ軍の質は正規軍と同等かそれ以上だった。


「よし! 機動力を重視した部隊を編成しろ。これより閣下が到着するまで、王都の民には眠れぬ日々を過ごしてもらう」


「自称新夜王殿には、せいぜい頑張って民を宥めてもらいましょう」


 その時、彼らは自分たちを待ち受ける者の存在を知る事が出来なかった。

知っていれば、別な作戦を立てる事が出来ただろう。

だが、それは叶わない。


 彼らは自らの処刑場に出陣する事になったのだ。



次回、久々にあのスキルが発動。

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