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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
167/216

監獄開放

 監獄に囚われていた貴族たちを解放する。

その目的は果たしたのだが、思ったより人数が多い。

現在セルフで顔ぶれを確認してもらっているところだが、数百人はいるだろうか。

本当に力のある、真の意味での吸血貴族はそれほど多くないようだが。


 だがまあ、考えてみれば貴族以外の識字率が50%にも届かない世界だ。

国を動かす文官のほとんどが貴族という事を考えれば、むしろ少なすぎるくらいか。

国の規模そのものは大きくないとはいえ、国力自体は大きい大国のはずだからな。

かなり粛清で減ったのだろう。


 グラーダも国の中枢をスカスカにしておいて、よく統治ができたものだ。

ああ、違ったか。

国全体に魅了をかけて、反抗の意思を封じてたんだったな。

それももう終わりだが。


「君、悪いが事情を説明してくれないだろうか?」


「我々は城とここを行き来するだけで、まったく情報が与えられていないのだよ」


 と、貴族たちの顔ぶれを確認し終わった2人の紳士が話しかけてきた。

この貴族の中でもリーダー格のラングスイル卿とフォーヴォス卿だ。

本来はここにアルプ卿が加わって貴族筆頭の3家だったらしい。

アルプ卿がグラーダに殺されてしまったため、現在は2人がリーダーというわけだ。


「そうだな……、どこから話したものか……」


 とりあえず、俺がルーナ王女に協力するに至った経緯を説明する。

続いて各国の状況や現在の状況を知りうる限り説明していく。

その中には使い魔から伝えられた、本来ならまだ知りえない情報もあったのはご愛敬だ。


「なんと! 鬼王国にまで手を出すとは!」


「人体実験で化け物を!? 何という事を……」


「そうか、あの若者がルーナ王女の……」


 程度の差はあるが、皆驚愕と怒り、そして失望に包まれている。

ここにいる貴族たちはグラーダに逆らった者達だ。

奴に同調する者は1人もいない。


 簒奪者とは言えグラーダが善政を敷いていれば、まだ歩み寄る余地はあったんだけどな。

かつてはどうだか知らないが、今の奴はもう正気かどうか疑わしい。

交渉はするだけ無駄だろう。


「この愚息が! ワシをこんな目に遭わせおって!」


 ガス! ドコ!


 ん? 何の騒ぎだ?

何やら喚いているおっさんがいるようだ。


「ち、父上、その辺にしておいた方が……」


「黙れ! マーデル! 貴様もワシに逆らうのか!」


 ふむ、騒いでいるおっさんは吸血貴族か。

しかし、品性は伴っていないみたいだな。

止めようとする息子らしき青年を突き飛ばし、ムオデルの遺体を蹴りつけている。


「あれは?」


「彼はエレボス卿だ。次男のムオデルに家督を奪われ、長男のマーデル殿と共に投獄されていたのだ」


「はあ……」


 なんか、こうしてみると長男より次男の方が親に似てね?

これは、そりが合わなかっただろうな。

同族嫌悪とか近親憎悪みたいなものかね……。

おっと、こっち見たぞ。


「おい、貴様! デノといったか!」


「ディノね」


「そんな事はどうでもいいわ! それよりどういう事だ!」


 いや、お前が言ってきたんだろ。

後、主語がねえよ。

何が言いたいんだよ、全く。


「何故他国の、それもどこの馬の骨とも知れぬ男がルーナ王女の伴侶なのだ!」


「そりゃ、王女様が選んだからでしょ。俺に怒鳴られてもね……」


「黙れ、黙れ、黙れ! 口答えするな!」


 いや、だから……。

疲れるおっさんだな。

息子の方は後ろでペコペコ頭下げてるぞ。


「恐れ多くも王族の伴侶だぞ! 古より続く高貴なる血筋こそが相応しいとなぜ解らぬ!」


「いや、もう儀式が済んだんだから。今更どうにもならんでしょ……」


「誰が発言を許した! 下賤な冒険者ごときが!」


 その冒険者ごときに助けられといて、よくまあ偉そうに吠えるね。

チラリとラングスイル卿とフォーヴォス卿に目をやる。

すると、2人は揃って首を振った。


 どうやら昔からこうらしい。

え~と、シミラの調査によると……。

おう、こいつ普通に反乱分子じゃん。


 自分がトップじゃないと気が済まないのでグラーダとも敵対していた。

だからここにブチ込まれたけど、先代夜王に忠誠を誓ってた風でもない。

敵の敵って奴か。

でも味方じゃないわな。


「貴様、何をブツブツ言っている!」


「お前はいらんな」


「は? 何、を……」


 呆けたように自分の胸を見るおっさん。

そこには光輝く刃が突き刺さっている。

当然、俺が突き刺した神槍杖の切っ先だ。


「あ、が、ぶ、無礼者……誰か……」


「じゃあな」


 刃がひと際強く輝くと同時に、おっさんの身体は光の粒子となって消滅した。

邪神でさえ滅ぼす輝きの前では、吸血貴族など塵同然だ。

汝の来世に幸あらん事を、てね。


「さて、そろそろ行くぞ」


「あ、ああ……」


「了解した……」


 皆の行動が大分スムーズになったな。

俺に不信の目を向けてた連中も黙ってくれたようだし。

代わりに異様なモノでも見るような目になっているが些細な問題だろう。

おっさんは尊い犠牲になってくれたな。

感謝、感謝。


-------------------------------


「ルーナ王女殿下!」


「ラングスイル卿、フォーヴォス卿、ご無事でしたか!」


「殿下……」


「アルプ夫人……」


「この度は……息子が……」


 フィオ、いやディノさんが監獄から救出してきた貴族達。

謁見の間で彼らは今、亡き主君の忘れ形見であるルーナと感動の再会をしていた。

城内はいまだに混乱が続いているが、それも直に落ち着くだろう。

ディノさん自身はまだやることがあると言って出て行ってしまったが。


 結界維持のために魔力を搾り取られていたエリニュス家の者達も救出され、再会を喜び合う貴族達。

驚いた事に、その中にはグラーダの母親であるアルプ夫人も含まれていた。

そう、グラーダは自分の母親も実家のエリニュス家の者達と一緒に結界維持要員として使っていたのだ。

憔悴したアルプ夫人は今にも自害してしまいそうな様子だ。

だが、俺は彼女に責任は無いと思っている。


 何しろグラーダは転生者だ。

すでに自我を持って生まれてきた以上、教育云々の話ではない。

現にアルプ卿はグラーダを止めようとして殺されてしまったのだ。

アルプ家に責などあろうはずがない。

ルーナも夫人を必死に宥めている。


「久しいな、ジェイス君。いや、夜王陛下」


「いやはや、助かったわい坊主。いや、陛下じゃったな」


「マーネス卿……ラルヴァ卿も」


 外交官のマーネス卿は歳も近く、話が合った。

クーデターの際にルーナを俺に託してくれたのも彼だ。

好々爺然としたラルヴァ卿はルーナの教育係兼護衛でもあった。

幼少時から俺を知っているため、いまだに子ども扱いしてくる。


「ラルヴァ卿、その腕は……」


「ん? 名誉の負傷じゃ。気にするな」


 カカカ、と笑うラルヴァ卿。

しかし、彼の両腕は肩から失われていた。

これは戦闘による傷ではない。


「グラーダに……」


「ふん、あの小僧め。お主と王女殿下を逃がしたのがよほど悔しかったようでな……」


 追手を食い止めたラルヴァ卿の部隊は残らず殺され、卿自身も両腕を奪われた。

命を奪われなかったのは結界維持要員として使うためだろう。

……まてよ、そういえば。


「ラルヴァ卿、傷口を見せてくれませんか?」


「ん? 構わんがどうしたんじゃ?」


「これを試してみようかと」


 これは作戦前にディノさんに渡されたポーションだ。

体力回復用と状態異常回復用の二種類。

そして、これを渡す時彼は言っていたのだ。


『こっちはキュアポーション。状態異常回復用だな。上級だから毒に麻痺、石化に病気に欠損。何でも治る万能薬だ』


 そう、欠損だ。

彼の言葉を信じるなら。

この傷も治せる。


「お? おお!?」


「こ、これは……」


 ラルヴァ卿が驚愕し、マーネス卿が言葉を無くす。

ラルヴァ卿の傷口に光の粒子が集まり、それが腕を形成していく。

そして光が消えた時、ラルヴァ卿の腕は完全に復元していた。


「なんという……」


「こんな事が……」


 気が付くと謁見の間は静まり返り、全ての視線が俺に集中していた。

俺自身も半信半疑だったのでどうして良いのか分からない。

そこに


「お揃いだな。悪い報せだ。王都の外にグラーダ派の連中が集結しだしているぞ」


 その静寂を切り裂くようにディノさんが現れた。

見過ごせない言葉と共に。



ここからはグラーダとの戦争に向かって話は進んでいきます。


グラーダ側の戦力はどこまで強化されたのか?

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