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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
166/216

戴冠

先週は風邪でダウンしてました。


実は今も声が出ないんです。


インフルエンザじゃないんですけどね……。

 一組の男女が王城を進んでいく。

その姿を目にしたものは、ある者は跪き、またある者は驚愕のあまり硬直する。

そして一部の者達は慌てて王城を脱出していく。


「放っておいて良いのか?」


「今は時間が惜しいわ。早く玉座に向かいましょう」


「分かったよ。しかし、慣れないな……」


「慣れてもらわないと困るわね」


 2人は次代の夜の国の王。

新夜王のジェイスと王妃ルーナだった。

今の彼らを知人が見れば、その目を疑うことだろう。


 ジェイスには影人族の特徴はすでに無く、どう見ても高貴な吸血鬼族だ。

ルーナも幼さや不安定さが無くなり、自信と覇気に満ち溢れている。

実際、結魂の儀式によって2人の力は爆発的に高まっているのだ。

2人がかりなら先代夜王も相手にならないだろう。


「おお……あの御方は……」


「間違い無い。ルーナ様だ……」


「お相手は?」


「彼はジェイス殿か?」


「何という堂々としたお姿だ……」


 驚愕と称賛の声をその身に浴びながら、2人は進む。

意外な事に、血迷って襲ってくるグラーダの部下はいなかった。

いや、実は実際に襲おうとした者はいたのだ。

だが、2人の姿を目にした瞬間、本能レベルでブレーキがかかってしまったのだ。


「ここが玉座の間か?」


「ル、ルーナ殿下!?」


「いつお戻りに!?」


「ええ。貴方達、少し離れなさい」


 やがて2人は玉座の間にたどり着く。

そこは謁見の間に比べると小さな部屋だが、その警備と防衛機構は段違いに高い。

今ルーナが離れさせたように警備の衛兵もいるが、扉自体も王族以外開けられない仕様になっている。


 余談だが、この扉はグラーダに強引に破られたため修理されている。

部分的に新しいのはそのためだ。

しかし、グラーダは王笏に認められなかったのだ。


 ギギィ  バタン


 グラーダの時とは違い、ルーナが軽く押すだけで扉は開いた。

そして2人が部屋に入るとゆっくり扉は閉じた。

部屋は薄暗く、中央に豪奢な椅子が鎮座していた。

その前には、これまた豪奢な笏が浮かんでいる。


「アレが王笏と玉座……」


「そう。王笏は玉座を起動させるための鍵なの。さあ……」


「ああ」


 ジェイスが玉座の前に浮かぶ王笏に手を伸ばす。

グラーダが王笏を得ようとした時、王笏はまるで実態を持たないようにすり抜けてしまった。

だが、ジェイスが王笏に手を伸ばすと


「!? これは……」


「抵抗しちゃダメよ。受け入れて」


 王笏は解けるように崩れ去り、ジェイスの手に膨大な情報が流れ込んできた。

それは記憶の継承だった。

歴代の王の理想と実績、迷い、葛藤。

それらが次代の王へと流れ込む。


「先王陛下……」


 そこには当然、グラーダの手にかかった先王の記憶もあった。

それらを受け、ジェイスにさらなる強靭な意思が宿る。

王としての覚悟が定まる。


「終わった?」


「ああ……」


 ジェイスからすると何時間も経ったような気がしたが、実際には数分だったのだろう。

王笏は消えてなくなったが、ジェイスの右手には複雑な模様の刻印が刻まれていた。

これこそが夜王の証。

ジェイスが命を落とした時、刻印は王笏に姿を変え再び玉座の間に戻るのだ。


「よし、この国を、人々を解放しよう」


「ええ。さあ、玉座にかけて」


「ああ」


 若き夜王が玉座にかける。

すると不可視の力が駆け抜け、巨大魔法装置である王城が起動する。

そして貴族たちが命を削って維持してきた結界が、最大出力で展開される。

人々の心を蝕んでいたグラーダの魅了が一斉に解除される。


 その日、夜の国に新たな夜王が誕生した事を全ての国民が知った。


----------------------------


 一方その頃、監獄に収監されている吸血貴族達も夜王の誕生を感じ取っていた。

しかし、その事実を確認するすべが今の彼らには無い。

監獄の檻は貴族どころか王族でも破れないのだから。


 だが、状況はさらに変化した。

監獄の所長であるムオデルが、僅かな配下と共に転がり込んできたのだ。

決して優秀とは言えない彼だが、多少所長が無能でも監獄は監獄だ。

看守たちは絶対者であり、所長は神に等しい権力を握っている。


 その神に等しいはずのムオデルが、真っ青な顔で怯えている。

貴族たちも何が起きているのかと困惑してしまう。

だが、答えはすぐに分かった。

新たな気配が入り口に現れたのだ。


「く、来るな! お前の狙いはこいつ等なんだろ!? こいつらがどうなっても良いのか!」


「やればいいだろう? できるならな」


「ぐ……」


 確かにムオデルには牢の中の貴族達に手を出すことができない。

牢屋に入れば自身も能力を制限されてしまう。

貴族たちを連れ出す時に使用している拘束具もここには無い。


 牢の中に魔法を撃ち込むことはできるだろう。

だが、牢の中の貴族達は大半がムオデルより格上だ。

下手をすると直撃を受けても無傷かもしれない。


「ちくしょう! 何なんだお前は!? 俺に何の恨みがある!? 俺がお前に何をしたっていうんだ!」


「別に個人的な理由は無いな。だが、見逃す理由も無い」


「なんだよ、それ……」


 貴族たちもムオデルも異様な違和感を感じていた。

目の前の人物が、人の形をした人ではない何かに見えて仕方が無いのだ。

思考のロジックが違う。

価値観が違う。


「生かしておくと後々面倒事の種になりそうだからな。消えてもらおうか」


「ぎ!?」


「が!?」


 黒い影がゆらりと動いた。

そう思った時にはすでに影はムオデルの目の前にいた。

影の後ろで護衛2人が首から血を噴き出して崩れ落ちる。


「あ、ああ……」


 影がゆったりとした動きで短剣を突きつけてくる。

動き自体は遅いのに全く反応できない。

ムオデルの本能は警鐘を鳴らしているのに、思考が追いつかない。

それが意識の隙間を縫う暗殺者の極意だと気付ける者も、この場にいない。


「嫌だ、こんなはずじゃ……」


「退屈だったんだろ? スリルが味わえて良かったじゃないか」


 そう、退屈だった。

グラーダの取り巻きの大半は貴族の次男以下。

兄の予備として長い時を過ごし、暇と不満を溜め込んできた者達だ。

だから、自分たちの時代を作るというグラーダの言葉に集った。


 だが、大きな権力には大きな義務も付属する。

彼らには義務を果たすだけの器が無かった。

そしてグラーダにも。


「じゃあな」


「ぐぴ!?」


 上段から振り下ろされた短剣が、ムオデルの頭部に突き刺さった。

さらに、そこからバターでも切るように頭を切り裂き、肩に刃が潜り込む。

刃は鎖骨をあっさり切り裂き、心臓も切り裂いた。


「お、が……」


「ほう、さすが吸血貴族。脳と心臓を破壊しても即死しないか」


 ムオデルは強力な再生能力と強靭な生命力を誇るエレボス家の出身だ。

そのため、貴族であっても即死は間違いないような傷でもなんとか耐える事が出来た。

だが、それは彼にとっては不幸な事だった。


「イタイいたい痛いイタイ痛い……」


「この短剣はサマエルという猛毒の魔剣だ。それだけの傷を受けた以上、いくらお前がしぶとくても助からんよ」


 傷口の燃えるような痛みと全身に広がっていく疼痛。

影はのたうち苦しむムオデルに冷たく言い放つ。

そしてムオデルの腰から牢屋の鍵を取り上げる。


「ふむ、ラングスイル、フォーヴォス、エレボス、タキシム、トケビー、プレタ、ラルヴァ、モーラ、マーネス。それに……ほう、アルプもいるのか」


 牢に閉じ込められた貴族たちの家名を確認していく影。

その中に数人、グラーダの一族であるアルプの血族がいる事に意外そうな顔をする。

だが、グラーダの父であったアルプ卿は模範的な貴族であったのだ。

彼の遺志に従い、グラーダと対立した者がいても不思議ではない。


「さて、これから諸君らを解放する。ああ、ここの兵士はほとんど無力化したから心配は無いぞ。で、ここから出たら城に向かい、新たな夜王に協力してもらいたい」


「新たな夜王……」


「やはり先ほどから感じるこの力は……」


 急転直下の開放に混乱する貴族達。

そんな彼らを尻目に影は次々に牢を開けていく。

そして全ての貴族達が解放されたのと、ムオデルが動かなくなったのはほとんど同時だった。


「さあ、出発しようか。……おっと、名乗るのを忘れてたな。俺はフィ、じゃなくてディノ。ルーナ王女に雇われた冒険者だ」



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