王城の隠し部屋
先週はRWOを更新しました。
半年くらい更新してませんでしたから……。
突然の異変に混乱する潜入チームだったが、王都の混乱はその比ではなかった。
一行はミッション開始を決断し、それぞれの目的地へと向かう事になった。
フィオとリーフは、投獄された夜の国の貴族たちの解放に。
フェイは4人の兵と共に実験用に捕らわれた人々の救出に。
そして、ジェイスとルーナはシミラと共に王城へ向かう。
オーロラが照らす王都に、変革の時が迫っていた。
「本当に気付かれないんだな……」
「王族としては複雑な心境です……」
王城の警備兵もマジックアイテムも、全く反応しない。
諜報員であり、潜入する側であるジェイク。
王族であり、潜入を防ぐ側であるルーナ。
その両方が複雑な心境で呟いていた。
ジェイクからすれば自分たちの厳しい訓練や、鍛え上げたスキルが霞んで見えてしまう。
ルーナからすれば、自分の居城が散歩でもするように踏破されてしまうのだ。
シミラの隠蔽能力は2人の常識を完全に崩壊させるものだった。
何しろたった今、城門を堂々と潜り抜けたばかりなのだ。
「ルーナ、この先は?」
「この内壁の向こうなんだけど……」
「遠回りになるな。飛び越えられるか?」
「ええ。翼で飛べばって、え?」
まるで初めからそうであったように、内壁に階段ができていた。
石造りの立派な階段だ。
呆然とするルーナ。
「これ、幻術なのか? 乗れるぞ……」
ジェイスが試しに一段登ってみて驚愕する。
実体を持った幻覚など、もはや幻覚ではない。
現実だ。
シミラは事象を捻じ曲げ、上書きし、現実を書き換えてしまったのだ。
「下り階段もある。これでショートカットできるな。行こう」
「え、ええ……」
その後も存在しないはずの扉が現れたり、通路ができたりという事が続く。
もはや2人は諦めたように、ただ目の前の出来事を受け入れていた。
そして、自分たちの頭上に浮かぶ銀色の球体が持つ人知を超えた能力も。
「ここは?」
「儀式や祭事で使用される区域ね」
王城の一角、他とは雰囲気が違う区画。
警備している兵たちも、まるで儀仗兵のような装備をしている。
この区画への侵入者は想定されていないのかもしれない。
やがて、2人は一番奥のそれほど広くない部屋にたどり着いた。
中に入ってみると中央には祭壇があり、いかにも儀式場という雰囲気だ。
床や壁、天井には魔法陣まで描かれている。
「ここが儀式の間か……」
「ふふ、そう思うでしょ?」
実際、傍から見ればこの部屋こそが儀式場である。
グラーダも幾度となくこの部屋を訪れ、調査を繰り返していた。
しかし、何も解らなかったのだ。
それは当然の事であった。
「実はこの部屋、ただの部屋なのよ。祭壇も魔法陣もみーんな飾りなの」
「そうなのか? じゃあ、儀式場はどこに?」
「ん~、部屋を見て何か気付かない?」
意味深に問いかけられ、ジェイスは部屋を見渡す。
すると妙な事に気付いた。
部屋が長方形なのだ。
廊下から見ると、扉は壁の中央にあった。
しかし、部屋の中から扉を見ると中央より端に寄っている。
つまり、
「こっちの壁の向こうに何かあるのか?」
「当たりよ。さあ、こっち」
ルーナは部屋の外に出ると壁の端まで歩く。
そして、装飾品の1つに手を触れる。
すると装飾品はルーナの魔力に反応し、光を放つ。
シュン
意外なほど静かに壁の一部がスライドし、通路が口を開けた。
2人が足早に通路に入り込むと、入り口は即座に閉じてしまう。
ぼんやりと明るい通路を2人は進んでいく。
しかし、シミラはその通路に入らず、入り口の外に留まっていた。
気配りのできるシミラであった。
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王国の重罪人や政治犯を投獄している施設。
それが、特別監獄である。
だが、普段は厳重な警備も、今は完璧とは言い難い状況だった。
「どうやら、あれはカリスの仕業だったみたいだな」
〈キュ?〉
「鬼王国に潜んでいたネズミを駆除した余波だとさ。まあ、ちょうど良い目くらましになったな」
狭い建物の中では長大な神槍杖は振りにくい。
強引に振れば建物が崩壊してしまう可能性もある。
そこで本日のフィオは短剣に黒装束というアサシンスタイルだ。
「ほいっと」
「はぐぅ!?」
ドサッ
右往左往する兵たちを1人1人静かに気絶させていく。
所詮、警備の兵たちは上からの命令に従っているだけ。
フィオも皆殺しにしようとまでは考えていない。
「なんだか騒がしいな……」
「雑兵どもが。もう少し静かにしてろよな……」
「おい、明日連れていく連中選別しとけよ」
「おう。御偉い貴族様も今じゃ奴隷みたいなものだな」
監獄の中に入ると幹部クラスが談笑していた。
どうやらグラーダのシンパらしく、話す内容は不愉快なものばかり。
国を良くするなどの志は無く、単に自分たちが好き放題するには貴族たちが邪魔だっただけのようだ。
だが、聞き逃せない話題もあった。
「(やはり、結界要員の貴族たちはここに囚われているのか)」
元々グラーダに逆らって投獄された者達だ。
彼らを解放すればルーナの力になってくれるだろう。
フィオは隠密を維持したまま、彼らの後についていった。
一方、一般市民や他国の労働者を収容した収容所は、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
ただし、あちこちに屍をさらすのは、収容所の警備兵ばかりであった。
あまりにも一方的。
それを成した張本人は、血の海のど真ん中で童女のように笑っていた。
〈アハハハハハハァ! ほらほら、どうしたの? みんな逃げちゃうよ?〉
「う、うう……」
「どうすれば……」
収容所の防壁の一角は完全に崩落しており、収容所の外壁には巨大な穴が開けられている。
そこからボロボロの囚人服を着た者たちが、列をなして逃げ出していた。
当然兵たちは止めようとするのだが、それを阻む者が1人。
「さあ、早く!」
「ああ、もう。メチャクチャだ……」
ジェイスの部下の兵たちは、必死に収容所に囚われていた人々を逃がす。
彼らにとっても今の状況は想定外だった。
多人数を逃がすのだから、かなり困難な任務になるだろうとは思っていた。
だが、まさかいきなり収容所の防壁と外壁を粉砕するとは思っていなかったのだ。
妖精女王フェイは面倒くさいことが大嫌いだった。
そして派手な事が大好きだった。
ついでにフィオがいないのでやりたい放題だった。
〈それぇ!〉
「ひぐぅ!?」
放たれた風の刃が兵たちを切り刻む。
〈ほらほらほら!〉
「がぁ!?」
「ぐぉ!」
紫電が走り、兵たちを焼き尽くす。
凄惨な虐殺の場と化した収容所。
すでに収容所は空間隔離されており、警備兵たちは逃げ出せない。
いまや、彼らこそが虜囚であった。
この場にいたのがフィオならば、いくらかは助かったのかもしれない。
しかし、フェイは目の前のオモチャを逃す気ゼロだった。
フェイが子供っぽい残酷さを隠し持っている事もあるが、今回は他に理由があった。
犯罪者たちは監獄に入れられている。
つまりこの収容所に入れられている者達は、ほぼ全て無実の民なのだ。
そもそも、この建物自体がグラーダが新たに建造した施設。
そこに配備された者達が、グラーダの息のかかった者達であるのも当然の事だった。
〈どうしたの? 好きなんでしょ、こういう遊び〉
「グガ!? ガボガボ……」
突然発生した水球が兵士たちを飲み込む。
兵士たちは苦しみながら溺れ死んでいく。
凄惨な光景だが、収容されていた者達は気にしていない。
むしろ、清々した表情でその光景を見つめている。
なぜなら、彼らも似たような目に遭わされてきたからだ。
兵たちはグラーダの命令で、虜囚たちを殺すことは禁じられていた。
しかし、それ以外のあらゆることが許可されていたのだ。
兵たちは女性を強姦し、男性を拷問した。
死なない程度に、しかし徹底的に虐待していた。
毎日、毎日。
朝も、昼も、夜も。
フェイが突入した時も。
〈ほ~ら、まだまだよ!〉
騒ぎを聞きつけた兵たちが集まり、その分他が手薄になっていく。
収容者たちが去った後の収容所は、兵たちを誘き寄せて殺す屠殺場と化していた。
オーロラの降り注ぐ夜、血の海の只中で哄笑する妖精。
それは禍々しくも、妖しい美しさに満ちた光景であった。
祖父の具合が悪く、お迎えが近いとのことです。
突然更新が停止したらそっち関係だと思ってください。
アレコレが片付いたら再開しますので。




