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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
161/216

王都の現状

新年一発目です。

 謎のゴーレムが合成獣を粉砕してしばらく。

獣魔国の密偵達はようやく我に返った。

そして、ゴーレムが全く動こうとしないので、彼らも緊張を解く。


「アレは何なんだ?」


「分からん。だが、助けてくれたことは間違いなさそうだ」


「そうだな。アレが現れなければ俺たちは死んでいた」


 最初の奇襲は下手をすれば彼らも死んでいたのだが、その辺は助かったという事実に吹き飛んでいた。

ギアにとっても獣魔国に敵性体が侵入しかけたから排除しただけで、彼らを助けたという認識は無い。

要するに彼らは運が良かったという事だろう。


「ともかく、我々は無事だったのだ。任務を続行しなければ」


「そうだな」


「何者かは知らんが感謝する」


 密偵達はボロボロの身体に鞭打って、獣魔国へと去っていく。

ギアは彼らを見向きもしない。

ギアのミッションは国境の防衛だからだ。

彼らはちょっとしたレギュラーくらいにしか考えていない。


〈派手にやったな……〉


〈……〉


 突然聞こえた声に応えるように、ギアの頭部に灯る光が点滅する。

いつの間にか、そこには新たな影が姿を現していた。

翼蛇に乗った死神、プルートだった。


〈……〉


〈工作員なら全て始末したよ。リンクスが残っているから問題無い〉


 ギアの攻撃を受けて爆散してしまった合成獣。

しかし、2体の下半身はかろうじて原形を留めていた。

プルートは翼蛇から降りるとその残骸を手に取る。


〈これは肉人形フレッシュゴーレムではないな。もちろん、先天性の合成獣でもない。生体のまま複数の生物が合成されている。だが、これは……〉


 通常、合成獣と呼ばれるモンスターには2種類が存在する。

1つはグリフォンなどのように、初めから複数の生物の特徴を持って生まれる先天性の合成獣。

もう1つは後天的に複数の生物を合成させた人工合成獣だ。

そして、後天的に合成獣を作る場合は、魔法的な痕跡が残るはずなのだ。


 植物ならば接ぎ木などで異種の融合が可能だ。

しかし、動物となるとそう簡単にはいかない。

同種族同士でも血液型などで不適合の場合が多い。

異種融合など不可能に近い。


 だが、人工的に作られた合成獣は確かに存在する。

それは、それを可能とする魔法が存在するからだ。

本来は切断部位の接合に使用される治癒魔法。

そこにコネクターの機能を持つ術式を組み込むことで拒絶反応を抑え、異種族の部位を接合できるようになる。

ただし、


〈術式が痕跡すら無い。魔法による合成ではないな……〉


 そう、臓器移植患者が免疫抑制剤を使用し続けるように、コネクターとなる術式は体内に残留し機能し続けるはずなのだ。

例え生命活動が停止していても。

術式が停止、あるいは解除されれば接合部位は拒絶反応を起こし、合成獣はバラバラになってしまう。

そして、その術式の解除は人工合成獣討伐のセオリーだ。

だが、その術式が無い。


〈術式無しで肉体が、いや、霊体までも完全に融合しているのか。摂理を無視したありえない現象を引き起こしている。やはりギフトによるものか〉


 かつてギフトによって引き起こされたおぞましい事件。

人間の肉体を作り変え、魂までも捻じ曲げた狂気の業。

それと同じものをプルートは感じ取っていた。


----------------------------------


「こんなに楽でいいんだろうか……」


「本当に見えていないんですね……」


 シミラの認識阻害によって、一行は周囲から完全に消え去っていた。

正確に言えば目に映っていても気にされない。

某青いネコ型ロボットのストーンなキャップのようなものだ。

長所としては初めから隠れているわけではないので、見つかっても問題無いという事だろう。

おかげで一行は堂々と王都を歩いている。

斥候職から見れば愚痴も言いたくなる反則的な能力だ。


「この状況だ、有効に使えばいいだけだろう?」


「まあ、そうですな」


「では、情報を集めましょう」


 慣れてきたのか諦めたのか、兵たちは街へと散っていく。

フィオは一応ルーナ王女とジェイスと行動を共にすることにした。


「思ったより治安は悪化していないな」


「警備の兵たちは巡回しているみたいですしね」


「しかし、人が少なくなっている気がするんだが……」


 治安は悪くなっていないが、寂れ始めている。

そんなところだろうか。

街の様子を確認しながら目的の場所へと向かっていく3人。


「ここです」


「ふむ、確かに空き家みたいだな」


「ええ。緊急時の王族専用セーフハウスですので。グラーダも知らないはずです」


「……そうか」


 グラーダはギフト持ちだ。

何らかの方法で、弑した夜王から情報を得ていても不思議ではない。

まあ、向かってくれば始末するつもりだが、そう都合よくはいかないようだ。


「どうしました?」


「いや、全員そろってから話そう」


「?」


「はあ……」


 しばらくすると情報収集に出ていた兵たちが戻ってきた。

グラーダの洗脳は広く浅くなので、1人1人の思考まで制御できるわけではない。

つまり、王都の住民は普通に不満を持つし、普通に噂話をするのだ。

そして、それらは重要な情報源になる。


「全員揃ったようですね」


「それなりに情報は集まったようだな」


「その前に1つ良いか?」


 まず最初に、ちょっとした情報を提供しよう。


「実はな、グラーダは今ここにいない」


「え?」


「そうなんですか?」


 そうなんだよ。

リーフが調べたから間違いない。

少なくとも王都周辺には奴はいないんだ。

いれば即始末してやったんだが、運の良い奴だ。

まあ、それはそれで好都合だが。


「我々もそれらしき噂を聞きました」


「現在、奴は北へ向かっているそうです」


「北? 巨人族にちょっかいをかけるつもりか?」


 巨人族は聖域の守護者だ。

竜やエントと同格の怪物。

下手をすれば国を滅ぼされる。

そこまで馬鹿とは思いたくないが……。


「いえ、聖域周辺の森に生息する魔獣が目的のようです」


「魔獣を使って何かの実験をするつもりだとか」


「グラーダの実験……」


 悪い予感以外しないな。

だが、そうなると……。


「もしかすると、相当の数の人を連れて行ったんじゃないか?」


「その通りです」


「クーデター直後、グラーダに反抗した人々。さらに国内の吸血鬼以外の異種族。彼らを強制収容し、今回同行させているとか」


「王都の人口が減っているように感じたのは、気のせいではなかったのですね……」


 すでに粛清済みってワケか。

まあ、それならこっちも目的を果たすまでだ。


「2人とも、やるべきことは解ってるな?」


「ええ。彼がいない隙に儀式を行います」


「助けたい、というのが本音だけどな」


 この場にいれば可能かもしれんがな。

離れた場所にいたんじゃリスクが大きすぎる。

先ずは儀式を成功させ、王都を奪還しないと。


〈キュイ〉


「ん? そうなのか?」


「どうしました?」


「いや、強制連行された人々だが全員が連れていかれたわけじゃないらしい」


「本当ですか!」


 リーフによると、収容所っぽいところにはまだ結構人が残っているようだ。

どうやら一気に連れて行かずに、少しずつ連れ出して使っているみたいだな。

この街にいるなら救助は可能か。


「じゃあ、二手に分かれるか。お前たち2人は儀式に向かえ。場所は城だったか?」


「ええ。王族以外は入れない儀式場が」


「では、我々と貴方は収容所というわけですね」


「そうなるな」


 兵たちも気を使っているな。

詳しく聞いたわけじゃないが、儀式は水入らずの方が良いみたいだからな。

さて、後はタイミングか。


「決行のタイミングはどうしましょう?」


「街を混乱させれられれば良いんですが……」


 混乱か。

軽くテロでも起こすか?

もちろん犠牲者は出さないようにだが。


「ん? 窓の外が……」


「空が明るい?」


「あれは? 光のカーテン?」


 外を見ると上空の結界にオーロラがかかっていた。

結界にも凄まじい負荷がかかったらしく、城は大混乱。

そして街も大騒ぎ。


 これ以上無い決行日和だった。


ここで鬼王国イベントとつながりました。





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