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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第1章 異世界召喚編
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利用する者

 皇帝が褒美を渡して退室する。

それを見送ったファンは薄笑いを浮かべた。

向こうは自分を利用するつもりなのだという事はバカでも解る。

それくらい皇帝の態度は解りやすかった。


 皇帝の思惑には盲点があった。

先代の英雄マイクは、良識人であったが故に扱いにくい所があった。

倫理に反する行為は断固として拒否し、結局嘘と脅しで従わせる事になった。

皇帝としてはもっと扱いやすい武器が欲しかった。

そこで召喚時に『倫理観の薄い者』という条件を付けたのだ。

その倫理観が暴走を防ぐ鎖である事を考えもせずに。


 新たな英雄チャ・ファンピョンは首輪の外れた狂犬だったのだ。

今、大人しく皇帝に従っているのも、彼なりの思惑があるからにすぎない。

すなわち、異世界での躍進の足がかりにするためだ。

彼にとっては、他者とは等しく自分の為に利用する為の存在なのだから。


-----------------------------

 

 チャ少年は戦後独立した新興国で生まれた。

混乱する社会を纏めるために、政府はナショナリズムを煽る政策をとった。

外部に民の目を向けて、内部の混乱を見せないようにする。

それ自体は様々な国で行われてきたことだ。


 問題は、そのナショナリズムが肥大化し独り歩きし始めたことだった。

国民は自分達が被害者であるという事を免罪符とし、都合の悪い事は全て他者の所為にするようになった。

政府は歴史を都合の良い様に改変、ねつ造した。

そんな教育を受けた子供たちは、自分達は偉大だという優越感と自分達は敗者であるという劣等感。

相反するモノを心に植え付けられた。

優越感によって他者を見下すのに、劣等感から他者を嫉み落としめた。


 悪い事は人の所為にするため、反省ができず精神的に成熟できなくなった。

刷り込まれた事を疑いもせず、疑問の声は数の力で押しつぶした。

ナショナリズムの高まりと共に『我』が強くなり、自己中心的な人間が増えた。

感情の抑えが効かない人間が増えた。


 国民がそうなれば国も変質する。

周囲の国からは『自分勝手で感情的』『粘着質で尊大』と嫌悪され始めた。

しかし、彼らにそんな周囲の声は届かない。

議会制民主主義は破綻し、感情性民族主義などと言われだす。

法治は形だけとなり人治、法ではなく人の感情が物事を決める国となっていく。


 目を背け続けた内側の歪みは大きくなり、国は傾き始める。

増え続ける海外への移民とは逆に、国内の経済状況は悪化し続けた。

他国からの支援もプライドが邪魔して上手く取り付けられない。


 現実と向き合い自らを省みれば未来はあるだろう。

しかし、今のまま目と耳を曇らせ続ければ……。

そんな国だった。


 チャ少年が生まれた家は極々普通の家庭であった。

ただし、それはこの国の基準で言えばだ。

親は自身の為に子供に栄達を望み、そこに愛情は少ない。

子供は幼い時から過酷な競争にさらされ、他者は友ではなく競争相手にすぎなかった。


 過度な学歴社会の歪みは、子供の心を捻じ曲げる。

人間関係に同等は存在せず、上か下かのみとなる。

利用するのが当たり前、利用されるのは自分が悪い。

それが当たり前だった。


 そんな中ではチャ少年は優秀な部類だった。

頭が良く運動もできる。

人間性に関しては社会の評価基準に存在しない。

彼は順調に高校に進学した。


 周囲より一歩抜きんでた彼は、趣味に時間を使う余裕ができた。

趣味はネットゲームだった。

時間をかければそれなりの結果が出せ、結果もキャラの強さとして目に見える。

ゲームは彼の功名心や優越感を満たしてくれた。


 もう1つの趣味はノベルだった。

ゲームは確かに楽しいが、ナンバーワンになるのは楽ではない。

成れたとしても維持するのは困難だ。


 その点、ノベルは良い。

主人公は特別だ。

努力しなくても上手く行き、努力すれば必ず結果が出る。

あり得ないと解っていても、そんな特別な主人公になりたいと思っていた。


 そんな彼の願いは唐突に叶えられる事になる。


-----------------------

 

「はっ! やっ!」


カン キン


「そうだ。一撃一撃を考えて振るうんだ」


「チェスを打つように、ですね」


「女のお前は威力で劣る。だから技が必要だ。少ない手数で防御を崩し、隙を突くんだ」


 逆に兄の方は余計な技はいらない。

最速最強の攻撃で防御ごとぶち抜くのが理想だ。

魔力の使い過ぎでぶっ倒れているが。


「うう……」


「お目覚めか?」


「あれ? 俺は……」


「魔力の枯渇だ。二重強化は燃費が悪いからな。もっとペース配分を考えろ」


「解ったよ。難しいな……」


 双子の訓練は順調だ。

すでに以前見た英雄と斬り合っていた騎士とも2対1なら渡り合えるだろう。

もうすぐ卒業だ。

俺もそろそろ動かないとだしな。


 貴族狩りも大分終わったし、本命行くか。

あのドロドロした不快感を放っていた異世界人。

ろくでもないんだろうな、やっぱり。




単純なゲーム気分のアホじゃなくて。狡猾なタイプにしました。


やっぱりイコンっぽくなりますね。

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