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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
158/216

別口の調査員たち

 夜の国と魔人連合国に接する国、獣魔国。

ここまでは存在感が薄かったが、彼らとて何もしていなかったわけではない。

むしろ、大勢の労働者たちが安否不明な彼らこそ、最も焦っていると言えるだろう。


 獣魔国は歴史的にも夜の国と仲が良かったとは言えない。

最近の友好関係も、仁君と名高い今は亡き夜王個人を信用してのものだ。

他種族差別を平然と垂れ流すグラーダなど、獣魔族たちは欠片も信用していないのだ。


 彼らが人質に弱いというのは周知の事実だ。

ゆえにグラーダも獣魔国の動きは鈍いだろうと予想していた。

それは正しい分析だったが、そこに変化が訪れた。


 魔人連合国から帰った商人たちが、ある噂を持ち帰ったのだ。

曰く、鬼王と魔人王(議長)が夜の国の工作員に襲われた。

両名は無事だったが先代鬼王が殺された。

実行犯は吸血鬼に操られていた。

黒幕は吸血貴族ノーブルだった。


 これらの情報は直ちに獣魔国の中枢に伝えられる事になった。

国王である獣魔王を含む重臣たちも、何もできない状況に齎された情報に飛びついた。

そして、その中に放置できない情報があったのだ。


「獣魔族を素体としたと思われる化け物、か……」


合成獣キメラというやつでしょうな。信じたくはありませんが」


 獣魔王の呟きに重臣の1人が答える。

当代の獣魔王は、いわゆるケンタウロスと呼ばれる半人半馬の姿をしている。

先代は屈強な熊の獣魔族であったので、母方の血が濃く出た結果であった。

現在の獣魔族は、獣魔族間であれば混血に対する忌避感は薄くなっているのだ。


 ケンタウロスは獣魔族の中でも高い戦闘力を持つ種族だ。

何しろ単独で騎兵の機動力と突進力を持っているのだ。

弓を用いれば弓騎兵、鎧を纏えば重装騎兵、平地においては圧倒的に強い。

獣魔王の母である先王の王妃も優秀な軍人であった。


「同胞の安否を気にして動かなかったが、間違いだったのかもしれん」


「交渉には一切応じず、使節団の受け入れも拒否。これ以上は待つだけ無駄でしょうな」


「鬼王国と魔人連合国が同盟を組んだ今が好機やもしれませんな」


「大使の方々は?」


「迎賓館にご案内しました」


 魔人連合国の使節団は、何事も無く獣魔国にたどり着いていた。

野盗の襲撃などは一切なく、警護の使い魔たちも暇であった。

しかし、これには裏の理由がある。

グラーダは他国で奴隷買取を始める前に、犯罪者や盗賊を連れ去り実験台にしていたのだ。

大陸の秩序を乱す彼が治安を向上させるとは皮肉な話である。


「魔人連合国は調査部隊を送り込むそうですな」


「ふむ、虎の子の諜報部隊ですか」


「不気味なほど情報が外に出てきませんからな。もはや直接調査するしかないという事でしょう」


 獣魔国にも隠密に長けた種族は多い。

むしろ国民の大半が何らかの形で優れた感覚を持っている。

だが、それゆえに逆に専門の部隊が存在していない。


「こちらからも調査隊を送ってみるべきでしょうな」


「現状が確認できれば今後の方針も決められますな」


 獣魔国が動かないのは同胞の安否が知れないからだ。

だが、同胞が無事どころか化け物に変えられているというのなら、動かないことは愚策だ。

即座に戦争を仕掛けて同胞を取り返すべきだろう。

時間が経つほどに状況が悪化するのだから。


「では調査部隊の手配を頼む」


「承りました」


「しかし、人を怪物に作り変えるとはな……」


「その能力も恐ろしいですが、正直それを実行する奴の精神の方が恐ろしいですよ」


「グラーダは吸血鬼とか獣魔とか種族とはまた別の、相手をモノとしか見ていないような異常性を持っているようですな」


 獣魔国の諜報部隊は速やかに夜の国へと向かった。

魔人連合国の使節団は、彼らの報告があるまで獣魔国で待機することになった。


------------------------


 夜の国に潜入した獣魔国の調査隊は、国境付近の村から見て回ることにした。

結界の影響でやや薄暗いが、せいぜい夕方程度。

獣魔族の視力をもってすれば昼間のようなものだ。


「ふうむ、これが噂に聞く大結界か」


「確かに陽光に含まれる光の魔力が少ないな」


「生えている植物も独特だな」


 通常植物には光の魔力が必須である。

しかし、少数だが生育に光の魔力が必要無い植物もある。

夜の国は、本来なら珍しいはずのそういった植物だらけなのだ。

結界が張られるようになってから、数百年かけて生態系が変化したのだろう。


「畑を見ろ。作物もかなり特殊だぞ」 


「ん? お前は見たことないのか?」


「夜王が健在だったころは獣魔国にも輸入されていた野菜だぜ」


「そうなのか?」


「ああ。特別美味いってわけじゃないがな」


 雑談を続ける調査員たち。

気が抜けているように見えるが、それも仕方ないだろう。

何しろどの村も人気が少ないのだ。


 最低限の人口はあるようだが、活気というものが全くない。

まるで労働奴隷のように、唯々仕事をしているだけなのだ。

目の前の仕事に精一杯で調査員たちに気付く様子もない。


「えらく寂れてるな」


「大人が少ないように見えるが……」


「同胞の姿も無いな」


 調査しようにも同じような村ばかり。

国境近くの村では何も分からない。


「仕方ない。もっと進もう」


「危険じゃないか?」


「だが、これでは何も分からんぞ?」


「せめて、もう少し大きな町を見つけないと」


 こうして彼らは未知の領域と化した夜の国を進んでいく。


------------------------------------


 一方、魔人連合国の調査隊も同じような光景を目にしていた。

調査隊は困惑していたがルーナ王女の憤りは激しかった。

グラーダが民を虐げる暴君であることが改めて判明した瞬間だった。


「よし、行けシミラ」


 フィオの指示を受けたシミラが、村の代表と思われる人物に襲い掛かる。

といっても傷つけるわけではない。

彼の記憶を読み取り、情報を集めるだけだ。

そして、その情報を調査隊全員に共有させる。


「ここは強制徴兵か」 


「さっきの村は食料の徴収。グラーダにとって小さな農村など、どうでもいいんだろうな」


「出稼ぎに来ているはずの獣魔族も見当たらないです」


 やはり夜の国の中央に向かわなければ分からない。

獣魔国の調査隊と同じ結論に達した一行は、より大きな町を目指すことにする。

王女のルーナは、小さな村よりも大きな町の方がよく知っている。

ジェイス達も人口の多い町の方が人ごみに紛れる事が容易い。


「う~む、妙だな」


〈いませんね~〉


〈キュ……〉


「何かありましたか? 使徒殿」


「使徒はやめてくれ。冒険者ディノだろ」


「失礼」


 最初にあれこれあったが、現在のところ部隊の者達との関係は悪くなかった。

これは、フィオの行動には何かしらの合理的な理由があると認識されたことが1つの理由。

もう1つ、天使と行動を共にしているという事が大きかった。


 もちろん疑う者もいたのだが、そもそもアリエルは生物ですらない。

アリエルが何者なのか分からない以上、天使ではないという証明も不可能なのだ。

嘘を暴くという魔法やスキルを使ってもそれは同様。

アリエルは天使エンジェルではないが天使アンヘルなのだ。

天使か? という問いにYESと答えても嘘にはならない。


 それでも五月蠅く食い下がる連中にはシンプルに対応してやった。

単純に力を見せてやったのだ。

人知を超えた力を見せられれば、本物かどうかなど二の次だ。

重要なのは力ある存在が味方に付くという事なのだから。


「夜の国というのは魔獣や妖獣が生息していないのか?」


「え? そんなはずありませんが……」


「だが、かなりの範囲を索敵しても全く反応が無いぞ?」


「……」


 魔力を蓄えた動物は魔獣に変ずる。

歪みに侵された生物は妖獣と化す。

世界に動物が生息する限り、まったく居なくなることはまずありえない。

だが、夜の国からそれらが消え去っているとしたら。


「善意による討伐? まさかな……」


〈私、良い予感はしないな~〉


〈キュキュ〉


 その後、アリエルからの連絡でフィオ達は合成獣の存在を知ることになる。

そして、碌でもない予感は確信に変わるのだった。




外交で重要なのは初期対応ですね。


日本の外交力は先進国の中ではかなり低いらしいですが。

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