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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
157/216

その頃の簒奪者

 使い魔たちによって鬼王国への謀略が失敗したころ。

グラーダは私兵を連れて夜の国を離れていた。

訪れたのは聖域の手前、魔獣がひしめく森林地帯だ。

そして、その目的は材料・・の調達だった。


「よし、こいつは使えそうだな」


「閣下、被害が大きくなってきましたが……」


「まだ在庫はあっただろう? 追加を送らせろ」


「……はい。了解しました」


 命令を受けた兵士は足早にその場を後にした。

そこは仮設の作業場だった。

だが、そこを見たものは皆同じ感想を抱くだろう。

すなわち『腑分け場』と。


 捕獲、あるいは討伐された魔獣、妖獣がずらりと並んでいる。

グラーダはそれらを解体し、素体と融合させてキメラ兵を作っているのだ。

素体は、夜の国に出稼ぎに来ていた獣魔族を中心とした労働者たちだ。

グラーダは彼らを囮や壁役として使い捨て、最後にはキメラ兵の素体にしているのだ。

十分に離れた所で兵士は呟いた。


「種族は違えど同じ魔族を在庫、か。最近の閣下は冷酷すぎる。いや、冷酷というよりも……」


 かつては、さすがに非人道的だと忠言した者もいた。

しかし、彼は即座に素体にされてしまった。

それ以降、グラーダに表立って逆らう者はいない。

いや、素体にされた者も逆らったつもりなど無かった。

グラーダのためを思い、忠言したのだ。


 だが、グラーダには忠言を聞き入れる度量が無かった。

自分に対する批判、文句としか受け止めなかったのだ。

能力はともかく、グラーダの内面は非常に幼く子供だった。

子供ゆえにどこまでも残酷だった。


 『賢者は歴史に学び、愚者は失敗に学ぶ』という言葉がある。

要約すれば、他者の経験を糧にできる者は成長が早く、自分の経験しか糧にできないものは成長が遅い、といったところだろうか。

人間は本という形で先人たちの経験を糧とし、知識を得ることができた。

教育というシステムは、誰しもを賢者に育てるためのシステムといえるのだ。


 逆に与える情報を限定、改竄して、意図的に愚者を生み出すこともできる。

グラーダの場合は前世で受けた教育がこちらであった。

自分たちは尊く、平民はモノ。

そんな歪んだ価値観は転生しても直らなかったのだ。


 ともあれ、グラーダは前世の記憶もあり、基本的に他者の意見は聞き入れなかった。

家柄や血筋で人の価値を計っており、自分より下の人間の考えに価値を見出していなかった。

その理論で言うと王族の意見は絶対なのだが、彼は自分が転生者だという理由で王族すら見下していたのだ。

と、いうよりも彼の価値観は『自分至上』が基本であり、血筋だの何だのは後付けの理由に過ぎなかった。


 歴史からも自分の体験からも何も学ばないグラーダは、案の定暴走していった。

彼にとって魔獣と素体をバラして融合させることは、むしろ楽しみとなっていた。

プラモデルのパーツを組み替えて、自分のロボットを作り出す某ゲームをやっているようなノリなのだ。


 初めは上手く行かなかったその作業も、どんどん上達していった。

そうして得た技術を以て自分を強化するのは快感ですらあった。

特に、取り込んだ王族たちの力はまだ上手く扱えていない。

王としてそれは我慢できなかった。


 自分のStに記載された『吸血貴族』の種族名。

これが『吸血王族』に変わる日をグラーダは心待ちにしていた。

と、そこでグラーダは解体の手を止めた。


「あった。これか……」


 この魔獣は凄まじい敏捷性を誇る。

その秘密は全身に神経中枢を持ち、脳の指示を待たずに反応できることにあった。

両手、両足、上半身、下半身、計6つの神経中枢。

グラーダは取り出したそれらを


 ズプリ


 自分の身体に融合させた。


「おお……」


 一瞬の酩酊感。

その後、グラーダの感覚は以前とは比較にならないほど鋭敏になった。


「これこれ、コレだヨ」


 癖になりそうな充実感と万能感。

融合によって強化されるたびに訪れるこの感覚。

グラーダはこの快感の虜になっていた。


 そのたびに零れ落ちる何かに、愚者は気付く事が出来ていない。


----------------------------


 一方、フィオ達は夜の国と魔人連合国の間の山岳地帯を抜けていた。

この山は天然の防壁であり、侵入してきた敵を打ち倒すための狩場であった。

所々に点在する駐屯地で休みながら、数日かけての山越えである。


「相変わらず険しいですね……」


「普通に歩けるだけマシだと思うがね」


 目立たないように全員が徒歩。

そもそも山の中では馬は使えない。

ルーナ王女にとっては厳しいだろう。


 だが、フィオには先導するジェイスが安全かつ楽なルートを選んでいるのが解っていた。

他のルートならルーナ王女はとっくにリタイヤしていただろう。


「見た目は分からないが、この山は要塞化されてるな」


「え?」


「安全なルートは巧妙に隠され、見えるルートを歩くと監視網に引っかかるのさ」


「……流石ですね」


 ルーナ王女はキョロキョロと周囲を見渡すが、異常は感じ取れない。

一方のジェイスは高度に隠蔽された天然の要塞が、丸裸にされていくように感じていた。

ちなみに、ルーナ王女を救出したときに使ったルートは迎撃用のルートだ。

グラーダの追手は、全て待ち伏せしていた軍によって倒されている。


「ん? あそこは木が無いんだな」


「ええ。あの辺一帯は硫黄のガスが噴き出すので生き物がいないんですよ。我々も危険なので近寄りません」


「ほう……。(ヴァルカン、あそこがいいな)」


「え?」


「いや、何でもない」


 この瞬間、『山』は『火山』と化した。

しかし、それが分かるのは少し後になる。

夕方ごろに一行は山岳地帯を抜け、麓の湖で野営することになった。

お疲れであろう王女のためにフィオは寝床を提供することにした。


 プシュー!  ムク ムク ムク……


「……これ、どういう原理なんです?」


「さあねぇ……。漢の浪漫で片付くなら嬉しいんだが」


 フィオが用意したのはマッド職人お手製のコテージであった。

手のひらサイズに折りたたまれているのだが、不思議な事に留め金を外すと勝手に開き、家のサイズにまで広がるのだ。

さらに紙のように薄いはずの外壁は風船のように膨らんで厚くなり、魔物の攻撃もクッションのように柔らかく受け止めて破れない、

止めに、なぜか内部には家具が揃っているのだ。


 ゲーム時には1パーティに1個必須とまで言われた人気商品であった。

ちなみにフィオがもらった試作品が、地面に固定されていなかったというエピソードがある。

タダでくれるというので、怪しみつつも大人しく貰ったフィオであったが、当然のように欠陥品であったのだ。

結果、休憩していたら大型モンスターの突進を受け、コテージごと吹っ飛ばされたのである。


 またもや実験台にされたと気付いたフィオは、当然『工房』に怒鳴り込んだ。

その後コテージは改良されたのだが、改良版をお詫びとしてもらっても嬉しくなかったのは余談だ。

ソロのフィオには必ずしも必要ではなかったからだ。


「こんなところで役に立つとはな……」


「さあ、入りましょう、ジェイス!」


「え? あ、ちょっと……」


 しみじみ呟くフィオの横でジェイスが女豹に捕獲されていった。

儀式があるから一線は越えないだろう、と放っておくフィオ。

他の兵士たちも、すでに見て見ぬふりをしている。

不自然なほどテント作りに集中しているのだ。

気が利くと言えばいいのか、薄情と言えばいいのか不明だ。


「ふむ、湖か。(バイトはここで待機だな)」


 この湖はこの辺で唯一の水源だ。

ここを押さえておく意義は大きい。

どんな大軍も水が無ければ維持できないからだ。


「(いざとなったら分解が早い毒を撒き散らしてもいいしな)」


 外道な事を平然と考えるフィオ。

バイトならそれも可能なので冗談でも何でもない。

本気と書いてマジである。

まさに『毒を以て毒を制する』ならぬ『外道を持って外道を滅する』であった。


 こうして退路を確保しつつ、一行は夜の国に潜入するのであった。



グラーダ不在の夜の国に潜入開始。


ビル〇ファイ〇ーなんてやってる場合じゃないぞ。

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