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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
156/216

極光(オーロラ)

投稿日を1日間違えました。


ま、問題無いか。

 ようやく事態が鎮静化したのは深夜になってからだった。

鬼王ゴウエンと王太子ゴウライの無事に国民は安堵した。

しかし、先王ゴウセツの死と、宰相を含む多くの者が吸血鬼の手駒にされているという事実は民を驚愕させた。

夜の国に対する国民の感情は悪化し、グラーダ派と繋がっていた商人達が襲撃を受ける事件まで発生した。

タラス議長への鬼王の態度で国の方針は示されていた。

だが、この事件で国民自らが夜の国との決別を望むようになったのだ。


「浅はかなものだな」


「成功すれば確かに有効な手段だったのでしょうがね」


 自分の首を絞めたグラーダ達をタラスは嘲り、危機を乗り越えたゴウエンは安堵していた。

為政者たる2人からすればグラーダは未熟に過ぎた。

慎重に事を進めて一定の効果があったのに、少し計算が狂っただけで短絡的な行動に出る。

夜の国のクーデター然り、今回の事件然りだ。


 夜の国で権力を奪いたいならもっと機を見るべきだった。

根回しも何もせず、名君と名高い王を弑逆すれば反発されて当たり前だ。

いくら力を得たとはいえ、いきなり強硬手段に出るべきではなかったのだ。

結局、彼は国を力で押さえつけなければならなくなり、私的な兵力以外動かせなくなった。


 鬼王国の事件も同様だ。

グラーダ派の豪族たちを不穏分子として潜伏させ、機を窺うべきだった。

失敗すれば、国を奪うどころか完全に手を引く事になるのだから慎重になるべきだった。

もっとも天使と使徒というイレギュラーのおかげではあるのだが。


 結局グラーダは力と知恵はあっても、内面は『こらえ性の無い子供』というのが2人の分析だった。

そして、その分析は間違っていない。

さらに、その子供っぽい我儘さが『お兄さんタイプ』を好むルーナ王女に振られた原因であった。


「殿下を狙った吸血鬼は見つかりましたか?」


「いえ、おそらく国外に逃亡したでしょう。逃げ切れるとは思えませんが」


「天使と同格の神獣か……」


 アリエルは議長と鬼王にハウルが吸血鬼を追撃している事を伝えていた。

2人も襲撃を受けた際に、突然ハウルが城に向かったのを見ていたので納得していた。

同時にあの距離からゴウライの危機を察した事に驚愕していた。

そんな者に追われれば、いくら高位の吸血鬼である貴族ノーブルでも無事とは思えない。


「霧に変化……。確かそんな異能を持った貴族がいましたな」


「ラングスイル家ですな。あそこの子弟にグラーダに心酔している者がいたはずです」


「では、逃げた吸血鬼はそいつで間違いなさそ……」


 窓辺に立ち夜の国との国境を見つめていた議長が、突然声を詰まらせた。

遥か彼方で凄まじい閃光が空へと昇って行ったのだ。


「どうしたのですか? あちらに何か……」


 不思議に思い、鬼王が議長の隣に立つ。

すると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「あれは、オーロラ……」


「オーロラ? 北の果てで見られるという光のカーテンですか?」


「おそらく……。私も内陸部で見るのは初めてなのですが……」


 ゴウエンは父ゴウセツが国を治めていた時代、北の果てに行ったことがある。

そこは海が氷に閉ざされた極寒の地。

しかし、生命を拒絶するような地にそれはある。


 世界樹。

世界の環境を維持する神代の魔法装置。

そして、それを守る古の種族、巨人。

彼らの住まう聖域にゴウエンは行くことができたのだ。


 それは儀式だった。

次代の王の資質を証明するために巨人の元を訪れる儀式。

初代鬼王が巨人たちと結んだ盟約。

聖域への不可侵と世界樹への不干渉を誓う誓約。


 魔物が溢れ、吹雪が舞う森を超え、ゴウエンは聖域にたどり着いた。

その時見た光景。

天を突くような大樹、世界樹。

その頂は光のカーテンに包まれているように見えた。

圧倒されるゴウエンに巨人は教えてくれたのだ。

その光の正体を。


「何故、あんなところにオーロラが?」


「……」


 天に踊る光。

その光景を2人は、いやそれを目にしたもの全てが呆然と見つめていた。


----------------------


「グガァ!!」


 背後から自身を貫く光弾にヘルト・ラングスイルは苦悶の声を上げた。

すでに一族の特殊能力である霧への変化は使用している。

こちらから攻撃できない代わりに、ほとんどの攻撃を無効化する強力なスキルだ。

鬼王国の宰相も手練れだったが、霧に変化して近付き背後から奇襲を仕掛けて倒したのだ。

だが、追跡者の放つ光弾は霧化したヘルトを容赦無く傷付けた。

実体化すればその体はボロボロだろう。


「ぐっ、よりによって光とは……」


 いかに吸血貴族であるヘルトでも光属性は弱点だ。

今が昼なら霧化することもできなかっただろう。

だが、夜に輝く光、星の光がヘルトを追い詰める。


「何とか国境まで……、いや、それが目的か!?」


 ヘルトは隠密、防御には優れているが戦闘能力自体は高くない。

ゆえに今回のような謀略任務は得意だが、荒事は苦手なのだ。

自分を追い立てる黒狼は、鬼族の精鋭をあっさり薙ぎ払った。

霧化の防御を貫けるなら、とっくに自分はやられているはずだ。


 ならばなぜ自分は生きているのか?

こうして逃げ続けていられるのか?

遊んでいるだけ? それならまだマシだ。


「狙いは国境の秘密基地。そして、そこの支援部隊か……」


 今回の鬼王国への工作はヘルト1人で行ったものではない。

当然、何人もの部下が交代で同行している。

そんな彼らの活動拠点が国境近くに存在するのだ。


「何か手は……うぐっ!?」


 いたぶるように光弾がヘルトを撃ち抜く。

もう、長くはもたない。

自分の身体そのものである霧が、薄くなってきている事がはっきりと分かる。


「(賭けるしかない……)」


 覚悟を決め、ヘルトは禁じ手を使う。

自分の身体を、自我すら保てないほど薄く薄く拡散させていく。

視覚的にも魔力的にも捕らえられないほど自分を希薄にする。


「(よ、し……こう、か……あり……)」


 追跡者が足を止め、戸惑うのがぼんやりと感じ取れる。

風は追い風だ。

このまま風に乗って国境まで逃げれば……。


「(ダメ、だ……いし、き、が……)」


 もう追撃の気配は無い。

ようやく国境が見えてきた。

もうすぐ秘密基地にたどり着ける。

ヘルトは拡散していた身体を収束させ始める。


「これで、帰れる、な……」


 死の危険にさらされたヘルトは望郷の念に駆られていた。

任務に失敗した以上、何かしらの罰は受けるだろう。

だが、それでも帰りたかった。

思えば家族にも酷い事をしてしまった。

帰ったらもう一度話し合ってみよう。


「任務は失敗だ! 総員撤退の準備を……!?」


 森に埋もれるように建てられた木造の砦。

実体化し舞い降りたヘルトは大声で部下に指示を出した。

しかし、様子がおかしい。


「……何だ? 誰もいないのか?」


 砦は静まり返り、物音1つしない。

つい先日連絡を取ったばかりだというのに。

言い知れぬ不安が忍び寄る。


 これまでのヘルトなら、何も考えずに砦に入り込んでいただろう。

だが、命の危機にさらされたことでヘルトは成長していた。

眠っていた危機意識が、生存本能が目覚めていたのだ。


〈何だ、まだ狩り残しがいたのか〉


「ヒッ!?」


 自分の声ではない声。

硬質な、尊大な声。

砦の中からそれが聞こえた瞬間、ヘルトは逃げ出した。

霧に姿を変えて空高く上り、ようやく振り返る。


〈やはり、小さな身体は性に合わんな〉


 暗い夜の森を照らすように、砦が内側から輝いていた。

否、内側に輝く何かが顕現しているのだ。

ソレは見る見る大きくなり、砦を内側から崩壊させ、残骸を押しのけ、姿を現した。


「あ、ああ……」


 それは光。

虹のような極光のような万色を宿す光。

それは竜。

世界樹の守護者でもある最強の幻獣。

それは最も神に近しき者。


 悪魔の持つ最強のカードにして最大の戦力。

神竜カリスがその巨体を現していた。

そしてその目は、はっきりと自分に向けられていた。


「い、嫌だ!!」


 ヘルトは霧化を解き、全速力で飛んだ。

魔力を絞りつくして夜の国を目指した。

脳裏に浮かぶのは故郷の光景。

クーデターの前、家族と笑いあっていた記憶。


「ああ、僕は……」


 最後の言葉は、背後から放たれた光の奔流に飲み込まれた。

カリスのブレスはヘルトを完全消滅させ、空へと昇っていく。

そして、夜の国を覆う遮光結界に突き刺さった。


 結界は僅かに抵抗し、しかし及ばず砕け散った。

夜の国では、結界を担当していた貴族たちが反動で意識を絶たれた。

結界は交代要員によってすぐに張り直されたが、不思議な事が起こった。

ブレスの残滓、万色の光の粒が結界に吸い寄せられていったのだ。

それは離れた所からは、美しいオーロラのように見えたのだった。


 数日後、鬼王国は魔人連合国との同盟を正式に発表した。


ちなみにハウルは秘密基地の事など知りません。


いたぶって遊んでただけです。

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