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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
155/216

国崩し計画

 突然の襲撃を退けた使節団。

一先ず後の始末を増援の兵たちに任せ、城に入ることになった。

グラーダ派と呼ばれた者たちが一掃されたため、今後の国内の勢力図は決まった。

彼ら、いや、彼らを操っていた者にとっても賭けだったはずだが、そいつは賭けに負けたのだ。

鬼王も議長も使節団もそう思っていた。


「おかしい。本当にこれで終わり?」


「……」


 アリエルとネクロスは腑に落ちなかった。

本気で使節団を狙ったにしては戦力が少なすぎる。

持ち込むのが難しいのかもしれないが、あの合成獣を10体も使えばおそらく襲撃は成功していた。

だが、あの程度の戦力では自分たちがいなくても襲撃は防げた可能性が高い。

もちろん被害は出ただろうが、護衛をいくら殺しても鬼王と議長が健在ならば問題ないのだ。


 これまで慎重に鬼王国を切り崩していたにしては杜撰過ぎた。

むしろ鬼王国内の協力者を使い潰す愚策ともいえる。

彼らにはまだ潜在的な不穏分子としての利用価値があるのに。

そもそもやり方が派手過ぎる。


「囮、目くらまし。そんなところですか」


「……」


 アリエルが出した結論に、ネクロスは無言で城を見た。

視線の先にあるのは窓の割れた部屋。

ハウルが飛び込んだ部屋である。

おそらくあそこで何かが行われ、ハウルはそれを察したのだろう。

間に合ったのかどうかはすぐに分かるはずだった。


--------------


「何とかしのげましたな」


「そうですね。黒幕を見つけ出すまで安心はできませんが」


 城に入り、近衛に囲まれたことでタラスとゴウエンはようやく一息ついていた。

そこに宰相が息を切らせて走ってくる。

周囲には彼の私兵も付き従っていた。


「陛下、議長殿、ご無事でしたか!」


「うむ。危ういところであった」


「申し訳ありません……。奴らの屋敷はすでに空で、領地に逃げたものだと……」


「まさか未だに王都に潜み、襲撃の機会を窺っていたとはな」


「少しよろしいか?」


 話し合うゴウエンと宰相にタラスは懸念を伝える。

それは彼も先の襲撃に不自然なものを感じていたからであった。


「先王と王太子殿はご無事か?」


「はい。近衛と我が兵がお守りしております」


「そうか……鬼王殿、少しよろしいか?」


 タラスはゴウエンに城の者たち全員に、状態異常回復処理を行うことを提案する。

グラーダ派の者たちが魅了をかけられていたのだ。

城の中にも同じように操られている者がいないとも限らない。

ゴウエンも賛成し、まずはその場にいる者達に処理が行われた。



「全員異常なしか」


「気にし過ぎだったかな……」


「いえ、万が一を考えれば必要だったかと」


 最初に処置を受けた者達には魅了されている者はいなかった。

今は順次城中の者が集められ、処置を受けている。

治療要員達には結構な負担だが、さすがに文句は出ない。


「では、父にも報告してこようか」


「では私も」


「先王ゴウセツ殿か。私もご挨拶させていただこう」


 ゴウエン、タラス、宰相は兵を何人か連れて先王の元に向かう事にした。

もちろんアリエルとネクロスも同行している。

だが、先王の部屋に近づくと異変に気付く。


「これは、血の匂い?」


「父上!」


 ゴウエンが慌てて走り出し、タラスもあとを追う。

その後ろを兵とネクロスが続き、最後尾を宰相とアリエルが走った。

先王の部屋にたどり着いたゴウエンは、ノックもせずにドアを開ける。


「そ、そんな……」


 部屋の中は血の海だった。

宰相の私兵が5人倒れ、ズタズタに切り裂かれた先王が剣を握ったまま事切れていた。

しかし、犯人と思われる者は見当たらない。


「すでに逃げた後か……」


 先王の遺体に縋り付くゴウエンを余所に、タラスは冷静に状況を確認する。

そして気付いた。

部屋の不自然な状況に。


 兵たちは一撃で倒されている。

傷はどれも同じ。

つまり1人の手練れによって倒されたのだ。


 先王は傷だらけだ。

腕の劣る複数人の敵に襲われたのだろう。

そして、兵たちは全員先王の方を向いて倒れている。


「これは、まさか……」


 悪い予感がタラスの脳裏をよぎる。

直後に背後に生じた殺気に振り返る。

目に映ったのは剣を振り下ろそうとする宰相の私兵。

その目は赤く光っている。


「(ヴァンパイア・スレイブだと!?)」


 吸血鬼に噛まれ、支配された者達。

何故、宰相の兵が?

湧き上がる疑問がタラスの動きを封じる。

流石のタラスも反応できず、剣が振り下ろされ


 ガゴォ!!


 剣諸共に兵士は弾き飛ばされた。

代わってタラスの視界に現れたのは漆黒の騎士。

騎士、ネクロスは武器も使わず、拳で襲い掛かる兵を全員叩き伏せる。


「いったい、何が……」


「見ての通りですよ」


 弱々しく問いかけるゴウエン。

それに答えたのは、床に倒れた宰相を踏みつけるアリエルだった。

宰相の両目は赤く輝いていた。


-----------------


 その後、宰相と兵を縛り上げていると近衛が駆けてきた。

なんと、宰相の私兵が突然暴れだしたというのだ。

近衛をその場に残し、アリエルたちは鎮圧に向かった。


「どうやら、宰相さんが真っ先にスレイブにされたようですね」


 宰相と私兵を調べていたアリエルが告げる。

スレイブ化は一種の種族変化であり、状態異常ではない。

主人が死ねば解放されるが、それ以外の方法での解除は困難なのだ。

ゆえに魅了対策の処理では治せなかった。


「反逆者共の捜索の際に黒幕に襲われたという事か……」


「ええ、おそらく」


 現在、宰相と私兵は全員拘束され牢に入れられている。

もし、黒幕が見つからなければ治療の見込み無しとして処刑もあり得るだろう。

今は不穏分子を抱え込んでいる余裕はないのだ。


「スレイブ化した宰相閣下が部下を次々とスレイブに変えていく。吸血鬼が忌み嫌われていた時代の典型的なやり口ですね」


「グラーダ……そこまで堕ちたか」


「一刻も早く犯人の吸血鬼を見つけ出さねば……」


 近衛や兵たちもあまりの悪辣さに怒りを募らせている。

先王を失った悲しみと怒りは、利用された宰相ではなく黒幕に向けられているようだ。


「陛下! ご子息は、ゴウライ殿下はご無事です!」


「おお!」


「ご無事だったか!」


 王太子ゴウライにも宰相の私兵が付いていた。

忠誠心溢れる宰相とその部下は、絶大な信頼を受けていた。

近衛の手の回らぬところを補助する優秀な部隊だった。

その彼らが突然刃を向ける。

そんな事は想定されていなかったのだ。


 その信頼ゆえに先王は命を絶たれた。

王太子にもその刃が向けられるのは確実だった。

それゆえにゴウライの生存は半ば諦められていたのだ。


 事実、近衛たちがゴウライの私室にたどり着いた時、警備の近衛は全滅していた。

しかし、私室の中には宰相の私兵たちの死体が転がっており、ゴウライ自身にケガは無かった。

恐怖に震えているが意識ははっきりしていた。


「父、上……」


「おお、ゴウライ! 無事でよかった……」


 アリエルによるチェックを行ったが結果は良好。

バイタル、メンタル共に異常なし。

おかしな術にかかっている様子もなかった。


 だが、疑問も残った。

先王と王太子の警備状況はほぼ同じだった。

優れた武人であったゴウセツは殺されたのに、なぜ子供のゴウライが無事だったのか?

私室にあった死体、宰相の私兵は誰が倒したのか?

それらの疑問をアリエルはゴウライに尋ねた。


「え、と。黒いローブの人が……」


 ゴウライによると、黒いローブを着た男が宰相の私兵とともに現れたらしい。

まず間違いなく黒幕の吸血鬼だろう。

その男は先王ゴウセツと現王ゴウエンを殺し、次期王のゴウライを傀儡にしようとしたのだ。


 グラーダ派の襲撃は囮で本命は宰相を使った暗殺。

夜の国は1兵も使うことなく鬼王国を支配できる。

男は自慢げに語ったという。

そして、ゴウライをスレイブにしようとした時


「窓が割れて、黒い影が飛び込んできたんだ……」


 突然飛び込んできた黒い影は、一瞬にして宰相の私兵を切り刻んだ。

だが、黒ローブの判断も早かった。

即座に身体を霧に変え、窓から逃げ去ったのだ。


「身体を霧に?」


「ただの吸血鬼ではないぞ。貴族ノーブルか」


 黒い影はゴウライの無事を確認すると、吸血鬼を追って出ていったという。

それからゴウライは時間も忘れ、茫然と割れた窓を見ていた。

そこへ近衛が駆け付けて彼を保護したのだ。


「ゴウライ、その黒い影とは何だったのだ?」


「あれは……」


 父の問いに、ゴウライは英雄に憧れる子供のような眼で答えた。


「夜空みたいに黒い、狼だった……」



シザー、アリエル、ネクロス、ハウル、さあ次に活躍するのは?


基本的に悪党は逃がしません。

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