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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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傀儡の末路

 鬼王自らの出迎えによるインパクトは大きかった。

これにより、国民は鬼王国が魔人連合国との関係を重視するのだと考えた。

こうなると内心ではグラーダにすり寄っていても、言葉や行動に映しにくくなる。

鬼王国内の政情は一気に傾いた。


「優柔不断な風見鶏かと思いましたが、なかなかやりますね」


「……」


 感心したアリエルの呟きにネクロスは無言で頷いた。

ちなみにハウルはそれほど深く考えていない。

せいぜい『歓迎されてるなー』くらいである。

気まぐれなハウルは興味の無い事には無頓着だった。


「会談はすでに始まったみたいですね……」


 鬼王と議長はオープンタイプの馬車に乗っている。

このまま街中を回り、王城に向かう予定なのだ。

だが、アリエルには馬車を包む防音結界が感知できていた。

あの中ですでに話し合いは行われているのだ。




「これが我が国の現状です。正直グラーダを甘く見ていましたよ」


「鬼王殿だけの責任ではありますまい。諜報部隊の者によると、我が国にも相当の間者と内通者がいたようですからな」


「となると、獣魔国にも……」


「おそらくは。我が国はルーナ王女が亡命しましたからな。彼女を攫おうと間者達の動きが活発化したおかげで、逆に奴らを発見できたのです」


「私も内通者共が我が国を売り渡そうとしている事に気付き、ようやく決心がついたのです。正直もっと早く決断していればと後悔しておりますよ」


「経済的な損失を考えれば仕方ないでしょう」


「いえ、グラーダのもたらす金は奴の支持者を肥え太らせるだけで、国を豊かにするものではなかったのです。国のために使われるのはこれからですよ」


「……なるほど。中央権力から排除し、私財は没収ですか」


「ええ。今、宰相に彼らを拘束させているところです。このパレードは目くらましでもあるのです」


 相手に侵略の意志があるのなら話は早い。

すなわち徹底抗戦だ。

そもそも鬼族はシンプルなやり方を好む。

鬼王も不毛な会議漬けの生活が終わり清々している。 


「今日明日にはケリをつけたいですな」


「状況が安定したら、王女殿下に会っていただいた方が良いでしょう。彼女の伴侶とも」


「ほう……。興味深い話ですね」


 馬車は進み、遂に王城の前ににたどり着いた。

周囲は民で溢れ、歓声に包まれている。

すると、城から1人の兵が走り寄り、護衛に何かを報告した。

話を聞いた護衛は苦い顔をして鬼王に伝える。


「陛下、宰相閣下からの使いです」


「話せ」


「ハッ。捕縛を命じられた豪族はほとんどが姿を眩ませていたそうです」


「何? 王都の外に逃げたのか?」


「いえ、その様子はないようで……陛下っ!」


「ぬう!?」


「これは!?」


 突然、観衆の中から矢が放たれた。

鬼王と議長はとっさに武器を抜き切り払うが、護衛達が何人か矢を受ける。

その矢は屈強な護衛の体を鎧ごと貫いていた。


「鬼王殿、この威力はおそらく弩ですぞ」


「矢も魔力付与が施された特注品ですね。金をかけている」


 さらにもう一波、矢が放たれる。

しかし、今度は護衛達も反応し切り払う。

観衆は大混乱に陥っているが、彼らを押しのけ突撃してくる者達がいた。


「死ね! ゴウエン!」


「失せろ! 混ざり物が!」


「この国をグラーダ様に捧げん!」


 それはグラーダ派と呼ばれた反逆者たちであった。

金がある限りかき集めたであろう装備を纏い、数十人で襲い掛かってくる。

民が傷つくのもお構いなし。

眼は血走り、明らかに正気とは思えない様子だ。


「一族郎党総出で来たか!」


「ふん、そんな弛んだ体で何ができる!」


 数では襲撃者が勝っているが、鬼王と議長の護衛は腕利きばかりだ。

数の差を押し返し優勢に戦う。

初めに矢を受けた者達も、応急処置を終えて戦闘に参加し始める。


「私たちも行きましょうか」


「……」


 アリエルの手に光が集まり、光線が放たれる。

腕の粒子体構造を変化させ、太陽光を収束したレーザー光線だ。

光速の一撃は襲撃者の急所を容易く貫通し、一撃でその命を奪い去る。


 ネクロスは左手に刃盾、右手にハルバードを作り出す。

腐食の魔力の込められたハルバードは、高価な魔法の防具もあっさりと切り裂いた。

本来両手で振るう大型武器を片手で振るい、雑草を刈るように敵をなぎ倒す。

その姿に狂乱状態の襲撃者たちも思わず怯む。


「おや、ハウル?」


 大人しくしている事を不審に思ったアリエルが周囲を見渡す。

するとハウルは城壁を駆け上り、城の一室に飛び込んでいったところだった。

探知してみようとするが、城には結界が貼ってあるのか良く分からない。

室内にはハウル以外に2人分の反応があるようだが。


「……まあ、いいでしょう」


 ハウルは普段は不真面目だが、異様に直感が働くことがある。

あの様子だと何かに感づいたのだろう。

なら、任せるべきだ。

アリエルはまず襲撃者を殲滅することにした。

この程度の敵なら千人単位でも脅威とはならない。

だが


「!」


「……」


 襲撃者たちとは別にこちらに敵意を向ける存在。

アリエルは探知で、ネクロスは歴戦の直感で同時に気付いた。

僅かに顔を見合わせ、ネクロスが路地裏に飛びこむ。


 そこには襤褸を纏った獣魔らしき男が佇んでいた。

ギラギラとした目はまるで妖獣のような狂気に染まっている。

捕らえるべきか? 僅かにネクロスが躊躇した瞬間、男の纏う襤褸が弾け飛んだ。

その下から現れた身体はまともなモノではなかった。


 ツギハギ、パッチワーク、それが一番端的な表現だろう。

男の体からは魔獣や妖獣のものと思われる腕が足が尾が触手が、あらゆる場所から生えているのだ。

さらに異常なのはその魂の在り方だった。

アンデッドがベースであるネクロスは魂や命に敏感である。

彼の目には男の魂までツギハギだらけに見えるのだ。


 例えば死霊術で群体のアンデッドを作る場合も、核となる部分は1つである。

そうしないと単一の存在として維持できないからだ。

だが、目の前の怪物はただ部品を寄せ集めて接合しただけ。

個体としての調和がまったくとれていない。

これでは失敗作、もしくは実験段階の試作品だ。

  

 おそらくこの怪物には自我も何もない。

空っぽの精神を魅了か何かの精神操作で操っているのだろう。

ネクロスの予想を裏付けるように、怪物はギクシャクとした動きで襲い掛かってきた。


-------------------------------


 しばらくして、襲撃者たちは撃破された。

生き残りは1人もいない、文字通りの全滅であった。

金も血筋も権力もこうなっては関係無い。

等しく血と肉となって散らばっていた。


「腑に落ちないな」


「ああ、こいつら何で降伏しなかったんだ?」


「まあ、降参したところで死刑だろうけど、誰も逃げようとしなかった」


「玉砕覚悟ってやつか」


「日和見のこいつらにそんな度胸があったとは思えんがな……」


 護衛達も腑に落ちないようだ。

襲撃者たちを良く知る鬼王も同じことを考えていた。

そして、あの様子にも心当たりはあった。


「ご無事ですか? 議長」


「あの程度、どうという事はありませんよ。そもそも、あの程度の腕と数で攻めてくるとは舐められたものですな」


「それなんですが……」


魅了チャームね」


 2人が振り向くと、そこには襲撃者の生首を片手に掴んだアリエルが立っていた。

猟奇的な光景に絶句する2人を余所にアリエルは話し始める。

解析が終わったのか、頭部はポイッと捨ててしまったが。


「行動の短絡化、命よりも目的を優先する事、異常な忠誠心、脳に残った残留魔力。魅了の魔法をかけられていたと考えて間違い無いわ」


「やはり……」


「魅了……吸血鬼の得意技ですな」


「そしてこいつらは囮、あるいは捨て駒。本命は……」


 ドガアァ!!


 凄まじい破砕音と共にすぐ傍の建物が吹き飛んだ。

そして粉塵の向こうから2つの影が現れる。

1つは漆黒の騎士、ネクロス。

もう1つは異形の怪物だった。


「なんだ……あの化け物は?」


「獣魔? いや、違う……」


 ネクロスのハルバードにあちこちを腐食させられているが、まったく気にしていない。

その姿は狼型の獣魔に様々な魔獣のパーツを継ぎ足したような異形。

一言で言えば合成獣キメラだった。


「あれも誰かに操られているみたいね。あそこの路地からこっちの隙を窺ってたのよ」


「なるほど。アレが本命、あ奴らは囮だったということか……」


 躯となったかつての家臣たちを鬼王は複雑な目で見つめる。

操られ、使い捨てられたことに憐憫の情を抱いたのかもしれない。

だが、アリエルは冷徹に告げる。


「魅了はここ数日以内にかけられた1回きりよ。国への背信とグラーダとの内通は彼ら自身の行動ね」


「そう、か……」


「鬼王。いや、ゴウエン殿。我が国も少なくない数の内通者を処分したのだ。受け入れなければ前には進めませんぞ」


「そうですな……」


「ついでに言うなら魅了はそんなに万能な能力じゃないわ。たった一度であそこまで深く魅了されたのは、連中の心の弱さと相手への依存心が原因ね」


「彼らも、初めからああではなかったのだが……」


 葛藤する鬼王を尻目に、ネクロスは合成獣を追い詰めていく。

合成獣は滅茶苦茶に暴れ、自分自身も傷つけている。

どうやら強力な再生能力を持っているようで傷は回復してしまう。

しかし、腐食させられた部分は再生不能らしい。

ダメージが蓄積し、動きも徐々に鈍くなっている。


 止めを刺すべくネクロスは左手の刃盾を強酸の大鎌『アシッド・シックル』に持ち替えた。

予想通り、酸に焼かれた傷も再生しない。

ほとんど動きの止まった合成獣をネクロスが蹂躙する。

魔獣のパーツを根こそぎ失い、最後に首を刎ねられ、遂に合成獣は力尽きた。


「おお!」


「やったぞ!」


 護衛達が歓声を上げる中、アリエルは合成獣の残骸に近づき解析する。

結果は予想通りだった。

ネクロスの分析もほぼ同じ。

そして、アリエルは議長と鬼王にも伝えた。


合成獣は改造された獣魔族である事を。


それを行ったのはおそらく、グラーダのスキルであることを。


そして、この個体は失敗作か実験段階である可能性が高いことを。


 ルーナ王女からグラーダのスキルを聞いていた議長は、苦々しくも納得した表情になった。

初めてグラーダの能力を知った鬼王は驚愕に目を見開いた。

そして両者は同じことを考えた。


 敗北すれば自国の民が合成獣の材料にされてしまうのだろう、と。




予想通りというか夜の国にいた獣魔たちは悲惨な目に……。


フィオが北大陸に来た段階で手遅れだったんですけどね。

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