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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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使節団入国

 国境付近で起きた惨劇は、その詳しい内容が知られる事は無かった。

何しろ目撃者が皆無であり、死体も残っていなかったのだ。

科学調査などを行えば、強力な酸で溶かされた残骸が見つけられたかもしれない。

だが、それも異世界では無理な話であった。


 鬼王国のグラーダ派の豪族たちが異変に気付いたのも、連絡が途切れたからに過ぎなかった。

彼らはどこで、何が起きて、どうなったのかを全く知ることができず、ただただ混乱するだけだった。

いく人もの仲介人を通しての依頼だったので、自分たちにたどり着く可能性は低い。

仮にたどり着いたとしても、証拠など残していないのでシラを切れる。

そう解っていても冷静でいることは不可能だった。


「どうなっている? 連中はどこに消えたのだ……」


「逃げた、という訳ではなさそうだが……」


「裏の勢力図は今、大混乱だ。暗殺任務に参加しなかった構成員に聞いたが、主力は間違いなく依頼をこなすために出発したそうだ」


「では、やはり返り討ちにあったということか」


「だが、100人を超える手練れだぞ? 1人残らず殲滅するなど可能なのか?」


 堕落したとはいえ彼らも戦闘種族である鬼族だ。

事態の深刻さは良く解っていた。


「国は動いているか?」


「いや、兵が動いた様子はない。そもそも国の仕業なら、我々がここでこうしていられるはずが無いだろう」


「それよりも今後の行動を決めなければなるまい」


「むう……」


「だが……」


 パンッ! パンッ!


 沈黙が下りた場を切り裂くように手を叩く音が響いた。

全員の視線がそちらに集まる。

会議の開始からずっと黙っていたローブの男。

この場で最も発言力のある人物だ。


「いい加減に覚悟を決めてくださいよ。もう、あなた方は引き返せないのです。我々とあなたたちは一蓮托生なのですから」


「そ、それは……」


「だが……」


「はあ……。仕方ありませんね」


 グラーダ派の豪族たちに残された道など多くは無い。

鬼王はルーナ王女に付くと決めた。

暗殺依頼が失敗した以上、彼ら自身が手を汚す以外に手はないのだ。

今更グラーダと手を切るには彼らはやり過ぎている。


 裏で犯した罪が表に出れば彼らは破滅する。

だというのに、自分で動く事を尻込みして嫌がる。

自分の工作の結果とは言え、ローブの男は呆れ果ててしまった。


「では、私が助力しましょう」


「ほ、本当ですか?」


「ええ」


 どの道、こいつらなど使い捨ての駒だ。

使えないなら一時的にでも使えるようにすれば良い。

彼はローブを脱ぎ素顔をさらす。


「おお、ラングスイル卿のお力添えがあれば……」


「さよう。ゴウエンの若造など一捻りよ」


 ラングスイル。

夜の国における支配階級、吸血貴族ノーブルにその名を連ねる一族。

そして彼、ヘルト・ラングスイルはグラーダと簒奪以前から懇意にしていた人物。

まさに腹心と言える立場にあった。

そして、彼だからこそ鬼王国の切り崩しという重要な任務が与えられたのだ。


 大半の吸血貴族たちは無理やり従わせられ、結界維持のために使い潰されている。

しかし、彼を含む当初からグラーダに従っていた者達はさらなる権力を手にしていた。

一族ではなく個人、グラーダは自分に従う個人を優遇しているのだ。

彼自身、グラーダに従わない父を含む一族を差し出し、当主の座を簒奪した。

グラーダの力こそ夜の国を北大陸の、いや世界の覇王に導くと信じているからだ。


「ええ、ではこれから出す指示に従って下さい」


「はい……」


「解りました……」


 ラングスイル卿の瞳が怪しく光り、豪族たちの目から意思が失われていく。

本来なら、いかに吸血貴族の魅了の魔眼が強力でもこうはいかない。

だが、欲に溺れ自ら己を腐らせてきた彼らは、あっさり術中に堕ちた。

欲に溺れた代償は彼らの想像以上に高くついたのだ。


「さて、踊ってもらいましょうか。グラーダ様のために」


---------------------


 魔人連合国を発った使節団は、順調に鬼王国の王都を目指していた。

盗賊や妖獣、魔獣の襲撃も不自然なほど全くなかった。

まるで、何者かが先回りして倒しているかのように。


「天使殿はどうしておられる?」


「相変わらず黒い狼に乗っておられます。話しかければ答えてくれるのですが……」


「ふむ。まあ、問題無いとは思うが……」


 議長や護衛達は少々困惑していた。

と、いうのも同行している天使アリエルがとてつもなく無愛想なのだ。

配下と思わしき黒い狼に乗り、同じく黒い全身鎧の騎士を引き連れ、自分からはほとんど話さない。


 聞けば答えてくれるのだが、それも必要最低限なのだ。

別に機嫌が悪いというわけではなく、単純にそういう性格らしかった。

使徒の青年と一緒の時は、もう少し態度が柔らかかったように思えるのだが……。


「あの騎士もまったく喋りませんし……」


「うむ。だが、彼は強いぞ」


「議長よりもですか?」


「間違いなくな」


「え?」


 冗談のつもりで軽く振った外交官。

だが、議長は大真面目に返した。

議長の武勇を知る外交官は、何を言われたのかすぐには理解できなかった。

ややあって、理解が追いつくと、その視線は馬車の外に向けられた。




「(さすがシザー。性格さえ考えなければ戦闘力は文句無し)」


 ハウルの背に乗り周囲の索敵を行っていたアリエル。

隣には重装騎士に化けたネクロスが無言で追従している。

多少の障害などアリエル、ネクロス、ハウルの使い魔3体がいれば問題にならない。

だが、それによって時間を取られるのは避けたかった。

合理的なアリエルは時間を無駄にするのが嫌いなのだ。


 ハウルは暇そうにしているが特に文句はないようだ。

ネクロスは万が一に備え、真面目に警護をしている。

流石であった。


 現在ネクロスは全身を漆黒の鎧に包み、騎士のふりをしている。

この鎧は武器と同じ生体防具の一種であり、着脱は自在である。

普段は防御より敏捷性を重視しているので、使っていない。

せいぜい頭部の竜を模した兜と胴体の胸当て、臀部の竜尾くらいだ。

しかし、その気になれば全身を覆うことぐらい容易かった。


 大き目の腕部防具に3対6本の腕をしまい込んでいるので、見た目は大柄な人間にしか見えない。

アンデッド特有の邪気を全く発していないのも、それを後押ししている。

堂々とした姿、漆黒の鎧、竜の兜、これらから使節団はネクロスを敬意をこめて『黒竜騎士』と呼ぶようになる。

実際、言葉は発さないがネクロスの態度は実に紳士的であり、アリエルよりもよほど礼儀正しかった。


 こうして使節団は意外なほど順調に進んでいった。

途中立ち寄った街にもすでに通達が出ていたらしく、丁重に扱われた。

そして、鬼王国の領土に入って10日目にとうとう王都『ゴウハ』が見えた。


「あれが王都ゴウハか……」


「ゴウハ……確か鬼神であったとも言われる建国王の名でしたな」


「うむ」


 議長の目はどこか感慨深いものがある。

議長は鬼族の血を引いているのだ。

思うところがあるのだろう。


 馬車は進み続け王都の街並みが見えてくる。

そう、王都ゴウハには城壁が無いのだ。

西洋の城塞都市というより日本の城下町に近く、町は簡単な柵で覆われているだけだ。


 理由は大きくは2つ。

町の拡張性を重視しているというのが1つ。

もう1つは鬼族の街など魔獣も襲わないというのがもう1つだ。

戦いとなれば住民全員が戦士になる都市。

頭の狂った妖獣がたまに襲うくらいで、襲撃など年に数回といったところなのだ。


 だが、巨大な丸太で作られた柵は十分に重厚で頑丈そうに見える。

馬車は柵の切れ目、兵士の守る門へと向かっていく。

だが、門に兵士がやけに多い。


「あれは、出迎えか?」


「そのようですな」


 ここまでに通過した街でも、歓迎のために領主が出迎えてくれた。

だが、王都でも街の入り口で待っていてくれるとは思わなかったのだ。

さらにそこにある人物を見つけ、議長は笑い、外交官はある者は固まり、ある者は表情をひきつらせた。

そして馬車が止まる。


「ようこそ! タラス議長殿!」


「……手厚い歓迎感謝しますぞ。鬼王ゴウエン殿」


 


バカは利用され、使い捨てられる。


テンプレですね。

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