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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
151/216

作戦開始

 実りの無い会議は深夜になってようやく終了した。

結論が出たわけではない。

参加者の疲労がピークに達し、これ以上は続行不能になっただけだ。

そして、これがここ最近のいつもの終わり方だった。

私室へ戻る鬼王の心中も暗く淀んでいる。


「現状維持か……。まあ、マシな結果といえるか」


 結論が出ないという事は現状維持。

つまりルーナ王女にもグラーダにもつかないという事だ。

助力はできないが敵対もしない。

少なくとも議長の訪問は受け入れられる。

そして、万が一暴走して危害を加える者がいた場合も処罰できる。

議長に手を出すという事は、中立の立場を犯すという事なのだから。


「しかし、グラーダの毒があれほど強いとはな……」


 最近のグラーダ派の豪族たちの態度は、自分と同じ鬼族とは思えない。

卑怯卑劣は当たり前、正々堂々など犬の餌、謀略騙し討ちは望むところ。

戦場での命の取り合いの時ならともかく、国の方針を決める場であのような発言を繰り返す。

彼らも昔はああではなかった。

誇り高く豪快な武人たちだった。


「まったく。贅沢という毒がこれほど国を蝕むとは」


 事実、夜の国の政変から鬼王国の政治は混乱し、経済は低迷している。

そんな中でもグラーダ派の豪族たちは羽振りが良く、逆に勢力を伸ばしているのだ。

これでは、いずれ


「!」


 そこまで考えて鬼王は足を止めた。

疲労困憊で思考力は落ちている。

だが、だからこそあり得ないと切り捨てていた可能性に思い至ったのかもしれない。

そして一度思いついてしまえば、もう楽観視はできなかった。


「……グラーダは我が国を獲るつもりなのか?」


 このまま政治の混乱が続けば、王族の影響力は間違いなく低下する。

逆にグラーダ派が金をばら撒き影響力を強めれば、いずれ両者の力関係は逆転するだろう

そうなった時、何が起こるのか。

それは、すでに夜の国で示されている。


「衰えたものだな。このような危険性に今まで気づかぬとは……」


 この時、ようやく鬼王は腹をくくった。

王である以上、彼は自国を最優先しなければならない。

ゆえにグラーダとルーナ王女、どちらにつく方が利益になるかを慎重に考えねばならなかった。

だからうかつに動けなかった。

だが、動かないことで状況が悪化し、それが国家存亡の危機に繋がるなら。

グラーダが自国の乗っ取りを企んでいるのなら。

選択の余地はなかった。




 一方、グラーダ派の豪族たちは解散後、秘かに集合していた。

そこは豪族の1人の所有する建物の一室。

鬼王国でも特に有力な豪族の半数がここにいるあたり、グラーダ派の勢力の強さがうかがえた。

鬼王にすら強気な態度を崩さなかった彼らだが、今は緊張した面持ちで1人の客と話している。


「そうですか。連合国の議長自らが……」


「申し訳ない。あの石頭が……」


「さよう。グラーダ殿の助力こそが我が国に必要だというのに」


「あのような雑種に何を期待しているのやら」


 フードを被った人物に、会議の内容と不満をぶちまける豪族たち。

重大な機密漏洩なのだが彼らに罪の意識はない。

それどころか仰ぐべき主君への敬意も全く感じられない。

逆に、目の前の人物とグラーダに対する敬意は溢れ出すようだった。


「いえ、考えようによってはチャンスかもしれませんよ?」


「チャンスですか?」


「ええ。何しろ邪魔者が2人揃うのですから」


「なんと……」


「確かに……」


「いや、しかし……」


 鬼王と議長、両名の暗殺を示唆するフードの人物。

さすがのグラーダ派の豪族たちも判断に迷う。

しかし、金という鎖で縛られ、贅沢という毒を盛られた彼らはもう引き返せない。


-----------------------------


「……こんなところか。質問は?」


「いや、その……」


 時刻は深夜。

俺はジェイスをとっ捕まえ、邪神に関する情報を教えていた。

その過程で俺の真の立ち位置や、他の転生者の事も伝えている。

あらかた事情は伝え終わったのだが……。


「なんだ、整理しきれないか?」


「当たり前だろう……」


 ふむ、急すぎたか?

だけど、ギフトを奪った事を納得しきれていなかったからな。

こういうことは早く教えておいた方が良い。

聞く耳を持つ奴限定だがな。


「何度も言うが浄化によって後遺症が出たという事は、もう危険域に達していたという事だ。能力的には突き抜けて強力というわけじゃないから、相当乱発したんだろう?」


「ぐっ、否定はしない」


 西大陸の冒険者コンビは後遺症も無く、スキルとして能力が残ったからな。

もっとも、あれはあの2人が気を付けていたからだ。

ゲーム感覚ってのも悪い影響ばかりじゃないんだな。

それはともかく、ジェイスはあと一歩でシゼムと同じく廃人化していただろう。

もちろん、浄化しなければ邪神に乗っ取られて終了だ。


「俺の事は納得しよう。で、グラーダはどうなるんだ?」


「覚醒したのは最近みたいだが、能力がヤバい。お前たちの話を聞いた限りじゃ、そうとう使っているらしいしな。はっきり言って現状、奴の人格がまともに残っているかも怪しい」


 他者の吸収、融合とかイカレれてるとしか思えん。

スライムじゃあるまいし、そんな事をすれば自己がどんどん希釈されていくはずだ。

スキルという魂の一部を強奪していただけのシゼムでさえ、短期間で己を見失ったのだ。

肉体まで取り込むなど無茶も良いところだ。


「やはりお前じゃないと勝てないのか?」


「……自分でケリを付けたいのか?」


「ああ」


「ふむ……」


 ヴァンパイア・ロードに転生すればジェイスの能力は激増するだろう。

だが、それでグラーダに勝てるかと聞かれれば正直分からない。

俺自身はグラーダの力を実際に見ていないからだ。


 だが、予想はできる。

グラーダは夜の国の王族をルーナ王女以外、皆殺しにしている。

夜王以外にも屈強な王族はいただろう。

しかし、勝ったのはグラーダだ。

ジェイスの勝ち目は薄いだろう。

だが、目標があった方がモチベーションも上がるはず。


「解った。やるだけやってみろ」


「! いいのか?」


「ただし、勝ち目は薄いぞ? そしてヤバそうになったら即交代だ」


「ああ、約束する。ただ、その事はルーナには……」


「はいはい、黙っておくよ」


「そうか。恩に着る」


 男の意地って奴かね? 不器用なのは前世から変わっていないようで。

でも、こんな奴だから王女のお眼鏡にかなったのかもな。

それが幸せな事かどうかは分からんが。


 ジェイスと分かれこちらも準備を始めることにする。

今回は不測の事態に備え、使い魔フル稼働だ。


 先ずは鬼王国へ向かう議長の護衛。

なんか嫌な予感がするんだよな。

小回りが利いた方が良いからアリエル、ネクロス、ハウルに任せよう。


 次は夜の国と魔人連合国の国境。

会戦する可能性が高いのはここだな。

確か山岳地帯が多いんだよな。

デカい湖もある。

ヴァルカンとバイトを配置するか。


 獣魔国への使者にも一応リンクスとプルートを付けておこう。

ジェイスとルーナ王女にはシミラを付けるか。

俺のお供はリーフとフェイでいいかな。


 面倒なのは鬼王国、獣魔国が絡む国境だ。

敵か味方か判断しにくいんだよな。

まずは鬼王国と魔人連合国の国境にシザーを潜ませておく。

次に獣魔国と魔人連合国の国境にギアを派遣する。

さらに夜の国と獣魔国の国境にはベルクを送る。

最後に鬼王国と夜の国の国境にカリスを配置しておこう。


 国境組は状況に応じて臨機応変に行動だ。

例えば鬼王国に夜の国が攻め込んだ場合、シザーをカリスの元に向かわせる。

鬼王国が魔人連合国に攻め込んだ場合は、逆にカリスをシザーの元に向かわせる。

いや、合流させるより挟み撃ちの方が良いか? まあ、そこはその時決めよう。

何も起きなければやることも無いだろうけど。


 やるべきことは決まった。

さあ、作戦開始ミッションスタートだ。



移民、工作員、買収による内部からの侵略。


現実世界でも行われている有効な戦略ですよね。

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