王族の儀式
来週は外出予定なので更新できません。
なぜか最近外出が多いんですよね。
インドア派なので休日は家にいたい……。
敵地の真っただ中に連れていけ。
普通なら即座に却下だが、この王女は見た目より強かだ。
何か目的があるのだろう。
「それはあまりにも危険すぎるのでは?」
「さよう。裏切りを疑うわけではないが目的を教えていただきたい」
「リスクに見合うメリットはあるのですかな」
議員たちの反応は否定的だな。
当たり前といえば当たり前か。
この戦争、王女がグラーダの手に落ちたら終わりなんだし。
だが、そんなことは彼女も承知の上だろう。
グラーダを毛嫌いしているみたいだし、好き好んで敵地へ向かいたくはないはず。
なら、それだけ重要な目的があるはず。
「まず、グラーダは国民全員を精神操作で従えています。程度の差はあるでしょうが、最低でも逃亡と反抗は禁止しているはずです」
「そう聞いていますな。彼は利権で繋がった仲間は多かったが、人間性で対立する敵も多かったそうですし」
「特に一般国民からの人気は低かったな」
「あれだけ人望のあった夜王殿を弑したのだ。人気などあるはずがない」
うーん、この辺はグラーダ本人を見てないからよく分からんな。
まあ、聞いた話の通りなら選民思想に染まったゲス野郎なんだろうけど。
「本来、吸血鬼は平民にいたるまで精神操作に高い耐性を持っています。ですから、いかにグラーダがイレギュラーな強さを持っていても、国全体を影響下に置くことは本来なら不可能なのです」
「それは……」
「さっき使徒殿が話していた力によるものでは?」
「それもあるでしょう。しかし、王の不在によって国民の精神が揺らいでいることが最も大きな要因なのです」
「そ、そうか」
「夜の国の王とは魔術的なシンボルでもあるのでしたな」
よく分からんが、こういう事か?
絶対的なトップがいない不安に付け込んで国民を従えてる、と。
でも、王女が帰ってどうにかなるのか?
「そしてもう1つ。今のままではジェイスは戦えません。でも、ロードに転生すれば魂の傷は癒え、さらなる力を得ることができます。伴侶を得た私も戦えるようになるでしょう」
「む、それは……」
「確かに戦力が増えるのは望ましいですがな」
「ル、ルーナ!?」
おっと、いきなり婚約されさらに結婚に言及されたジェイスは大パニックだ。
王女を呼び捨てにした事に気付いてないくらい混乱しているぞ。
しかし、話は肯定的な方に進んでいく。
どの道、ジェイスはこのままじゃ戦力外だ。
先代のジェイルが現役である以上、如何にジェイスを有効に使うかを考えるとな……。
さっきジェイル本人にも聞いた話ではあるが、王女にとって順調すぎる。
間違いない。
この王女、念入りに作戦を練っていたんだ。
ジェイスさえ落とせば、後は一気に話が進むように。
何という執着心。
重い、重すぎる。
「では、具体的な目的はどうなっているのですかな?」
「はい。まず、私とジェイスは王族のみが場所を知る儀式場に向かいます。そこで『月下の血介』を結び、ジェイスをヴァンパイア・ロードに転生させます」
「それが噂の女性の王族の婚姻の儀式ですか」
「それを行えばグラーダの目的は1つ潰えるわけですな」
「次に王城に向かいます。自身を夜王として登録する儀式は、ノーブルであるグラーダでは行うことができません。ですから、私とジェイスで儀式を行い、彼から貴族としての権限も剥奪します」
「聞いたことがありますな。夜の国の王城はそれ自体が巨大な魔法具であると」
「なるほど。夜王とはその使用者でもあるわけですな」
王女はペラペラ話しているが、トップシークレットの話だ。
まあ、今更隠すことに意味はないか。
ここは誠実さをアピールする必要もあるしな。
ジェイスの死んだ魚のような眼は無視だ。
「なるほど。形だけでも新たな王が立てば、グラーダは王権の代行者からただの反逆者に転落するな」
「奴が夜王殿を弑逆したのは公然の秘密。王権の代行者などといっている連中は、利権で繋がった者たちばかりですがな」
「王城には国民を守るための加護を発生させる機能もあります。国民が目を覚ませば敵はグラーダとその一派だけとなります」
「夜の国全体を相手にするよりはるかに安全だな」
「その過程で知りえた情報を流せば獣魔国も動かせるじゃろうな」
上手く行けば確かにメリットは大きいな。
どうせグラーダの相手は俺がするんだし。
となると、問題は鬼王国か。
「では、方針を決定しよう」
議長がまとめにかかり今後の方針が決定する。
夜の国には俺と王女とジェイス、諜報員数名が潜入する。
獣魔国には使節団を送り、逐一情報を送り連携を目指す。
鬼王国には議長が向かい鬼王を説得する。
諜報部隊はジェイルが指揮を執る。
こんな感じに決まった。
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フィオの登場によって、魔人連合国はにわかに動きが活発になる。
上から下まで忙しく準備に忙殺される。
ジェイスが故郷である影人族の里に、ルーナ王女によってドナドナされていく姿も目撃された。
ギフトの恩恵を失った諜報部隊は一時的に弱体化した。
しかし、その穴を埋めるように、とある冒険者が他国の工作員を駆逐していった。
そんな魔人連合国の動きは、当然他国からも警戒されることになる。
「そうか、タラス議長殿が自らか……」
「陛下! ここはルーナ王女殿下のためにも魔人連合国と同盟すべきです!」
「くだらん。あんな混ざりもの、首を刎ねてグラーダ殿に届ければよいのだ」
「貴様、正気か!?」
「いや、夜の国の方が魔人連合国より同盟相手に相応しい」
「相手はもう夜王殿ではないのだぞ! 食い物にされるのがオチだ!」
鬼王国の王城。
そこでは貴族に当たる豪族たちが集まり、連日のように会議を行っていた。
もっとも話は平行線で、鬼王の顔にも疲れが見える。
議題は先日届いた親書について。
親書には魔人連合国の方針が記されていた。
曰く、ルーナ王女を支援しグラーダと戦う方針に変わりはない。
グラーダはこの大陸を戦乱に巻き込む厄災である。
故に魔人連合国、鬼王国、獣魔国、3国で彼と戦うべきである。
そういった内容が記され、最後に議長自身が鬼王国を訪問する旨も記されていた。
魔人連合国の議長タラスは獣魔と鬼族の混血である。
勇猛な武人であり、彼の祖先は魔人連合国建国にもかかわった英雄であった。
義を重んじ誠実な性格の彼が、ルーナ王女を救わんとするのはむしろ当然の事だった。
「(羨ましいな)」
グラーダに殺害された夜王と鬼王は親友であった。
議長とも交流は深かったが、一番の盟友は自分であるという自負があった。
だが、ルーナ王女が亡命先に選んだのは魔人連合国。
彼女を救い出したのも、かの国の諜報員たちだ。
そして事実、自分は王女の側に立つことができなかった。
今もできていない。
ゴウエンという1人の鬼族は王女を助けたいと思っている。
だが、鬼王ゴウエンは義と利に割れた豪族たちに配慮し、選択を先送りにし続けている。
いや、人数は互角でも金のあるグラーダ派の方が勢いがあるのだ。
それを抑え込めているだけでもマシなのだろう。
「我が国はここまで……」
侵されていたのか。
その言葉を飲み込む。
豪快で勇敢で義理人情に厚い。
それが鬼族ではなかったのか。
今、目の前で繰り広げられる争いに悲しさがこみ上げる。
グラーダ派の豪族たちは、自分たちが何を口にしているのか理解しているのだろうか。
欲に濁った眼、選民思想に爛れた目、そこには高潔さの欠片も見いだせない。
悲しさが憤りに反転する。
国の中枢の半分がこのありさま。
もう限界だった。
立ち上がり声を荒げる。
「このままでは何も決まらぬ。一時会議を中断する故、各々少し頭を冷やすがよい。それと、相手は1国の指導者、余と同等の立場だ。それを忘れ、品位を疑わせるような言動は慎め」
一息に話し切ると憤然と会議場を後にする。
多くの豪族たちは呆気にとられている。
しかし、一部の豪族たちは忌々しそうな表情で扉を見つめていた。
インターミッションが続きます。
話し合いばっかだとストーリーが進まないけど、少ないと話の展開が急すぎる。
バランスが難しいですね。