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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
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医療ミス

 姿を隠してはいるが、正面から堂々と政務館に踏み込む。

すると、周囲でこちらを窺っていた密偵達が引き上げ始めた。

遠くから監視している奴はいるみたいだが。


「しかし、どうやってこっちの位置を掴んでるんだろうな……」


「魔法的にも物理的にもシミラの隠蔽は完璧です。『あるはずのものが無い』という過剰な隠蔽も改善されています」


「ふむ、隠蔽は完璧。そうなると、それ以外の何かを見ている、と?」


「はい。推測ですが、生命体の意識や感情といった概念的なものを見ているのではないかと」


「まあ、ギフトは結構何でもありだからな」


 しかし、この分析力はスーパーコンピューターも真っ青だな。

スパコンの演算速度に人間の柔軟性か。

これこそがアリエルの最大の武器なのかもしれないな。

と、大部屋から1人通路に出てきた奴がいるな。


「んん? へえ、1人で待ち構えるか」


「無謀ですね。ギフトの力を過信しているんでしょうか」


 奥の部屋に結構な人数を集めているが、あの程度なら何の問題もない。

まあ、邪魔ではあるから1人でいてくれるなら丁度良いか。

あ、そうだ。

念のためシミラに仕込みをさせておこう。

では、交渉開始と行くか。




 交渉失敗




 むう、これ以上なく率直にストレートに話したのに。

そしてアリエルよ、残念な子を見るような眼はやめてくれ。

どうせやることは変わらないんだし。

神槍をぶっ刺してギフトを消去する。

それだけだ。


 でもまあ、ちょっと細工はしておくけどな。

影人族の青年、名前はジェイスか。

彼が俺の構えた神槍に気を取られた一瞬で、シミラが彼を幻術で捉えた。


 彼は神槍に危機感を覚えたのか素早く踵を返す。

仲間と合流する気かな? なかなかの判断力だ。

しかし、残念。

そっちは反対だ。


 シミラによって方向を逆に認識させられた彼は、俺たちが入ってきた方のドアを開けて無人のホールに飛び込んでいった。

彼に見えているであろう仲間は当然幻覚だ。

幻術というのは対象が望む映像や、信じている事象ほど再現しやすい。

彼はすでにシミラの腹の中だ。


 仲間と合流したという気の緩みを突いたシミラが、彼の精神を掌握する。

後は夢を見ている間に終わらせればいい。

手術前の麻酔みたいなものだな。


「うん? これは……」


「彼の記憶、それも前世のものでしょうか」


 どうやら彼は、幻術にかかったことで前世の記憶が励起されたようだ。

気を利かせたシミラが、俺たちにもその記憶を見せてくれる。

ほほう、彼は仁義派のアウトローだったのか。

ファザーの孫娘と夜の国の王女様を重ねてるのかな?

転生者は前世に問題を抱えている奴ばかりで、それに引きずられて問題を起こす、だったな。

気にしてなかったけど、他の連中も何かしら抱えてたって事かね。


「ま、俺には関係ないけどな」


 トス


 プスッと一撃、ジェイスの胸に神槍を打ち込む。

後はギフトを消去して……む、こいつ結構ギフトを使ってるな。

シゼム程じゃないから廃人にはならんと思うけど。

う~ん、一気にベリッと剥がすか?

でも、そうすると魂を抉られる様な激痛が……


「……」


「あれ?」


 ……おかしいな。

ジェイス君が焦点のあった眼で自分の胸を見ているぞ。


「!?!?」


「ちょ、え? なんで幻術が解けてるんだ?」


 予想外のお目覚めに困惑してしまう。

コイツにシミラの幻術が解けるはずは無いし、シミラも解除していない。

と、なると……あ、俺のせいか。


 神槍をぶち込んだ時に、幻術まで一緒に貫いちゃったのか。

さすが神殺しの必殺技【ロンギヌス】、強力だけど融通が利かない。

腫瘍ギフトどころか麻酔げんじゅつまで消去してしまうとは。

ええい、こうなったら暴れる前に一気にやってやる!(ヤケクソ)


「ぎゃああああああああああああああ!?!?!!」


 正しく魂削るような絶叫。

うっわ、ヤベェかも。

魂の損傷自体は大きくないが、衝撃が常人の耐えられる限界をオーバーしてしまったようだ。

全身から色々なモノを垂れ流しながらのたうち回るジェイス。


 うむ、手術失敗。

ご臨終です。

しかし、患部の摘出には成功しました。

ですので医療ミスでは……って違う。


 いや、待てよ?

そもそも俺の任務はギフトの消去だ。

転生者を助けることは、別に義務じゃないんだよな。

実際何人も始末してるし。

ならセーフか?


「で、コレどうします?」


「クールだな。羨ましいぞアリエル……」


 俺があれこれ下らない方向に思考を脱線させていると、アリエルから氷のツッコミが入った。

真面目な話、どうしようかな。

そうこうしているうちに待機していた皆さんが動き出した。

まあ特に遮音とかしてないし、この絶叫が聞こえないわけないよな。


「ジェイス!」


「総隊長!」


「ご無事ですか!」


 この悲鳴で無事なワケねえだろ、というツッコミは飲み込んで新たなお客に目をやる。

全員がジェイスと同じ影人族だ。

んん? 幹部らしき男は俺たちを見張ってた奴か?

やっぱりお偉いさんだったんだな。


「貴様、ジェイスに何をした!?」


「あ~、なんて言えばいいのかね……」


 傷も無いのにこの苦しみ方。

確かに異様だろうな。


「いや、実はですね」


 答えながら後ろから突き込まれたナイフを回避し、逆に腕を掴んでぶん投げる。

同時に暗剣を飛ばし、飛来する無数の短剣を迎撃。

ふうむ、怒っているのは演技、話しかけたのは陽動か。


 話なんぞ、捕らえた後で聞けばいいんだからな。

冷静に優先すべきことを成す、まさにプロだ。

標的が俺じゃなければ拍手したいところだな。

まあ、高々10人程度じゃ足止めにもならんけど。


「ああああ……、ああ……」


「ジェイス! しっかりしろ!」


「外傷も無いし毒でもない……。これはいったい?」


 お、ジェイス君を回収したのか。

この10人は陽動でもあったわけね。

でも、君らにどうこう出来る症状じゃないんだよな……。


「ほい、ラスト」 


「グハッ!?」


 最後の1人を叩き伏せ、幹部、え~と名前はジェイルか、ジェイルに向き直る。

おうおう、バケモノを見る目をしているな。

もう慣れたけど。


「もう全滅だと?」


「馬鹿な……」


「なんて強さだ……」


 いや、殺しちゃいないんだけどね。

さて、お話の時間と……うん?


「マスター……」


「分かってる」


 新たな乱入者が近づいてきたな。

しかも極めて面倒くさい相手。

周囲が止めるのを振り切ってこっちに向かってくる。

衛兵、仕事を全うしろよ。


 バタン


「ジェイス!」


「な、姫様!?」


「王女殿下!?」


 こっちに気を取られていて、影人族の皆さんも気づかなかった様だ。

それにしてもアクティブなお姫様だな。

危険とか考えなかったんだろうか?


「ジェイス! ジェイス! しっかりして!」


 考えてなかったみたいだな。

こっちの存在自体が眼中に無いっぽい。

護衛する側としては大変な相手だろう。

指示に従ってくれなそうだし。


「しかし……」


「似てますね」


「ああ」


 この王女様、ジェイスの記憶に出てきたファザーの孫娘に良く似ている。

彼女は転生者でも何でもない純度100%の現地人だ。

顔の造りなんかも違う。

だが、雰囲気が良く似ているのだ。


「ケガは無いのに、どうして……」


「あ~、そいつは魂を損傷して苦しんでるんだが」


「魂?」


 周囲の影人族の皆さんは睨みつけてくるが、王女様は違った。

魂の傷という言葉の意味を吟味しているようだ。

まあ、俺がジェイスをそんな状態にした張本人って知らないんだしな。


「魂……魂の傷? 契約は魂の接続……でも、ここじゃ」


「王女殿下?」


 何かブツブツ呟きだしたぞ。

閃いたような顔になったり、ガッカリしたような顔になったり百面相状態だ。

そして最後には顔を真っ赤にさせた。

何だってんだろう。


「仮の契約なら……」


「は?」


「なっ!?」


「王女殿下!?」


 何かを決断した王女様は、ジェイスの傍らに座ると彼を抱きかかえる。

そして、ビクビクと痙攣する彼を顔を赤くして見つめる。


「ジェイス、今度は私が助けます」


 王女様は決意を込めた声で囁き、その唇をジェイスのそれにゆっくりと重ねた。




気付けばRCWも4年目ですね……。



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